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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
53/67

49話:チョップ

台風の被害、皆さんは大丈夫でしたでしょうか。こちらは大丈夫です。

台風に地震に……災害が最近多発してるので心配になります。やっぱり平和が一番ですよ、えぇ。


さて、前回からの続きからになります。

ちなみにライド視点のお話があるかと言われれば……ありません。可哀そうに。

「こんにちはー!」



 ミヒロは入店してすぐに近くの店員へ声を掛けた。


 店内は騒々しく、装備を身に付けた者たちが各テーブルに座っている。カウンターに一人でいる者もいれば、グループで集まり乾杯する者たちもいた。


 ミヒロの声に気付いたのか、調理場にいた者たちの中で一番フロアに近かった料理人の男が、作業する手を止め二人の元へ駆けつけた。エプロンとコック帽を身に付け、短く刈り上げた三十代と思しき男性だ。



「お、いらっしゃい! こりゃまた元気なのがきたもんだ」

「元気が取り柄だからね! あ、どこか席空いてる? 二人なんだけど」

「二人か……。お、あっちの奥のテーブル空いてっからそこに行くといい。メニューが決まったらそこらの店員に言ってくれ」



 男性が指を差した方向には、確かに誰も座っていない区画が存在していた。角のスペースのため他のテーブルより少し離れていた。



「りょーかーい! 行こっ」

「お、おう……」



 腕を取ったまま、キラキラとした目で催促するミヒロと、あまりの元気さに逆に元気を失う〝夜斬り〟。


 二人の凸凹コンビは他の客の注目を集めることとなった。


 だがその視線の中には、違う類のものも含まれていた。


 一部のテーブルは、まるで自分たちの悪事が発覚したかのように大人しくなっている。


 様子が変わった者たちの視線は……〝夜斬り〟に注がれていた。


 だがミヒロは店内の様子を不思議に思うだけで特に気にならず、〝夜斬り〟に至っては空気が変わったことに気づいていなかった。


 二人はテーブルの席に到着した。ミヒロは〝夜斬り〟の腕から手を放して席に着く。〝夜斬り〟もそのまま立っているわけにもいかず、渋々ミヒロと対面する位置の椅子を引いて腰かけた。それぞれ装備していた武器は、座った時に近くの壁に立てかけられた。


