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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
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56話:ミヒロvsザーラ

タイトルで二人が何をするのかわかっちゃいますね…そういうことです。


初めて誤字脱字報告をいただきました。喜ぶべきではないんですが感謝感謝です。ありがとうございます。

「……赤い髪の女の人……」

「……なんか用かぁ……?」

「あぁいやいや! ヤナが戦った、ザーラ? って人と特徴が同じだからこの人かなぁ、って何となく」



 ザーラがドスの効いた声でミヒロにガンを飛ばすと、ミヒロは慌てて首を振り理由を話す。

 理由を聞いたザーラはさらに目を吊り上げた。



「……てめぇ、あの白いのと知り合いかぁ」

「うん。団長だよ。あの子が副団長。てかやっぱり同一人物だったのね……」



 治療院での会話のみの情報であり写真を見ていなかったため確証がなかったミヒロだったが、会話する人物がそれだと分かるとガクッと肩を落とす。



「……そうか」

「あ、そうだ! この辺で美味しいご飯が食べられる場所知らない? お腹すいちゃって……」



 あはは、とお腹を押さえ苦笑いで尋ねると、ザーラは顎に手を当て一考した後、テラスから降りミヒロの数メートル先に立つ。


 ミヒロが首を傾げる中、ザーラはミヒロに指を差した。




「……教えてもいいが、……代わりにあたしと戦え」




「……え、何で」

「あたしがむしゃくしゃするからだ」

「すっごい個人的な理由だ!?」

「今は無性に体を動かしてェんだぁ……。いいから付き合え」



 ザーラの提案にミヒロは難しい顔をした。



「えぇ……。大会に参加するからこれ以上のダメージは遠慮したいんだけど」



 治療院を出てから少しばかりの時間が経過しており、ミヒロの損傷率は26%まで回復していたが、セリアの治療があるとはいえ回復に充てる時間は少しでも短縮させたかった。


 だがザーラは関係ないとばかりに立ちはだかったまま、表情を変えず腰に手を当てる。



「心配すんなぁ。どんな傷だって唾つけりゃ治る」

「治ったら奇跡だよ……」

「るせぇ」

「……まぁいいけど。ヤナが苦戦した相手だっていうし、私も興味あったからさ」



 ミヒロはとんとん、とつま先で地面を蹴ると、体側と伸脚を何度か行って身体状態を整える。

 ザーラも首を何度か鳴らすと腰に差すジャマダハルを装備する。

 ザーラがミヒロの方を見ると、大きく足を開き踏み込める状態で待機していた。だが腰にあるトゥルゼスを手にしてはいなかった。


 それを見たザーラはさらに不機嫌になる。



「……おい、武器を抜け」

「え、あぁこれ? 途中から使うけど今は抜かない」

「……舐めてんのかぁ……?」

「違う違う。この武器すっごい重たくてさ。あなたの武器は小回りが利いて手数の多い武器だから相性悪いと思ったの。ていうか、むしろこっちの方が私はできるよ? ……サンドバッグになるつもりはないから」

「……はっ。言ってろ……!」



 数秒ほど睨み合った後、ザーラが駆け出し戦闘が開始される。


 走る勢いそのままにザーラは右手側でミヒロの顔面めがけ突きを放つ。速度の速い攻撃出会ったがミヒロは冷静に上半身を屈めて回避すると、カウンターの掌底を同時にザーラの顎に放つ。

 ザーラの動きが止まり、ミヒロはザーラの脇をすり抜け後ろに回ると、ザーラが振り返る前に片足で軽く跳躍し、同時に一回転して左足を突き出す。蹴りはザーラの背中に命中しザーラは前方へつんのめる。

 反撃のためザーラは振り返ると、拳を構えたミヒロが懐まで接近していた。ミヒロの獣のような視線にザーラの体が硬直する。

 だがそれも一瞬の事。ザーラはすぐに意識を全身に張り巡らせ、突き出される拳を上半身を逸らして回避。そのまま両手を地面に付き、逆に両足を地面から離すとバネのように体を縮ませ、ミヒロの顎に向かって蹴りを放つ。



