43話:誰が為に
そういえば33話のセリフ直したことを伝えてませんでした。確か更新直後のセリアと話す場面のイブキの言葉遣いが敬語だった気がします。訂正していましたごめんなさい。
更新速度が安定しなくてごめんなさい。なるべく早くできるよう精進します。
イブキから半ば強引に手渡された店主は、最後に窃盗を働き反省のために座らせていた二人に対して注意をした後、イブキとヨウロへ感謝を述べ去っていった。途中で巾着袋の中身を何度も確認する姿が見受けられたため、相当お金に執着しているのだろうか、とイブキは若干呆れ気味にその背中を見ていた。
「……で、いつまで座ってんのよ」
店主を見送ったあと、イブキは次に隣に座っているヨウロへ視線を向ける。ちょこんと両手を太ももの上に置いて正座を続けていたヨウロは、不貞腐れたように頬を膨らませながらイブキに抗議した。
「だってだって! あなたが座ってなさいって言ったんじゃないですか!」
「冗談のつもりだったからほんとにやると思わなかったのよ……。いきなり座り出して内心吃驚してたんだから。……さて、この話は一旦置いといてこの子たちの事ね。とりあえず話してもらえる? 盗んだ理由」
イブキが鋭い目つきで座っている二人を見下ろす。店主が許した以上、イブキは二人を糾弾するつもりはなかったが、二人が今まで頑なに話さなかったことで多少苛立っていたことが冷たい視線を送った理由だった。
「……じゃあ」
「何?」
二人は顔を見合わせた後、少年の方が口を開いた。理由を話すのかと思ったのだが、少年の言葉はその予想とは違うものだった。
「ついてこいよ。見てもらいながらの方がわかりやすいと思うから」
「ふーん、そ。なら早速案内してもらえる?」
「あぁ」
案内すると決まったことで少年が立ち上がってすぐに歩き始めた。それを見た少女も立ち上がって少年の方を向く。
「家だよね?」
「当たり前だろ?」
「だよね。……えっと、こっちだよ」
少年が構わず歩き出したため、三人がそれについていく形となった。少年は出会った当初と変わらず無愛想だったが歩くペースは考えているらしく、時々ちらと後ろを歩く三人組の方へ視線を向けていたことをイブキは気づいていた。
「……聞いてなかったけど二人の名前は?」
「俺がサタマルで、そいつがテイ。さっきも言ったけど年は十三。あいつも同じ」
二人を何と呼べばいいかわからかったため隣を歩く少女に声をかけたのだが、それよりも先に少年が淡々とした口調で答えた。
「そういえばそういえば、名前と言えばあなたの名前を聞いてませんでした。聞いてもいいですか?」
「名乗ってなかったっけ。……まぁいいわ。イブキよ」
「えとえと、……イブキヨさん」
「イ、ブ、キ!」
素早い動作でヨウロの頭をアイアンクローでがしっと掴む。めきめきと骨の軋む音が聞こえ、このまま止めなければ頭蓋骨が砕け散りそうな勢いだった。
「わわ、冗談です!! 冗談ですよぉおおおおおお!! ごめんなさいごめんなさいいだだだだだだ!!」
ヨウロは本当に軽い冗談のつもりだったのだが、イブキの逆鱗に触れてしまったことを後悔した。謝罪の念が通じたのかすぐに解放してもらえたが、痛みが引かないのかしばらくの間物理的な頭痛に悩むこととなった。
「イブキさんイブキさん、イブキさんイブキさん……。よしっ、覚えました!」
「一々宣言しなくていいわよ恥ずかしい……。あと、そう宣言したからには次から絶対間違えんじゃないわよ……?」
「もちろんですもちろんです!! もう掴まれるのは嫌ですぅ!!」
そんな雑談を交えながら少年の先導の元、四人は目的の場所へ向かっていった。婦人たちの立ち話、パーティでの攻略会議、野良犬の鳴き声など喧しいほどの声が耳に入ってくる。その中でも話をしていたのだが聞き取れないこともしばしばだった。
イブキは喧噪を疎ましく思いつつ、三人の会話に相槌を打つだけに止めすれ違う人々や店頭の商品などを見ていた。
だが……。
「……っ!!?」
ぞわっと虫が背中を這う感覚に襲われ、素早い動作で辺りを見回す。今もなお嫌な気配が近くにあることを感じ取っていた。それが人混みの中に紛れていることがわかり、違和感のある場所へじっと視線を送ること数秒、やがてイブキは一人の人物を見つけた。その人物が絶対にそうだと確信が持てた。
その人物は女性だったのだが、女性はおろか男性もいる人混みの中からぽこっと頭が飛び出すほど身長が高かったのだ。目測だけで190を超えているとイブキは判断した。
濃い紫色の髪を一つに束ね、ミニ丈の浴衣に変わった羽織を着ているその人物は、明らかに周りの人物たちより異様な雰囲気を漂わせていた。
幸い彼女はこちらには気づいていないのか、物珍しそうにあたりに視線を向けている。傍から見ればただの観光客のようだ。
「……?? どうされました?」
ヨウロに声を掛けられそちらに視線を向ける。他の二人もイブキが足を止めたことを不思議に思ったのか、振り向いてこちらを気にしているようだった。
「……え? いや……」
もう一度確認しようと女性のいた方角を向くが、ヨウロとの数秒のやり取りの間に姿を消してしまったらしく、何度見ても特徴的な紫色の頭は確認できなかった。
(……今、確かにいたはず……!)
