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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
42/67

38話:ヤナvs酒豪

キリのいいところで終わらせようと思ったら長くなりました。


※セリフと地の文の一部、それから武器を握ったままなのに掌底を繰り出す部分があったので変更しました。


「あ、あわわわ……」



 助けを呼んだ男性は目の前の戦闘する二人に怯え震えていた。隣に立つエンジュは少し考えた後男性の肩を掴む。



「とりあえずあんたは店の外に出といてくれ……。くそっ、こうなったら……!」

「男連中は下がってなぁ。これはあたしとこいつの戦いなんだ……。もし女潰しの邪魔をしようって考えてんなら、嫉妬であんたたちも一緒に潰してしまうかもなぁ……!」



 エンジュは騒ぎが収まらないのを察すると背に差していた槍を手に取ろうとするが酒豪の彼女に脅され歯を食いしばって動きを止める。


 エンジュ自身は戦えるが他の客にまで手を出されてはここに来た意味がない。



「ちッ……でも、そうだな……。ヤナ! そいつを外に出せるか!?」



 このまま暴れられたとなれば店は崩壊し、そうなったとしても彼女たちは戦闘を止めようとしないだろう。外であれば人目に付き、彼女自身が話していたギルドの仲間が迎えに来る可能性もある。そう思ったエンジュはヤナに店外に出すよう指示をする。



「……ヤッテ、ミル」



 エンジュの案を何となく理解したヤナは再び襲い掛かる女性の刃を受け止める。エンジュはヤナが喰いとめている間に店内にいる者たちへ外に出るよう誘導しに行く。


 女性は押され気味のヤナに畳み掛けようとヤナの腹部に蹴りを喰らわせると素早い動作で顔に向かって刃を突き出す。


 治療院にて塗り薬を使用していたが、損傷率は酒場に到達した時点で32%と完全に回復しきっているわけではない。力量差を見極めたうえで慎重な立ち回りが要求される。その点はヤナも理解していた。


 突き出された刃を間一髪で顔を逸らして躱すと、刀を持つ腕を振り上げ、刀の柄頭を女性の顎に命中させた。



「かふッ!?」

「……ンッ!!」



 顎を揺らされ意識がぶれた隙を逃さず振り上げたままの刀を振り下ろし、袈裟斬りを見舞う。女性の防御のステータスが高いからか深いダメージは与えられなかったが、追い打ちをかけるようにその場で回転してさらに腹部を一閃、その後片足で自分の体を浮かせると同時に回転して、勢いを乗せた蹴りを顔面に喰らわせた。



「がッ!?」



 女性はよろめいて後退する。彼女の損傷率は11%しか刻まれていないがしっかりとダメージは与えられていた。


 女性が鼻から一筋の血を流し顔面を押さえていることを確認したヤナは、牽制と挑発には十分だと思い外へ誘き出すため出入り口付近へ移動する。


 だが、女性の様子が豹変し目の色が変わる。顔を押さえている手の指の隙間から覗かれる瞳はさらにつり上がっていた。





「調子に乗るなァ……!!」





 握っていたジャマダハルを何故か腰に差し直す。だがヤナが瞬きをした瞬間、彼女の姿が忽然と消えた。



「……?」

「!? 後ろだッ!」



 エンジュがそう叫ぶも、振り向いた瞬間には後ろから両肩を掴まれ、背に膝蹴りが突き刺さった。



「……カハッ……!」

「らァ!」



 あまりの痛みにすぐに動けず、ヤナはそのまま女性に頭を掴まれバーカウンターの奥の壁へ投げつけられた。壁に全身を強く打ちつけ、飾られた瓶が音を立てて割れ全身に酒を浴びた。ちらと損傷率を確認したヤナはぎょっとする。



 受けた攻撃は頬を掠めたものも含め四撃だったが、確認した時点での損傷率は……







 ――69%。








 戦闘前の分を差し引いても37%だが、69%がこの戦闘のみでのダメージだと勘違いしそうになるほど、彼女の攻撃は鋭く重かった。


 加えてその37%の内訳のほとんどが、スキルのない打撃であることがさらにヤナを驚愕させた。赤ワインを頭から被ったのだが、額を伝うそれが血ではないかと錯覚しかけた。



(酔ってんのにこれか……!)



 女性は店を訪れてから常人であれば気絶するほどの量の飲酒をしているのだが、顔を真っ赤にしているにもかかわらず対面時からずっと呂律が回っており足取りも一切ふらついていない。


 むしろ酔いが回ったことで気分が高揚し調子が良くなっているのでは、とエンジュは考察し戦闘を続けるのは危険だと判断した。



「お前はこれだけで十分だなァ……!」



 拳を鳴らし女性は笑う。まるで赤子と遊ぶような揶揄う笑みだ。



(攻撃回数はほぼ同じでこれ……ってことはヤナのやつ、かなりステが低い……!?)



