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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
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60話:敬礼

記念すべき60話! 投稿ペースは相変わらずノロノロですみません。


コロナの感染者が増えていく一方です。日々流れる感染者数の発表に怯えてます。皆さんも絶対に油断せず、感染対策を徹底するようにしましょう。


「おろ?」

「あぁ……?」



 だがザーラはなぜ力が抜けたか理解できずに座り込んだままだった。立ち上がろうにも力が入らないのか体を支える手足が震えている。

 てっきり勝負する展開だと予想したミヒロもすっかり力が抜けてしまっていた。スノウとヨウロも座り込んだ理由が分からず首を傾げている。



「あれあれ? どうしたんです?」

「怪我は回復してるはず……なんだよね?」

「うん。薬もあたしが飲まされたのと同じはず。……もしかして疲労までは消えきってないのかなぁ……。私も腕がまだ痺れてるし」



 睨み合う状況の中ミヒロは笑っていたが、その時外での戦闘のせいか武器を握る力が弱まっていた。食事の際に腕を気にしていたのはそのせいだった。



「何かしやがったのかぁ!」

「私のせいじゃないよ。まぁ、酔う前に私と戦ったのは事実だけど。きっとその疲れが残ってるんだよ。これ以上暴れようとしたらもっと動けなくなる。そうなったらご飯も食べられないしお酒も飲めなくなっちゃうね」

「……ッ……!」



 ミヒロの言葉に反論したかったが、実際に動かない手足がそうさせず、ザーラはぎりっと歯を食いしばってミヒロを睨むばかりだった。


 闘争心と怒りが収まらないザーラを落ち着かせる案を思いついたのはカオンだった。



「ん~……。じゃあさ、勝負の形を変えてみない? そうだねぇ……、ここは飲み食いの場なんだし、食べ比べとかにしよう。ミヒロちゃんは未成年っぽいから飲み比べは無理だろうし。これならある程度は平和的でしょ」



 提案したカオンだったが、内心は不安でいっぱいだった。



(この状態のザーラさんはこんなんで納得しない。今のうちに他に何かできることは……!)



 スノウやヨウロも同じようにザーラを宥める方法を脳をフル回転させ考えていた。



 だが、その心配は杞憂だった。



「……上等だぁ。カオン肩貸せ」

「……」



 文句もなく案を受け入れたザーラの言葉で、パンクしかけるほど思考を巡らせていた三人の脳内は混乱により完全にショートし、ぽやーっと意識が飛んでいた。



「だ、大丈夫ー?」

「早くしなぁ!」

「……え、あぁはいはい! ……えーっと、ミヒロちゃんはどう? できそう?」



 ザーラが怒号を飛ばしたことで三人とも意識が戻り、呼ばれたカオンがザーラに駆け寄りつつ、ミヒロにも声を掛ける。



「私はオッケーだよ。……あ、どうせならレイジスも参加する? 大会前の前哨戦ってことでさ。どう?」

「……望むところだァ!」

「じゃあそういうことで。店員さーん! ピザいっぱい持ってきてくれるー!?」

「あ、あぁ……」



 ミヒロの笑顔を元気さに顔を引きつらせつつ、注文した品を厨房のスタッフたちと作り始めていく。



(まさか二人とも乗ってくれるとはねぇ……)

