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手紙は何処、貴方はお友達?

変人。書き下すと、変な奴。

変人のやることなすことは常識人には理解されず、頭の狂ったヤツ、白い粉を使いすぎて幻聴幻覚を見ているのではないか、と散々に後指を刺さされて、クスクス嗤われる、変人とはそういう哀れな生き物だ。

きっと変人の変な行動にだって理由があるだろうに、常人は決してそんな変人を理解しようとせず、ただ、ただ変なヤツとレッテルを貼り付けて嘲笑するのだ。

勿論、僕は常人だ。断じて変人じゃない。けど普通の常人というわけではなく、変人を理解しようと努める、ちょっと変わった常人だ。だから普通の常人と区別して、常人+と呼んでほしい。僕は特別なのだ。

「……なにをしてるんだ?」

そして今の僕は、まさに常人+としての職務を全うするべく、クラスの変人キチガイこと菅野あずさに、彼女のおかしな行動について尋ねている。

「お友達にお手紙を書いているの」

あずさは、質問者たるぼくのことを一切見ることなく、手短に答えた。

「なるほど、なるほど。お友達にお手紙ね」

まず断っておくと、クラスの変人こと菅野あずさに友達は一人として存在しない。

彼女のことを嫌って、物を盗ったり隠したり、陰口を叩く者は、星の数ほどいるが、そんな哀れな変人に、友達は一人もいなかった。僕の知る限り少なくともこの中学にはいないはずだ。

そして何より。あずさの言うお手紙はクシャクシャのわら半紙の上にミミズののたくったような、あるいはアラビア文字のような何らかの文字が刻まれたものだった。あえて包み隠さず言うと、それは手紙ではなく、著名な考古学者だって解読不能な暗号文である。僕の見た限りそれは文字ではなく、赤子が滅茶苦茶に落書きした紙以外の何物でも無かった。

「独創的なお手紙だね」

「そう? でも私のお友達は問題なく読めるの」

「なるほど、それは興味深いね。じゃあ此処はひとつ、その解読法とやらを教えて頂けないかな?」

「駄目。だって貴方は友達じゃないもの」

「う、うん、そっか、そうだよね」

にべも無く、あんたは友達でないと言い切られてすこし残念である。がっくしと肩を落とした僕の目の前で、あずさは折角完成したお手紙をくしゃりと丸めると、空いた窓から校庭に向かって放り投げる。

清々しいまでのポイ捨てである。

「あのぅ、なにをしたのです?」

「ポストに投函したの。お友達に届くはずだもの」

「投函、、、投函ね、なるほど」

クシャクシャのわら半紙は、校庭の風に揺られて、枯れ葉と一緒にあっちへコロコロ、そっちへコロコロ、そこそこ広い校庭を縦横無尽だ。とてもじゃないが。特定の誰ソレさんに届くとは思えない。

否そんな風に考えていては常人止まりだ。僕は常人+。彼女のことだって理解できるはずだ。

「ね、遠野くん。わたしは朝顔が大好きなの」

「へ? はあ、そうなんですか?」

「あとね、スーパーマ○オも大好きなの。レースしたりサイコロしたりするもじゃなくて。元祖のマ○オ。配管工のおじさんがね、囚われのお姫さまを助けるの。ロマンチックなの」

「そ、そっすね〜」

「やっぱり、遠野くんは友達じゃないみたいなの」

「そのぅ何度も言わないでくれませんかね。わりとお豆腐メンタルの僕のハートにぐっさりと来るんで」

「ごめんね、事実だもの。遠野くんはお友達じゃない」

「はい、わかった。わかったからもう言わないで」

「友達じゃない」

「……」

「ざんねんなの。すごくすごく、残念」

それっきりあずさは黙りこくると、窓の外で転がる友達宛のお手紙を物憂げに眺めるだけになった。僕は僕として幾度となく、話しかけてみたのだけど、全部清々しいまでにシカトされた。

僕は常人+である。クラスの大半を占める常人とはすこし違う特別な特徴を持つ僕は、クラスの常人にとって変人と常人の間の子のように見えるらしく、扱いに困って遠目に見る者が大半だ。しかし、低能で理解力に乏しいーーおそらく、進化の過程で猿の遺伝子が多かったであろう阿呆な常人は、常人+と変人の差異を理解できず、僕を変人呼ばわりする。