 打撃主体であった彼女に対し、打撃の他に斬撃を二度直撃させたヤナだったが、明らかに劣勢になったのはヤナだった。直撃したはずの彼女は笑みを浮かべヤナの前に立つ。レベルやステータスの差が明確に出ていた。



「ヤナ、早く店の外に行け!」



 戦闘する意思を尊重したうえで命の方が優先だと思いそう叫ぶ。ヤナ自身もそうしたいのはやまやまであったが、目の前に立つ女性がそれを素直にさせるとは思えない。


 どうするか頭を回すが気が付けばすぐそこまで女性が迫っており、見上げれば女性は拳を振り上げていた。


 振り下ろすタイミングで何とか横っ飛びして回避するが受け身が取れず何度か床を転がる。自身と彼女とのあまりの差に本能が力を込めることを拒絶し上手く立てない。


 こんな時ミヒロなら上手く外へ飛ばすのだろう。いや、このまま戦い続けるのだろうか。強い存在と戦えることを喜ぶのだろうか。楽しそうに戦うのだろうか。


 この世界では自分より格上との相手と戦いを重ね、よりダメージを与えることで攻撃力の、よりダメージを受けることで耐久力といったレベルアップ時のステータス上昇値に補正がかかる。強者との戦いは己を研ぎ澄まし強化する一番の研磨剤だ。この戦いを乗り越えた時、レベルアップをしなくともその経験は蓄積される。


 ヴァロンとの戦闘でも、マッドファングとの戦闘でも、ウロとの戦闘でもそうだったように。たとえそういった仕様がなくとも、ミヒロならどんな格上の相手にも笑って立ち向かうのだろう。


 そう思ったヤナは思わずふっと笑みを零し立ち上がった。今より強くなった自分を想像したこと、何より思い浮かんだ無邪気に笑うミヒロの顔が、立ち上がらせる力をくれた。全身が痛みを訴えているが、たかが四撃。たかが69%だ。90%を超えたわけではない。数値的にまだ余裕はある。


 笑みを見せたヤナの様子に女性は若干の苛つきを見せる。



「あァ……? 余裕あるなぁ白いの」

「……ソウ?」

「……気にいらないなァ……!」



 女性はぐっと踏み込むとヤナの横っ面を目掛け首を折る勢いで蹴りを繰り出す。ヤナはそれを左手に持つ刀の柄頭による突きの力技で止めた。衝撃は店全体に走り衝突時の風圧が二人の髪を靡かせる。


 ダメージを負うにしても最小限に抑えなければゲームオーバーとなってしまう。相手の方が攻撃力も防御力もスピードも高いとなれば、小さな隙でも無理やり攻撃をねじ込むしかない。手数で補うことでしかステータスの差は埋められない。


 ヤナは右手に持つ刀を女性の顔面に向けて突き出す。止められた脚を素早く引っ込めた女性は身を屈め回避するが、それを読んでいたヤナは左足を振り子の要領で勢いをつけ女性の顎を蹴りあげる。



「うがッ!?」



 歯がかち合い衝撃と痛みで動きが止まる。畳み掛けるようにヤナは二刀を振り上げ、×字を描くように両袈裟斬りを喰らわせる。そのまま刀を持ったままの右手を顔面に向けて振り抜くも彼女の右手によって止められる。



「うざいなァッ……!」



 女性は未だに膝をついた状態だが力は緩まず、受け止めた右手を掴んで引き寄せるとヤナの額へ頭突きを見舞う。



「……ッ……!」



 まるで金属バットでの殴打と同等、もしくはそれ以上の苦痛に目が霞み視界が歪むも、意識だけは失うまいと気力だけで持ち堪えると、首を左に動かし飛んできた拳を紙一重で回避する。頭突きを受けたヤナの額から血が流れ始め、目に入らぬよう片目を瞑る。視界は狭くなるが拭う隙を生み出せない。そのような隙があるのなら攻撃を喰らわせることの方が優先であるためだ。


 ヤナは左手の刀で女性の右肩を貫き、その場に踏み込んで跳躍。体を浮かせると足を折りたたみ女性の顔面へドロップキックを叩き込んだ。


 互いに後退し再び二人の間に距離ができる。ヤナの損傷率は80%手前まで来ているが、それに対し相手の女性は30%にも満たない。ダメージの差は歴然だ。


 だがヤナは立ち上がる。刀を握る力は増し、睨む瞳は光を失わず相手を捉える。まだ戦意は折れていない。


 その様子を見た女性はぶわっと鳥肌が立つ。決して敵わぬ相手ではない。むしろほぼすべての面で此方が押している。にもかかわらず目の前の白髪の彼女は一切の怯みを見せずこちらを睥睨していた。



