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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
51/67

47話:お買い物

更新遅れました。仕事で失敗が続いたことによるモチベーションの低下とヤナの新規衣装についてあれこれ考えてたことが原因です。申し訳ありませんでした。


まだ完全に持ち直しているとは言えませんが、体に鞭打って頑張ります。

「もしかして……」

「……?? 何かありました?」



 様子がおかしいと思ったのか、ヨウロは足を止めたイブキに問う。イブキの見つけた集団は、男性二人が口喧嘩を始めたことで足を止めていた。



「あんたの探し人って赤い髪で結構着込んでる女性よね?」



 その場に留まったことを好機だと思ったイブキは、四人に視線を向けたままヨウロに確認を取る。



「ですです! あ、もしかして見つかったんですか!?」



 期待の眼差しを向けるヨウロを尻目に、イブキは四人のいる方向を指差した。



「……あの水色の髪の人に担がれた人、そうなんじゃない?」

「えとえと……。あ、そうです!! よかっ……あ……うわぁあ、レイジスさんがいるぅうううわあああああ!」



 差された方向にいた、探し人を含む四人組を視界に入れた瞬間は嬉々とした表情だったが、とある人物を見つけた途端に、お腹を下したかのように顔が青褪めていった。



「何、どうしたのよ」

「いやいや、怖いんですよ単純に……! レイジスさんたちにザーラさんの監視を命じられたので……。うわぁあああ! 絶対怒られますぅ……!!」



 言われて四人を改めて見る。水色の髪の男性が他の二人に対して怒鳴る場面があり、平常時よりもさらに目が吊り上がっていた。


 他二人が面白がったり宥めようとしていることも含め、ヨウロがレイジスと呼ぶ人物が誰なのか、イブキはすぐに特定できた。



「あの人ね……。けどいいじゃない、別に怒られたって。理不尽なのはともかく、明確な理由があって怒られんだから。それならあんたもちゃんと反省できるでしょ? 怒られずに甘やかされてばかりだと、自分の為にならないわよ」

「うぅうぅ……。わかりましたぁ……」



 イブキは持論を展開したうえで優しめに説得し、ヨウロは諦めたように項垂れながら首肯した。



「ではでは、自分はこれで失礼しますね……」

「はいはい。いってらっしゃい」



 失礼するといってなお一歩を踏み出せないヨウロを見たイブキは、励ましの意味を込めて、とんと背中を押す。


 やがてヨウロは哀愁漂う背中を見せながら、とぼとぼと重い足取りで歩いていった。


 それを見届けるイブキは一仕事終えたとばかりに一息ついた後、四人と合流しレイジスに怒鳴られるヨウロを見て口元を綻ばせる。



「さて、と……。私も行かないと」



 一人になり自由に動けることを喜ぶように、んーっ、と両腕を空に掲げ背を伸ばし、グミの購入のための寄り道を考えながら再び歩き始めた。


 グミを販売するお店がないかと立ち並ぶ家々を横目に進む。武器屋や服屋、鍛冶屋など基本的なお店は見かけたが、食料品店は見当たらなかった。



「……ん?」



 ヨウロと別れ、少しばかり駆け足となりながら治療院へ向かっていたが、その途中で真っ白な髪を靡かせた人物が駆けていくのが遠目に見えた。


 そのような特徴を持つ人物などイブキは一人しか知らないため、無事に合流できそうだと安心する反面、彼女の体を見てぞっとする。




 ウロとの戦闘終了時よりも全身がボロボロでありながら、それらの傷を気にせずによたよたと走っていたのだから。




「ヤナっ!?」



 イブキは咄嗟に全力で走り出し、こちらに気づかないまま進み続けるヤナに追いつくと肩を掴んで振り向かせた。



「ヤナ!」

「……ッ!?」



 ヤナは突然肩を掴まれたことでビクッと全身を跳ねさせたが、その人物がイブキとわかると落ち着きを取り戻した。



「……イブキ……」

「あんた、どうしたのよそれ!?」



 改めてヤナの全身を上から下へ視線を動かす。


 衣服の至る所が裂け、そこから生々しい切傷や擦過傷が見える。顔も痣だらけで真っ白な肌も赤黒い血で染まっていた。


 ヤナは何でもないというかのように平気な顔をしてイブキと対面しているが、明らかに息切れしており、手足も僅かに震えている。森でのウロとの戦闘直後よりも酷い状態だった。


