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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
48/67

44話:炎と氷

今回は超お話回です。本編自体が長いうえに長文多めなので、じっくり読むと時間かかります。ご注意を。


「ふ、二人とも……」



 二人の熱意にミクモの目頭がじんと熱くなり、思わず指で押さえる。テイとサタマル、そして家を訪れたイブキとヨウロに涙を見せないようにと必死に堪えた。



「……あのあの、この子たち本気見たいです。ミクモさんも歩くことすら苦しそうですし……」



 二人の意志を感じ取ったヨウロがイブキに耳打ちする。ヨウロはミクモの容態を回復させたい思いでいっぱいだった。


 もしこのまま亡くなってしまえば二人の居場所が居場所でなくなってしまうから。


 重い空気しか流れぬ日常になってしまうから。


 ヨウロの抱いた、そのような未来にさせたくないという思いはイブキも同様だったが、あくまで冷静に思案しようと努めていた。気持ちだけでどうにかなる問題ではないからだ。



「そうね。でも無茶する理由にはならないわ。ミクモさんにとって一緒にいてくれる二人が何より大事なはずよ。自分の為に命を懸けた戦いをしてほしくなかったから、今までミクモさんはまともな戦闘を教えなかったのかもしれないし」

「あはは……、その通り、です……」



 この世界で生きていくのに戦闘の技術が必須とは限らない。試行錯誤すれば生涯を平和な日々にすることも可能だ。


 ミクモは二人にそういう未来を歩んでほしいと願っていた。自分の大切な存在がいなくなってしまうことが怖かったのだ。



「でも今! それをしてでもミクモ先生を死なせたくないの!!」

「ダメ、だ……」



 実はミクモの病気が発覚した日から、大会当日へ向けてテイとサタマルがトレーニングをしようとするたびにミクモがそれを止めに入っていたのだ。危険なことをしてほしくはないから。血の流れぬ日常を送ってほしいと願っているから……。


 だがテイとサタマルが、今もミクモの望みである平和に生きることを貫こうとすれば、二人にとって大切な存在であるミクモが失われてしまう。二人にとって育ての親のような存在であるミクモは家族も同然だから。これからの未来もミクモと歩んでいきたいと願っているから……。


 二人と一人の願いは、互いに相手を死なせたくないこと。その点は一致しているのだが、進む方向性の違いから意見が衝突してしまっているのだ。



「じゃあどうしろってんだよせんせー! 金が降ってくるなんてことありえねェからッ! だから俺たちでッ、何とかするしかッ……!!」

「……僕のために、無理しなくていい、よ……。僕は、二人がいるだけ、で……ごほっ、ごほっ!」



 立ち上がって興奮気味の二人を落ち着かせようと二人の肩を掴むが、強い咳き込みに襲われ、胸を苦しそうに抑えながら机に突っ伏してしまう。



「せんせー! テイ、上まで運ぶぞ!」

「う、うんっ! ミクモ先生! 私達、絶対……絶対助けるから! だから死なないで! 希望を持たないとダメだよっ!」



 二人はミクモの両脇から体を支えながら階段を上っていく。未だに咳は治まらず二階に上がってからも微かに咳き込む声が聞こえてくる。


 不意に、ミクモの席に置かれていた淡い黄色の飲料が注がれたグラスの中の氷が、からん、と小さく音を鳴らした。時間が経過しているにもかかわらず、入れられた三つの氷は未だに四角い形を保って浮かんでいる。


 ヨウロは焦りの表情を浮かべながら、自身の手元に置いてあるグラスの中の飲料を口にする。飲料自体は飲んだことがあったため特に躊躇することはなく、渇き切っていた喉や口内を潤すには丁度いいと考えた。


