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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
43/67

39話:きゅ~

えーっと、37話後書きに追記していますがあらすじ止めました。最初からやるなって話ですね。いままでのあらすじも消してます。あと前回(38話)も一部修正しています。些細なことでストーリーに影響はありません。


タイトルも内容もちょっとずつおふざけを入れていけるよう頑張ります。



「よしっ! よくやったヤナッ! あとは休んでろ!!」



 エンジュはザーラが飛ばされたことを確認し外へ飛び出した。ヤナは役割を終えたがすぐに刀を杖代わりに床に突き立て力を振り絞って立ち上がる。戦闘の途中までは店内に客が残っていたが、エンジュが誘導したおかげで終わる頃には店内に人は存在していなかった。



「……ハァ……ハァッ……ケホッ……!」



 ヤナは自分の体を見下ろす。最小限に抑えても打撃を受けた箇所は痣となり、刃を受けた箇所からは出血が止まらない。


 損傷率を見れば94%まで加算されていた。息も整わず手足の震えは未だに止まらない。


 だが、生きている。倒せずとも目的を成し遂げ生還したのだ。


 ヤナはその事実を噛み締めながら床に転がっていた刀を拾いに向かった。






   * * *






「ちぃッ」



 ザーラは上手く受け身を取り建物にぶつかる前に立ち上がる。損傷率が61%であることを確認すると自分を飛ばしたヤナのいる酒場を睨み付ける。


 自身の服は至る所を斬られ隠れていた肌が晒されている。損傷率の割りには出血も多く、ヤナから撃技を受けた脇腹は未だにズキズキと痛みが増していた。


 睨んでいた出口から出てきたのは自分を外へ吹き飛ばした白い少女ではなく、十文字槍と呼ばれる穂の形が十字になっている槍を携えた、白い少女と一緒に来店していた茶髪の青年だった。



「そこまでだ。さすがに止めるぞ」

「……これは白いのとの戦いだって、私は言ったけどなぁ」

「もう関係ねェな。他の連中も殺すつもりだってんなら、俺を殺してからにしやがれよ飲んだくれ……!」



 槍の穂先をザーラに向けそう言い放つ。ヤナの状態を見る限りもう戦闘を行える状態ではなかった。ここまで頑張った彼女を死なせるわけにはいかないと思ったのだ。



「なら……ッ!」



 ザーラはまるで誰がどこにいるのか把握していたかのように突然振り返ると少し離れた場所にいた酒場の店員の女性に襲いかかった。



「きゃあっ!!」

「ちッ!」



 店員の女性は思わず顔を防御するように両手を前に持ってきて目を瞑る。


 甲高い金属音が女性の目の前で鳴り響いた。だがジャマダハルの刃は女性には届いておらず、二人に割り込んだエンジュの槍によって阻まれていた。



「やらせねェよ……! ほんと容赦ねェなこの野郎……!!」

「そうするって私は前もって言っただろ……? どきな、男を殺すのは勿体ないからなぁ……!」

「そうしてほしけりゃその武器引っ込めろよ……!(こいつ……なんつー力してんだ……!!)」



 ザーラの刃を後ろの女性に届かせまいと必死に喰いとめているが、油断すれば自分ごと女性を貫いてしまいかねないようなザーラの腕力に驚愕していた。



(これをヤナは何度も受けてたのか……!)

「受け止めるだけで精一杯かぁ……?」

「ほざいてろ……ッ!」



 エンジュは受け止めていた刃を上に逸らし、ザーラの腹部を狙って横に一閃するが、素早く飛び退かれて回避されてしまう。だが目的は攻撃ではなく後ろに後退させることだった。後ろの女性に怪我がないことを確認し、再びザーラと睨み合う。