「おうおう、今日も愛しのハニーにフラレたみたいだな遠野くんよぉ。爪弾き者同士仲良しこよしじゃなかったのか、ええ?」

ヘラヘラと笑う常人、否、猿に親しい常人、三沢くんは誠に悲しきことに、僕の長年の幼馴染であり、親友であり価値観を共有する者同士だった。嘗ては。例えるならば、幼少期から柔道を習っていて図体ばかり巨大な筋肉ダルマである三沢くんはここら一帯のガキ大将であり、それに対して、運動はからっきしで勉強ばかりひょろひょろの僕は三沢くんの参謀であり、下僕であった。それなりに建設的な関係にあったはずの僕らは今、大変悲しきことに価値観を共有できぬ敵同士だ。

キッカケはすごく、すごーく、くだらない。中学二年になって異性に対する爆発的なまでの興味を持っていた三沢くんは、グループ(僕を含めて)でもって、コンビニとレンタルDVDショップからいかがわしい18禁の雑誌、漫画、DVDを強奪する計画を思い立った。しかし直情的で脳筋な三沢くんは、確実で安全な方策を考えつかず、参謀たる僕に意見を聞いたのだ。

その頃の僕は常人だったのだ。若気の至りである。18歳以下は購入できないと言うなら盗ってしまえばいいじゃないかと言い募る三沢くんの変人理論についていけなかった。

極めて常人的な思考をもっていた僕は、大切な友達である三沢くんとその仲間が万一にでも捕まり、前科なんてついた日には彼らの将来にまで影響しかねないと危惧した。僕は彼らに万引きの手筈を伝え、その一方では先生とターゲットになったコンビニとレンタルDVDショップに電話を掛けて、万引きを未然に防いだ上、きつくお灸を据えてほしいと願い出た。

そして決行当日。三沢くんとその一味は、手ぐすね引いて待ち伏せしていた生活指導と店長とバイトによって身柄を確保されて、五時間に及ぶ説教と、反省文十枚という憂き目を受けた。

後日、僕の家に来た三沢くんはどうして発覚したのだと僕に迫った。僕も僕とて、隠す気もなく、常人として、万引きの危険性、前科の付いた時の就職活動の影響、18歳になれば読みたい放題見たい放題だと、滔々と正論を並べた。僕は信じていた。三沢くんは、その諫言を受け入れて、二度とエッチな物品を万引きしないだろうと。そう思ったのだ。

「絶交だ。カス」

しかし結論は友情の崩壊。常人として常人らしく最良の結果を求めた挙句、僕は親友を失って、グループを追放されてほぼすべての関係性を失った。

それきり、僕は友を売った裏切り者のレッテルを貼られて変人の一種にカテゴライズされた。誠に遺憾であると同時に、僕は、ひどくひどく、後悔した。

世の中は正論、常識だけに囚われていては、物事の本質を取り違える。そう思い知った僕は常人の皮を脱ぎ捨てて常人+になることにしたのだ。

二度と物事の本質を見失わぬように。理解者を失うことは誠につらく、悲しいことなのだ。

さてはて、クラスで孤立したぼくは、仕方なく当座の目標としてクラス最大の変人、菅野あずさのことを理解を目指すことにした。

「そうなんだよ。また彼女にふられてしまった」

「だろうよ。友達売るような性根腐ったお前なんて好きになるわけねえだろうよ、あの、頭イカれた菅野にだってはられるなんて、お先真っ暗だな。一生童貞してんのがお前にはお似合いなんだよ」

「そうか、そうかもしれないね」

「つまんねー奴だな、おまえ。もうすこしなんとかできねーのかよ」

「あー、そうだね、うん。ちょー、悔しいわぁ。バカにされて涙がちょちょ切れそう。先生にチクってやる〜、ってな感じで良いかな?」

「バカにしてんだろ」

冷え切った目とゴウと鳴り響く風切り音。筋肉隆々の三沢くんの右ストレートがぼくの頬にクリーンヒットして、ふげっという情けない悲鳴をあげてぼくはひっくり返る羽目になった。