 それにより水分補給はできたものの……喉を通ったはずの飲料の味を、感じることができなかった。



   * * *



 少ししてミクモの声も聞こえなくなった頃、テイとサタマルは暗い顔で階段を下りてきた。



「あのあの、ミクモさんは……?」

「今寝かせてきた。元々寝てなきゃダメだったからこれでいいよ」



 サタマルが小さな声で呟くと再び椅子に腰かけた。テイもそれに倣い元の席へ戻る。二人の間はぽっかりと空席となっていた。



「……実はね」



 真剣な面持ちでテイが口を開いたので、二人は思わず身構えた。テイの隣にいるサタマルもテイの話す内容を察したのか同じように表情を硬くする。



「?」

「……先生の前だから嘘ついたけど……」




「……移り住んでからの七年間、私達はずっとトレーニングしてたんだ」




「…………え、え?」



 思わぬ暴露にイブキは両目を見開き、ヨウロは呆然とした表情で声を漏らした。



「バレないようにしないといけないし怪しまれてもいけないから、一日に少ししかできなかったしできない日もあったんだよ」

「節約して浮いた金で武器を買う事もあったけど、すぐに見つかって押収されちまうから素手でしかトレーニングできなかったんだよな」

「……ミクモさんに嘘を吐いてまで、特訓をした理由は何?」

「ほら、テイが昔住んでた村でいろいろあったって言っただろ? ……村の名前は【リルコー】って言うんだけどさ」

「そういえばそういえば、確かに言ってましたね。気になってたんですよその部分。何があったんです?」



 ヨウロもイブキと同じく移住せざるを得なくなった原因が気になっていたのだ。


 だが答えようとしたサタマルも、隣にいるテイも苦しそうに表情を歪ませた。それを見たヨウロが失言だと思い止めようとしたが、このまま沈黙するわけにもいかないと思ったサタマルが先に口を開いた。






「……滅んだんだよ。跡形もなくな」






 イブキが考えないようにし、ヨウロが止めようとしながらも興味を抱いていた移住の理由を知り絶句する。故郷が滅ぼされるなど、現実世界ではありえないことであり、想像もできない事だった。



「俺達はまだ六歳だったから滅ぶ理由もわかんなかったし、せんせーも教えてくれねェ。年齢も年齢だし、ただ逃げるしかできなかった」



 重苦しい空気が漂い、二人は当時の光景を思い出したのか、俯いて自らの服の裾を握りしめていた。



「……あっという間だったよ。村も燃えて人も燃えた。俺たちも死にかけたけどせんせーが俺たちを見つけてくれて、一緒に村から脱出したんだ。……正直、あそこの暖炉の火すら怖くて近づけなくなっちまった……はは……」



 サタマルは自嘲気味に笑うと、ちらと暖炉を見やる。暖炉の炎は三人の宅を訪れた時と変わらず、煌々と燃え上がり部屋を照らし続けている。


 まるで故郷が滅んだ当時の事を、忘れさせないかのように。



「私達にはミクモ先生に、返しても返しきれない恩がある。……ミクモ先生は絶対気に留めてもいないだろうけどね。でも私達はそう感じてる。だから……」

「――強くなって守れるようになって、何があっても自分たちで解決できるようにしてミクモさんを安心させたい……ってとこ?」

「……そうだ。そして何年かかっても俺たちは強くなって、……いつの日か、また三人で【リルコー】に戻って死んだ皆を追悼してェんだ……!」

(……ただここで、平和な生活を三人で送るってこと以外にも目的があったのね……。必死になって助けようとするのも納得だわ)



 悔しそうに歯を食いしばりながら太ももの上で拳を作るサタマルの様子を見て、事情を知ってしまったイブキは、この問題が他人事と思えなくなっていた。三人の行く末を持届けることは出来なくても、今病に苦しむミクモのことくらいはどうにかしようと策を考えることにした。



