45話:託し託され
少し早めです。前回よりは落ち着いたけど今回もお話回。
主人公が動き出すまであともう少しかな。
「……あのあの、ちなみにお伺いしますがその方のレベルって……?」
「え? んー、聞いてないから分かんないわ。私が8だからそれと同じくらいじゃない?」
「え……」
レベルの情報を聞いて、三人とも言葉を失ってそのまま固まってしまった。一方でイブキは三人の様子をぽかんとした様子で眺めている。
「どうしたのよ」
「……そ、それじゃ無理だろ!!」
ややあってイブキの声により、我に返ったサタマルが立ち上がってそう叫ぶ。
彼が訓練場にいた闘技大会の参加者にレベルを聞いた際、ほとんどの人間のレベルが二桁だったのだ。
さらにイブキ以外の三人はイブキの伝手の実力を知らない。イブキの発言からボスを倒した際に行動を共にしていたことは把握できたが、その戦闘においての貢献度は分からないままだ。
「正直私も思うけどね。ま、あんたたちが出るよりマシでしょ。あいつに任せておけば」
「えぇえぇ……そこは適当なんですね……。普通ならかっこよく「私が優勝する!」っていうところじゃないんです?」
「こうして話してきたんだから、私の性格くらいわかってきたでしょ? ……心配ならあんたが参加すればいいじゃない。レベル云々の発言からして、私よりレベルは上っぽいし」
実際に走力を見たイブキだからこその確信を持った発言だったが、当の本人は自信なさげに肩を落としている。
「……えとえと、確かに自分は18ですけど……! でもレベル以上に求められるのはステータスで……! 自分の仲間の方がもっと強くて! 自分じゃとても……!」
「そ。なら私の伝手を頼るしかないわ」
「で、でも! その人が必ず勝てるなんて保証は……!」
「じゃあ、のんびり何年でもかけて100%優勝できるって言えるような人間を見つけるか、もしくは自分たちで勝てると思えるまでそこらで鍛えてなさい。その間にミクモさんが死んでも知らないわ」
「「うぅ……」」
鋭い言葉にテイもサタマルも反論できずに俯いた。
ただイブキの発言は現実をぶつけることの他に、危険な目に遭ってほしくないという、ミクモの思いを尊重するためでもあった。
たとえ死なないとわかっていても、凶器を向けられた人間が感じる死の恐怖は、絶対にその身に襲いかかるから。
「ちょ、ちょっとちょっと! そんな言い方……!!」
「間違ったことを言ったつもりはないけど?」
ヨウロは言葉の棘を快く思わなかったが、ヨウロも全て悟られないほど鈍くない。イブキの言葉の裏を理解してないわけではなかった。
せめて言い方を変えてほしいと思ったが、イブキは訂正するつもりなどなかった。
「だって……! 今回を逃したら、いつチャンスが来るか……!」
「だからこそよ。テイ、あんただってさっきミクモさんに言ってたじゃない。希望を持たないと、って。自分たちが無理だから他人を頼るしかないあんたたちに、助けられるっていう希望が一つまみでもあんなら、絶対にそれを自分から手放さずに掴んでなさい!」
イブキの出した大きな声に二人は、はっとした様子で顔を上げるがその表情は浮かないままでいる。
自らを育ててくれた恩人を助けたい思いと、本当にイブキが頼む人が優勝して薬を購入できるかどうかの不安が、心の中で何度もぶつかり綯い交ぜとなっていた。
ヨウロが隣でイブキに視線を送る中、イブキは構わず話を続けた。
「……100%確実に、なんてありえないの。絶対にどこかで運が絡んでくる。それを承知の上で、手中の希望を誰かに託す。それが人を頼る……人を信じるって事よ。わかった?」
もちろんイブキはその心情を理解したうえで述べた。これからの人生もミクモと共に歩もうと考えているこの二人には、信じることの重みを理解してもらいたいと思っていた。
「……」
「……」
「……はぁ。今日だけで何回声張り上げたんだか」
言いたいことを言い終えたイブキは、背もたれに寄りかかり肩の力を抜く。本来このような役割は面倒で避けたいことだったからだ。
「……何か何か、優しいのか厳しいのかよくわかんないですね、イブキさんって」
「どう捉えられようと、他人の好感度なんてどうでもいいわよ。……まぁ、あぁ言ったけど私もちょっと不安だったりするのよね」
「えぇえぇ……」
「ようするに相手が信じていい人物かどうかって話。私は別に信じてないわけじゃないし。……それじゃ、そろそろお暇するわ。用事があるし」
そういうとイブキは椅子を引いて席を立つ。気づけば出された飲み物には一切手を付けていなかった。
「え、え? もう少しお話でもしていきましょうよ、せっかくですし」
「本来の目的忘れてどうすんのよ……。あんただって急ぎの用事があるでしょうが」
ヨウロは腕を組みうんうんと唸りながら必死に思い出そうとしている。イブキがそれを呆れながら様子を見ること約五秒……。
「用事用事……あ、そうでした! すみません! 自分ももう行かないといけないです……!」
記憶からザーラの事を引っ張り出すことに成功し、勢いよく席を立つ。その後目の前の年下の少年少女に何度も頭を下げた。
(……ポキッて折れそう……)
(……ポキッて折れそうだな……)
謝罪の様子を見つめながら、嘗てのイブキと同じような感想を思い浮かべた二人であった。
「ほんとに忘れてどうすんのよもう……」
「すみませんすみません。自分、立て続けに出来事が発生すると、それらで頭がいっぱいになっちゃうんですよね……!」
「はぁ……、まぁいいわ」