「らッ!」

「うがッ!?」



 ミヒロの体は高く宙へ飛ばされる。だがミヒロも痛みを堪えながら下を確認し、一度後転して姿勢を立て直して着地する。ミヒロは屋根の上まで飛ばされていた。

 ミヒロはザーラの姿を確認しようと道路に視線を向けるが、その姿は消えていた。

 ミヒロは次に左右を確認するが姿は見えない。


 その時、ミヒロの視界が若干暗くなる。



「まさか上――」



 ミヒロが空を見やると、武器を構えたザーラがミヒロ目掛けて落下してきていた。


 だがジャマダハルが突き刺さる寸前でミヒロは前方に回避。その後追い打ちをかけてくると踏んでミヒロはトゥルゼスを抜き、後ろに向かって薙ぎ払う。

 ミヒロの予想通り、ザーラはすぐ近くにまで接近していた。トゥルゼスはジャマダハルで受け止められる。

 鍔迫り合いになるがすぐにミヒロが劣勢になり押し込まれる。まずいと思ったミヒロは脱出を試みようとするが、ザーラは身を捩りミヒロの腰へ蹴りを叩き込んだ。



「げほッ!」



 ミヒロの体はまた宙に浮き、仄暗い路地裏の空き地へ飛ばされ落下する。何度か転がり壁にぶつかって止まったミヒロは壁を背にして立ち上がると、自身の真上にトゥルゼスを放り投げた。

 ミヒロは囲まれた家屋の上を警戒していたが、ザーラは屋根から下りてきており、路地を駆け抜け空き地へ到着した。武器を持たぬミヒロに疑問を持ちながらもダッシュで接近し攻撃を仕掛ける。

 顔面へ蹴りを突き出すザーラに対し、ミヒロはその場で跳躍すると、壁を蹴ってザーラの頭上を通り越そうとする。

 ザーラは瞬時に反応し頭上をジャマダハルで薙ぐ。その刃はミヒロの腕を捉え、ザーラは頬に返り血を浴びる。

 ミヒロの位置を確認しようと上を見たザーラは目を瞠る。姿勢を変えたミヒロが放り投げたトゥルゼスをキャッチし、そのままザーラへ振り下ろす直前であったからだ。



「なッ――」

「ッ!!」



 トゥルゼスの事が完全に意識の外にあったため、ザーラの動きが止まり、吸い込まれるようにトゥルゼスはザーラの頭部へ叩き込まれた。



「がッ……!!?」



 ゴッ、と鈍い音が鳴り、ザーラの視界が揺れる。ミヒロは追い打ちをかけるようにトゥルゼスを水平に構えザーラの腰へ向けて薙ぐ。

 抵抗を失ったザーラの体は簡単に浮き、空き地の壁へ激突する。素早い動作でトゥルゼスを腰に差したミヒロはザーラに接近し、その腹部へ蹴りを突き刺した。



「げほッ……!」



 動きが止まったザーラを数秒ほど見つめた後、ミヒロは後方へ跳躍し距離を取る。



「はぁ……あっぶなー……上から来てたら避けられてたかも」



 ミヒロは一息ついて胸を撫で下ろしつつザーラの方角を見つめる。その数秒後、舞い上がった土煙の中から、腕で腹部を押さえたザーラがふらふらと立ち上がり前に出る。



「……言うだけの事はあるなぁ……!」

「自信があるから、口にしたんだもの……!」



 両者共に息が上がっている。流血しているのはミヒロのみで、斬られた右の前腕は斜めにぱっくりと裂け、今も血が流れ続けていた。

 ミヒロの損傷率は48%まで上昇し、ザーラの損傷率は戦闘開始前で21%、現在は35%だった。



「ダメージは、全然受けてねェけどなぁ」

「……その割には、ふらふらじゃない?」

「うるせぇ。受けてねェったら……受けてねェんだよ……!」

「強情だねぇ……」



 途切れ途切れのやり取りを交わした後、ザーラは大きく息を吐いた。それを見たミヒロも姿勢を低くして動向に備える。




 二人の戦いは、さらに激しさを増そうとしていた。




   * * *




 同刻、【オーグラン】上層部。


 夕暮れ時となり、夜に向けて国中の人々が忙しなく動き回る。酒場は夜が本番と呼び込みを始め、逆に路肩に商品を並べ宣伝を行っていた店はそれらを片づけていた。他にも夕食のための買い物を済ませる主婦や遊び疲れて帰路につく子供たち、はたまたダンジョンやフィールドでの戦闘や国外での漁など一仕事終えた者たちは、各自自宅、食堂、酒場、宿屋等で休息を取る。