だがイブキは見間違いなどではないと思った。見間違いであると決めつけてはいけないのだと、そう思わせるほど彼女は異質だったのだ。
「あの……何か?」
「……何でもないわ」
「珍しいものでも見つけたのか?」
「何でもないわよ、ほんとに……」
彼女の存在に気づけたのはイブキだけであり、他の三人はイブキの様子に戸惑うだけであった。
彼女の姿が見えない今、彼らに説明したところで無意味だと思ったため三人には何でもないとはぐらかすことにした。三人は不思議に思いつつも再び歩きはじめる。
(……あの得体の知れない雰囲気……。警戒はしといたほうがいいかしら……)
ヨウロ達が気づいていない今、警戒できるのは自分だけだと悟ったイブキを緊張感が襲った。あの女性が何者かもわからない以上こちらから手出しすることも憚られる。
一人だけ怖い面持ちをしながら、一行は目的地へ足を運んだ。
* * *
「ここだ」
歩くこと二十分弱、足を止めた少年が目の前の家屋に指を差す。
立ち並ぶ木造建築の建物の中の一つであり、特別荒らされている形跡もない。正面には一階部分に扉と窓が二か所、二階部分は窓が一つだけある。土台は石造りで屋根も木製。玄関扉の近くにはランタンが下げられていた。
「家って言ってたからあんたたちが住んでる場所ってことよね。親御さんいるの?」
「そんな感じの人はいるかな。入ってみればわかるよ」
テイとサタマルはそのまま扉を開けて中へ入っていき、慌ててヨウロは駆け足で二人の後を追う。それとは対照的にイブキはゆっくりと家の中へ足を踏み入れた。
閑散とした室内の正面には長方形のテーブルが配置され、奥には暖炉があり小さな炎が部屋を照らしている。正面右側に台所や冷蔵庫があり、棚にはグラスや食器類が並べられている。左側には階段がありそこから二階へ上がる造りとなっている。
「ただいまー」
「ミクモ先生、今帰りましたっ」
二人が玄関で大きな声を上げると、一人の男性が階段を下りてきた。
くすんだ金髪に青い縁の眼鏡をかけており、脚が悪いのか階段を降りる際に手すりで体を支えていた。若干だが呼吸も荒く汗をかいている。
「……ん、二人とも、お帰り」
「えっとえっと、その方は……?」
「……おや、お客さんがいらしたんだね。……何か、飲み物を……ごほっ、ごほっ」
訪れたイブキとヨウロに気を遣い飲み物の入った瓶を取ろうと棚の方へ向かうが、途中で咳き込み膝から崩れ落ちた。
「いーよせんせー! 俺がやるから!」
それを見たサタマルがすかさずフォローに入り、棚から一つの瓶を取り出しグラスに飲み物を注いでいく。テイはミクモに肩を貸し椅子に座らせた。
「座りなよ。話をするならそっちの方がいいだろ?」
「……そうね」
「ではでは、失礼します」
サタマルに促されるがまま、イブキとヨウロは引かれた椅子に座る。席順はイブキとヨウロが横に並び、反対側にミクモを挟んで体とサタマルが座る形だ。
「じゃあいろいろ聞くけど……。まずその人は?」
「私たちを育ててくれたミクモ先生。元々ね、ここから離れた場所にある小さな村に住んでたんだけど、いろいろあって住めなくなっちゃって。私たちが六歳の頃に村からこっちに移り住んできたの。ミクモ先生は私たちを含めた村の子たちにいろんなことを教えてくれたから先生って呼んでるんだ」
(……村の子たちに慕われながら、どうしてミクモさんは二人を連れ出したんだろ……。もしくは出て行こうとした二人にミクモさんが着いたのか……。どっちにしろテイが言ったいろいろが関係してるのかしらね……)
誰も否定せず真剣な面持ちであるため嘘ではないと感じたが、その内容を話すことはしないようだった。
だが今回の件とは関係ないと思ったため、イブキもこれ以上の追及はしなかった。
「……あのあの、ミクモさんはあまり体調がよろしくないみたいだけど……」