 ただ傷口自体は微妙に塞がりかけており流血も止まっているため、誰かに回復薬を処方してもらった後なのだろうとイブキは推測した。



「……喧嘩、シテタ……」

「喧嘩って……。……もしかして相手の人、髪色赤かった?」

「……ン」



 十中八九そうだろうと思いつつ聞いてみると、ヤナは迷うことなく首肯した。



「やっぱりね……。騒ぎの当事者なら納得だわ。それじゃ、とっとと行くわよ」



 そう言ってイブキは颯爽と歩き出すが、進む方向は二人が進んでいた方向とは真逆の方向だった。どんどんと先へ進んでいくため、ヤナは慌てて追いかけイブキの服の裾を掴んだ。



「……違ウ。……ミヒロ、ハ……アッチ……!」



 ヤナは自分が進んでいた方向を指し示すが、イブキは間違っていないと首を横に振ったあと、ヤナの体を指差した。



「服屋よバカ。あんたその恰好でミヒロと会うつもり? もしあいつが目覚めてたら絶対心配されるわよ? ミヒロを心配させたくないなら、ちゃんとした格好かつ元気な姿で会いなさい」



 イブキが指摘したのはヤナの見てくれだった。これではミヒロどころかセリアやシマからも心配されてしまうと思ったのだ。



「……ン……分カッタ」



 ヤナはミヒロと会うことを優先したいために一度は不服そうに眉を顰めるが、イブキの言い分も納得できるため渋々頷く。



「よし。えっと、服屋は確か……」



 ヤナがなぜか裾を掴んだまま離さないので、そのままの状態で今まで来た道を逆戻りする。ここまでの道のりの中に、服屋らしい店舗を見かけていたからだ。


 早歩きのまま一、二分ほど歩くと、外装は派手ではないがショーウィンドウの目立つ一軒の服屋が見えてくる。ウィンドウには衣服や靴、帽子の他に、ヘアピンなどのアクセサリー類も飾られており、一般に服屋と呼ばれる店舗より品揃えは豊富だった。


 入店すると壁沿いに棚が設置され、中央部にも綺麗に折り畳まれた衣類の他、ショーケースの中にはブローチやネックレス、髪留めなどが乱れることなく配置されていた。



「近くにあってよかったわ。私が選ぶけど似た感じの服でいい?」

「……ウン。……動キヤスイ、服ガ、イイ……」

「りょーかい。ちょっと待ってなさい」



 そう言うとイブキは顎に手を当てながら、棚に並ぶ女性物の衣服を物色し始める。


 その間ヤナは待機とイブキに言われたが、ただじっとしているのも却って落ち着かなかったため、イブキとは違うルートで店内を歩き始めた。


 やがてイブキは全身のコーデを見繕ったのか両手に抱えてヤナへ渡す。ヤナは受け取った物の一部を何も置かれていないテーブルに置くと、メニューから一つ一つの商品を試着の意味でコーデを変更し始めた。


 しばらくしてすべてを変更し終えたらしいヤナは、壁に立てかけられた大きな鏡の前で一回転する。


 血濡れのマフラーと損傷の少ない装備類はそのままに、ベースとなるクリーム色の上からエメラルドグリーンの上着を羽織っている。袖は肘の部分で折り返され、ボタンは胸の一か所のみ留めている。


 腰には以前と変わらず、大きめなベルトに二本の刀を左右にそれぞれ帯刀している。


 下は白のラインと浅いスリットが入った、ネイビーのミニ丈スカートと、二か所にベルトのついた、厚めの革製の黒のショートブーツだ。すらりと伸びる脚はそのまま晒している。



「こんな感じかしらね。けどマフラー置いてなかったのよねぇ……。どうするそれ。そのままでいく?」

「……大丈夫。……アリガト」

「別にどうってことないわ。でも、さすがにお金は自分で払ってちょうだい。私は今払えないから」

「……ン……大丈夫」



 ヤナは一度元の服装に戻ると、イブキの選んだ服を抱えて店員のいるカウンターへと駆けだす。提示された金額に吃驚しつつも支払いを済ませた。


 またその後ろにイブキも並んでおり、こちらも無事に会計を済ませた。


 ヤナはすぐに購入した衣服に再び身を包み、二人は店を出る。


 イブキは次に、ヤナの体の傷を塞ぐために回復薬を探しに行こうとするが、ヤナはショーウィンドウの中に入っている何かをじっと見つめていた。



「どうしたの?」

「……コレ、可愛イ……」



 ヤナは一点を見つめたまま一歩も動こうとしないため、イブキは仕方なくといった風にヤナのもとへ駆け寄り、隣からのぞき込む。


 見つめていたのは一つのヘアピンだ。淡い青色をした桔梗のデザインが施されている。


 それが特別目立つような配置がされている、というわけではなかったが、ヤナは目の前のヘアピンから目が離せなかった。



「へぇ~、確かに可愛らしいけど……売り切れちゃってるわね」



 飾られた商品には金額の書かれたプレートが添えられているのだが、ヤナが気に入ったヘアピンのプレートには『品切れ』との表記がなされていた。


 ちなみにショーケースやショーウィンドウに入っている物の中で、専ら金属類が使用されたアクセサリーは本物ではなくレプリカが飾られており、購入する際には店員に一言声をかける必要がある。



