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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
59/67

55話:あ

タイトルはふざけてませんよ? きちんと本編に絡んだ言葉です。まぁ、思い付きだったり切り取ったり、話によってランダムですけども。


初詣行ってきました。今年一年何事もなく過ごせますように。


 各々がセリアの治療院を出発し、ログアウトしようとしたイブキがいったん外へ出ると、壁に背を預けるミヒロを発見した。

 ミヒロは難しい顔をして考え込んでいた。



「……」

「ミヒロ」



 イブキは俯くミヒロの正面に立つと、顔を覗き込みながら声を掛けた。



「……ん? あれ、イブキ。落ちるんじゃなかったの?」



 ミヒロはイブキに声を掛けられたことで初めてその存在に気付き、視線だけ上げてそれがイブキだとわかると顔も上げる。皺を寄せていた表情も自然と柔らかいものになっていた。



「そうするつもりだけど、何か考えてるみたいだから気になってね」

「そ、そんな素振り見せたっけ」

「今もだし、私が話し終わった後もそうしてたわよ。尤も、気付いたのは私だけっぽいけど」

「……そっか。でもまだ考えが全然まとまらないことだし」

「それくらい私も一緒に考えるわよ。何かもうここまで来たらスルーできないし、……普通に気になっちゃったし」



 至近距離まで近づいても自身の存在にすぐに気付かないほどに考えなければならない〝何か〟を、イブキは気になって仕方がなかった。



「……うーん、じゃあそうしよっかな」



 ミヒロは少し考えた後、壁から背を離してイブキと向き合った。



「……実は、ミクモさんって人の事でね」

「ミクモさん?」

「イブキは、自分で話してて引っかかる部分とかなかった?」



 ミヒロに言われてイブキは今日の出来事を振り返る。違和感を覚えた部分は確かに存在していた。



「……んー、ないと言えば嘘になるけど……」



 だが確証がなかったためイブキは若干言葉を濁すが、ミヒロはそれで十分だ、と深く頷いた。



「じゃあ、一旦意見をすり合わせてみようよ。わかんないこともわかるかもだし」

「その方が良さそうね。……それで何を考えてたのよ」

「イブキが話してた、ミクモさんって人の病気のことでね」

「病気……」

「うん。イブキさ、ミクモさんの病気を『流行病に近いもの』って説明してたけど……」




「薬まで開発されてるのに病名が分かってないのはおかしくない?」




「……」



 イブキは先程のミヒロと同じように視線を落として頭を働かせる。

 ミヒロはさらに続けた。



「ほら、風邪だから風邪薬、胃痛だから胃腸薬みたいに、病気の名前を明確にしたうえで、それに対応した薬を処方するのが普通でしょ? けどただ流行病と症状が似ているからってだけの理由で、この薬で治せるって断言できないと思うんだけど……どうかな?」

「……そうね……本人に直接そう説明されたわけじゃなかったけど、その点は私も引っかかってたわ。……もし仮に、本当に流行病だったとして、流行病って所謂感染性の高い病気の総称よね。だったらミクモさんといつも一緒にいたテイとサタマルが感染していないのがおかしいのよ。周辺の家も病気が広がってる様子はなかったし、そもそも広まってたら国中で話題になってるはずよね……」



