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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
61/67

57話:ゲロゲロ

一か月空いてしまいました。二月中投稿できなくて申し訳ないです。


次話の投稿は早められるよう頑張ります! 応援よろしくお願いします!


 場面は再び、酒場前の住宅路。


 ミヒロとザーラの戦闘は未だに続いている。二人の戦闘は路地裏の空き地から住宅の屋根の上へと移動し、酒場を離れ家々を渡りながら行われていた。

 ミヒロは打撃主体、ザーラは斬撃主体。

 されどリーチはほぼ同じ。殺傷能力の高いザーラの攻撃を、ミヒロは己の反射神経や動体視力、そして勘を頼りに躱しつつ反撃していく。

 体勢を崩すなどして不利になった際、ミヒロは隙を作って後方の家に飛び退きつつ、襲い掛かるザーラの猛追をトゥルゼスで受け流し体勢を立て直していた。


 距離が空いては詰めての繰り返し。幾度となく武器の衝突が繰り返され、その金属音は場所が変わっても響き続けている。


 移動しつつ戦闘を続けていた二人は、巡り巡ってザーラのいた酒場前にまで戻ってきていた。



「んにゃ!」

「ぐッ……!」



 ザーラの武器をトゥルゼスで弾いたミヒロは顎に拳を直撃させ、体を浮かせるとドロップキックを叩き込んだ。

 ザーラはよろめいて数歩後退、ミヒロはドロップキックの反動で後転しながら後方へと下がる。



(畜生ッ……! あたしは弱くねェ……弱くねェッ……!!)

「……?」



 ザーラは手応えのない攻撃が続いてきたことで苛立ちを隠せなくなってきていた。歯を強く食いしばり、持ち手が壊れそうなほどジャマダハルを握る力が強くなっていた。

 ミヒロはザーラの動きが止まったことに疑問を持ったが、攻撃の手数の増加に伴いトゥルゼスを納刀した。


 ザーラは次の瞬間、屋根を踏み抜きかねないほどの脚力でミヒロへ接近した。


 ザーラは脚撃と斬撃の両方による獅子奮迅の猛攻を繰り出す。ミヒロは接近直後こそ呆気に取られたものの、それらを回避といなしで躱し続けていた。

 力量差があるため受け止めることは不利にしかならず、トゥルゼスでは武器の重量で連撃を捌き切れない。それを見越して納刀したことが正解だったとミヒロは安堵していた。



(くそッ! くそッ! くそッ!!)



 ザーラは何度振るっても自身の攻撃が相手に直撃しないことに苛立っていた。一つ一つの攻撃が荒くなり大振りになっていく。だが攻撃自体は雑ではなく、殺意の籠った刃を隙を窺いながら振るい続ける。



「わわっ、ほっ! よっ!」



 一方のミヒロは普段と変わらない飄々とした様子でザーラの攻撃を捌いていた。人相手であれモンスター相手であれ、勝負事となるとスイッチが切り替わったように俊敏な動きを見せる。ステータスの差が圧倒的に開いた相手にも、己の力を信じて戦っていた。