おかしな話だ。常人+として、精一杯、猿に親しい常人の三沢くんの考えを汲み取ったのに、殴られてしまった。どうしてだ。

「めっちゃ痛いんだけど」

「あっそ」

それっきり三沢くんはそっぽ向いて仲間をぞろぞろ引き連れて教室を去っていった。むかついたら殴る、やっぱり三沢くんの思考は理解しにくい。


放課後。ぼくは校庭を彷徨っていた。クシャクシャの自称お手紙と一緒に。

ぼくは思ったのだ。あずさの言葉が本当であれば、お手紙は必ず誰かに届く。それならばお手紙を追いかけていればあずさの思考もわかるかもしれない。そう確信をえてぼくは校庭を彷徨う。あっちへコロコロ、そっちへコロコロ。ぼくはその動きに付いていってお手紙の行く末を観察する。

「見てよ、あいつ。なにやってんだろ」「ああ、遠野でしょ。最近、変人あずちゃんと付き合ってるから頭いかれたんでしょ、たぶんね」「可哀想に。遠野くんまで変人になったんだ。変人ってウィルス性で空気感染するんだよね〜、やだやだ」

聞こえてくる女の子の雑談は聞こえないふりをして心を守った。ぼくはぼくとて男の子だ。女の子に嫌われたくないしむしろ好かれていたいのだ。悪口陰口はつらくてつらくてたまらない。

まあ、これもこれで仕方のないことだ。彼女たちの言葉にも一理ある。ぼくは変人あずさの思考を読みため、ぼくも徐々に変人になり始めているのかもしれない。

そんなぼくの危惧を他所に、手紙はコロコロ風に吹かれてよく動く。

そして案の定、手紙は、校庭端の側溝に落ちた。

結論、手紙は誰にもたどり着かない、だ。

ぼくはため息を吐いて、ボロボロ、クシャクシャの紙を拾い上げた。もともと汚らしかったわら半紙は砂砂利に塗れて、ほんと汚かった。

「あ〜、やっぱりなんもわかんね」

手紙を拾ってため息をはく。今日一日、しつこく菅野あずさに話しかけてわかったことは、彼女が朝顔とマ○オが好きなことだけだ。

ちなみにその前の日は、モールス信号とメタル○アが好きと言って、その前の日は、エジプトのヒエログリフと眠り姫が好きと言っていた。

彼女の大好きは日替わりである。

「相変わらず読めねえし」

紙を開いて、手持ち無沙汰に折ったり開いたりする。

様々な折り目の付いたクシャクシャの紙。正方形の紙は折り紙に丁度よく、手慰みに、朝顔を折った。

あずさが朝顔を好きといったからだ。理由なんてそんなもんだ。半分に折り、また半分、折り返して花びらの部分を作って。

「へえ」

ぼくは思わず感嘆の息を漏らす。

雑然とした、ミミズ文字は、折る度に折り重なり、文字列を形成する。Dear my friend。手紙はそんな気障ったらしくて、習いたての英語で始まった。


夜11時。ぼくはひっそりと家を抜け出して、菅野の家に向かった。集合場所は彼女の一軒家の裏の生け垣だ。手紙の内容が本当であり、また、きちんと翻訳できていたならあっているはずだ。(なんせ全文英語だったからgoogle先生に訳してもらった)

微妙なドキドキを感じながら十一時十一分を待った。

そして案の定、驚いたことに、パジャマ姿の菅野は生け垣の隙間から抜け出して、外に出てきたのだ。眠そうに目を擦り、ぼくの顔を物珍しそうに、ぱちくりとまばたきして観察してくる。

