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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
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59話:目覚める獰猛

二か月遅れ! ほんと遅れてすみません。展開も遅くてすみません。


ほんとにほんとに頑張ります! たとえ鬱になっても頑張ります!


「おいてめェ! 何飲ませてんだァ!!」



 レイジスは椅子を蹴飛ばして立ち上がり鬼の形相でミヒロを睨む。並みの猛獣ですら怯みかねない鋭い視線にも、ミヒロは一切動じない。

 食事を始めたザーラをちらと見た一人の客が怯えた様子でそれを見つめ、周りの客や店員たちにも不安や恐怖の感情が伝染していく。


 止められるのは同じ卓を囲む者たちのみ。だが、止めようとする者はいなかった。



「さっきから飲みたそうな顔してたし。我慢は毒だよ。あ、すみませーん。注文いいですかー?」



 ザーラが黙々と食事を進めるのを確認した後、ミヒロも何事もなかったかのように店員に注文をしたのち、回復したはずの腕を気にしつつ、卓上に残る料理に手を付け始めた。注文を受けた店員は頬を引きつらせつつもしっかりメモをして厨房へ戻っていく。



「えとえと、この人怖いもの知らずですね……」

「ほんとね。けどまぁ、ザーラさんと互角だったあの子なら大丈夫でしょ」

「……あ?」



 真っ先に反応したのはレイジスだ。ミヒロに視線を戻したが、当人は食事を続けるだけでその視線には気づいていない。



「え、え? ザーラさんと互角?」

「えぇ。外で出会った二人は戦ったらしいんですけど、決着が着かなかったみたいで。一応引き分けってことになったらしいです」



 その説明を受け、レイジスは食事の手を止めて逡巡した後、ミヒロへ声を掛ける。



「……おい黒いの。さっき、白いのの仲間っつったな」

「え、うん」

「なら丁度いい。あいつに明日の大会に参加しろって伝えろ。もちろんてめェも参加だ。今日中なら受付してるはずだから今すぐ行け」

「と、唐突すぎますよレイジスさんっ」

「俺ァ強い奴と戦うために参加すんだよ。ならたくさんいたほうがいいだろうが」

「だからってそんな強制みたいな言い方は……! 相手にも都合があるでしょうし……」



 そういいながらスノウは恐る恐るミヒロの様子をうかがう。それに対しミヒロは大丈夫だと笑顔を見せた。



「問題ないよ。ヤナは参加しないみたいだけど、私はもう受付は済ませてるし。知ってるかもだけど、同じ訓練所にいたエンジュとレウルも一緒に参加してるから」

「そ、そうなんですね……」



 返答を受けてスノウはほっと胸を撫でおろした。その向かい側でヨウロは食事の手を進めつつ会話に参加する。スノウは満腹のため飲み物だけをちびちびと口に運んでいた。



「えとえと、レウルって確か〝夜斬り〟の人の名前でしたよね。この国にいる人達でも特に強い人達ばかりで凄い大会になりそうです……!!」

「俺が勝つ。それ以外ねーよ」

「その〝夜斬り〟にボロ負けしてたじゃん」

「黙ってろバカ紫!! 明日はぜってェぶちのめして優勝してやるッ!!」

「優勝すんのは私だもんね! あ、そうだ。この際だからみんなに聞いてほしい話があってさ」



 昼間の話を思い出したミヒロは五人に話を切り出すが、レイジスとザーラは一切耳を傾けようとしなかった。



「おーい、聞いてるー?」

「あーいや、私たちが聞きますので……。……それで、話って何でしょうか?」



 ザーラとレイジス以外の三人が食事の手を止めてミヒロを向いている。ミヒロはこちらを向かない二人を諦めてため息を一つつくと、意を決して昼間にイブキやエンジュから聞いた話を伝える。



「……ていうことがあってね」



 一通り話したミヒロだったが、目の前の三人はただ普通に聞いているだけで質問の一つも投げかけてはこなかった。



「えっと、やけに反応が浅いね」

「その話ならヨウロさんから窺ってましたからね」



 スノウはたまらず笑みを漏らす。まるでドッキリの仕掛け人のように、彼女はすべてを知っているうえでミヒロの話を聞いていたのだ。スノウの言葉でミヒロは若干耳が紅潮する。