 ミクモ達三人の家を出た後、ヨウロには誤魔化しつつイブキが辺りを見回していたのは、隣人を含む周辺の家に同じような病人がいるかどうか判断するためだった。



「まぁ、感染経路とか感染までの時間とか、リアルでの知識がこっちの世界で通用するかは知らないけどね」

「そこはまぁ、本職の医者でないと何とも言えないわね……」



 二人が知る限りの医療関係者はセリアとシマの二人しかおらず、二人とも治療専門であるため医療の面で知恵を借りられる人物がいなかった。


 話を仕切り直し、ミヒロは次の疑問点を投げかける。



「それともう一つ気になるのが、ミクモさんがその病気をどこからもらってきたかなんだよね」

「んー……。さっきも言ったけど周辺は見渡したけどそんな人は見かけなかったし、病気について国中に情報が知れ渡ってるわけでもなかったから……」

「それらを踏まえても……どういうことだろうね?」



 二人の思考は停止し、お互いに首を捻る。



「突然体内にウイルスが湧くとも考えにくいし……うーん、ミクモさんを診た医者がポンコツだとか?」

「考えたくないね……」

「直接治す薬じゃなくても、症状を和らげる薬とかがあれば時間は稼げそうなもんだけど……」

「いやぁ? そんなに高価で希少な薬を使わないといけない病気って考えれば存在しないと思うけどねー」

「……何か、考えるたびに頭が痛くなって来るわ……」



 イブキが額を押さえて治療院の壁に背を預けると、ミヒロも肩の力を抜いて嘆息する。



「あはは……。私も考えるの面倒くさくなってきちゃった……」

「んー、病名を伝えなかった理由……か」

「もしミクモさんの病気が命にかかわるものだったら、嘘をつくことでテイとサタマルの二人を心配させないようにしたって感じもあり得るかな?」

「二人とミクモさんは互いに心配してるし、それもないとは言えないわね」

「……他に思い付く?」



 ミヒロはショートしそうな頭を冷やすため、イブキに意見を求める。考えている間のミヒロの集中力は、学校で行われるテスト以上に発揮されていた。

 イブキ自身もここまで考えることがなかなかないため難しい顔をしたままだったが、何とか捻りだす。



「あるとすれば、そうね……医者と商人がグルで三人を騙してるとかかしら」

「グル?」

「商人側が要らない薬をずっと手放したいと考えてて、それを聞いた医者が儲け話を持ちかけるとかね。ミクモさんの病気が治せる薬だって偽ることで、何の効果もないのにバカみたいに高額な値段設定の薬を買わせようとしてる」

「よくそんなの思い付くね……。あ、でも集会所に入った時に商人さんと真剣に話し込んでる人がいたっけ」

「……そんな人いたかしら」

「イブキたちは合流してすぐ集会所を出ちゃったし仕方ないよ。それに、その人がお医者さんかどうかはわからないし」



 ミヒロはショート寸前の頭の記憶から引っ張り出してイブキに伝える。装いや容姿までは覚えていなかったが、中途半端でも伝えること自体が大切だと考えた。



「時間があればその二人から話を聞いてみるのも有りかしらね……。ミヒロは何かある?」

「う~~ん……。あくまで可能性、だけど……――――――……とか」



 憶測でしかなかったため躊躇いつつも、イブキに耳打ちで考えを伝える。





「……え……?」





 それを聞いたイブキは思わず目を見開いてミヒロの方を向く。預けていた背も壁から離した。

 ミヒロはあはは、と苦笑いを浮かべながら付け足す。



「まぁ、私の憶測でしかないから片隅に入れておく程度でいいと思うよ。私はミクモさんを実際に見たわけじゃないしさ」

「……今は、そうしておくわ。じゃあもう落ちるわね。リアルでもちょっと考えとくわ」

「うん。またね」



 イブキはミヒロに別れを告げるとメニューからログアウトを選択し、ミヒロは手を小さく振ってイブキを見送った。




   × × ×




 目が覚めたイブキ――鈴南すずなみ茉希まき――は、頭部に装着していた《クハイリヴァ》を取り外すと、体を預ける寝具から上半身を起こした。茉希の横には本物のグミのような形と感触のクッションが置かれている。

 そこは茉希の自室だった。電気はログイン前に消しており、開封前の段ボールが部屋の隅にいくつか置かれている。タンスやドレッサーなど茉希にとって必要な物の類は設置されていた。


 寝具から足を下ろした茉希は未尋と話した内容を思い出していた。

 中でも、最後に未尋が茉希に伝えたことは、完全に虚を突かれるものだった。





「……まさか、ね」





 茉希は忘れるように二、三度頭を振ると、立ち上がって部屋を出た。



 だがその後も、事あるごとに未尋の言葉を思い出していた。




   × × ×




 時は経過し、【オーグラン】下層部のとある酒場。酒場内は人で溢れ返っており、人々は一日の疲れを忘れるように食って飲んでの大騒ぎ。

 そんな店内の一角にて、数人の男女がテーブルを囲んでいた。それはミヒロたちが出会った〝アイシクルレイン〟のメンバー五人だった。彼らもまた、今日の締め括りにと酒場に足を運んできていた。

 壁側の席にレイジスが座り、その反対側にカオンが座る。その両サイドにスノウとヨウロが二人の仲裁に入れるように位置取る。残るザーラはレイジスの右後ろに陣取り、窓際の壁に背を預けていた。



「だァー! クソッ!!」



 苛立ちを発散するように、一気に飲み干されて空となった樽ジョッキをテーブルに叩きつけるとヨウロの前に置かれていたグラスが衝撃で倒れた。ヨウロは即座に反応して立ち上がると、手慣れた手つきで汚れたテーブルを綺麗にしていく。



「荒れてるねぇ」



 その様子を見たカオンが呆れたように溜め息をついた。



「まさかエンジュさんの紹介で来た人物が〝夜斬り〟本人だとは思いませんでしたね……」

「ですです。いつの間に知り合ってたんでしょうね?」



 苦笑を浮かべながら、スノウはテーブルに並べられた料理をつまみつつ会話に参加していた。



「知るか! ぜってェ明日の大会で倒してやらァ……! もう一杯持って来い!!」

「明日も負けるさ~。向こう結構余裕そうだったもん」

「てめェはほんと黙ってろ雑魚が!」

「はぁ? 理性が欠けてる犬畜生に言われたくないんだけど」

「あァ!?」



「……また蹴られたいんですか……?」



 喧嘩に発展しそうになったが、穏やかな黒い笑顔を向けるスノウによって止められる。



「……やめときまーす」

「ちィ……!!」



 昼間に一度本気の蹴りを喰らったカオンと、それを見ていたレイジスは渋々引き下がった。

 レイジスは怒りが収まらないのかぎりっと歯を食いしばり続けていた。


 気まずい空気が流れる中、その四人に対してザーラだけは、我関せずと言った様子で会話に混ざらずに酒場を見渡していた。



「……」



 その手に樽ジョッキもグラスもない。普段であれば一番に酒類に手を付けるザーラだったが、この日は腕を組んで壁に背を預けたまま、酒類どころか卓上の料理にすら手を付けていなかった。