 席を案内した男性に指示されたウェイトレスの女性が、二人の元へメニューを運んでくる。笑顔でメニューを手渡しその場を去るが、一連の挙動はどこかぎこちないものだった。


 ミヒロはメニューを笑顔で受け取るが、一部の客の視線が未だにこちらに向いていることに気付き首を傾げた。



「……何か注目浴びてる?」

「お前の声が大きいからだろ」

「そうかなぁ……。まぁいーや。さーてと、何から食べようかなぁ……!!」



 ミヒロは二枚組のメニューを目の前の〝夜斬り〟にも見えるように広げ、周りの目を気にせず涎を垂らしながら目を通した。



「何食べる?」

「……俺は何でもいいし、先に決めろ。……つーか、よくそんなぐいぐいと行けるな。普通できねーよ」

「店の前でウロチョロするよりかはマシだと思うよ?」

「そこを突かれると痛ェけど……。ていうか何勝手に二人席にしてんだ。俺は一人で食べたかったんだが?」

「もう座っちゃったし今更変更してもねぇ……。ていうかここ以外空いてなさそうだし諦めたほうがいいと思うよ」



 〝夜斬り〟は辺りを見渡すが、同じタイミングで乾杯の音頭を取る席もあった。そのため簡単に席が空かないことを察し、わざとらしく肩を落とした。



「……はぁ」

「相席そんなに嫌かなぁ!?」

「うるせェ……。まぁいい。こうして席を取ってくれたことには感謝するさ。ありがとうな」



 メニューから視線を上げると、真っ直ぐにこちらを見据える〝夜斬り〟の姿があった。だが気恥しくなったのか、〝夜斬り〟はミヒロと視線がぶつかると顔を横へ逸らした。


 それを微笑ましく思いつつ、ミヒロは再びメニューへ視線を落とした。



「んーん、全然大丈夫。私もご飯食べたかったから」

「それでも、だ。ここの飯代ぐらいは奢ってやるよ。受けた恩は返す主義だからな」

「おぉ~太っ腹! じゃあ早速ここの欄全部と……」

「常識の範疇にしろよバカ」

「あたっ」



 ミヒロは脳天にチョップを受けた。




   * * *




 数分して、互いに注文した品が、二皿ずつテーブルの上に置かれた。ごゆっくりどうぞ、と声をかけるウェイトレスもまた、どこか緊張した様子だった。



「いただきまーす!」

「……いただきます」



 そして五分後、〝夜斬り〟が一皿食べ終える頃には、ミヒロは二皿とも完食し飲み物で口直しをしていた。



「ふぅ~、おいしかった~!」

「食べるの早すぎだろ……」

「普段はもっと食べるからね~。自然と早くなっちゃうのよ。いや~、でもボス倒した後だったから丁度よかったぁ!」

「ボス? どこのだ」



 ボス、という単語が耳に入った瞬間、〝夜斬り〟の眉がぴくっと動いた。


〝夜斬り〟から見たミヒロの人物像は身の丈に合わぬ武器を装備した元気な少女だ。〝夜斬り〟からすれば、とてもボスを討伐できる存在だと認識することができなかった。



「え~っとねぇ……。近くの暗い森のとこ」

「〝ダスクの森〟か……。ほんとに倒せたのか?」

「失礼な。きちんと倒したもん。……まぁ、仲間含めて三人だったけどさ」

「俺だったら一人でいける」



 二品目の料理を口に運びながら会話を続ける中、そう発言した〝夜斬り〟の表情は自信に満ちていた。



「ふ~~~~ん……強いんだ?」



 両肘をつきながら半目気味に〝夜斬り〟を見る。冗談半分の行動だったが、それが〝夜斬り〟の癇に障り、食事の手を止めて立てかけてある大刀へと手を伸ばした。



「なぜ疑いの目を向ける。斬るぞ」

「バイオレンス! 食事中に血は見たくないです!」

「うるせーっつってんだよ」

「あたっ」



 挙手をしながらガタッと勢いよく立ち上がったミヒロを制すため、〝夜斬り〟は二度目のチョップを見舞った。



「ったく……」

「まぁその武器見れば大体察せられるけどね。強そうだもん」



 頭部を摩りながら座り直したミヒロは、〝夜斬り〟の大刀へと視線を向ける。


 反りの少ない片刃の形状をした大刀は、刃まで漆黒色に輝いている。長方形の鍔も黒く染まっているが、青のラインが何本か入っていた。



「武器だけで評価できたら世話ねーな。そういうお前のは鈍らもいいところだろ」



 言われてミヒロは壁に立てかけてあったトゥルゼスを手元に持ってくる。埋め込まれた宝玉は変わらず濁っていたが、購入当時に比べてほんの僅かだけ靄が取れたようにも見えた。



「あぁ、これね。100Dで買ったやつだしそういう評価でいいと思うよ? これでも購入したての頃よりマシになってるんだけどさ」

「? どういう意味だ?」

「スキルレベルに応じてなのか知らないけど、使ってたら地味~に軽くなってきててさ。武器自体の攻撃力も増してるんだよねぇ」



 その兆候が見られたのはヤナと一階層を攻略した時だった。攻略後に村に戻った後に装備欄で武器を確認したが、特に変化した様子はなかった。



「そうか。不思議な両手剣だな」

「あ、これ片手剣ね」

「! 本当なのか」

「うん。持ってみる?」



 ミヒロは両手で持っていたトゥルゼスを、テーブルの横から〝夜斬り〟へ差し出した。


 だが〝夜斬り〟はそれをすぐに受け取らなかった。



「どうしたの?」

「……いいのかよ。知り合って数十分の相手に武器を渡して」



 その理由はミヒロの躊躇いの無さだった。


 通常己の武器を誰かに渡すことなどしない。それがたとえ食事中であろうと、普通であればありえないのだ。


 少なくとも〝夜斬り〟自身は、自分が同じ事を話したとしても、武器を手に取ることはせず、冗談で済ませるつもりだった。



「私の武器は基本体術だしね。それに、……あなたは私を、それで斬るつもりなの?」



 〝夜斬り〟がそう聞くと、ミヒロは真っ直ぐ瞳を捉えたまま答えた。


 ミヒロのポテンシャルが一番発揮されるのは格闘術だ。それは過去にハバラギでのヴァロンとの戦いでいかんなく発揮された。よってミヒロは最悪武器がなくても対応できると考えていた。