「うッ……!」

「死にやがれェッ!!」



 疲労により限界に達した脚から力が抜け、膝を着いたミヒロに対し、ザーラは渾身の力で首の両側を狙って刃を振るう。



「ん……っしょッ!」

「がッ……!」



 だがミヒロは土下座のように頭を下げてそれを回避し、交差した腕の隙間を縫ってザーラの顎を突き上げた。

 勢いで手からトゥルゼスがすっぽ抜けたがミヒロはそれに構わず、飛びつくように立ち上がると、ザーラの襟元を掴んで頭突きを喰らわせた。



「うぐッ!」

「勝ちたいのは分かるけどッ!」



 ミヒロは襟元を掴んだまま、体を反転させザーラへ身をぴたりと寄せる。そしてザーラの手首を掴むと腰を落とした。





「ちょっと落ち着けぇええええ!!!」





 ミヒロは背中でザーラの体を浮かすと、そのまま屋根に向けて背中から叩きつけた。



「げほッ……!」

「はぁ……はぁ……!」



 背負い投げを受けたザーラは大の字になって転がる。握っていたジャマダハルは手から零れ落ちた。ミヒロは息を整えた後、転がっていたトゥルゼスを回収した。



「何焦ってんの……! 負けんのがそんなに嫌!?」

「……嫌に決まってんだろ……。てめぇは、違うのかぁ!?」

「嫌っちゃ嫌だけど……そんな状態じゃ、勝てるもんも勝てないよ……!!」

「っ……、っるせぇよッ……!」



 ザーラは腕で目元を隠すが、晒されたままの歯を食いしばる口元が、ザーラの感情のすべてを物語っていた。



「まだやる!? ……やるんなら、付き合うけど?」

「……いい。もうそんな気分じゃねェ」

「……そっか」



 ミヒロはザーラの返答に安心するようにその場にへたり込んだ。腕からの出血と痛みが今も続いている。損傷率は88%となっていた。

 だがザーラの損傷率も75%まで加算されており、消耗した状態のため起き上がることをせず寝たままだった。



「……もやもやを解消したいなら、ヤナともう一度戦うべきだよ。……戦ってほしくはないけどさ」

「白いのとの戦闘の……最後の油断も含めて……昼間っからずっと苛々してたぁ……。今は面倒でそんな気も起きねェ」

「……思ったんだけど、酔ってる状態なのにそんな細かい事まで覚えてられるもんなの? 泥酔状態だって聞いてたけど」

「……あたしは酔ってる間も普通に意識はあるから全部覚えてられる。……睡眠聴取もできるからその後のあいつらの会話や周りの様子まで全部把握してる」



 生まれつきの技能であった睡眠聴取は、常に警戒できる点で非常に便利なものだった。ギルド内では見張り役などを自ら申し出ることも多い。



「意識あるなら暴れるの止めようよ……」

「……無理なんだよ」

「無理?」



 ミヒロはその返答を不思議に思った。ザーラは目元を隠していた腕を下ろすと、力のない瞳で空を見つめた。



「……酔ってる間は……もう一人のあたしに体を乗っ取られたみてェに、あたしの意志で自由に動かせなくなる。酔いが醒めるまで暴れるあたしを、あたしは体の内側から見守ることしかできねェ……気持ち悪くて仕方がねェよ」

「二重人格に似たようなものかな……。そうなりたくないなら飲まなきゃいいんじゃないの?」

「飲んでなきゃやってられねェんだ。酒は好きだしなぁ」

「飲む量の制限とかは?」

「んなことしてまで飲みたくねぇ。好きなもんを好きなだけ飲むから美味いんだ」



 何言ってんだこいつ、と言いたげな様子でザーラは応え、ミヒロはがくっと肩を落とした。



「わからないこともないけど、何一つ対策出来ない状態だね……。お仲間さんが手を焼くわけだ」



 話が一旦途切れたところで、盛大に腹の虫が鳴いた。発生源はミヒロで、照れながらお腹を押さえ、頭を掻く。



「あ、あははは! じ、じゃあこれで勝負は終わりってことで、美味しいご飯のお店を紹介してもらおうかなー!?」



 真っ赤に染まった頬を隠すように、ミヒロは慌てて立ち上がって辺りを見渡す。

 だがザーラはその場から動かない。反応がないためミヒロが下を向くと、むすっとした様子のザーラがミヒロを睨みつけていた。



「まだ勝敗は決まってねェ」

「ふーん。だけど、今倒れてるのはどっちだろうね?」

「……ふんっ」



 ミヒロの声にザーラは顔を背けると、上体を起こして胡坐をかいた。手元から離れた武器を拾いに行く様子もないが、かといって油断すれば襲われかねない闘気を纏っていた。



「やる気満々だねぇ……。大会後だったら付き合うよ。そのイライラの解消に」

「……そりゃいいなぁ」

「怖い笑顔止めてくれる……?」



 軽い会話を挟みつつ、ミヒロはザーラを待った。彼女の答えをまだ聞いていなかったからだ。


 ザーラが気怠そうに立ち上がったその時、ミヒロの後ろから足音が鳴る。





「何だ何だ、もう終わりかァ?」





「!」

「……あぁ?」



 二人が声のした方角に目をやると、三十代の男性が歩いてきていた。サングラスを頭にかけ、顎髭を生やし、白衣を身に纏っている。腰には三つほどのポーチを下げていた。



「せっかく盛り上がってきたところだっただろうがよォ。休憩がてら気まぐれに外に出て、いいもん見れたと思った矢先に止めちまうのかァ」

「別に見せ物じゃないしね……。あなたは?」

「オレはトリバ。訓練所で出稼ぎしてる治療士よ」



 トリバと名乗る男性はそう自己紹介するが、ミヒロは白衣以外に治療士らしい要素を見つけられなかった。そのため、「は?」と言いかけたが、ふと昼に合流したヤナたちから、バリス訓練場の話を思い出していた。セリアとシマの他に、訓練所にも治療士がいると聞いたからだった。