「お前と戦うのもいいのかもな……。ぶつかる壁にはちょうどいい……!」

「あたしを踏み台にしようとは愚かもいいとこだ。勝つにせよ負けるにせよ、お前には酒を注いでもらうからなぁ……!」



 二人が武器を構え戦闘態勢に入る。エンジュは相手の挙動をじっくり観察し、相手の行動に合わせて動くつもりだった。


 だがザーラの後ろ……酒場から出てくる一人の人影に思わず目を奪われてしまった。



「……嘘だろ……」

「んん?」



 エンジュが驚きのあまり言葉を漏らしてしまったせいでザーラも俺の見ていた方向に視線を送ると同時に目を瞠った。






 自分が休んでいろと言ったはずのヤナが歩いて出てきたのだ。






 全身の痣や切り傷が酷く目立つ。着ていた服もボロボロで息も途切れ途切れ。また目の焦点が定まっていないのかどこか虚ろであり、誰がどう見ても戦える体ではなかった。



「……」



 だが戦う意思はないのか二本の刀はどちらも鞘に収まっている。休んでろというエンジュの言葉を無視して立ち上がったのは、治療院を出てから時間が経過しているため、ミヒロの様子を見に行かなければならなかったことと、自分の戦闘の参考にするため二人の戦いを見届けたいと思っていたからだった。


 しばらく休んでから、という考えも過ったが、あの戦闘の直後に一度座って休んでしまえば、歩くどころかもう一度立ち上がる気力すらなくなってしまうのではないかと危惧したのだ。その隙にザーラが店内へ戻ってくる可能性がゼロではないことも考慮していた。


 ヤナは人を避けるため、そして二人の戦いが見えやすい場所を陣取り壁に背を預けた。だがその透き通っていたはずの大きな紫色の瞳からは光が消えており、向かい合う二人を認識できているか怪しかった。



「殺されに来たのかぁ?」

「あの体じゃもう無理だ。あいつにはもう戦う気がねェよ……。それでも行くつもりなら……逆にお前を殺して止めんぞ」



 エンジュはザーラに向けて殺気を放つが、相手は一切の怯みを見せずに睨み返した。ピリ着いた空気が辺り一帯を包み込む。二人を囲む観衆も息を呑んだ。


 もはや瞬きすら許されぬ時間。ぎりっ、とエンジュは手に持つ槍を強く握り直す。



(どうくる……!?)



 少しでも気を抜けばザーラはヤナに襲いかかり、少しでも遅れればヤナへの攻撃をはじき返せない。


 もちろんエンジュ自身に襲いかかる可能性もある。こちらから動いても相手に容易く対応されてしまう事からできないと踏んだ。


 ザーラの行動を只管待つ。


 一体何秒経過したか。


 空気が、揺れた。





「はッ!」





 ザーラは……瞬時に後ろに振り返り、懐から取り出したナイフを用いてヤナへの投擲を行った。





「!?」



 対象が自分かヤナであると踏んでいたのだが、飛び道具の使用の可能性が頭から抜けており、エンジュにとって完全に想定外の攻撃だった。飛び道具があったとしてもヤナへの初撃に使用した不意打ち用の一本のみだと考えていたのだ。



「クソッ! ヤナ避けろォ!!」



 投擲のスピードには自分の身体能力では追い付けない。エンジュは力いっぱいに叫ぶもヤナは虚ろな目をしたまま避けようともしない。飛んでくるナイフに気付いていなかった。


 そのままナイフは一直線に、ヤナの額へ飛んでいく。





「誰か――――!!!」





 観衆の一人の叫び声が木霊する。


 だが誰も返事をすることなく空気に溶けてかき消えた。





 そして、そのまま……――。








「やっぱりかよ」








 誰かがそう呟いた。次の瞬間、観衆の壁を割って一つの影が飛び出す。


 その影は男性で両剣を握っており、風を切ってヤナの前に到達すると一直線の軌道を描いてこちらに向かっていたナイフを自身の武器で弾いた。甲高い金属音が響いた後ナイフは地面を滑っていく。目の前に男性が飛び出してきたことで瞳の焦点が合ったのか、ヤナは目を見開き驚いていた。


