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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
55/67

51話:ドン引きと困惑

キャラの服装ですが、細かい装飾等の描写は省いてます。一々全部書いてたらキリがないので。


さてさて少し遅れましたが更新です。遅れたとは言ってもハバラギ編の最後あたりとか何か月も空いてましたからね……マシになったと思いたいです。

「……邪魔を、しないでもらおうか」

「ヤダって言ったら?」



 青髪の男性――ラジールは叩きつけられたハルバードを動かそうとした。

 だがミヒロはトゥルゼスの上から足で体重をかけていた。そのためラジール一人では動かすことができなかった。



「てめェらには関係ねェだろうが……!」

「そうだな。俺も関わる気はなかったが、入用だ」



 緑髪の男性――ベルムもまた、振り下ろしたままの武器を引き抜こうとする。だがレウルの持つ大刀で押さえつけられており、ピクリとも動かない。

 ミヒロと異なる点は、足で体重をかけていない事。つまり腕力のみでベルムの力を圧倒していた。



「迷惑かけてるよ、いろんな人たちに」

「だから早く終わらせる。いつものことだ」

「あぁそうだ。周りが手出しできねェことも俺達ァ知ってる」



 彼ら二人の喧嘩は珍しい事ではなかった。二人が争う場面を過去に目撃した人は多かった。

 だが大抵の騒ぎは口論のみの場合が多く、今回の様な武器を抜くほどの争いになる事は少なかった。


 この【オーグラン】の正式な戦いの場はコロシアムだ。

 彼らはこの【オーグラン】を拠点とするギルドの団長同士。それ故に揉め事も多いため、互いに意見を譲らない場合は大会で決着を付ける事も珍しくなかった。そして定期的に開かれる大会では二人のうちのどちらかが優勝することが大半だった。

 大会を見た者たちは彼らの実力を知っていた。だから外野は野次を飛ばすことはできても諍いを止めることはできなかった。



「……俺たちを除いて、だろ」

「手ェ引かないんなら、力ずくでも止めるよ」



 だが彼らに対してミヒロとレウルは一歩も引かず、武器を押さえ続けていた。



「やれるものなら……!」

「やってみやがれッ!」



 ミヒロの忠告を無視した二人は、互いに目の前の相手に襲い掛かった。

 武器を動かせないラジールは柄を掴んだまま、ミヒロの顔に向けて上段回し蹴りを放つ。だがミヒロは簡単に身を屈めて回避すると、大きく踏み込んで腹部に正拳突きを見舞った。

 ラジールは思わず蹲って首を垂れると、ミヒロは彼の顎を蹴りあげ、両手に持ち替えたトゥルゼスを振りかぶってそのまま腰部へ振り抜いた。



「ごはッ……!?」



 ラジールはそのまま転がっていくが、壁には激突することは無く、両手でブレーキをかけて体勢を立て直した。



 一方、ベルムはピクリとも動かせない武器を諦め、片足を上げると四股踏みのようにそのまま床を踏み抜いた。

 床は木製のため、ベルムの力だけで簡単に砕くことができた。彼はそれを利用して、砕けた際に飛び散った木の破片をレウルに向けて蹴り飛ばした。



「ちっ……」



 レウルは鬱陶しそうにしながら手で木片を払いのけるが、両手剣を押さえつける力が緩んでしまい、ベルムはすぐさま両手剣を手に取った。

 そのままベルムはレウルの横っ面を薙ぎ払おうとするが、レウルはそれを片手かつ逆手に持った大刀で簡単に受け止めた。

 ベルムは押し込もうと力を入れるが、両手剣は一ミリとも進まない。

 レウルはつまらなさそうに大剣を押し返すと、ベルムの額を大刀の柄頭で突いて後退させる。さらに追撃のため大刀を素早く持ち替え、首を飛ばす勢いで大刀を横に薙いだ。



「がァッ!?」



 ベルムは抵抗できずにラジールとは反対方向に吹き飛ばされるが、その先にベルムの仲間たちが巻き込まれたことで勢いが殺された。

 ベルムは仲間に支えられてよろめきながら立ち上がり、攻撃された首を手で擦る。口の端や頭部からは出血が見られた。



「……峰だ。斬られなくてよかっただろ」



 レウルは余裕の笑みを浮かべているが、視線はベルムやその仲間たちから外すことは無い。余裕を保ちつつも油断を見せない証拠だった。



「おい、あいつって……」

「夜の様な服に黒い両手剣……。まさか、あ、あの〝夜斬り〟……!?」

「〝夜斬り〟だと……!?」

「……こいつが……」



 〝夜斬り〟の名を聞いたラジールが冷や汗を一つ落とすのに対し、ベルムははっとした表情で目の前の人物を見つめていた。周りのメンバーたちも〝夜斬り〟の名前を聞いた瞬間、気圧されたのか構えていた武器の刃先が少し下がった。


