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WORLD CREATOR(仮)  作者: 山口 太郎
3/3

逃げない。

戦う理由は、たったそれだけ。

「自分が一番強く想うもの……か」

「どうしたのじゃレイ?そんなに余のことをまじまじと見つめて」


 照れるではないか。ともじもじする白雪に構わず、俺は白雪を眺め続ける。


「いや、豊田の言ったことが気になってな」


 首をかしげる白雪に、聞かせるように説明する。


「《想造力イマジエイト》だっけ?それって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだろ?てことは、俺の場合白雪のことを……」


 言って、自分の行動の愚かしさに気づいた。


「と、ということはレイ、お前様は余のことをそ、その……一番強く想っておったということか……?」

「ぐっ」


 頬を赤らめ上目遣いで見つめる少女に、ただ目をそらすことしかできない俺。

 しかし、理屈はそうなのだ。

 俺の《想造力イマジネイト》が白雪を発言させた以上、それは俺が一番強く想うもの、つまりは、一番欲しかったものが白雪であることの証明に他ならないわけで。


「いっ、いや、普通に気持ち悪いだろ、一番欲しいものが女の子って……」


 童貞こじらせすぎか。そんなんだから童貞なんだよ。


「気持ち悪くなどない。余はとっても嬉しいぞ。これはあれだな、『りょーおもい』というやつだな!」

「違う気がするが、まぁいいか……」


 ともかく、この停滞した状況をどうにかしなければならない。

 既にこの世界に来て数日が経過し、その間一切の進展がなかった。

 人どころか、その痕跡さえ見つけることができず、未だ点々と拠点を移して移動している最中だ。


「正直、神様争いとかどうでもいいんだ、俺はな。てか、いっそもう既に全員殺しあって全滅した後とかだったら楽なのにな……」


 言って、はてと思って思考を止める。

 楽、何が?

 俺はその世界で何をするつもりなんだ?

 わからない。

 じゃあ、俺は今、何をしてるんだ……?


「レイ、避けろ!」


 覆いかぶさる声と同時、爆炎が、俺の先いた場所を焼き焦がしていた。


「!?」


 気づけば俺は白雪に抱えられ、白雪が猛スピードで大地を駆けている。

 一瞬の出来事、理解を求めて動き回る双眸は、上空に、その全ての答えとなるものを捉えていた。


 蒼穹を覆い尽くす鋼鉄の鱗。

 高速で稼働する2対の翼は、風を従えるかの如く自在に空を飛翔する。

 角が、爪が、牙が、その全てが、ただ獲物を喰らうことのみを願い、おびただしいほどの殺意が地上を埋め尽くした。


 間違いない、そうあれはーー


「イグニール……!」


 ゴクリと唾を飲み込んだ。

 空想上の生物と、禍々しいほどの殺気。

 これが意味するもの、それはーー


「神様のお出ましか……ッ!」


 刹那、イグニールが双翼を畳み、狙いを定めるかのように急降下して迫り来る。

 考えている暇などない。


「逃げるぞ、白雪!」

「了解じゃ!」


 こうして人生で一番長い鬼ごっこが始まった。


 ーーー


「クソッ!いつまでついてくる気だ!?あのストーカードラゴン!」

「路地に逃げ込んで捲いたとしても、上空から簡単に見つけられる!屋内に逃げ込んでも恐らく火炎で辺り一面は焦土になる!逃げ場は無い!どうするのじゃレイ!?」

「デタラメすぎんだろ……!」


 イグニール遭遇から、どれだけの時間が経過しただろうか。

 永劫続きそうな死の追いかけっこは、隠れては見つかり追われを繰り返し、俺の精神は既に限界を迎えていた。


 そして、咆哮が轟く。


「見つかったのじゃ!」

「どうすりゃいいんだ畜生!」


 ……いや、待て。


 駆け出す白雪を


「待ってくれ」

「!」


 そう言って引き止めて、思考を整理する。

 そうだ、俺は一体何をしてる。


 別にどうでもいいんだろ?

 生き残って、何をしたいかわからないんだろ?


 じゃあ、()()()()()()()()()()


 いいじゃないか、このまま終わったって。

 誰もお前を責めやしない、お前はよく頑張った。

 そもそも、土台理不尽な話なんだ、俺が神様?冗談キツイぜ。

 だから、そんな理不尽はもう、終わりにしちまってもいいんじゃないのか?


 ほら、鋭い劍角はもう目の前まで迫ってきている。

 これに体を任せるだけだ、簡単だろ?


 全く、気づくのが遅すぎたみたいだな。

 ようやく解放だおめでとう。


「……クソ」


 ふと呟いた小さな言葉は、ついぞ誰にも気づかれることなく、冷たい空に溶けていく。


 なんでだ。


 これが俺の望んでいることなんだろ?

 これが俺のしたいことなんだろ?

 だったらーー


 なんでこんなに、悔しいんだ。



「のぅ、レイ」


 目を伏せたまま、俺は何の反応もしなかった。


「余は、レイに感謝している」


 答えない。それでも白雪は優しい声で、俺に言葉をかけてくる。


「お前様は余を作ってくれた、何もない世界で、ただ虚無としてさまよう私に、存在を与えてくれた」


 答えない。


「服をくれた。暖かく、美しい服だ。居場所をくれた。寂しさなど忘れてしまうような、素敵な居場所」


 答えない。


「お前様の作ってくれた世界で、余は何不自由なく生きることができた。でもそれは、その世界が作り物に過ぎないからだ」


 答えない。


「この世界は……お前様のいた世界は、きっとそんな素晴らしい代物ではないのだろう。お前様は苦しみ、悲しみ、憎しみ、痛みに引き裂かれながら、それでもずっと前に進みつづけたのだろう」


 …………そんな大層なもんじゃない。

 俺は前になど、進んでいない。

 ただずっと、逃げていたのだ。


 苦しみから、悲しみから、憎しみから、痛みから。


 全部世界のせいにして、俺は悪くないと意地を張って逃げ出した。


 でも、新しい世界で結局俺は、また同じことを繰り返そうとしている。


 あまりにもどうしようもなくて、あまりにもかっこ悪い。


 あぁ、だから俺は、こんなに、死ぬほど悔しいのか。


「でもな、そんなこと余には関係ない」

「ッ!」


 息を呑む。見上げた少女の顔は、とても優しい、柔らかな笑みを浮かべていた。


「お前様が元の世界で何をしていようが、そんなもの関係ない」


 よいか?と、そうにこやかに、彼女は微笑む。


「お前様は余の神様じゃ」

「ッ!!」


「だから、お前様は神様らしく、ただ、やりたいようにやればいい」


 まるでそれは、止まっていた時が動き出すかのように、俺の中で渦巻いていた大きな大きな感情の奔流が、1つの意志となって俺を動かした。


「降ろしてくれ、白雪」

 言って、大地に足を下ろす。


「そうか……」


 そうだったのか。

 俺が願ったもの、俺が一番欲しかったもの。

 矛盾している。

 全てを諦めた俺が、結局最後に望んでしまったもの。

 それはあまりに簡単で、でもそれを認めてしまうことで、自分自身そのものを否定しまうような気がして


 ずっと、気づかないふりをしていた。


「俺の力……」


 それはーー


()()()()ための力だ」

「やっと、()()()なったな。お前様よ」

「ありがとう白雪。お陰で目が覚めた」


 白雪という、()()()理由。

 その力の全てを、俺が自由に紡いで繋ぐ。

 敵は強大、勝算は皆無。


 なればこそーー


「勝つぞ、白雪」

「まかせろ、レイ」


 もう、逃げない。


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