「訓練所……もしかしてバリスって人の所?」

「あぁそうさ。あそこは怪我人多いからなァ。楽しませてもらってんだ」

「……詳しくは聞かない」

「茶化しに来たんなら殺すぞ」



 危険な発言にミヒロが目をそらす中、不機嫌さ全開なザーラは、射殺すようにトリバを睨みつけた。



「物騒だなァおい。怪我人を治療すんのが俺の仕事よ。喧嘩、終わったんなら治療するぜ。休憩中だし無償でな」



 だがその視線にも怯まず、ぽんと腰のポーチをたたいて二人に提案する。

 二人の反応は、微妙だった。ザーラは変わらず睨み続け、ミヒロは無償で、という言葉に引っ掛かりじとっとした視線を向ける。



「……怪し~」

「善意はありがたく受け取っとくもんだ。ちょうど新薬ができたしなァ。実験た……まぁ良く効くから飲んでみろ」

「今明らかに実験体って言いかけたよね? ていうかほとんど言い切ってたよね!? 絶対飲まないかんね!?」

「いいからいいから。飲んでみろ、ほれ」



 嫌がるミヒロを余所に、トリバはポーチから丸薬を一つ取り出し強引にミヒロの口へ突っ込んだ。



「んぐッ!? ……」



 一度吐き出そうとしたが、トリバが丸薬を呑ませると同時に口を塞いでいたため叶わなかった。


 ごくり、と喉を通ったことを確認したトリバは口を塞ぐ手を戻した。



「……」

「……?」



 暫くミヒロに変化がなかったため、ザーラはその様子を不思議そうに見つめていた。


 だがその数秒後……。





「……うッ、おぼろろろろろろろろろ!!!」





 ミヒロは盛大に吐いた。キラキラとした吐瀉物が屋根にぶちまけられ、それを見たザーラは顔を歪める。



「おいおい吐くんじゃねェよ勿体ねェ」

「んぶ!? んんッ! ん―――!!」



 トリバは吐き続けるミヒロに近づき、蛇口の水のように落ちる吐瀉物を手で受け止め、ミヒロの口へ突っ込んだ。

 吐瀉物を無理やり口内に戻されたミヒロはさらに顔色を青くする。口内が悲惨な状態となり目も回り始めていた。何度叫ぼうとも、トリバは口を塞いだまま動かない。



「……何を見せられてんだ、あたしはぁ……」



 ザーラは呆然とする中、吐くものを吐き切ったミヒロは両手と両膝を着いて肩で息をする。屋根にぶちまけた吐瀉物を気にする余裕もなかった。



「はぁ……はぁ……し、死ぬぅ……」

「どうだァ?」



 ミヒロが呼吸を整えているところに、トリバは笑いながら話しかける。その様子に腹を立てたミヒロは涙目のままトリバに掴みかかった。



「不味いわ!! 何この酷い味!? ゲロ味!? なんてもん飲ませんのさ!!?」

「ゲロ味なのはてめぇのゲロのせいだろ」

「体はどうだァ? 俺の調薬が正しけりゃすぐにでも効果が出るはずだぜ」



 言われて体を見下ろすと、傷口自体は塞がっていないものの、一番大きい外傷であった腕の傷からの出血は止まっていた。



「言われてみれば……体は軽いね。損傷率も回復してる。こんな早く回復する薬なんてあったんだ……」

「新薬っつったろォ。瞬間回復薬なんざ数はごく少数だし流通もほぼしてねェ。そんなもんたくさんあったらダンジョンなんてとっくの昔に攻略されてるだろうよ」



 回復薬、と表現できるものは大半が自然回復するもの。塗り薬、飲み薬等様々な形で存在するが、瞬間的に回復するものは僅か。

 大量生産できるほど素材もなく、誰かの手に渡れば使用されて終わり。そもそも瞬間回復薬のレシピが複雑なために調薬ができる人間がいないのだ。



「ふーん……。まぁ、酷い目にはあったけど回復は出来たよ。ありがと」

「そりゃよかったァ。調薬間違ってたらお前は今頃肌がえげつねェことになってたぜ」

