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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
46/67

42話:返さない

戦闘シーンのある話はバリバリ進むのになぁ……。これでも頑張ってるんですよ?


今回からイブキ視点でのお話です。正確には前回の最後らへんから、ですが。


皆さん熱中症には十分気を付けてくださいね。無理して倒れるのが一番危ないですので。


 必死な男性がこの後どうなるのかとしばらく様子を見ていたのだが、それが失敗だった。次の標的はどこか、と男性が狙いを定めるように男性が視線を周りに向けたことで、イブキと目が合ってしまったのだ。



「そこの方そこの方!」



 猛ダッシュで近づいてきたため、イブキはすぐさま背中の両手斧を自身の目の前に振り下ろし地面へ突き立てる。それはこれ以上近づくなという警告でもあったが、叩きつけた力があまりにも強かったため道には亀裂が入ってしまっていた。またそれに驚いた男性は急ブレーキをかけ後ろへ飛び退いた。



「わぁわぁ! 危ないじゃないですか!?」

「いきなり来るからでしょ! ……何の用よ。いかにも面倒な感じがするけど……」

「そうでしたそうでした! ていうか露骨に嫌な顔しなくてもいいじゃないですか! こちらは真剣なんです! それでいきなりですが、こんな人見ませんでしたか!?」



 一定の距離を保ったまま、男性がイブキへ一枚の小さな紙を提示する。



(……写真?)



 そこに描かれていたのは酒瓶を片手に豪快に笑う暗い赤色をした髪をした女性だった。写真には胸部まで写っているが顔以外の肌の露出はない。



「あんたの知り合い?」

「ですです! ザーラさんって言って自分が所属するギルドの副団長なんですけど、油断して気絶されられて、目が覚めたらどこかへ行ってしまって……! 早く探さないと怒られちゃうんです! あ、申し遅れました! 自分ヨウロと言います!」

(……いつか腰から真っ二つに折れそうね……)



 ヨウロと名乗る男性の問いに答える前に、彼がぺこぺこと何度も直角のお辞儀をする様子を見たイブキは頭の中でそんなことを考えていた。



「そ。唐突な自己紹介どうも。……ていうかそいつ、ギルドメンバーを容赦なく気絶させるって副団長としてどうなのよ……」

「それでそれで、どうですか!? 心当たりとかありませんか!?」



 ヨウロの大きな声は周りの注意を引いてしまうので、通行人の数人が何事かと足を止めてこちらを見ていた。



「声大きいわよバカ。それと写真の人だけど、残念ながら知らないわ」

「嘘です嘘です! 何か知ってます!」

「根拠もなく言うんじゃないわよ! ほんとに知らないし、大体そいつが何だっての? 副団長ならあんたが世話を焼くほど何もできない人間ってわけじゃないでしょ?」

「いやいや、甘く見ちゃいけないです! あの人は暇さえあればお酒を飲み耽るんですよ! 他の人たちにも絡み出すし店内で暴れるし女性には容赦なく暴力振るうしで……!」

「想像するだけでめんどいわねそいつ……」

「そうなんですそうなんです! だから見つけないとなんですよ!」



 斧を下げれば今にも飛びついてきそうな勢いで話すヨウロを見て、面倒だと感じながらも頭の中で女性の場所を推測する。



「……なら、下層部じゃない?」

「え、え? どうしてそう思うんです?」

「まず一つ聞くけど、一昨日の騒動の原因って、多分その写真の人よね?」

「……えっと、えっと……はい。やっぱり知ってるんですね……」



 肩を落として小さくそう答えた。やっぱり、と心の中で納得しヨウロに説明を始める。



「昨日道行く人たちが話してたしね。それで、そんな一昨日騒動を起こした張本人がもし上にいたら、間違いなく今騒ぎになってるはずでしょ? もちろんこの国は結構広いから情報が行き渡ってない可能性もあるけど、一昨日も騒動があった以上、特に上層部は警戒しててもおかしくないし、国民たちにもすぐに情報が広まるはず。でも話を聞く限りじゃ一昨日の話しかしてなかったし、今の段階で何も起きてないから、いるなら下かもしんないってだけ。あくまで推測だけど」



 考え付いた結論をざっとまとめて話すと、目の前の男性は目を輝かせていた。



「す、すごいですすごいです! 自分じゃ慌てててどこにいるか見当もつきませんでしたから! 行ってみます! ありがとうございました!」



 直角のお辞儀をしてぴゅーっと去っていく男性の後姿を見送り、落ち着いたと思って斧を背中に差し直すと、また慌てた様子で男性が戻ってきた。



「何? まだ何か用?」

「えっとえっと……。その……一つお願いが……」

「……嫌な予感するけど一応聞いとくわ。一応ね」



 聞く姿勢になったイブキを見て、男性は申し訳なさそうに眉を八の字にしながら直角のお辞儀をし、両手を合わせた。



「……そのその……下に一緒に来てもらえませんか?」

「や」



 たった一文字の返答に男性ががっくりと肩を落とす。



「うぅうぅ……」

「大体何で私が行く必要があんのよ。そいつ女嫌いなんでしょ?」

「えっとえっと……。確かにお酒を飲めばそっちの面が顕著に表面化しますけど、素面の時は男女ともに嫌ってるというか避ける人なんです。だからもし、まだお酒が十分に入ってない時だったら自分も潰されかねないんですよ……!」

