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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
44/67

40話:確かな意思

祝40話! もうすぐPV30,000突破です! ユニークも7,000人超えました! ありがとうございます! とにかくいっぱいいっぱい感謝です!


これからも応援よろしくお願いします!


「あ、そうだ。ヤナ大丈夫か?」



 エンジュは一旦思考を切ると、壁に背を預けていたはずのヤナへ声を掛ける。ヤナは戦闘が終わったことで安全だと判断し三人の元へ向かって来ていた。


 レイジスがナイフを防いだことで再び目に光が宿り、現在は足取りこそふらついているもののこちらを認識できているようだった。



「……ウン」



 ヤナは三人より人二人分ほど離れた場所に立ち止まると短く返事をした。



「あ? 何でこいつボロボロなんだよ」

「来たばかりで知らねェのも無理ねェか。そいつをここまで追い込んだのは紛れもなくヤナだよ。外に追い出してくれたしもうボロボロだったから、俺は追撃させないために立ち塞がっただけだ」



 レイジスは二人が外で向かい合う場面からしか目撃していないため、ヤナの様子を不思議に思いエンジュがそれを察したのか軽く説明した。



「ふーん……、てめーよく生きてたもんだなァ。死んでるかと思ったぜ」

「その言い方はねェだろ」

「俺は素直に賞賛してんだよ。聞こえなかったかよ」

「賞賛に聞こえねーよバーカ」

「あァ!?」



 二人がしばらくぎゃあぎゃあと喧しくやり取りをしていると、ヤナは少し躊躇った後レイジスの方へ一歩だけ踏み出した。レイジスもそれに気づいたのかエンジュの顔面を片手で掴みながら視線を向けた。



「んだよ」

「……アリガ、ト……」

「……おう」



 ヤナは控えめに小さな声で感謝を述べた。ナイフが近くに落ちていたことから予想したことだったが、レイジスがそっぽを向きぶっきらぼうに返事をしたことから合っているのだと判断した。



「いい加減離せっつのッ!」

「おーそうだったな。わりぃわりぃ」

「絶対謝意ないだろ……!」



 エンジュが乱暴に捕んでいた腕を振り払う。その時点で怒りが大分溜まっていたが、レイジスから気持ちの籠っていない謝罪をされたことで怒りをさらに募らせ、再び取っ組み合いになりかけた。


 だが三人のいる場所に向かってくる人物が二人ほどいることを観衆の奥から発見したらしく、二人は近づく影の方へ目を向けた。



「はぁ……はぁ……。どこに行くんですかもう!」

「急に飛び出していったかと思えば何事……って、ザーラさん?」



 奥から話し声とともに観衆の間を縫って近づいてきたのは訓練場にいたスノウとカオンであった。カオンがレイジスの足元に転がっている人物を指摘したことでスノウもザーラに気が付き状況を一瞬で把握した。



「こいつが原因だった。懲りてねェよこの野郎」

「みたいですね……。あとで団長に報告しておきます」



 スノウが額を手で押さえながらそう呟く。こういった報告はほとんどをスノウが担当することになっているため、騒動が起こる度にスノウはストレスを抱えることになっていた。



「でも禁酒させようとするとそれこそ手つけらんないもんねぇ……」

「何でそんな奴を副団長にしたんだよ……」

「あはは……。私たちのギルドは実力で評価が決まりますからね……。問題は起こしますがダンジョン攻略等では活躍してくれるんですよ。私たちも助けられる部分があるので強くは言えないんです。……まぁ、こうして罰を与える分には好き勝手していいですけど」

「んにゃ!」



 スノウはその場にしゃがみ込み気持ち良さそうに眠るザーラの額を指で弾いた。ザーラは間抜けな声を上げたが起きる気配はない。



「まぁとにかく、そいつはあんたたちが持って帰ってくれ」

「それはもう、責任持ってすぐに連れて帰ります。周りの皆様もご迷惑をおかけしました」



 スノウは前に出ると自分たちを囲んでいた観衆たちに頭を下げ謝罪し、それに倣ってエンジュとヤナも隣に立ち頭を下げた。頭を下げる中スノウを横目に見ながら、こういったことができるスノウこそ副団長に相応しいのではないかと思うエンジュだった。