「(大丈夫ですかね、これ……?)」



 勝負する三人のテーブルはピリピリどころではないほど険悪な空気が流れ、それを心配したスノウがカオンに小声で話す。



「(ゆーて三人とも結構食べてるし、この勝負が終わる頃には全員大人しくなると思うよ。それに、今暴れないことの方が大事だから)」

「(そう、ですね……。とりあえず見守ってみましょうか)」



 三人の前にピザが置かれる。直径は二十センチほどのミニサイズだ。



 こうして、仁義なき食の戦いが始まった。



 その結果は……。








 決着は早く、二十分とかからなかった。




「「「……」」」




 観衆は呆然とし……。




「う、うぷ……!」

「……うえ……ち、くしょう……!」




 勝負中の二人は満腹でダウンし突っ伏する。




「おかわりーっ!!」




 元気な声でそう叫ぶのは……ミヒロだ。


 一言で表せば圧勝だった。


 ミヒロの前には何枚もの皿が重ねられており、二人の手が止まった後も普段の食事と同じ様子で食べ続けていた。



「……まさかまさか、ですね……」

「ミヒロさん、そんなに食べて大丈夫ですか……?」

「全然! まだまだいけるよー! ピザが美味しいから止まんなくて!!」



 未だ止まらぬミヒロの勢いと発言に、観衆はあんぐりと口を開け呆気に取られたままだ。目の前の光景を信じられず目を擦る者もいる。



「……こんな子見たことないわ」

「「うんうん」」



 ポツリと零したカオンの呟きにスノウとヨウロは深く頷く。カオン達も今の状況は読めなかった。



「てめ、ェ……これぜってー得意分野だろォ……!?」

「えへへ。昔からよく食べる子なもんで」



 照れて頭を掻くミヒロにザーラは怒りに歪んだ笑みを浮かべているが、満腹ゆえに動くことができずにいる。


 一方でレイジスは怒りの矛先をカオンにを向けていた。



「おい紫てめェ……知ってて、食べ比べにしやがったのかァ……!?」

「い、いやいやいや!! こっちだって今驚いてるっつーの!」



 皆が混乱する中で、ミヒロは隣の二人がもう戦えないことを察すると、食べ終えたピザの皿を重ね両手を勢いよく合わせた。



「ごちそーさま! よーしじゃあ勝負は私の勝――うわっぷ!?!?」



 高らかに宣言しようとした時、ミヒロの顔面に勢いよくピザがぶつけられた。



「……なら……投げ付け合戦と行こうじゃねェかぁ……!!」



 ぶつけたのはザーラだった。両手には手を付けられなかったおかわりのピザが構えられている。体に残っていた疲労は完全に抜けていた。



「パイ投げならぬピザ投げ!? そう来たか……よーしやろー!!」

「乗るんですか!?」

「楽しそうだしいいんだよっ! 周りのみなさーん!! 巻き込まれないように気をつけてねー!!」



 言われて周りの者たちは急いで壁際へと避難する。中には会計を済ませて店を出る者もいれば、騒ぎを聞きつけ逆に入店して様子を見に来る者もいた。



「注意喚起するくらいなら止めようよ……」

「うんうん、同感です」

「うるせぇよてめェら……こっちはあいつをぶっ潰さねェと気が済まねェんだよッ……!!」



 レイジスも乗り気のようで、カウンターに用意されていたおかわり用のピザ皿を両手に構える。



「こっちはあたしらもできる分野だからなぁ……!!」

「上等上等! 二対一でもかかってこーい!」



 ミヒロは顔にぶつけられたピザを地面から拾い上げ、ザーラに投げ返す。


 それが開戦の合図となり、三人のピザ投げが始まった。




   * * *




「あ~~~……ざずがにづがれだ~~~……!」

「あれだけの事をすれば当然ですよ」



 店を出たミヒロとスノウの二人は店前の階段に座り、ミヒロは両腕を上げぐーっと背を伸ばし、そのまま上半身を後ろへ倒す。



「……まぁ、二人も大人しくなったみたいだし、私も満足したし十分かな」



 店内全部を巻き込んだピザ投げは、三者共倒れという結果に終わった。勝負に参加していないはずのヨウロとカオンも被害を受け気絶中、唯一回避に専念していたスノウだけがピザ投げの後も意識を保っていた。



「……本当に、無茶苦茶です」



 無茶をしたことによる呆れと同時に、生きていてよかったという安心からスノウの口から笑みが零れる。


 散々な食事会だったが、結果的にザーラとレイジスが大人しくなったことで、スノウのミヒロに対する評価は上がっていた。



「暴力沙汰にならなかっただけいいじゃんか。周りの人たちも途中から参戦してたしさ。おかげさまで店内はピザでぐっちゃぐちゃだけどね。血が出た人もいたし」



 パイ投げで使用されるものは基本紙皿なのだが、今回のピザ投げのピザに使われている皿は木製。直撃すればタダでは済まない。店内にいた数名は実際に怪我を負っており、ミヒロも何度か直撃している。ピザだけ投げる者、皿ごと投げる者。両者ともいることで被害が増したのだった。