「確実な薬を頂戴よ!?」

「治ったんならいいだろ。結果オーライだぁ」

「飲むこっちの身にもなってくれる!?」



 他人事のように笑うザーラに対し、トリバは瞳を怪しく光らせると、ポーチから丸薬を取り出す。





「安心しろ。お前も飲め。治療だ」





「……遠慮――」

「しなくていいから、ほらほらぁ♪」



 ザーラは逃げようとするが、回復したミヒロがトリバの手から丸薬を拝借すると、自分がやられたようにザーラの口に突っ込んだ。





「やめろ――ッ!!? ……おえぇえええええッ!!」





 薬の種類は変わっていない。そのため当然、ザーラもミヒロと同じようにキラキラとした吐瀉物を吐いた。



「だから吐くなっつってんだろォ。吐かれるこっちの立場を考えろっつーの」

「そういう問題……じゃあ、ねぇだろ、これはぁ……!!」



 げほげほと咽ながらも敵意剥き出しでトリバを睨む。だがトリバは調子を崩さない。怯みもせずに堂々としたままだった。



「ほんとそうだよねぇ。良薬口に苦しとは言うけど、味だけなら逆に毒だもんねこれ。味改良したら? てか改良しなよ絶対に」

「毒言うなァ。れっきとした薬だ」

「じゃあ毒薬」

「何も変わってねェぞコラ。でもそうだなァ……なら粉末状にしてジュースに混ぜるかァ」

「まず薬そのものの味を変えろって話なんだよぅ」

「はぁ……はぁ……でも傷は治ってんなぁ……」



 ザーラは口元を拭い腕や足を何度か振るって体の調子を確かめた後、近くに落ちていたジャマダハルを回収しにいった。



「だろォ? 俺の調薬は完璧よ。飲んでくれてありがとうな実験体どもォ。助かったぜ」

「いやいやそんな……って、やっぱり実験体と思ってたんじゃん!」



 聞き逃さなかったミヒロはトリバに食って掛かる。



 その後ろで、ゆらりと影が動く。





「……ちょうど動けるようになったんだぁ……こいつ斬るかぁ……!」





「……おいおい……治療はしてやっただろうがよォ」



 のし、のし、と敵を踏み潰すように一歩一歩ザーラが近づく。舐めた態度に不味い丸薬。治療した分を除いたとしても、ザーラは怒りを抑えられなかった。


 トリバは命の危険を感じ、怖気づいて後退しようとするが……それが叶うことは無かった。



「さんせー」



 ミヒロもまた、ザーラ程ではないが、丸薬に加え吐瀉物を口に戻されたことを根に持っていた。トリバの服を掴んで逃走を阻止する。もう片方の手にはトゥルゼスが握られていた。



「おいおいそんな物騒なもん向けんなってッ……! こうなった以上やることは一つ!! 逃げるが勝ちだぜあらよっとォ!!」



 トリバはミヒロの手を振り払い、背を向けて脱兎の如く走り出す。屋根から地面へ軽々と着地し、路地をするすると抜けていく。


 だが、二人の視線はトリバを捉えたまま離さない。闘気と怒気に満ちた二人の眼光は、獲物を捕捉した猛獣のように赤く光る。





「待てこらぁああああああ!!!」

「……ころす! コロスッ! 殺すッ!!」





 二人は全速力で追いかけ始めた。



 その後三分と経たず、トリバは御用になった。


「ねぇねぇ、この人にあの薬飲んでもらおうか。同じ苦しみを味わってもらおうよ、ふふふふふ……」

「ま、待てェ……試作の段階で、俺は何度も、口にして……」

「関係ないなぁ。あぁそうだ。ついでに犬みてェに這い蹲りながら吐いたゲロを食べて掃除してもらおうかぁ」

「いいねぇいいねぇ。罰だもんねぇ」



「か、……勘弁してくれェ……」

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