額に手を当てため息をつきながら、イブキは玄関へと向かう。テキパキと動くイブキに動揺しながらもヨウロは急いで後を追った。
「なぁ、大会の件は……!」
「忘れてないわよ、このバカじゃあるまいし。きちっと伝えとくわ。……あと、次からは泥棒なんて真似するんじゃないわよ」
「あ……あぁ」
「それじゃあね。寝てるミクモさんにもよろしく伝えといて」
時々厳しく接していたイブキだったが、去り際に二人に向けた表情は優しいものだった。話を聞かせてくれたことへの感謝の表れであり、約束を必ず果たすと安心させるためのものだ。
「ではでは、またです!」
「ありがとうございました! 賞金の件、どうかよろしくお願いします!」
「よろしく頼む!」
二人は扉が閉まるまで頭を下げていた。願ってもない希望を託した今、自分たちはそれを信じて待つしかない。
イブキとヨウロが家を去ってなお、しばらくの間テイとサタマルは玄関の扉を見つめ続けていた。
* * *
「さてさて、一時は忘れてしまっていましたが、ザーラさんを探さないとです!」
「……」
急いで目的地へ向かおうとそわそわするヨウロだったが、その一方で家を出たイブキは一人、真剣な表情で考え事をしていた。そしてはっと何かに気づいたかと思えば周辺を見回し始める。
ヨウロはその行動が不思議でならず、気になりすぎた結果後ろを振り返り声をかけた。
「……?? どうしたんです?」
「え、あぁいや……。何でもないわよ」
「あのあの! そういう返しをされると人間という生き物は気になってしまうんです! ていうかさっきさらっと自分をバカって言いましたよねぇ! 聞こえてましたよバッチリと!」
ヨウロは両手を握った状態で胸の位置に持っていき、イブキに顔を寄せて主張する。
「バカって言ったことは謝るけど、ほんとに何でもないってば。さ、多少寄り道しちゃったけどさっさと下に行くわよ」
「ぬぬぬぬ……」
会話を切り上げ、イブキは近くのオルニムの運び屋のいる柱へ向けて歩き出す。ヨウロは納得していないのか、むんと難しい顔をしていた。
だが追及しても煙たがられるだけだと思い、開きかけた口を噤んだ。
「あっちでいいわよね? 見えてるし」
「はいはい! ……まぁ列ができてそうですけどね」
「最悪蹴散らしちゃえば……」
「ちょちょ! 物騒ですよ!」
「冗談よ冗談。でも列に並ぶのも退屈なのよね~……。ていうかお金の件、あんた払えないの? ギルド所属なら依頼とかいっぱい熟してるでしょ」
ギルド内の取り分等クエスト報酬や換金によって得た収入を持っているヨウロであれば金銭問題の解決を図れるのではないか、とイブキは考えたが、ヨウロはふるふると首を振った。
「いえいえ、確かにギルドに所属する以上はモンスターも狩りますし換金もしますけど、その取り分は全部ギルドの資金に割り当てられるんです。だからメンバー個人で自由に扱えるお金ってかなり少ないんですよ。よほどギルドやギルドメンバーの危機でない限り、多額のお金を引き出すのは無理です」
ギルドの資金の管理を担当するものは団長が選出したメンバーや、団長、副団長自らが担当することがほとんどである。
また資金の保管方法に、パスワード式のロックをかけられる金庫を使用することが多い。特にどこかの国や町に拠点を持つギルドでは、資金係に割り当てられたメンバーに、個室と金庫が与えられることもある。
「ふーん、面倒ね」
「いえいえ、他のギルドも割と同じような方法で管理してますよ? ギルド全体での割合はよくわかりませんけど……。そういうイブキさんのギルドはどうなんです?」
「私はギルドに所属してないわよ。一人の方が気楽でいいし。そういったお金の管理も自分でできるしね。……でも三万七千Dはさすがに痛手だったわ」
「ならなら、ダメ元でその伝手の人に、三十万と一緒にその分も貰えるか聞いてみたらどうです? まぁ、よほどお金に執着しない人でなければ無理でしょうけどね」
ミヒロに対する第一印象が明るい変わり者であるイブキは、金銭に対するミヒロの価値観について想像することが難しかった。
何せミヒロと会話をしたのは〝ダスクの森〟でのボスとの戦闘中のみであり、ましてや【オーグラン】に入国してからは一言も話していなかった。
「んー、あいつって実際どうなのかしら……。まぁ、聞くだけ聞いてみるわ。やること多くて面倒ね……」
ただ、気の抜けた雰囲気と人懐っこい笑顔も、交わした会話の中で印象として残っていた。そのため案外聞いてくれるのではないか、と望み薄だが一つの考えとして保留することにした。
「さてさて、運び屋の所まで来ましたけどやっぱり並んでますね」
オルニムの運び屋がいる柱付近まで歩いてきたが、数十人の行列が並んでいた。空いている場所がわからない以上、近辺からすべての柱を巡ってくのは躊躇われた。
「他に下りられる手段ってないの?」
「んーんー……、あるにはありますけど疲れますよ?」
「どういう手段かで判断するわ」
「ではでは、あっちへ向かいましょう」
ヨウロが指を差して歩き始めた方向は、到着した柱をスルーしたさらに向こう。だがその奥に柱はおろか目印になるような大きな建物すら見えなかった。
イブキは不思議に思いつつも、先導するヨウロから数歩ほど離れた位置から後を追う。
(……やっぱり気になるわ……)
歩く間イブキが考えていたことは……――先程の家の家主であろうミクモのことだった。
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