 だがその名前を聞いてもピンとこない人物がただ一人だけいた。



「レウル、〝夜斬り〟って何!? レウルの事みたいだけど!?」



 ミヒロは興味が湧いたのか、戦闘中にもかかわらずラジールから視線を外し、レウルの方を向いて問いかけた。その瞳はキラキラと輝いている。



「周りが勝手に呼んでる名だ。俺が名乗った覚えはねェが」



 だがレウルはミヒロの方を向くことなく口だけで応える。



「へぇ~! かっこいいじゃん」

「嬉しくねーよ」



 レウルは茶化されたと捉えたが、ミヒロは素直にかっこいいと賛辞しているつもりだった。



「こいつが〝夜斬り〟か……! てめェら行くぞ!!」

「お前たち、目の前の敵を掃討するぞ!」



 〝夜斬り〟の名に怯える者もいたが、団長の言葉を無視することはせず、ぞろぞろと後ろや横へ並んでいく。

 ミヒロとレウルは、それぞれ一人で一ギルドと対立する構図となった。二人は一度近寄って背中合わせの形でラジールとベルムのギルドと対峙する。

 ギルド職員や客たちはただ壁際に寄りながら、それをただ見守っていた。野次を飛ばしていた者たちも、ギルドの喧嘩を止めた二人の強さに言葉を失っていた。



「うえぇぇ……。意外と多いなぁ」



 ミヒロは武器を構えながら苦い顔を浮かべる。



「逃げてもいいぞ」



 レウルはミヒロの顔を見ていなかったが、声の震え方などから面倒がっているだけだと読み取った。そしてからかいの意味も込めつつ、ミヒロに対して挑発に近い言葉を投げかけた。



「なめんなし。そっちこそ面倒だからって私に押し付けて逃げないでね?」

「どうだかな」

「ちょぉ!?」



 レウルの発言にぎょっとするミヒロを余所に、レウルは腰に身に付けていたチェーンを取り外す。するとそのチェーンはどんどん長さと太さが増し、五十センチにも満たなかったそのチェーンは数メートルと、まるで生き物の成長のように変化した。



「え、何それ!? ただのファッションアイテムじゃないの!?」

「……兼用だ。扱いやすいサブが欲しかったからな」



 レウルのチェーンはオーダーメイドの特別製で、着脱時で形状が変化する。普段は腰に身に付けることで、武器が大刀しかないと見せかける意味でサブウェポンとしてチェーンを選んだのだった。

 ザーラのナイフやレウルのチェーンと言ったサブウェポンは、装備の枠を必要としないため、全身に幾つも仕込むことができる。

 その代わりに自身のステータスが武器に加算されないため、火力という点では期待できないのが欠点である。



「とにかく、あいつら倒さなきゃね」

「巻き込まれた以上は戦ってやるが、そっちの奴はそっちでやれよ。こっちに持ってきたら斬るからな」

「怖いなぁ……。ま、何とかなるよ」



 二人は頷き合うと、呼吸を合わせてそれぞれのギルドへ突撃した。それぞれが手に持つ武器で敵を薙ぎ払うことで、停止した時間が動き出すように固まっていたメンバーたちが武器を構えるも、素早い動作でギルドのメンバーを倒していく二人を捉えられなかった。


 ミヒロは武器を使用しながらも、殴打と蹴撃を中心に、足を掴んで投げ飛ばす、顔の下部を掴んで床に叩きつけるなどの体術も駆使して相手を圧倒する。

 〝海裂〟のメンバーたちも必死に応戦するが、服や肌を掠めることはあったものの、直撃させることはできていなかった。



「……」



 周りのメンバーが次々倒れていく中で、団長であるラジールは呆然とした様子で立っていた。武器を構えることもせず、周りを囲まれながらも戦うこの瞬間を楽しみ、まるで踊るように戦うミヒロの姿を、ただただ見つめていた。