 またミヒロの話したこと以外にもう一つ理由があった。


 ミヒロは〝夜斬り〟をすでに信用していた。


 ミヒロは〝夜斬り〟との食事中に何度か様子を窺っていた。その時に目の前にいたのは、出された料理を満足そうに食す一人の人間だった。ミヒロを襲おうとするような素振りを一切見せることがなかった。


 隠すのが上手いと言われればそれまでだった。だが食事が終わった後も〝夜斬り〟はミヒロと普通に対話をした。


 だからミヒロは信用したのだ。



「はい、どうぞ」

「……よくわかんねーな、お前は」



 ミヒロは早く受け取って、と言わんばかりに〝夜斬り〟の方へトゥルゼスを持つ腕を押し付けるように伸ばした。〝夜斬り〟はふっと笑みを零すと柄の部分を片手で受け取った。



「っ!」



 するとミヒロが手を離した瞬間、受け取った腕が沈むような感覚に陥った。反射的に力を入れたことで体勢を崩すことは無かったが、しかし先端までは支えきれず、トゥルゼスの刃先は床を叩いた。


 その後〝夜斬り〟はメニューから装備したが、ステータスが加算されてもなお、片手で持つことは難しかった。



「……確かに重いな。扱うの大変だろ」

「まぁね~。でも扱い熟せればかっこよくない?」

「知るかよ」

「えぇ……」

「さて、もう出るぞ。長居は無用だろ」



 〝夜斬り〟は装備欄からトゥルゼスを外してミヒロへ返すと、椅子を引いて立ち上がった。



「ん、そうしよっか。コロシアムに行かないと」

「何だ、大会出るのか」

「じゃなきゃ行かないでしょ。……あ! 大会って今日じゃないよね!? 今から受付に行っても大丈夫だよね!?」



 トゥルゼスを装備し直したミヒロが、途端に慌てて〝夜斬り〟に聞いた。


 ミヒロはまだ近い日に大会があるとしか聞いていなかった。よって今日開催されてもおかしくないと思ったのだ。


 詰め寄るミヒロを鬱陶しく思った〝夜斬り〟は、本日三度目のチョップを見舞った。



「明日だ。事前に情報ぐらい持っておけよ」

「あたた……。いやぁ、大会があるってことしか聞いてなかったもので……あははは」

「はぁ……」

「そういえば名前聞いてなかったね。名前は? 私はミヒロ」

「ここで別れるんだ。名乗る意味ねーだろ」



 ミヒロはふと気になって〝夜斬り〟に名を聞くが、〝夜斬り〟は答える義理も意味もないと思いさらっと流した。


 だがミヒロは諦めずに一歩踏み出すと、上半身を少しだけ屈めて上目遣いで見つめたまま……にやぁ、と悪い笑みを浮かべた。



「私が受付の場所や方法を知っているとでも?」

「……! 付き合わせるつもりか!」



 〝夜斬り〟はその笑みの意図をすぐに察したが、ミヒロは逃がすまいと〝夜斬り〟の手をがっちりと握った。



「旅は道連れよ。さぁさぁ、大人しく私を案内してくーださいっ!」

「…………断るめんどくせェ……」



 〝夜斬り〟はミヒロの頼みを断り手を振り解いたが、返答までに若干の時間がかかったことをミヒロは見逃さなかった。



「妙な間があったねぇ……。もしかして、あなたも参加するけど受付がまだとか?」

「……」

「よーし決定ね! 一緒に行こう!」



 指摘された〝夜斬り〟は返答できずに黙っていると、ミヒロはすぐに行動を決め〝夜斬り〟の腕を取って店の出入り口へ引っ張った。



「勝手に決めるな! 腕を引っ張るな!」

「私が隣にいる以上諦めてね。梃子でも動かんよ私は」

「ちっ……ならとっとと行くぞ」



 ミヒロを乱暴に振り解くと、〝夜斬り〟は大きな歩幅で出入り口へ向かい、そのまま店を出た。


 ミヒロは何か可愛いなぁ、と思っていると……ふとあることに気付き、叫んだ。






「え、あ、ちょ、奢りって話どこいったし! おいこら待てぇ! 会計してけぇええええ!!」






 その叫びが、〝夜斬り〟に届くことは無かった。


タイトル可愛い。


ちゃんとキャラに個性が出てるかなぁ、と心配になりながら書いてます。ていうかストーリー進むの遅いですかね……。どうなんでしょうか。


まぁまだ序盤ですし、自由気ままにやっていきます。お付き合いのほどよろしくお願いします。

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