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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
56/67

52話:人間〇〇

何度目の冒頭謝罪でしょうか。ポケモンやってて遅れましたすみません。


次回の更新は早めにしたいなぁ……。ていうかこれ【オーグラン】編で100話突破しそう。まぁそれでもいっか。

「えっと、……とりあえずごめんなさい」



 手を握られたまま告白されたミヒロは、軽く頭を下げて断りを入れたが、ラジールはなおも手を離さない。



「まぁ、確かに初対面の印象は最悪だ。それにお互いに知らないことがはるかに多く、性急だったかもしれない……だがそれは時間が解決してくれる」

「いやそういう問題じゃなくてね?」

「まずは明日のデートコースから考えよう」

「まずは耳鼻科に行くべきじゃないかな……。あと手ェ離して」

「なるほど、お医者さんごっこもベタだがありか」

「どうしてそんな発想になんの!?」



 埒が明かないと思いミヒロはレウルに助けを求めようと視線を向けるが、彼は彼で敵対していた人物に土下座されて困惑していたため、声を掛けるに掛けられなかった。



「む、俺以外の男に視線を向けるのは感心しないな」

「手を離せっていう私の言葉を無視するのは感心しないなぁ……」

「ちゃんと聞いているさ。だが俺の手が離してくれないんだ」

「キモ! てか力強っ!? ったくもう、いい加減にしな、よッ!!」



 ミヒロは掴まれたままの手をそのままに、両足を揃えて飛び上がり、ラジールの顔面へドロップキックを叩き込む。



「がはッ!?」



 ラジールが痛みで手を離して後退したため、ミヒロはトゥルゼスを腰に差し直すと、汚れを落とすかのようにズボンで手を拭った。



「うぇぇぇぇ……」

「……さすがの俺もそれは傷つくんだが」

「知ったこっちゃないわ!!」

「まぁ、これだけで諦める俺ではない」



 拒否されたにもかかわらず、一切臆することなく一歩踏み出す。

 それを受けたミヒロは一歩後退する。

 また一歩、片方が進めばもう片方が後退する。



「……なぜ下がる」

「何で下がらないと思ったの……。ていうか後ろのお仲間さん! 暴走してるこの人止めてよ!」

「……え、あ、いやその……。こんな団長初めて見たから、吃驚して……。その、団長? 彼女は敵なのでは……?」



 ミヒロに呼びかけられ、後ろに並ぶ〝海裂〟の集団の先頭に立っていた副団長の女性――ルーシャが我に返った。彼女は戸惑いを見せながらもラジールに言葉を投げかけた。



「何を言ってる。惚れた相手に敵も何もないだろう。……だが、そうだな。お前たち、この女性を我がギルドの拠点に連れて行くのを手伝え。多少強引でもいい」

「はぁ!?」

「そうでもしなければ話に応じてくれんだろう? まずはデートコースからだな……。俺が考えているうちに何とかしておけ」



 そう言い切ると、ラジールは顎に手を当てぶつぶつと呟きながらその場から離れた。そのままミヒロから数メートル程距離を置くと、瞑目しそこから動かなくなってしまった。



「……何でこの人団長なの?」

「私たちも戸惑ってるところだから、何とも言えないというか……」



 ミヒロの問いに苦笑いしつつ返答を濁すと、周りのメンバーに目配せをする。

 戸惑っていたメンバーたちも次第に動きだし、やがてミヒロを円で囲む形となった。



「でも結局近づいては来るんだ……」

「一応団長の命令だし、無視できないから……。なんか、ごめんね」

「んーん。でも今後も苦労しそうだねぇ、そっちのギルドは……。何となく応援しとくよ」

「うん、ありがと……」



 この人とは話が合いそう、などとミヒロは軽く思いつつ、近づいてくる〝海裂〟のメンバーたちへの警戒を再開する。

 腰を落として一歩下がる。前後左右に目を配りつつ、いずれの方向からも対処できるように呼吸を整える。



「でも、今ばかりは手加減なしで行くからッ……!!」

「調子狂ったけど……こっちも全力で行くね……!!」



 ルーシャの言葉を皮切りに数名のメンバーが斬りかかるが、武器を持つ相手の手首に掌底を放ち、零れた武器の柄で額を殴打したあと相手の体を武器ごと投げ飛ばす、相手の顔面に裏拳を放った後顎を蹴りあげるなど、ミヒロは前進しながら体術を駆使して相手を跳ねのけていく。