「本来の目的忘れてますよね」

「そんなことないよー、食べ終わった後なんだから。……さてと、私は治療院に戻ろうかな~」



 倒した体を起こし立ち上がると、両頬をバチンと手で叩く。



「薬で怪我が治ってますし行かなくてもいいんじゃ?」

「ヤナがそこで治療してるのよ。どのみち戻るって話はしてたからさ」

「そうでしたか」

「……今後もなんか大変そうだけど頑張ってね。ギルドでいつもつるんでること考えたら草臥れてそうだし」

「それはもうほんとその通りです……。まぁ、頑張り……頑張り……がん、ば、り……」

「言い切れないほどかー……。ご愁傷様です」



 遠い目をするスノウにミヒロは同情する。実際に二人を相手にして心身ともに疲弊したため、普段のスノウの苦労を容易に想像できたからだ。



「さーて、それじゃ行ってくるよ」

「あ……一つ質問しても良いでしょうか?」



 ミヒロが階段を降り切ったところでスノウが声を掛ける。振り返って視界に入ったスノウの表情はどこか躊躇いが見える。



「……? いいよー。何々?」



 ミヒロは即答した。ヤナとの合流も優先したかったが、先程までと違うスノウの様子が気にかかったのだ。


 それを受けて、スノウは何度か視線を彷徨わせた後、徐に口を開く。



「えっと、ヤナさんが大会に出ない理由とか……聞いてませんか?」



 言われてミヒロは腕を組んで瞑目し記憶を探る。そしてヤナの大会参加については集合した際のイブキの説明に含まれていたことを思い出す。



「んーと、出ないとは聞いてたけど理由までは聞いてないかなぁ……。事情か私情か、そのどっちかだと思うよ。何なら聞いとこうか?」

「あ、いえ……。ヤナさんの怪我の具合がずっと気になっていたので。もし怪我が治ったら参加するって言い出したらどうしようかと……」



 スノウは戦闘後の傷だらけの状態しかヤナの姿を見たことがない。回復薬を渡したものの服薬しても変化のない負傷具合から別れた後も気がかりだったのだ。



「あはは、確かに言いそう。まぁ今日の事もあるし、一応ヤナには安静にするようには言っておくよ。あの子自身も、私と同じくらいよく食べるから食べ歩きしたいだろうし」

「そう、なんですね……」

「よかったらヤナに付き合ってあげてよ。心配なんでしょ?」

「し、食費的にも胃袋的にもついていけなさそうなので止めておきます! 私には無理です!」

「傍らで見守ってて、って意味で言ったんだけど……」



 全力で首を振りながら否定されると思わず若干引き意味にツッコんだ。



「じゃあほんとに行くね。薬の代金の件、よろしく頼みますっ」



 数歩ほど歩いてから振り返り、笑顔でスノウに敬礼をしてみせた。


 スノウは一瞬固まるが、笑みを零して立ち上がると同じように敬礼した。




「はい、頼まれましたっ!」




 その返事に安心したミヒロは酒場を離れ、昼間とは別空間だと感じるほど静かな道を歩きながらヤナがいる治療院へと戻っていった。


 治療院へ戻ると、帰ってくる時間が遅かったことでセリアとヤナに詰め寄られた。ミヒロは咄嗟に食事で相席した人と話が盛り上がった、とザーラとの戦闘やピザ投げ等のことを伏せて誤魔化した。二人は疑念の目を向けていたが、それ以上の追及はしなかった。



 こうして、【オーグラン】での滞在一日目は終わりを告げた。


毎話投稿するたびに心配になるんですよねぇ。わかりやすい文になってるかとかいろいろ。


心配性かつ優柔不断なので何度も何度も悩みます。それでも一生懸命頑張ります!

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