「いやいや、助かったよ。だが次からは気をつけてくれ。いくら戦いの国とはいえ毎度やられては困るからね……」



 代表して声を発したのは酒場の店主だった。怪我はないようだったが扉や壁が壊れた自身の店舗を見て肩を落としていた。



「はい。この人には厳重に言い聞かせておきます」

「ならいいよ」

「すみませんでした」



 騒動が終わったことで観衆たちもそれぞれ解散していった。レイジスもため息をついた後面倒そうにザーラを肩に担いだ。



「言い聞かせてどうにかなるなら何度もこうはならないんだけどねぇ……。あ、そういえば何であの子ボロボロなの? もしかして……」

「あぁ。この酒呑みバカと戦ったらしい」

「え……、ザーラさんと? 本当ですか?」

「間違いないぞ。もし俺が最初から戦っていれば俺がボロボロになってるだろ」



 レイジスの発言をエンジュが保証したことで事実なのだと理解し、スノウとカオンは思わず目を丸くしてヤナの方を向いた。ボロボロの白い少女は未だにフラフラしているが、ザーラが女性に対して容赦ないことを把握しているため、生き延びたことに驚きを隠せなかったのだ。



「……ジャア……行ク、カラ」



 全てが終わったことを悟ったヤナは一言エンジュ達に声を掛けてその場を立ち去ろうとする。目的はもちろん治療院へ行くためだ。



「えっ、あ、待ってください!」



 だが数メートルほど歩いたところでスノウに呼び止められた。今日で三度目だ、と思いつつ振り返ると何か液体の入った瓶を持ってこちらに駆けてきた。



「これ、飲んでください。身内が迷惑をかけたお詫び……にしてはささやかすぎますが……。その傷のままはさすがに放っておけません」



 そう言って強引に手に握らされる。どうせ治療院に行くのだから問題ないと考え返そうと思ったが、強い意志の籠った瞳に負け素直に飲むことにした。


 すぐに傷が癒えることは無かったが、倦怠感だけは多少改善された感覚があった。飲む前に比べ表情が柔らかくなった事を見てスノウもほろっと破顔する。



「……強いんですね」

「……ソンナコト、ナイ」

「私たちの副団長と戦って生きられているだけで十分凄いですよ! あの人女性相手にはほんと容赦ないですから……」



 あはは、と苦笑するスノウから普段どれだけ苦労しているかが簡単に読み取れた。


 ギルド内でも躊躇なく飲酒を続けるザーラを窘めるのはスノウなのだが、その度に口論と喧嘩に発展する。これがレイジスやカオンの場合だとそうはいかないのだが。



「まだ痛むところはありますか?」

「……大丈夫」



 ヤナはそう呟いたが、それは早くミヒロの元へ向かいたい故の嘘であり、痛みが完璧に引いたわけではない。だが戦闘終了直後よりは楽になっていることは確かであり、歩行も辛くないことを踏まえてそう発言した。



「嘘つけ。手先震えてんじゃねーかよ」

「うんうん。隠せてないよ」

「……!」



 だがその嘘はレイジスによってあっさりと見破られてしまい、カオンにもバレていた。ヤナは隠すように両手を後ろにやったが、四人の目を誤魔化すことはできなかった。



「……そこまでして向かう場所があるんですか?」

「……ウン」

「そんな急いで行くような場所あったっけ?」

「闘技大会は明日、だよな。何かあるのか?」

「……治療院」



 ヤナの一言で四人は納得したが、自身の団長であるミヒロに会いに行くという目的を見抜けたわけではなく、単に治療のためだと全員がそう思っていた。



「……ヤナっつったか」

「……?」

「レベル、いくつだ? このバカと戦り合えたんならそれなりに高ェと見たが」



 レイジスの問いはエンジュも気になっていた事であり、その問いを聞いたスノウとカオンも興味が湧いたのかヤナへ視線を送った。



(……レベル……)



 いきなり四人に視線を向けられ若干の動揺を見せる。正直戦り合えたと呼べるほど互角の戦闘ではなかったのだが、ザーラの見てくれからレイジスはそう考えた。


 一呼吸置いて心を落ち着かせるとすっとウィンドウを開き、ステータス画面に書いてあるレベルの数値をそのまま口に出す。






「……7」






「「「「!!?」」」」





 数値を聞いた四人が驚愕する。自分たちが想定していた値より遥かに低かったからだ。



「……は?」



 レイジスたち四人が驚愕のあまり絶句する中、皆の反応が不思議だったのかヤナは首を傾げていた。ヤナは目の前の四人を始めとした【オーグラン】に滞在する人たちは、自分と同じくらいのレベルだと思っていたからだ。


 その認識の齟齬は四人に混乱と動揺を齎した。



(俺でも13なんだぞ!? どんだけ低いレベルで戦ってたんだ……!?)