「あ、ほんとに?」

「はいはい。自分もイブキさんと一緒に話を聞いてましたから。ただ、大会に参加する肝心のレイジスさんが乗り気じゃなくて……」

「えぇ!? お願い! 協力してレイジス!」



 ぱんっ、と乾いた音を両手で鳴らし頭を下げる。が、レイジスの態度は依然として変化はない。



「……赤の他人だろうが。助ける理由がねーよ」

「命を助けるのに理由なんていりませんよ。引き受けてあげてくださいっ」

「るっせェなぁ。俺の勝手だろうが」

「レイジスさん!」



 がたっ、と椅子を鳴らしてスノウが立ち上がる。不穏な空気を感じ取ったのか、周りの客たちの手が止まる。


 興奮するスノウを宥めたのはミヒロだった。



「ま、まぁまぁ……。うーん、でも、そっか……、引き受けてくれない以上はしょうがないや。レイジスに優勝させなきゃいい話だし、今回の件は私かエンジュかレウルで何とかするよ」



 言い切った直後、ミヒロの頬を何かが掠める。その後ろで皿が割れる音と近くにいた客の悲鳴が響いた。

 頬を伝う血を親指でぐいっと拭うと、皿が飛んできた方向を見る。そこには投げた方とは別の手を、己の武器である両剣に添えるレイジスがいた。



「……あァ?」



 敵意剥き出しの鋭い眼光。ミヒロは臆することなく真正面からそれを受け止める。

 レイジスは武器を手に取ると椅子を蹴飛ばして立ち上がる。ミヒロもそれに合わせて席を立つと、二人はゆっくりと歩を進めテーブルの横で向かい合った。まさに一触即発。さすがに不味いと思ったのかカオンとヨウロも立ち上がり、二人の間に入れるよう準備をする。



「俺が優勝するっつってんだろうが。頭ん中パッパラパーかてめェ」

「だってレイジスはレウルより弱いんでしょ? なら私たちが負ける理由はないもんね」

「言わせておけばてめェ……。いっぺん黙れやァ……!」



 数秒の静寂。強まる握力、散る火花。騒然とする周りなど目もくれず、二人は目の前の人物しか捉えない。



(さすがにあの駄犬より強いってことは……。でも……どうだろ)



 スノウたちや店内の客や店員の不安な視線とはまた別に、カオンはその光景を興味深そうに眺めていた。自分たちを釘付けにしたヤナを仲間とする団長。戦闘場面を目撃していないものの、他の者たちの評価から期待値は自然と高まっていた。



(勝つなら、あっちだなぁ……)



 ザーラは今だけ食事の手を止め、酒を飲みつつ視線を向けていた。ミヒロともレイジスとも交戦経験のあるザーラだけは、どちらが勝つか想像できていた。




 喧騒が止むと、ほぼ同時。止まった時が動き出す。





「……ッ!?」





 一瞬で、二人の勝負に決着けりがついた。





「え……」





 辺りの者たち全員が息を呑む。


 それはほとんどの者が、予想しなかった結末。



 レイジスが前方に薙いだ両剣を、ミヒロは姿勢を低くして躱すと同時に脛に向け踵を突き出す。

 苦悶の表情で動きが止まったレイジスの武器を握る右手首を掴んで抑え、もう片方の手でレイジスの顔面へ正拳突きを放った。

 それは鼻先数ミリというところで寸止めされたが、レイジスの動きは止まったまま、風圧により髪だけが靡いた。




 誰が見ても一目瞭然。速度を上回ったミヒロの勝利だった。




 周りが驚く中でただ一人、ザーラだけは「だろうなぁ」と一言つまらなそうに呟くと食事を再開した。



(こいつッ……!)