「あら、貴方がわたしのお友達?」

「どうやらそうらしいな。ほら、お前さんの招待状、お返しするよ」

菅野のお手紙、朝顔の花形に折ったものを返すと、あずさは、にっこりと嬉しそうに笑う。

「ううん持っておいて。貴方は本当のお友達みたいだからそれは大切にしておいて。貴方とわたしを繋ぐ大切な、大切なよすがなの」

「お、おう。あいわかった。んで、どうしたんだよ、こんな時間に」

手紙の内容は、十一時十一分に此処に来いということのみを書いていたにとどまる。なにをするか、どこにいくかなんてわからない。

「わたしのお友達ならわかるでしょ?」

「え、いや、そのぅ。ノーヒントはむずくね?」

「ふふ。じゃあ特別にヒントあげる。わたしはマ○オが大好きなの」

「マ○オ? 配管工のおじさんが云々の話だよな」

「そうよ。わたしを助けなさい」

「……? するてーと、僕が配管工のおじさんで、あずさがお姫様って役柄ってなるのかな?」

「そうね。ちなみにク○パはわたしのパパよ」

「あ〜、なんつーか。あずさってば、自分のことお姫様とか思ってるパターンの娘? んー、それはちょっとなぁ」

「………なさいっ」

「んん?」

あずさの頬が柄にもなく紅潮していて、涙目になった眼差しでぼくを睨んでいる。う~という唸り声付きで。

「だ、だまりなさい。お友達でも言っていいことと悪いことがあるの、ばーか」

「えっ、あ、はい、あずささん」

「それじゃあ、駄目よ。許してほしかったら、あずさ姫様と呼んだ上、わたしの足にキスでもして永久の忠誠を誓いなさい」

「え、ええっ? ピ○チ姫って、そんなエスのキャラクターでは……」

「お黙りなさい、配管工」

ガスッと膝のあたりを蹴られた。ひどく暴力的で我侭な姫様である。やはり、友達になってもあずさはあずさで変人らしい。ぼくとしては常人+として、そんなあずさの心を汲み取らねばなるまいて。

「えーと。うう。こうかな。“わたしの罪をお赦し下さい。寛大なる心をお持ちのあずさ姫。わたしはあなた様に一生仕え、御身をお守りいたします、このとおりでございます!”」