 男性はヤナに見向きもせずそのまま素早い動きでザーラに肉迫すると……。



「んぐっ!?」



 液体の入った瓶を彼女の口へ突っ込んだ。瓶の中身が躊躇なく彼女の体内へ流れていく。すると彼女は徐々に目の焦点が合わなくなっていった。



「きゅ~~~……」



 やがてザーラは膝を折って仰向けで地面へ倒れた。目を回しており力が抜けたせいか握っていた武器は近くに転がった。


 飲ませ終わった男性は一息ついて瓶を投げ捨てる。


 水色の髪と左腕に刻まれた十字の傷だけで、誰であるか特定するのは容易だった。



「お、お前……」

「ったくよぉ。手ェかけさせやがって……!」



 頭をがしがしと掻きながら……レイジスは倒れたザーラを足でうつ伏せに姿勢を変えた。



「お前の仲間ってことでいいのか?」

「あ? あぁ」

「……聞きてェことはいろいろあるがまず……何飲ませたんだ?」

「酒」

「いやいやいや、こいつ酒強かったぞ。とても目を回して倒れると思えねェんだが……」

「こいつはある程度出来上がった時に、度数70以上の酒飲むとこうやって目回して倒れんだよ。暴走すっと面倒だから俺みてェなこいつと張り合える奴らは、全員酒を常備して止められるようにしてんだ。てかストッパー任せたのにどこ行きやがったあいつ……!」



 レイジスは未だに目を回し続けているザーラを指差しながら説明する。


 この世界で流通する酒類は度数が45以下と定められており、それ以上の度数の酒類を入手する際は、直接醸造する店に発注する必要がある。また酒類の規定は国によって様々であるが前述の度数制限や飲酒可能年齢が二十歳以上であるなど、一部の規定は全世界共通のものとなっている。


 そして彼らの仕業だと言われていた一昨日の上層部での騒動の原因は他でもないザーラにあり、彼女は一人で建物が数件倒壊させ怪我人も数十人出すという被害を生み出していた。


 その際は拠点に集まっていたメンバーの中で、いち早く騒動を聞きつけ実力もあるスノウの手により解決した。だが今日は主力となるレイジス、カオン、スノウの三人は一部のメンバーを引き連れ訓練場にて技を磨く予定があったのだ。


 そのため、三人が選んだストッパー役が予め選出されていたのだが、なぜかこの場には姿を見せておらずレイジスは苛立った様子で辺りを見回していた。



「……意外としっかりしてんだな」

「失礼だろてめー!」

「そう思われる振る舞いしてんだよお前は……。お前の言うメンバーに酒持たせるってのはギルドで決まってることなのか?」

「決まってるっつーか団長の指示で最近決めた事だ。一応こいつ副団長だしな。被害拡大を防がにゃならねーんだよ」



 げしげしと足蹴にしながらさらっと口にした事実にエンジュは驚愕した。彼女の様な傍若無人な人物に副団長が務まるとは思えなかったからだ。足元にいる彼女はいつの間にか目を閉じており、寝息を立てて眠っていた。



「これが副団長とか……大丈夫なのかお前のギルド……」

「舐めてんのか。団長とかスノウとか、他にもお利口さんがいっぱいいるから心配ねェよ。つーか俺もそっち側だ」

「はぁ?」

「んだよその顔は!!?」

「意外だから顔に出したんだよ悪いか」

「悪ィだろ普通に考えろボケ!」



 酒場まで走ってきたのとツッコミでスタミナを消耗したのか言い終えた後何度か肩で息をしていた。顔を見れば汗がレイジスの顔の表面を伝って、顎から地面へ雫が吸い込まれていっている。


 聞いた直後こそ意外だと思ったが、団長の指示を聞いて酒類を所持していること、玉のような汗を流していることから急いでこちらに向かってきていたことを考慮すると、レイジスの主張もあながち間違いではないのか、とエンジュはレイジスに対する認識を改めた。



「……人は見かけには寄らねェな……。いい勉強になった」






「聞こえてんだよクソ野郎!」



次回か次々回ほどでヤナのお話は終わりにする予定ですが、まだミヒロの視点には戻らないかもです。


ブックマーク60人突破です。ありがとうございます!


オチが適当なのは気にしないでください。

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