「でも訓練場とかで特訓しても全然敵わなくて……! だけどそれくらいしか手段がねェんだよもう!」

「闘技大会で賞金を手に入れるしかないの……! 手遅れに、なる前に……」

「……闘技大会ね」



 バトルロイヤルで勝ち抜く以上はそれなりに腕の立つ人物が前提となるのだが、面倒なだけだと不要な人付き合いをしてこなかったイブキに伝手などほぼなかった。


 伝手があるとすれば……今日出会ったあの二人くらいである。



「……あのあの、もしかして参加するんですか?」

「私には私の都合があるし、申し訳ないけどできないわ。……けど、そうね……。参加しそうなやつは一人知ってるわ」



 一人だと断言したのはミヒロしか参加しないだろうと踏んだからである。ヤナも事情を話せば参加に意欲を示すと一度は考えた。


 だがウロとの戦闘において、ミヒロの何度も相手の攻撃に耐えうる防御力と、毒を体に受けながらも治療院に辿り着くまで耐え抜いた精神力、そして撃破時の〝撃技〟を始めとした戦闘能力の高さを目の当たりにしていた。


 さらにヤナはミヒロの状態を見て酷く取り乱す場面を目撃している以上、ヤナは戦闘面以外の精神がまだ幼いという印象だった。



(それに、ミヒロを慕うヤナは……。ミヒロと戦いたいって思わないでしょうし)



 万が一、二人とも勝ち抜いた場合は優勝をかけて戦うことになる。もちろんどちらかが降参すればそれまでだが、大会を見物する観客と敗れた参加者がそのような決着の仕方を良しとせず、二人がブーイングを受ける可能性を考えた。


 以上のことから、イブキはミヒロ一人に頼むのが良いと判断した。



「え、誰だ!? 強いのか!?」

「お願い! その人にお願いして!!」



 伝手があることにテイとサタマルは大きく反応し、がっつく勢いで席を立った。そのままの姿勢でいられるのも迷惑であるため、イブキは落ち着かせて二人を席に着かせる。



「でもでも、実際どうなんです? その人の実力って」

「さぁ、私が拳を交えたわけじゃないし何とも言えないけど……。いい線行くんじゃない? あとは大会に参加する人たちの実力次第かも」

「あ……でも、明日の大会はあの〝夜斬り〟がいるっつー話だし……」

「……〝夜斬り〟? 有名なの?」



 聞いたことのない単語だったため隣にいるヨウロへ詳細を促す。



「ですです。最近台頭してきた人らしくて、ギルドにも所属せず一人で活動しているとか。ちなみに〝夜斬り〟という異名は、彼が解決した一つの事件に因るものらしいです」

「事件って?」

「えとえと……とある場所に、朝を迎えられず一日中暗いままの村があったんです。その原因は一体のモンスターだったんですけど、村の人たちじゃ太刀打ちできず、いくつかのギルドも訪れた際に挑んだらしいのですが倒すまで至らなかったんですよ」

「そのギルドの腕が問われるとこだけど……まぁいいわ。続きをお願い」

「はいはい。それで悩んでいるときに村を訪れたのが〝夜斬り〟で、あれだけ苦労していたモンスターの討伐を、ものの数分で斬り伏せて解決したらしいんです。そこから、《夜を斬り、朝を齎した者》という意味を込めて〝夜斬り〟と呼ばれるようになったみたいです。自分も聞いた情報なので詳しいことは知りませんが……」



 聞いたという割には細かい情報だったため、異名の由来はしっかりと理解できた。その上でイブキは目の前の二人へ視線を向ける。



「そんな奴が出ると知ってなお参加するつもりだったのね……」

「それくらいしか、ミクモ先生の病気をすぐ治せる手段がないから……!」

「それで死んだらミクモさんが悲しむことをわかってて言ってんの?」

「「う……」」



 死んでは元も子もない。その点を咎めようとしたがヨウロが思い出したように口を挿んだ。



「でもでも、一応闘技大会には特殊なルールがあって誰も死なないようになってるんですよ」

「特殊なルール?」



 闘技大会自体に参加したことも参加する気もないイブキは大会のルールを把握していないため、先ほどと同じようにヨウロに説明を求めた。



「ですです。今回の大会の概要通りならバトルロイヤル形式になります。控室がいくつかあって、選手たちも大会を補佐する裏方の人たちによって決められた部屋にそれぞれ案内されます。案内されたら、各部屋に設置されてある『ポートログ』と呼ばれる台座に手を当てて自分を記録させるんです」