「レウルに勝つんだっけ? ……私でこれなのに?」



 ミヒロは手首を押さえると同時にレイジスの右足の甲を踏んでいたため、レイジスは後ろに引くことさえできない。



「……」

「引き受けてくれたなら、私も頭が上がらないんだけどなぁ……」



 そのまま睨み合うこと数秒……。



「……ちィッ! やりゃあいいんだろやりゃあ! てめェもエンジュも〝夜斬り〟も俺が全員ぶっ殺す! そんでてめェに金渡す! それでいいんだろ!! やってやるよこの野郎ッ!!」



 レイジスは目の前の拳を振り払い、席に戻りながら怒鳴り散らす。勝てなかった怒りから酒を追加注文し、むすっとした顔で着席する。

 着席した後もレイジスはミヒロを睨んだままだったが、睨まれている当の本人は治療費の件をレイジスが承諾したことに喜んでいた。



「その意気その意気! やる気になってくれてありがとねっ!」

「ッ……ちィ……! 気に入らねェッ……!」



 ミヒロに乗せられたことに気付き、レイジスは行き場のない怒りを見せる。座り直したミヒロに掴みかかりそうな形相と態度だった。

 二人の諍いが終結したことで店員や周りの客も安心したのか、各々の業務や食事、会話を再開していたが、レイジスを止めたミヒロについて、何者なのかと噂され始める。


 残ったスノウたち三人は呆然とした様子で立ち尽くしていた。



「……え、え……レイジスさんが速さで負けた……?」

「……あの子何者?」

「それにあのレイジスさんを、あぁも簡単に自分のペースに引き入れるなんて……」



 ただ驚愕の裏ではその強さに納得していた。スノウたちに印象的な強さを見せつけたヤナ。その少女が凄いと称えたのがレイジスを制したミヒロなのだ。

 〝夜斬り〟、〝山狩〟、〝海裂〟など、スノウたちでも一度は耳にした名前が集まっているこの国に訪れた、まったく無名の二人のプレイヤー。けれど彼らが抱いた印象は鮮烈かつ強烈なもので、初対面の時とは違い、強者だと認識できる存在と認知するようになっていた。





「よーし、明日に備えて食べるぞー!」





 驚く面々を余所に、ミヒロは元気よく料理に手を着けようとする。



 だが次の瞬間、ダンッ! とテーブルが叩かれる音がした。



 ミヒロが音の方向を見れば、俯いているザーラがそこにいた。右手に握られる樽ジョッキが音の正体だった。

 沈黙が続く中、ゆっくりとザーラが面を上げ、殺意の籠った視線を向ける。





「……あぁ~……? 随分とうるさいのがいるなぁ」





 ザーラの頬は真っ赤に染まっている。気づけばザーラの周りには樽ジョッキがいくつも転がっていた。



「っ!? まずッ!」

「ザーラさんが……!!」



 完全に酔いが回り人格が変わったことを察したスノウたち三人が我に返って臨戦態勢に入る。いつ暴走しても止められるよう度数の高い酒瓶を準備する。

 レイジスですら腰を上げ武器に手を掛けているのに対し、ミヒロだけが座ったままザーラと向き合っている。



「てめー誰だ。ギルドの奴じゃあねェよなぁ?」

「私はミヒロ。酔う前のあなたとギルドのお仲間さんと知り合ったんだよ。よろしくね」

「あーそうかい。そんじゃ早速だが、女はいらないから消えてもらおうかぁ!」

「やだねッ!」



 抜刀したザーラが武器を振るう。ミヒロは武器を取ってすぐ飛び退いたが、腰かけていた椅子は真っ二つになっていた。


 首を鳴らすザーラと、楽しそうに笑うミヒロ。


 武器を持ったまま睨み合う二人に、辺りの客たちはまた不安げな顔を見せ始める。



「あーあ……やっぱこうなっちゃうか」

「大丈夫でしょうか……」



 スノウたちが見守る中、対峙する二人は間合いを取って牽制し合う。



「聞いたとおりに乱暴だね……。お酒はもういいの?」

「女と飲む酒はつまらないんだ。これからって時に気分を下げたくないしなぁ。まずはてめーらを消してからゆっくり飲むさ。まだまだ飲み足りないんでねぇ!」

「消されんのはお断り。飲むのは勝手にすればいいけど飲み食いだけにしときなよ。それでも暴れたいんなら、私が全力で付き合ってやるさ……!!」

「いい度胸して――っ!?」



 距離を詰めようと一歩踏み出したザーラだったが……




 突然、膝から崩れ落ちた。


次で酒場の話は終わりです。


日常の話より戦闘の話のほうがずっと早く進む。不思議。


文がごちゃごちゃしてるとか読みづらかったら遠慮なく言ってください。感想などもお待ちしてます。励みにします。

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