「……名前は?」



 女性はそんな目の前の少女に興味を持った。ここまでできる格下の人間を異性も含め見たことがなかったゆえに、思わずそう問うた。



「……ヤナ」

「……そうか。あたしはザーラ。普段女なんかには名乗ることもしないし女の名前を覚えることもしないがなぁ……。覚えたぞ。そして今、ここで潰す……!」

「……負ケナイ」



 ザーラと名乗った女性は腰に差していたジャマダハルを再び装備する。手を抜かず本気で相手をすると宣言したも同然だった。


 ヤナは静かに息を整える。武器を握ったザーラはさらに殺気立っている。今まででは殺されてしまう。








 勝つ方法があるならば……『今まで以上』に、『今』なるしかない。








 先手はヤナ。だがザーラもほぼ同時に動く。ヤナの切っ先はザーラの頬を掠め、カウンターとして飛んできた刃はもう片方の刃で受け止める。




 そこから激しい剣戟が始まった。




 躱し躱され、斬り斬られ。何度も、何度も刃が交わった。重い金属音と同時に発生した火花は周りの木々を燃やそうかと言うほど激しく散る。一瞬の油断も許されない。互いの呼吸音が聞こえそうなほど集中力は高まっていた。


 ヤナは死に物狂いで食らいつく。地を蹴り、壁を蹴り、様々な方向から仕掛けられるザーラの攻撃に対し、これ以上損傷率を加算させないよう身体へ攻撃を届かせないために、視線を店内全域に張り巡らせ、それらを迅速に捌いていく。


 最小限のダメージに抑えながら、少しずつではあるが反撃でダメージを蓄積させていった。ザーラの攻撃は豪快かつ的確ゆえに、どうしても防御や回避の割合が高くなってしまうが死んでしまっては元も子もないのだ。大きな一撃だけでなくとも敵は倒すことはできる。



「いい加減にしなァ!」



 思うように攻撃が通らないことに苛立ちつつも、あくまで冷静でいることに努めた。怒りは力しか生まず思慮を欠くことを知っているからだ。


 数秒が数分に、一分が何十分に感じられた。息つく間もない怒涛の剣戟はいつまでも続くものかと思われたが、やがて終わりを迎える。


 疲労で瞬き一回分の隙が生まれたことを……








 ザーラは見逃さなかった。








「らッ!」



 振り抜かれた蹴りはヤナの手に命中し、痛みで思わず手を開いてしまい持っていた刀は放られ床を滑っていく。手を離れた刀に気を取られたヤナを目掛けて、ザーラは追撃として履いていたブーツのヒールが突き刺さるような鋭い蹴りを鳩尾へと繰り出した。



「……ゲホッ……!!」



 地面を何度も転がり壁に激突する。せめて刀は落とさぬようにと握力は激突時でも一切緩めなかった。



「大事な武器が転がったなぁ……。取りに行くかぁ?」



 改めて優位に立ったザーラが笑う。エンジュをはじめとした客たちも悲壮感を漂わせていたが、ヤナはゆっくりと立ち上がり持ったままのもう片方の刀の刃先をザーラに向けた。頭はガンガンと響くように痛みが走り、立つ脚も油断すれば崩れ落ちてしまう。だが向けた刃だけは真っ直ぐ、ザーラのみを捉えていた。



「ヤナ、もういいッ! 早く外に出ろ!」



 外にさえ出ることができれば広い空間だ。たとえ二人の戦闘に割って入っても守りながら戦闘を行える。


 エンジュは叫ぶがヤナは声のする方を見て静かに頷いた。損傷率は90%を超え、息も絶え絶えなのだが、それでも「大丈夫」だと安心させるかのように。



「……上等だァ……!」



 一刀となったが自分が勝つと宣言するかのようなヤナの行動を、ザーラは挑発と受け取り両手を広げ猛スピードでヤナに迫る。それに対しヤナはすっと無駄のない動きで刃を後ろへ持っていく。





「〝撃技〟……!」

「終わりだァ!」





 ヤナの刃が光ると同時にザーラのジャマダハルがヤナの顔面を捉え……








 ――なかった。








「なッ!?」



 捉えたはずの顔は水面に移る影のように歪んでいる。手応えは一切ない。ヤナと思われたその姿は突き出した腕を横に払うと同時に流れて消え去った。



 本物のヤナは……構えたままザーラの後方へと移動していた。








「……〝欺ミ陽炎〟……!!」








 ザーラは声のする場所に向け刃を薙ぐが、それより先にヤナの刃がザーラのわき腹を捉える。だがヤナが当てたのは峰の部分だった。目の前の相手に勝つことに集中していたが、外に出すという本来の目的も忘れていなかった。


 そしてそれができる一撃を生み出せる技があるとすれば、ミヒロがハバラギで見せたこの技だと考えていたのだ。



「……飛ン、デッ……!!」

「うが、こいつッ!?」



 その深い一撃はザーラにも突き刺さり足が床を離れると、さらに力強く踏み込んで刃を振り抜いた。


 ザーラは壁を突き破って外へ放り出され何度も地面を転がった。目的を達成できたヤナは全身から力が抜けその場に崩れ落ちた。



何か戦ってばっかで申し訳ないです。もう少しのほほんとした気の抜けた部分も入れようと思いましたが彼女たちの真剣な戦いに水を差すことはできませんでした。


もう少し更新早くできるよう頑張ります。

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