片膝立ちでなんか恭しく滔々と述べると、あずさの右脚を捕る。靴と靴下を丁寧に脱がせると、その足の甲のあたりに唇を押し付けてみた。

感想。すこし汗臭かった。なんかごめん。

「わっ、ちょっ、本気でやれなんて言ってないのっ」

ももすごく慌てているがその表情はまんざらでも無さそうである。つまり、常人+として正しい選択肢を選べたようだ。

「だってやれって……」

「ぅぅ。わかったの。その言葉を違えることは許さなくてよのよの?」

「何語?」

「…………高貴な人ぽくない?」

「まったく」

「了解なの」

やっぱり、あずさは変人だ。


秋の夜は寒かった。

暗い道を並んで歩く。あの後、長々の議論の末、両親ともに共働きで現在、家に誰もいないぼくの家に、あずさは来ることにしたらしい。

「わたしの新しいパパさんはね、変態なの」

「変態?」

「えっち、スケベ、好色、、、」

「いや変態の意味はわかってるから」

「でね、ママさんは、そんなパパさんが好きなの」

「あっそう。いいんじゃない? 夫婦仲がいいのは大いに結構」

「違うの……パパさんは、ママさんより、わたしのことが好きなので」

「……は?」

「パパさんはわたしのことが大好きなの」

話の筋がつかめない。あずさのママさんはパパさんが好きであり、そのパパさんはあずさが好きである。これはドロドロの三角関係……とはならないはず。だって親子だもの。

「パパさんはね、一週間に一度、わたしの服を脱がせて撮影会を開くの。いっぱいいろんなところを撮って」

「おい。まて。それ以上言うな」

「でね、でね、あずさの成長記録っていうのにまとめてね、時々それを見ながら、下半身弄ってるの」

「……おまえ、、、そりゃあ不味いやつだろ」

「まずいやつなの。すんごく」

「なんで、んなことを……」

「貴方は友達なの。そして、貴方は今晩中に、わたしの唯一無二の配管工になるの」

「助けろってか? 無理だろ、警察に……」

「それは、駄目っ!」

あずさの手がぼくの服の裾を掴んで思い切り引く。

少女は、、泣きそうな顔をしていた。

「ママさんは、パパさんが大好きなの。警察に言ったら“今”が壊れちゃう。だから貴方がやらないと駄目なの?」

「そ~言われましても」

「簡単なの。ク○パはね、背後のスイッチを押すとマグマに焼かれて死ぬの。でお姫様はハッピーハッピー」

「いや背後のスイッチなんてねえよ。ここは現実世界だろ」

「パパさんはね。よく言ってるの。あずさは無垢な女の子だ。ああ、なんて無垢なんだ。男に触れられない此処とっても可愛いね、ってその……いろいろ触ってくるの」

「処女厨……だと……パパさん業深すぎだろ」

「でね、思ったの。わたしが無垢な女の子じゃなくなったらパパさん興味失うの」

「おいその話の流れはまずい。大いにまずい」

「自分でその。麺棒つっこもうかなって。でも彼氏的な何かあいないとバレるし」

「あーーー、あーーー! きこえない。女の子が言っちゃいけないこと言ってますー!」

「お友達だよね?」

「それとこれとはね、いろいろと複雑な段階が」

「パパいわく、男の子はみんな狼らしいの」


嫌なタイミングで無人のぼくの家に到着する。

妖艶に笑むあずさの顔にドキリと胸をはねさせた瞬間、ぼくは自分の家に引き込まれて、そのまま玄関で食べたくないものを無理やり食べさせられた。

始めてはその、なんというべきか。あずさは痛い痛いと喚いて僕を殴り、ぼくはぼくであそこが狭くて大事な場所が折れるかと思った。

端的に言うと、美味しい経験ではなかった。


翌朝、はからぬ朝チュンから、二人してげんなりとして風呂に入りコーヒーを飲んでから、少々、遅刻気味に学校に向かった。あずさの風呂が想定以上に時間が掛かったのだ。

「ふふふ。わたしの勝ちよ」

「その、暑苦しいので離れて頂けませんかね」

「え~、なんで? わたしと貴方の仲じゃない。昨日、こーんなことや、あーんなことしたよね。この程度なんでもないの」

ベタベタと身体に張り付いてくるあずさに、辟易する。でへへと笑うあずさは、指で作った輪っかに人差し指を抜き挿して、忘れちゃったぁ? と耳に息を吹きかけてくるのだ。なんだ、コイツ。親父か。エロオヤジなのか。

「あーなんだ。そう言えば、どうしてお前は変人のふりをしてたんだ?」

「ふり?」

そうなのだ。色々いたしたあと、あずさと話していて彼女はそれほど変わっていないという結論になった。こうして話していても、彼女も言動は普通の部類だ。ベタベタ張り付いてくるけど。

「あ、ああね。すぐ答えは分かると思うよ。パパさんはね、嫉妬深いから、ばれちゃいけなかったの。わたしと仲良くした人がひどい目にあってほしくなかったし」

ガラガラリと教室のドアをあけると、もう既にホームルームが始まっていた。

「おい、遠野と菅野! 二人して遅刻とはどういうことだ! 理由を言え」

担任が怒鳴り声をあげて、ぼくらは威嚇する。

メガネの、冷静であんまり怒らないイメージの先生の過剰な反応に、ぼくはたじろぐ。

こんな人だっけ……。

「どういうことって、そういうことなのっ。二人であつーい夜を過ごしたら寝すごちゃったの、ごめんなさい」


ぎゅっと僕に抱きついた菅野が、いろいろと、非常に不味いことを堂々と述べた。

教室の空気が凍る。先生も口を開いたまま固まり、日誌を地面に取り落とす。

「あ、あつーい夜だと。あずさが、、わたしのあずさが……中学生の猿に、けがされた、だと……」

先生は不可解な言葉を残して地面に崩折れた。

顔面蒼白。血の気を失った先生は、ひくひくと痙攣していた。

「ふふ。ク○パは業火に焼かれてぽっくり逝きましたとさ。めでたしめでたし、ステージクリアなの」

「ど、どゆこと?」

「あれ、言ってなかった? パパさんはね。担任の先生だったの」

今度はぼくがフリーズして口をあんぐりと開くばんだった。


それからは取り立てて面白い後日談はなかった。

敷いて言えば三沢と仲直りできたことだろうか。あの性の権化である変人、三沢くんは、おずおずと僕に近づいてくると「おおまえやったんか。やっちまったんか」と耳打ちした。やっちまったと答えると、三沢くんは何故か僕との絶交を取り消してヨリを戻したんだ。

意味不明だ。

菅野と致した時の音声と偽って、エロサイトのエロボイスをダウンロードしてプレゼントしたら三沢くんはぼくに恭順した。どうすればモテるんだと必死になって参謀たるぼくに意見を求めてくる。

意味不明だ。

いや意味不明ではないか。人間なんて総じて意味不明なのだ。みな等しく変人ということだ。ようはそれが表に見えるか見えないか、その程度の違いだ。

割り切って考えると、心がほっと楽になるものだ。

「ねえ。それってどんな趣味なの?」

「ん? あずさに蜂蜜かけたら美味しいかなって」

「馬鹿だよね。絶対おバカさんなんだよね」

「うん、ぼくってば変人だからね」


毎日はそれなりに楽しい。


























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― 新着の感想 ―
[良い点] うまく説明できないのですが面白かったです。 いい感じに仕掛けがあって、ヒロインさんの面白くこまやかな性格もあって楽しめました。
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