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俺なんて異世界来てもこんなもん  作者: 弘前平賀
1章 異世界の始まり
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14話 帰還

「んで、許してくれるって話だったんだけど何で俺まだ牢の中?」


 大亮(だいすけ)は格子にだらーんと寄りかかって、ぶうぶうと不満を漏らしていた。

 

(おさ)がお前を許したとはいえ、村の者たちは納得しないだろう。色々と時間がかかるのは受け入れろ」

「うーい」


 対談が終わったあと、シュウオウは村の者への説明のために一度自邸へと戻ることを告げ、座敷牢から出ていった。

 ロウは大亮の監視と保護のために残り、大亮はそんなロウに対し「いくつなの?」「結婚してるの?」「納豆にはネギ入れる?」と取り留めのない——というより無意味な質問を投げかけ続けた。

 要するに暇だったのである。

 ちなみにロウは律義にすべて返答している。納豆は食えないそうだ。


「……とてもあれだけの殺気を発してた者と同一人物とは思えんな」

「仕事と家庭は分ける方でしてー」

「まったく、よりにもよってこんな時に問題を持ち込んでくれなくてもいいだろう」

「んー? 今何かあるの?」


 大亮は今にも溶けるんじゃないかというくらい脱力しきった体勢から、ロウに尋ねた。


「近々、長の一番弟子で今はコクセキの南方警備軍に属している戦士が、二年ぶりに戻ってくる」

「おー、首都本部の所属とは中々優秀なお弟子さんで」

「“タケフツ”は子供の頃から既に類まれな剣才を持っていてな。長の弟子の中でも剣・魔術共に群を抜いて飲み込みが早く、今では長をも凌ぐ遣い手に成長した」


 ロウいわく、タケフツという人物は幼少の頃より異常なほど物覚えが良く、特に剣に関しては、初めての稽古の段階で年長の者を圧倒するほどであったという。

 また、それほどの才を持ちながら気取ったところもなく、誰もが彼を慕っていた。

 師であるシュウオウも、タケフツはいずれ高天ヶ原(たかまがはら)の歴史に名を遺す稀代の名将になるだろうと誇らしげに語っているらしい。


「ふーん……会ってみたいな」

「予定通りならば、今日明日には村に帰ってくるはずだ。この騒動の元凶であるお前は嫌でも会うことになるだろうな」


 大亮は、タケフツという人物に興味を持った。

 大亮は高天ヶ原で活動をするようになってそれなりに長い。

 ここ最近は、高天ヶ原に迷い込んだ葦原中津国(あしわらのなかつくに)の人間の保護活動もしている。

 しかしそんな大亮でも、この高天ヶ原で一度も見たことがないもの――


(……そのタケフツって人、転生者じゃないかな)


 大亮は囚われの身でありながら、タケフツと会うことを少し心待ちにしていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「カズマさん大丈夫ですか?」


 ひとしきり泣きじゃくり少し落ち着いた頃、ユキが俺を心配そうに見つめていた。

 きっと今の俺の顔を鏡で見たらひどいことになっているだろう。

 

「ごめんな、急に……もう大丈夫だよ」

「……ババ様、私もう行くから」


 ヒミカもまた、俺が落ち着いたのを確認してゆっくりと立ち上がった。

 ……意外と優しいのかね。

 ユキを抱き抱えていた時に見せたあの姿を思い出すと、決して悪い子ではないことはわかる。


「あら、気が早いですね。タケフツが帰ってくるのはもう少し後だと思いますよ?」

「そ、そういうわけじゃなくて! こいつを連れてきたんだから私はもう用はないでしょ!」


 ヒミカは顔を真っ赤にして声を荒げた。

 今さっき大泣きしたばかりの俺より顔赤いんじゃなかろうか。


「タケフツ? 彼氏?」

「はあ!? あんたホントに馬鹿なんじゃないの!? 兄貴よ兄貴!」


 まるで般若のように怒りで顔を歪めたヒミカが俺をきつく睨みつけた。

 ……さーせん。許してください。マジ怖い。

 