「ほんと副団長に相応しくないわねそいつ……」



 イブキは額に手を当ててため息をつく。それ程の危険人物をなぜギルドに置いて、さらに副団長に任命されているのか。


 問い質したいところだったが男性はそれに応える余裕すらない雰囲気だ。



「ほんとにほんとに、人手は一人でも多いと助かるんです! どうか! お願いします!」

「だから嫌っつってんでしょ。私はいろいろ見てまわりたいのよ」

「ならなら! 自分が案内しますから! 自分たちのギルドも来たのは三日前ですけどマップは購入済みなので案内できるはずです!」

「私は一人で見てまわりたいの」

「でもでも! マップもなしで必要なお店や施設を見つけるのは時間かかりますよ! めんどくさがりなあなたには絶対案内があったほうが時間の節約になります!」



 イブキは何とか理由をつけて断ろうとするのだが、ヨウロが一切退かないため話は平行線のままだった。



「はぁ……」



 再び溜め息をついてどうしたものかと悩んでいると、二人の立つ位置に向かって一人の少女が猛スピードで視界外から駆けてきていた。真紅の髪を三つ編みのおさげにしたその少女は、後ろを確認しながら走っていたため避けきれずにイブキと接触する。



「いった……! 何!?」

「ごめんなさい!」

「おいっ! 早く行くぞ!」



 少女がぶつかったことを謝罪しぺこっとお辞儀をすると、後ろからついてきていたのか短い黄緑色の髪をした少年がすれ違い様に声を掛け、少女を追い抜いてそのまま去っていく。



「あ、待ってよ!」



 少女も慌てて少年の後を追いかけて行った。二人はそれぞれ二、三本ずつ剣や棍棒などの武器を抱えていたため少々走りづらそうだった。



「……何なのよまったく」



 イブキはぶつかった二の腕部分を軽く摩る。強くぶつかられたせいか未だに痛みは引いていない。



「何か何か、急ぎの用事みたいですね。あんなに慌てなくても」

「あんたが言えた事じゃないでしょ」



 二人で少女たちの行動を不思議に思っていると、またまたこちらに向かって駆けて来る者がいた。三十代と思われる男性で、簡素な服の上からエプロンを身に付けている。






「ど、泥棒だー! 誰か捕まえてくれーーー!!」






 男性のその言葉を聞くと同時に、二人共その泥棒について心当たりがあることに気付いた。



「あのあの、もしかしてあの子たちですかね?」

「武器持ってたし、多分ね」

「……えっとえっと、念のためあの人にも聞いた後にします」

「そうすれば?」



 イブキの返答を聞いたヨウロは迫る男性の前に立ち足を止めさせた。



「あのあの! 泥棒って言うのはあの二人の子たちで間違いないですか!?」

「あ、あぁ、そうだけど……!」

「やっぱりというか、当たりみたいね」

「ならなら! 自分が捕まえてくるので少し待っててください!」



 男性を落ち着かせたヨウロは一回深く深呼吸をしたあと、クラウチングスタートの姿勢を取る。前方を睨み付けその場で地面を何度か蹴る様子はさながら猛牛のようだった。



「は、早く追いかけないと……!」

「大丈夫です大丈夫です。捕まえてきますから」

「……あんたにできるの?」

「いやいや! 信じてください! これでもギルドに所属する身ですから!」



 そう言い切って何秒か力を溜めた後……ヨウロは一気に踏み込んで駆け出した。



「わっ!」



 駆け出した時の衝撃は凄まじく、スタート地点の地面は軽くクレーターができており、その際に起きた爆風と土煙にイブキは思わず目を瞑る。


 次に目を開いたときにはもうヨウロの姿はなく、煙幕のように巻き上がった土煙も風に流れて消えていた。



「あれ、いない……!?」

(……これだけ速いってことは歩行系のスキルを随分上げてんのね……。それとも、ザーラとかいう副団長を追いかけるのが日課とかになってて自然と上がっただけか、ただ単にレベルが高いのか……。何にせよ、人は見かけには寄らないもんだわ)