 そのまま〝海裂〟のメンバーを倒していき、ギルドの団長であるラジールの元へたどり着く。



「うむむ……やはり定番は明るい森林での散歩デートか……」



 ラジールはメンバーが戦闘を行う中で変わらずミヒロとのデートコースを考えていた。



「んッ!」



 その様子を見たミヒロはうげっ、とした顔をしながらも、ラジールの足元にトゥルゼスを突き刺した。



「ん、何だ?」

「お断りって意味も込めてッ!」



 ミヒロはトゥルゼスの柄を掴んだまま、床を蹴って下半身を浮き上がらせると、そのまま回転してラジールの脳天へ踵落としを喰らわせる。



「うがッ!?」



 強い衝撃を受けたラジールはよろめいて地面へ尻餅をついた。



「よい、しょっと」



 ミヒロは着地してトゥルゼスを差し直すと、未だ意識がふらついたままのラジールの両足を掴んで脇に挟み込んだ。



「な、何を……ぉおおおおお!?」

「ふぬぬぬぬぬぬぬ……!!」



 ミヒロは力技でラジールの体を横に引きずっていく。スケートのスピンのようにミヒロはそのまま回転し始め、スピードの上昇と共にラジールの上半身は宙に浮いていく。



「人間ハリケーンだこらぁああああああ!!!」

「……本気で、とは言ってたけどまさかこんなに無茶苦茶するの……うわわわ!?」



 まるでコマのように踵を軸として回転しながら移動する。回転の勢いは止まることを知らず、近くの〝海裂〟のメンバーは次々と巻き込まれて吹っ飛ばされ、ルーシャは少しでも当たらないようにと身を屈めて頭を抱える。



「らららららららァ!!!」



 ミヒロの人間ハリケーンは、勢いを増したまま辺りを破壊していった。




   * * *




「いや、普通に断る」



 土下座されたレウルだったが、迷うことなく真顔で断った。だが目の前のベルムは土下座をしたままだった。



「マジで頼むぜ! 俺はあんたの事を知ってからずっと探してた! あの村の一件からな!」

「村……?」



 村、と聞いてもピンとこなかったレウルは首を傾げた。訪れた村など幾つもあったため候補が絞れなかったのだ。



「記憶にねェ位あんたにとってはどうでもよかったんだろうな……。【トトレッテ】って村に着いた時、村の奴らから夜のままにするモンスターの討伐を頼まれた。だが攻略法がわからねェことで一旦退けるだけ退けて、態勢を整えるために一度近くの大きな町へ移動した。そして次の日、万全の状態に整えた状態で村へ来てみれば、そこはすっかり明るい村へと変わってたんだ!」

「……あぁ、あれか」



 村と夜と結びつけることで、一つの村を思い浮かべたレウルは気の抜けた声を漏らす。

 レウルの記憶になかったように、その村での出来事はレウルの印象に残っておらず、村の中であまりにも不自然な存在だったモンスターをただ討伐したにすぎなかった。苦戦すらしなかったことが印象の薄さを加速させた。



「事の顛末を聞いた俺は呆然とした。先に獲物を取られた怒りなんてひとかけらも湧かなかった。俺たちが苦戦した奴を一瞬で倒したあんたが! 俺ァ羨ましかった! 純粋に憧れちまったんだ! だから頼むッ!!」