「……買エナイ……」

「金額が高いならまだしも、売り切れなら打つ手がないわ」

「……ン」

「……ま、よくあることよ。私も欲しいものがあったけど、そっちも売り切れてたのよね」

「……ソウ、ナノ?」

「えぇ。可愛いピアスがあったんだけど、今回はスルーするわ。わざわざ入荷するまでここに滞在し続けるのもあれだし」



 イブキが気になっていたのは、カタクリの花をモチーフにしたデザインのピアスだった。だが、こちらもヤナのヘアピンと同様に品切れのプレートが置かれていた。



「……イイ、ノ?」

「最悪、腕のいい職人さんにオーダーメイドで作ってもらうとかできるしね。どのみち今は購入できないし、他のことを優先するわよ」

「…………ウン」



 名残惜しそうに数秒ほど見つめたままだったが、やがてイブキが痺れを切らして歩き出し、それに気づいたヤナは慌てて後ろをついていく。



「あとは顔と脚なのよね……。質のいい回復薬でも飲んでおけば治るかしら……」



 体の傷のうち、衣服を新調した部分の傷は上手い具合にその下に隠れたが、顔や脚は晒しているため傷が少し目立ってしまっていた。


 イブキも最初は足の傷を隠せるように、スカートではなくズボンを手に取っていたのだが、すれ違いざまにそれを見たヤナがズボンを拒否していたのだ。


 ヤナは生まれつきアルビノという遺伝子疾患を抱えていた。紫外線に滅法弱く、肌を露出することは自身にとって危険なことだった。


 そのため普段の生活から日光を避ける生活をしなければならず、リアルでは外を出歩く際にスカートを履くことができなかった。


 そういった経験があったヤナには、ゲームの中の世界くらいはスカートでいたい、という思いがあったのだ。



「……転ンダ、……ッテ、言ウ」

「それで誤魔化せればいいけどね」



 提案したヤナ自身も、イブキに言われたことで不安になったのか何度か前髪をいじる。イブキはその様子を微笑ましく思いながら歩を進めた。


 そのまま数分ほど歩くと、目的地であるセリアの治療院へたどり着いた。出発前と何も変化がないことに、イブキはどこか安心感を覚えた。


 中に入ると、扉を開けた音に気付いたセリアが入口へ駆けて来る。シマも気づいたらしく作業していた手を止めていた。



「あら、おかえり」

「時間になったから来た、んですけど……。ミヒロはどうなってますか?」



 意識して敬語を話したが少し硬くなる。セリアはそれが可笑しくて小さく吹き出した。



「敬語ならいらないわ。それとミヒロちゃんの事だけど……」

「……? ミヒロ、ハ……?」

「それがね……」



 言葉を濁すばかりではっきりと答えないセリアに、ヤナは若干苛立ちを募らせ詰め寄った。



「……ミヒロハ……!?」

「えっと……。何かあったの?」



 セリアやシマの真剣な表情から、何かあったのかと疑わざるを得なかった。


 治療が間に合わなかったのか。それはあり得ない。薬が効いたことは治療したこの二人が何より知っているはずだからだ。


 ではなぜこのような表情をしているのか。



「うーん……。まぁ、簡単に言うと」






「30分くらい前に目を覚まして、そのまま元気に飛び出していっちゃったのよ」






「……エ?」

「……は?」





 予想外の返答に……二人の口は、開いたまま塞がらなくなった。



ヤナがアルビノだということなんですが、実はハバラギ編で明言されてなかったようで、自分で確認して驚きました。仄めかしておきながらなぜか言わないというね。

昔の自分って本当に何も考えてなかったんだなぁ、って思いましたよ、えぇ。キャラ紹介でも説明していたのですが、本編でも言わないとあれなのでここではっきりさせました。


そしてついに次回から! お待ちかね(?)の主人公、ミヒロ視点です!!


まだ登場人物が増えますが、大丈夫ですかついていけていますでしょうか……?

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