「……あの、団長……?」



 副団長の女性が、様子がおかしいと感じて思わず声を掛ける。だがラジールには彼女の声が聞こえなかったのか、返事をすることなくミヒロに向かって静かに歩き始めた。



「よしっ、次は……――ん?」



 ある程度の数を倒し、横たわるメンバーを見た他の〝海裂〟のメンバーが攻めるのを躊躇っていることで、ミヒロは動きを止め呼吸を整える余裕ができていた。

 だがその隣には、いつの間にか近づいてきていたラジールが立っていた。



「おわぁ! 何!? やる気!?」



 ミヒロは慌てながら距離を取って武器を構えたが、ラジールは武器を下したままで、戦う意思を見せない。それどころか彼のその瞳には、敵意すら宿ってはいなかった。



「多勢に無勢。そのはずなのに、不思議だな……。君はなぜか一歩も引かずに戦う。その華奢な体も純粋な瞳も……とても戦場に出るような見た目ではないと言うのに」



 ミヒロが戸惑っていると、ラジールは優しく武器を握るミヒロの手を包む。



「人を見た目で判断しないでほしいし、その前に手を離してほしいのだけども……あのー、聞こえてますー?」



 手を握られたままのミヒロだが、敵意がないことは理解しているので振り払うことはしなかった。

 だがラジールは手を離すどころか、さらに力を込めた。



「え、と……え、何……?」



 ミヒロはその不気味さから若干引き気味になるが、手を握られているため後退できない。



「……ん、あぁ……。やはりきちんと伝えなければいけないな」

「は、はい……?」



 ラジールは視線をミヒロの瞳へと合わせ、そして……。






「……どうやら俺は、……君を好きになったようだ」






「…………はいぃ!?」




 ラジールの口から放たれた言葉は……告白だった。

 暖かい目でミヒロの手を握り続けるラジールに対して、背中に虫が這うような気持ち悪い感覚がミヒロを襲った。




   * * *




 一方、レウルは大刀で多方面からの攻撃を捌きつつ敵を処理するほか、手に巻きつけて固定したチェーンで相手の武器を奪い取る、足に引っ掛けて転ばせる、体に巻きつけて投げ飛ばすなど、大刀の攻撃範囲を補う形で扱いこなし、多数の相手に器用に立ち回っていた。

 集会所への被害が大きくならないように敵を飛ばす方向なども計算しながら戦っていた。そのため戦闘を行っている人間以外の怪我人は発生していなかった。



「〝夜斬り〟、か……。強ェな、やっぱり……!」

「わかってるなら手を引け」

「そういうわけにもいかねェよ……!」



 ベルムは武者震いしながら両手剣を構える。レウルは呆れた様子でベルムと対峙し、確認の為にチェーンを一度縦に振るった。大刀は背に差し直している。

 そして、再び衝突。

 だがベルムの攻撃は軽々と躱される。ベルムの両手剣は空を切るばかりで、反対にレウルのチェーンは的確にベルムの身体へ命中した。

 それが何度か繰り返されたところで、ベルムは限界に達して膝をついた。



「……もういいだろ」

「……ははは……さすが〝夜斬り〟だな……こっちはギルド総がかりだってのに……。その名に恥じねェ強さ……さすが……」



 そこで一旦言葉を区切ると、ベルムは集会所の床に両手剣を突き刺し、両ひざと両手を床に着け、輝いた眼をレウルへ向けた。





「俺がファンになっただけあるぜ!!」





「…………は?」



 唐突のベルムの発言にレウルは戸惑うが、ベルムは構わず言葉を続けた。



「俺ァずっと探してた……そして見つけたぜ。今を逃したら、次にいつチャンスが訪れるかわからねェ……。頼む〝夜斬り〟! 俺を弟子にしてくれ!!」



 ベルムは言い切った後、自身の頭を床を砕くほどに強く叩きつけた。俗にいう土下座の姿勢だった。



 ベルムの態度の急変に、レウルはただただ困惑した。





   * * *





「はぁ……ミヒロの奴どこ行ったのよ……!?」

「……ミヒロ、ドコ……」

「手当たり次第探してても埒が明かないし……あぁもう」




「おいおい、聞いたか。集会所でまた喧嘩だとよ」

「あぁ、聞いた聞いた。しかもそれを止めに入ったバカがいるとかなんとか」

「そうそう。けどそれが結構強いらしくてよ。今騒ぎになってんぜ」




「……嫌な予感がするわ」

「……行ッテミル?」

「まぁ、行くあてもないし……そうするしかなさそうね」





   * * *





「ったく、あの野郎……。ヤナが無理だって言ってたのに探して連れて来いとか……面倒くせェなぁ……」

「ヤナは確か、治療院に行くって言ってたな。そこに行ってみるか……? いや、あのボロボロの状態でも行動してたくらいだ。治療を終えたらまたどっか行ってるかもしれねェ……」




「なぁ、また騒ぎだとよ」

「今日酒場でやったばっかだろうに、元気だよなぁ……。それどこなんだ?」

「集会所らしい」




「……まさかだよな……まさかだよな……!?」

「だぁあああクソ! 迷ってる暇ねェ! 行ってみるっきゃねェな……!」





   * * *





「はぁ……はぁ……疲れたぞマジで……」

「でもこれでようやく【オーグラン】に入れた……。たしかここにミヒロがいるはずだな。また移動すんのは面倒だけど、早く合流しないとな」

「さて、と、ミヒロがどこにいるかだけど……どこにいるんだかなぁ……」

「妥当なのはコロシアムあたりだけど……。あそこならダンジョンの入り口もあるし人も多い……。一度でも入れば受け付けが見てるだろうし」




「行ってみるか、……集会所」



全員が合流するまでそう遠くなさそうですが、合流したら合流したで大変なことになりそうですね……。今からでも恐怖を感じてます……(プルプル


滑り込みで急いで投稿したので誤字脱字多そうです。午前4時に予約したので寝て起きたら見直します。


あと投稿するたびにブクマが増えたり減ったりしててちょっと面白かったです。

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