「フンッ!」


 ヒミカは部屋から退出し、どすどすと大きな足音を立てて屋敷を後にした。


「重ね重ね申し訳ありません。あの子は決して悪い子ではないのですが、どうも気が強くて……」

「あ、いえ……大丈夫です」

「もう十九にもなるのに兄にべったりで……もう少し大人になってもらいたいものです」


 カンナさんがため息交じりにそう言うと、ヒミカと入れ替わるように別の足音が聞こえてきた。


「帰ったぞ」

「あら、早かったですねあなた」


 部屋に入ってきたのは、先ほど座敷牢に入っていったヒガン村の(おさ)にしてこの屋敷の主、シュウオウだった。

 シュウオウ……さんはカンナさんの隣にどんと座る。


「ユキ、体の調子はどうだ」

「……」

「……もうあんなに怒らないから話しなさい」

「……元気」


 ユキは先ほどと打って変わって大人しくなり、顔を俯かせたままぼそりと答えた。

 ……どうやら勝手に森に入ったことでこってり絞られたらしい。


「さて、またお会いしましたなお客人」

「あ、はい! えっと……秋沢(あきさわ)一真(かずま)といいます」


 俺は慌てて名乗り、深く一礼した。

 ヒミカの話では、俺が(やしろ)とやらの件に関わってないことは理解してくれているらしいが、立入禁止の森にいたことに関しては何かしらお咎めがあるだろう。

 ユキの様子を見ていると、かなりの剣幕は覚悟した方がよさそうだ。

 と、思っていたのだが。


「この度は命懸けで孫を救って頂いたとのこと、誠にかたじけない」


 シュウオウさんは畳に頭を擦り付けそうなほど深く頭を下げてきた。


「いや、やめてください! たまたまというか、成り行きというか……結局俺は何もできませんでしたし、大亮が助けてくれなかったら――」

「それでも、貴殿がユキの為に命を懸けてくださった事が変わるわけではないでしょう」


 シュウオウさんは頭を上げ、そして力強く真っすぐに俺の目を見つめる。

 ……なんで皆、俺なんかにそんな言葉をかけるんだ。

 俺はいつだって自分のことだけ考えてて、あんたたちにそんな言葉をかけてもらうような人間じゃないんだ。

 大した取り柄もなくて、内面もこんなに醜くて。

 いっそヒミカや他の村人のように、蔑んで疎んでくれた方が――


「……一真殿があの森にいた理由は、既にあの少年の話から理解しております。貴殿を咎めるつもりはありませぬ」

「え……大亮から?」

「ロウもおりました故、全ては語っておりませぬが……おおよその見当がつく程度には」


 どうやら、やはり俺が葦原中津国から来た人間だということは大っぴらに言うことではなかったようだ。

 ヒミカに聞かれて誤魔化したのは正解だった。

 

「我らとしては、彼に対し今後協力を惜しまぬつもりでおります。村の者には儂から説明いたしましょう」


 ……え? 協力?

 大亮はこの村の大事な(もの)を壊したとか聞いたけど、何がどうなったんだ?

 何かしらの罪に問われるとばかり思っていた俺は、予想とは正反対の状況に面食らった。


「一真殿とあの少年にはしばらくこの屋敷を自由に使って頂きたい。孫を救って頂いた礼も兼ねて、旅立つまでにできる限りのもてなしをさせて頂こう」

「は!? いや……ええ!?」


 展開が昨日よりも急すぎてついていけない。

 いったい何がどうなってるんだ?

 大亮(あいつ)、シュウオウさんにどんなうまい話を持ち込んだ?


 俺が間抜け面できょどっていると、再びヒミカが屋敷の門をくぐり、今度は玄関を経由せず直接庭から部屋の前の縁側まで走ってきた。


「なんですかヒミカ、せわしない……。お客人の前ですよ」


 カンナさんが、手を膝につきながらゼェゼェと肩で息をしているヒミカを諫める。

 ヒミカは呼吸を整えてから顔を上げ――


「長! ババ様! 兄さんが帰ってきた!」


 心から嬉しそうな顔で、声を弾ませながら告げてきた。


ちょいとどうでもいいかもしれない話ですが、一真や大亮を葦原中津国の人間だと知ってる人物は彼らを「一真」「大亮」と呼び、知らない人間は「カズマ」「ダイスケ」などと呼びます。


シュウオウとユキで一真の呼び方の表記が違うのはそのためです。

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