「自分を記録、ね……(セーブをする……って考えればいいのかしら)」

「ですです。バトルロイヤル形式なので一人になるまで戦いは続くわけですが、脱落の基準は損傷率の100%到達、または降参や辞退の宣言です。ですけどこの闘技大会用のシステムが適用されている場合は、100%到達時に死亡する代わりに、自分がポートログに記録した部屋に飛ばされるんです。今説明したこれらのシステムはあくまで闘技大会用のものなので、乱入者とかが原因で大会が破たんするとシステムが強制的に切れちゃうんです。その状態で100%に達すると、控室に飛ばされずに死んでしまいます」



 闘技大会用のシステムは、全てゲームを製作した運営側が作成したシステムである。よって闘技大会以外ではポートログは機能しないため、それを利用した死者蘇生は不可能となっている。



「システムが切れたときの損傷率は? 0に戻るの?」

「いえいえ、そこは戻らないんです。損傷率はあくまで本人の状態ですから。あ、ちなみに大会が終わるまで控室の外に出ることはできませんが、『ビジョンパス』っていう映像を共有し映し出す鉱石版と呼ばれる鉱石を加工して作られた板から、大会の様子を見ることができるんです。敗退者はそこから決着までの大会の行方を見守ることになります」



 ポートログとビジョンパスにはそれぞれ違う鉱石が使用されている。


 ポートログには『フィグラ鉱石』を加工したものであり、こちらはほぼポートログ専用の鉱石であるため需要はあまりない。


 一方でビジョンパスには『ワール鉱石』が使われている。ビジョンパスは映像の他に音声も届けるため通信手段として用いることも可能だ。そのためワール鉱石は需要が高く、市場に出回らないことがほとんどである。



「大会が無事に終了できるように、大会の運営側もいろいろ手を回してそうね……。あ、100%に達して部屋に飛ばされた時の損傷率ってどうなるの?」

「えとえと、ポートログに記録された時点での損傷率に戻ります。記録すると同時に損傷率が0%になるわけではないので、大会当日の受付とバトルロイヤル直前の二回に分けて損傷率の確認がなされるみたいですね。そこで0%でない場合は強制的に参加不可能となり外に出されちゃうみたいです。なので参加者は前日から体を休める人が多いですね」



 問答を挟みつつ、ヨウロの説明を一頻り聞いたイブキが僅かに眉を顰める。その理由は……参加を要請するミヒロの状態にあった。



「なるほどね……。あいつ0%まで回復すんのかしら……」

「え、え? 怪我をしてるんです?」



 ヨウロの他、対面に座る二人も目を丸くし顔を若干青くする。怪我が治らなければ参加が不可能となるためだ。



「私も含めて、近くの森でボス倒してきたからね。私だって今29%だし。……けどまぁ、毒も受けたけど治療してもらってるし、大会は明日だし……何とかなるわよね」



 回復の度合いは不明だが、シマから渡された薬を処方してから体がみるみる回復し、軽くなる感覚となったのだ。


 そのため同じ薬を処方してもらったヤナ、そして薬を作成したと思われるセリアに、現在集中治療を施してもらっているミヒロも、同じように早い速度で回復しているのだと踏んだ。




 だが、その薬を知らない三人は不安げな表情のままだった。


単語の使い方とか調べながらやってても、自分は間違うことがよくあります。文も諄くなってることが多いです。教えてくださると助かります。


お盆休みが終わったので悲しいです。まだ二週間くらい休みたいです。気分は水のない水風船です。

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