「いやだから断る」

「そこを何とか頼むぜッ!!」



 レウルの即答にも臆せずに土下座を続けるベルム。

 レウルは困ったように大刀を背に差し直すと、後ろに待機していた〝山狩〟のメンバーへ声を掛けた。



「……おい。後ろの奴らもこいつを止めろ」

「いや、前から仰っていた事なので、多分止めようとしたところで……」



 レウルはベルムの後方に立つ副団長の男性――ネモンたちギルドメンバーへと声を掛けたが、ネモンたちは首を振るばかりだった。

 レウルの話を聞いてからのベルムの様子はもはや日常的な光景になっており、狂信者のように盲信する彼を止めようとしたこともあったが、結果はすべて無意味だった。ネモンたちメンバーは既に100%諦めの状態だった。



「……めんどくせェ……おい、いい加減頭上げろ」



 ベルムの前でしゃがみ肩を揺するが、ベルムは石造と化したようにピクリとも動かない。



「悪ィが、あんたが認めねェ限り頭は上げねェ……! 頭は、上げねェ……だから頼む、頼むよぉ……」

「泣き出しちゃったよ……どうすりゃいいってんだ」



 ベルムは依然としてレウルの顔を見ることは無かったが、鼻をすする音と声の震え方から泣いていることがわかり、ますますレウルは戸惑った。





「らららららららぁああああああ――あ!」





 どうしたものかとレウルは対処に困っていると、少し距離が空いた場所で暴れていたミヒロの声が耳に届く。

 次の瞬間、レウルの横の床に何かが激突し大きな衝撃が発生した。



「がはっ!!」

「っ!?」



 レウルはふと横を見やると、頭から床に突き刺さったラジールの姿があった。ラジールは突き刺さったのちにうつ伏せになって倒れた。



「何しやがる!」



 ラジールはミヒロが対応していたため、彼女が原因だとレウルはすぐに怒鳴ったが、ミヒロは後頭部に手を当てて苦笑いしていた。



「ごめんごめん、腕からすぽっと抜けちゃって」

「あいつ……! ……ん?」



 怒りを覚えたレウルはやり返す手段を探し……、ふと目の前の土下座をし続けているベルムが目に入った。

 そして同時に、ニヤッと口端を上げた。まるで悪戯を思いついた悪魔の表情だった。





「……ちょうどいい弾があったな」





 レウルは鞭のように一度チェーンを床に叩きつけたあと、ベルムの体の上からチェーンを巻き付かせる。

 遅れてベルムがそれに気づくが、既に手遅れ。レウルは力任せにチェーンを引っ張り始め、それに合わせてベルムの体も引きずられていく。



「え、ちょ、おぉおおいいいいいいい!???」



 抵抗できるはずもなく、徐々に加速していくベルムはやがて宙に浮き始め、レウルを中心として、遊園地のアトラクションの如く円を描くように振り回される。



「人間、フレイルッ!!」



 ベルムは壁や柱に何度も激突するが回転は止まらず、レウルは〝山狩〟のメンバーを多数巻き込みながら振り回し続けた。

 ひとしきり振り回した後、位置を調整しながらミヒロの方向めがけて、コマを回すようにベルムだけを振り投げた。



「どわぁああああ!!!」



 レウルが放ったベルムは、ミヒロの直撃こそしなかったものの鼻先を掠めながらもミヒロの前方を通過し地面を転がっていった。



 ミヒロはギロッとレウルを睨み付けるが、レウルは一息つくようにチェーンを肩にかけ涼しい顔をしていた。


登場人物が増えると会話だけでも物語が成立しそうになりますね。

個人的には会話をキャラたちにたくさんさせたいところなのですが、会話が多すぎると物語が進まなくなるんですよねぇ。どうすればいいんだろう……。


ほのぼのとハチャメチャのバランスをうまく取っていきたいです。これからも応援よろしくです。


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