 それを不思議に思ったカオンが声を掛けた。



「あれ、珍しいねぇザーラさん。飲まないんだ?」

「……そんな気分じゃないだけだ」



 カオンの問いにザーラは視線すら合わせずにぶっきらぼうに答える。カオンはそれ以上追及することはしなかった。

 おかわりの樽ジョッキがレイジスの元へ運ばれる。レイジスはすぐに中身を半分に減らすと落ち着きを取り戻したのか料理に手を付け始めた。



「ヤナの野郎にやられたのが効いてんだろ――ッてェ!?」



 アルコールが回ったことで気が緩んだレイジスがザーラを揶揄う。するとザーラは無言無表情でレイジスに近づき、片手で頭を掴むと置かれた樽ジョッキの上からテーブルに叩きつけた。



「口閉じろてめェ」

「やんのかゴラァ!!」



 頭を掴む手を乱暴に振り払ったレイジスが勢いよく立ち上がり胸ぐらを掴む。ザーラは眉間にしわを寄せると、握り潰しかねないほどの力でレイジスの手首を掴んだ。



「……触んなぁ」

「ちょちょ! 二人とも落ち着いてくださいよ!」

「そうです! 店内で暴れないで下さい!」



 険悪なムードになる二人を見てスノウとヨウロが急いで止めに入った。その様子を見ていた周りの客たちも不安そうな視線を向けていた。



「ちッ」



 先に手を離したのはレイジスだった。それを受けザーラも手を離す。レイジスが摩る手首には赤い跡が残っていた。



「……ふん」



 すっかり静まり返った酒場で時間が過ぎる中、ザーラはつまらなそうな表情を浮かべてテーブルに背を向けて歩いていく。



「ザーラさん、どこ行くんですかっ?」

「……話しかけんなぁ。外の空気吸うだけだ」

「っ……!?」



 スノウは何とか止めようとするも、ザーラに殺気を向けられたことで呼吸が止まり、離れていく背中に言葉を投げかけることができなかった。



「……っはぁ……! はぁ……!」



 ザーラが酒場から姿を消すと、スノウの全身にどっと疲れが押し寄せその場に崩れ落ちる。それを見たヨウロが心配そうに肩を擦る。



「……お疲れ」



 申し訳程度の労いの言葉をカオンが発すると、スノウは荒くなった呼吸を整えつつそれに応える。



「……そう思うならもっと手伝ってくださいよ……」

「今に見てやがれ……!!」



 レイジスは再び席に着くと卓上の料理に手を付けようとするが、ザーラの叩きつけにより皿から零れ落ちる、グラスが倒れるなどしてぐちゃぐちゃの状態になっていた。

 ヨウロとカオンの二人で料理類を片づけると再びメニューから料理と酒類を注文する。


 暫くすると酒場内に活気が戻ったが、ザーラが戻ってくることは無かった。




   * * *




 酒場を出たザーラは、外に用意されたテラスの柵に肘を乗せて物思いに耽っていた。



(あたしが弱いわけじゃねェはずだぁ……。ちィ、ムカつくなぁ……!)



 思い出していたのは別の酒場でのヤナとの勝負の事だった。

 力量の差は確かにザーラが上であったことも、戦闘相手がエンジュに変わった後に確認できた姿からヤナを追い詰めることができていたことも、ザーラは理解していた。客観的にはザーラ側の勝利であった。


 だがそれをザーラは自身の勝利を素直に認められなかった。


 それは相手から負けを認める言葉を吐かせられなかったからか、エンジュが介入したことで殺せなかったからか、ザーラ自身も無視できないダメージを受けたからか、思いの外攻撃をヤナに避けられたからか。

 探り続けても答えは出ず、ザーラは苛立ち頭を片手で掻き毟る。



「~♪ ~~♪」



 ザーラの苛立ちが収まらない中、左側の道から陽気な鼻歌が耳に入る。

 そちらを向くと、後ろ髪を団子にまとめ、不釣り合いなほど大きな剣を腰に装備した少女が道の真ん中を歩いてきていた。


 その少女は、ザーラの鋭い視線に気づくと、足を止めて見つめ返した。


 そして一言……。




「あ」

「……あぁ?」




 その少女――ミヒロは珍しいものを発見したかのように目を見開いて声を上げる。


 そしてザーラは、ミヒロのわざとらしいリアクションに苛立ちを隠せず、さらに目を吊り上げて睨み付けた。


この二人、もう出会いました。どんな会話をするのでしょうか……。


今年も更新頑張ります。

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