 ヤナはエンジュと出会ってから人やモンスターを倒していないため、訓練場にいた時から7だったのだと思いエンジュはさらに驚愕する。自身のステータスの低さを高い剣術と体術で補っていたとを考えると、この少女はどれだけの死線を潜ってきたのかと心の内で考えを巡らせていた。



「……ザーラさんのレベルっていくつだったっけ?」

「……一昨日の時点で19でしたね。15でようやくまともに戦えた私が恥ずかしくなってきます……」

「傷の度合いから互角で戦えたってわけじゃなさそうだけどねぇ……。でも7でここまでできるって思わないよ普通は。俺とレイジスも今16だしさ」

「……」



 四人がそれぞれ唖然とした様子で話しているのを余所に、ヤナは聞かれたことには答えたと思い踵を返して今度こそ向かおうとしたが……。



「おい」



 男性の声によりまたも呼び止められた。何度も止められることにむっとしたが、無視するのも失礼だと思い再び足を止めて振り返る。呼び止めたのはレイジスだ。



「……何?」








「……俺たちのギルドに入れ」








「……!」



 レイジスはヤナに手を差し伸べて自身のギルドへの勧誘を行った。スノウやカオンはそのレイジスの行動に衝撃を受けた。ギルドへの勧誘は団長やスノウが面接を行い、人柄等を知ったうえで加入を認めるかどうか判断するのだが、今回の様な直接の勧誘、それも気性の荒いレイジスが行うことを意外に思ったのだ。



「悪い話じゃねェはずだ。このバカを何度も相手にすんのは面倒だろうが、俺たちならてめーを強くできる。一緒に高みを目指せるはずだ……!」



 手を差し伸べられたのは初めてではない。初めて挑戦した一階層のボス戦が終了した時にも同様に手を差し伸べられた。その時に目の前にいた人物と共に守りたかった村を守り、ギルドを創設したのだ。


 ヤナの心は最初から決まっていた。それは例え凶器を向けられ脅されようとも揺らぐことのない決意だった。








「……私、ニハ……団長ガイル、カラ」








 拙い日本語だが確かな意思を持った言葉でレイジスへそう伝える。今この場を去ろうとしているのも、急ごうとしているのも、全ては自分を受け入れギルドを創ろうと笑いかけてくれたミヒロのためだ。裏切ることは万に一つもあり得なかった。



「……ヤナが認める団長、か……」

「その人って強いの?」

「……ウン。強イ、ヨ……! 剣術ハ、ワカラナイ……ケド、体術ハ……私ジャ、到底、敵ワナイ……! ……レベル、ハ……私ト、同ジクライ……? トニカク、凄イ……!」



 レベルについてはハバラギ滞在時に密かに情報共有しており、出発前でお互いに6だったなと思い出していた。ウロとの戦闘でヤナはレベルアップを果たしたので、ミヒロも同じであれば自身と同じ7であると推測できるが、本人の口から聞いたわけではない。


 よってその部分は疑問形となったが、面と向かって正直に答えるヤナの言葉に嘘偽りはない。そうわかるとエンジュは言葉を失った。


 自分でさえ得意武器を使った戦闘に体術のみで互角となったのだ。その少女が敵わないと豪語する人物がどれほど強いのか、ふつふつと興味が湧いてきた。


 他の三人も同様に目を見開いて驚愕していた。自分たちでも今日だけで何度驚いたのだろうかと疑問に思ったほどだ。



「……そーかよ」

「大切なんだな」

「……ウン……!」

「……なら、仕方ないですね」



 スノウが少し寂しそうな表情でポツリと漏らした。レイジスが勧誘したことには驚いたものの勧誘自体は賛成であったからだ。


 だが納得するしかなかった。少女が団長のことを語る際、まるで怪我を負っていることを忘れたかのように、拙い言葉を弾ませ目を輝かせたのだ。容姿のせいで大人びたような不思議な雰囲気を醸し出していても、実際は年相応の普通の少女であることを認識させられる。彼女の話す様子だけでどれだけ自らの団長を慕っているのかが簡単に読み取れた。



「行くんだろ。気を付けろよ」

「……ウン。……ジャア、ネ」



 エンジュに送り出されたことで話が区切られ、ヤナは四人に一言だけ挨拶をした後すぐに後ろを振り返って問答無用に駆け出した。スノウが口を開きかけたのを振り返り際に目にしたが、ミヒロに早く会うことを優先した。


 ミヒロは目を覚ましたのだろうか。仮に目を覚ましていた時に何と声を掛けたらいいのだろうか。闘技大会には参加するのだろうか。




 気になること、話したい事を沢山思い浮かべながら、ヤナは治療院への道のりを駆けていった。




自分のハードルが知らないところで上がっていることにミヒロはどう思うのだろうか……。少なくともヤナに悪気はありません。本心ですから。


これでとりあえずヤナの視点は一区切りです。

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