続いてヨウロが口を開く。未だに顔色が優れないミクモの背中をテイが摩っていた。
「いやぁ……。すぐに治ると、思ってたんですけど、ね……」
「病気なんだよ。流行病に近いやつでさ」
「それはいつから?」
「一週間前とか……それくらい、ですかね……」
「体調の悪さはそれが原因なわけね……。治療院とかに見せなかったの?」
「もちろん見せたよ。でも【オーグラン】にはこの病気を治す薬が置いてないらしくて……。どうにかできないかって聞いたら、昨日来た商人さんの輸入品の中にその薬が置いてあるらしいんだ」
「それが今回武器を盗んだことと関係してんだよ」
「……武器を、盗んだ……?」
「あ……」
サタマルの一言にミクモが反応し険しい表情で睨む。そのまま叱責しようと口を開きかけたが、正面にいたイブキに止められた。
「ミクモさん、でしたっけ。その気持ちはわかるけど今は話が聞きたいんです。このまま話を進めますね」
「……」
イブキの言葉を聞いてミクモは口を閉ざしたが表情に変化はなかった。話を進めたいイブキに免じて引き下がったが大人として注意する必要があると判断したからだが、何より数年共に暮らしてきた二人が今までこのようなことをすることがなかったため、納得がいかないという部分が大きかった。
「あのあの、続きを話してくれる?」
「あぁ……。薬が来るって聞いて滅茶苦茶喜んだけどさ……。その薬、三十万Dかかるんだ。妙に高いから理由を聞いてみたらさ、流通数が少ないからっていうのと継続的に処方するやつで量が多いからなんだと。だからいつもより賞金の多い今回の大会を逃したくなかった。……まともに戦ったことなんて数える程度だけど」
「なるほど……。二人の考えは武器を少しでも上手く扱えるようにして大会で優勝して賞金を得ようってわけね……。無茶言うわ」
イブキは額に手を当て情報をまとめ始めた。
武器を盗んだ理由は、闘技大会で優勝するための戦闘技術を養うためであった。イブキは家に入った際に一階部分を見渡したのだが、武器の類が一切置かれていなかった。よって日頃から何か訓練をしているとは考え難かったのだ。
二人の薬の入手手段についてだが、戦闘の技術など一日の付け焼き刃でどうにかなるものではないとイブキは考えていた。イブキ自身も最初は戸惑いこそしたもののダンジョンでの実践を繰り返して、ようやく体の動かし方、戦い方をマスターしたのだ。
まして二人はまだ齢十三とまだ幼いことに加え、今回の闘技大会は賞金が増額されるとサタマルが話したため、そこから賞金目当てでより参加者が増えることが想定できた。
これらの点から、イブキは二人の気持ちを理解できないわけではなかったが、冷静に考えても優勝などまず不可能に等しいだろうと思った。それは隣に座るヨウロも同様だった。
「そうでもしなきゃ先生の病気は悪くなる一方なんだよっ!!」
「でもでも、現実的じゃないのは確かだよ。武器もまともに使ったことないって自分で言っていたし。それに練習する時間も一日しかない」
「それでもやらなきゃいけないの!! 時間がないのっ!!」
テイとサタマルの二人はガタッと勢いよく席を立ち、前のめりになりながら絶対に入手するのだという意思をイブキとヨウロに示す。部屋の奥にある暖炉の炎も、二人の意思をくみ取ったかのように煌々と燃え上がっていた。
伏線とか仕込むの楽しいんですけど回収しそびれたりすると大変なんですよねぇ。今の段階でもいくつか挟んだりしてます。わかりにくかったらごめんなさい。
あとハバラギ編で語られなかったミヒロの冒険の終着点とか目標とか、昔の自分はいろいろすっ飛ばしちゃってるんでオーグラン編で全部書けたらいいなと思います。そういうとことかも含めて本当に書き直したくなりますが、それがその時の自分のレベルなのだなと戒めになるので残します。