「……」



 そうした人の流れが絶えない【オーグラン】の道を、ミクモは二階の窓から静かに眺めていた。開けられた窓からは程よい風が入り込み髪を揺らす。すっと細められたその眼差しは優しく柔らかく、道を駆ける子供たちを見守っている。



「せんせー。調子はどうだ?」



 扉を開けてサタマルが部屋へと入る。その手には水の張った桶とタオルを抱えていた。

 ミクモの部屋はベッドを中心に鞄が置かれた机や新品のタンス、上着掛けなど特別なものがない簡素な部屋だった。



「ん……大丈夫だよ。……ありがとう」



 心配するサタマルを安心させるために微笑んで応えるも、額の汗や途切れ途切れの言葉がその嘘を暴いてしまっていた。

 サタマルは近くの小さな棚の上に桶を置く。ミクモもそれに合わせて体の向きを変え、サタマルに背を向けると上半身の服を脱いだ。

 サタマルはぎゅっと水につけたタオルを絞り、軽く折り畳むとミクモの背中を拭き始めた。入浴もままならないため昨日から体拭きに変更していた。



「……本当に辛いなら言ってくれよ? 俺たちも何かできるかもしれないからさ」

「……うん。……そうするよ。けほっ」

「やっぱり寝たほうがいいな。丁度終わったから横になったほうがいいぞ」

「……そう、だね」



 拭き終わったミクモが服を着たすぐ後に咳をしたため、サタマルが見かねてミクモの上体を寝かせた。ミクモもそれに抵抗することは無く目を閉じる。サタマルはそれを受け下半身にかかっていた毛布をミクモの肩まで被せた。



「窓は閉める?」

「いや……そのまま、でいいよ」

「わかった。……ちゃんと、薬持ってくるから」

「……うん」



 タオルと桶を手に取ったサタマルは部屋を出て階段を下りていく。下には質素な食事を準備するテイの姿があった。



「どうだった?」

「良くなってはいねェな……。やっぱり薬がねェと……」

「昼間に来たイブキさんたちに頼るしかないよね……」



 二人揃って俯き重い空気が部屋を包む。


 その時、コンコンと扉がノックされた。



「……誰だろ?」

「さぁ……」



 桶を置いたサタマルが扉に近づき、テイがその後ろをついていく。サタマルが恐る恐るその扉を開けると、そこに立っていたのは槍を背に携えた赤茶色の髪をした青年――エンジュだった。



「あぁ~、急に来て悪いんだが……二人がテイとサタマル、でいいのか?」



 頭一つ分以上の身長差で見下ろす視線と、見た直後に名前を聞く目の前の怪しい男性に二人は警戒していると、それを見たエンジュは頭を掻きながら笑みを零した。



「ははっ。まぁ警戒されるか。一応イブキの知り合いでな、イブキから場所を聞いて来たんだ」

「あ、イブキさんの……」

「何の用なんだ?」



 用件を聞かれたエンジュは笑顔を崩して真剣な面持ちになる。すっと表情が切り替わったことで二人も身を固くする。



「……二人が、【リルコー】の出身だって聞いてな」

「あぁ、そうだけ、ど……」

「なら【インガート】って村は聞いたことねェか?」

「あ、知ってます。けど私たちの村が滅ぶ一年前くらいに滅んでしまったって……」



 頭を傾げるサタマルの代わりにテイが答える。エンジュはその答えに深く頷く。



「……あぁ、そうだ。【リルコー】【インガート】、その他いくつかの村同士で親交があったんだ。村を行き来して必要な食材や資材を調達したり交換したり、昔から協力してきた村々なんだ。……そして……【インガート】は俺の故郷だ」

「「!!」」



 故郷、と言う言葉に二人は目を見開く。目の前の人物も三人と同じ境遇だったからだ。


 エンジュは軽く目を伏せ、言葉を続けた。





「……あまり思い出させたくねェところだけど……それでも。【リルコー】での出来事とか、他の村の状況とか……いろいろ聞きたいんだ。……聞かせてくれないか」





 そう言って深く頭を下げるエンジュを見て、テイとサタマルの二人は顔を合わせる。



「(どうするの……?)」

「(……この人の言う通りあの日の事を思い出すのは辛ェけど……でも、こうされたら無視できねェよ。嘘を吐いてるようには見えねェし)」



 二人は小声で軽く相談した後……エンジュを家の中へ招き入れた。



物語は徐々に動いていきます。風呂敷を広げすぎてないか心配になってきましたが……大丈夫、なはず……。

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