 追いかけると言って姿が見えなくなったヨウロを心配する男性とは対照的に、ヨウロのダッシュ時のスピードを生み出す理由について冷静に考察していた。


 彼が姿を消してから一分と経たずして、人二人の首根っこを掴んだヨウロが飛び出していった方向から歩いて戻ってくるのが見えた。



「離せよ!」

「ダメダメ! 盗品は返してもらうからね!」

「お願い! 必要なものなの!」

「ならなら、きちんとお金を払うのが一般的な常識だよ!」



 自分より年下だからか二人に対して敬語ではないヨウロに新鮮さを覚えつつ、イブキはこちらに向かうヨウロに近づいていく。盗まれた店主の男性もその後を追った。



「はやかったわね。二つの意味で」

「え、え? ……まぁ、訳ないです」

「よ、よかった……! 君たち! 盗品は返してもらうぞ!」

「嫌だ!」

「返さないから!」



 強情に返すことを拒む少年少女を不思議に思ったイブキは二人に近づいていく。



「あんたたちに武器の心得がある様には見えないけど?」



 二人はどちらも顔つきが幼く、リアルであれば小学生と言われても信じてしまえそうな年齢だった。



「年は?」

「……十三」



 そっぽを向きながら男の子の方がぶっきらぼうに答える。何も答えないわけではない、ということだけでも十分だと思いイブキは話を続けた。



「その年齢なら一般常識くらい身につけてんでしょ。盗んじゃいけないってことわかってて盗んだんなら、それなりの理由を提示してもらわないといけないけど?」


「話さなかったらこのお姉さんが背中の斧で斬首しちゃうよ!?」


「「え……」」



 その言葉を聞いた二人は一気に顔を真っ青にして動きを止めた。二人の中ではもちろん泥棒など罰則を受けるほどの悪行だとわかったうえでの犯行だったが、命を取られるほどだと思っていなかったのだ。



「しないわよそんなこと! 私を何だと思ってんの!? ……ほらもう、二人とも怖がっちゃったじゃない!!」



 だがヨウロの発した言葉にイブキはすぐさま言い返す。普段大声を出さないため、ヨウロと話しているうちにスタミナを消耗していた。



「はぁ……。あんた一度黙っときなさいよ」

「捕まえてきた自分に対して辛辣じゃないですか!?」

「面倒なのよ相手にすんのが。犬みたいにお座りでもしてなさい」



 ヨウロは渋々その場に正座し、それを横目に見たイブキは窃盗を働いた二人へ向き直る。



「……それで、あんたたちがそれらを盗んだ理由は話せるの?」

「……」

「……」



 問い質しても二人は閉口し言葉を発さない。しばらく問い詰めたのだが状況が変化しないためイブキは一度店主の男性へ向きなおる。



「盗品は五本、ね……。ねぇ、これ全部でいくらなの?」

「は、え……えっと、全部で三万七千D、になります」

「たっか。……じゃあ、これ」



 イブキはステータス画面を開くと、一定の金額を入力し紙幣と硬貨として巾着袋に入った状態で出現させた。


 金額でのやり取りには二種類あり、ステータス画面などVRデータ上で金銭のやり取りをする場合と、実際に金銭を用意して、手渡しでやり取りをする場合がある。


 VRのデータ上で行うやりとりが一般的だが、相手がNPCかつ経営している商店内にいる状態でない場合は金銭を実際に出現させる必要がある。どちらかしか受け付けない酒場や食事処などの支払い方法はどちらでも可となっている。


 また紙幣と硬貨の種類は現実世界の物と同じく、一D硬貨から一万D紙幣まで用意されている。



「え、え!? 払うんですか!?」



 ヨウロだけでなく店主の男性や、店の品を盗んだ二人までもがイブキの行動に目を見開いて驚いていた。






「私が買って渡したってことにすれば店の損失はないでしょ。なぜか知らないけど向こうは引く気ないみたいだし、これ以上こんなことに時間を割きたくないのよ。……痛い出費だけどまた稼げばいいわ」






 さらっと言いのける彼女に驚きつつ、意外と優しい部分もあるのだとヨウロは彼女に対する認識を改めた。






「さ、これであんたたちは借りができた……。話してくれればチャラにできるけど、どうする……?」






 そして店主に金銭を支払ったイブキは何事もなかったかのように二人の方を振り返りそう言い放つ。自分たちが必要としていた物品を購入してまで話を聞こうとする彼女を見た二人には、もう逆らう事など出来なかった。


 そしてヨウロは、少年少女たちに言い放った時のイブキの表情が悪い笑みだったため、やっぱり優しくないなと改めた認識を再度改めていた。



前回言い忘れていましたが、このオーグラン編のどこかで一度説明回をきちんと挟みたいと思います。多分終わり頃になりそうですけども。


話は変わりますが、作業するときに幻想的なBGMとかケルト曲集なんかを流したりするんですけど、それを聞き続けてると異世界にある酒場みたいな雰囲気のお店とか将来出してみたくなってきちゃいます。


森の中とかに店舗を構えて、ケルト音楽を流しながら人々にお酒や食事を振る舞ったり、人々が酒を交わし交流する様を店主として見てみたり。すごく楽しそうです。ただの夢です妄想です。


皆さんも是非一度聞いてみてください。おすすめです。

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