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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
41/67

37話:呑兵衛絡み

少しだけ早めの更新。

「こ、こっちですっ……!」



 先行して走る男性の後を追う。すれ違う人々がぎょっとした様子でこちらを見て来るが視線を振り切って走っていた。二人は並行して走っているが、その間には人二人分のスペースが開けられている。



「全く、面倒なことしてくれんな……」

「……」

「……」



 空けられたスペースと妙な沈黙を気まずく思いつつ、エンジュは前方にいる男性へ疑問を投げかける。



「……なぁ、妙なやつって言ってたが見た目はどうなんだ? 武器は?」

「え、えっと……! 女性です! 武器はっ……おそらく一対のジャマダハルかと……!」

「……ジャマ?」

「ジャマダハルだな。突き出して刺すことを主体とした武器だ。あまり見かけることはねェから初めて聞くのも無理ねェか」



 ジャマダハルはコの字型の柄の平行な二本の枠の間に、一本ないし二本のグリップが刃と垂直方向に渡されている。H型となるグリップ部分は手に馴染みやすく、攻撃方法は正拳突きの要領で敵に刃を突き刺すことを主体とする。また二刀流の場合はそれぞれ攻撃と防御に使い分けることも可能である。


 リーチは短いが小回りが利き、刺突においては片手剣や両手剣より殺傷能力は高い。扱いなれたものが装備すれば隙のない立ち回りが可能だ。


 使用武器を頭に入れられただけ十分だと思い、次の疑問を口にする。



「つーか何で暴れてるんだ?」

「えっと、お酒の飲みすぎ、ですかね……」

「…………ほっときてェ……!」

「お願いですよっ! ……他の人も、怯んでる人が多くてっ……!」

「血気盛んな奴らじゃねェのかよ……」



 騒動に巻き込まれるのは面倒な性格なのだが、今回ばかりは隣にいる真っ白な少女だけに任せてしまうのは不安だと思い同行することにした。


 しかし原因を聞いたエンジュはげんなりしてしまい走るスピードが少し落ちる。



「あ、見えてきました……!」



 男性が指を差す先には一軒の酒場があり、数十メートル離れていてもその建物からか叫び声や食器類の割れる甲高い音が響いている。


 恐る恐る近づいていくと店内で飲んでいたと思われる男が何者かに吹き飛ばされたのか、白目をむいたまま窓ガラスを割って外へ飛び出てきた。男は何メートルか転がった後気絶したのか動かなくなった。


 その様子を見た三人は言葉を失い近づく足を止めていた。



「……何かすげェことになってるな……。……ふーっ……よし、行ってみよう」

「……ン」



 意を決して男性と一緒に酒場に入った三人。扉を開けるとむせ返るような様々な酒の臭いが三人の鼻腔を突き抜ける。



「うわっ……」

「……」



 ヤナはあまりの臭さに思わず鼻をつまんでしかめっ面になり、隣に立つ他の二人でもあまりの酒臭さに顔を歪めた。


 木造で二階建ての酒場内はまさに惨状だった。大勢が入店できるよう床面積は広めに作られているのだが、椅子とテーブルはあちこちに転がっている他、壁には人が突き刺さり、飲まれるはずの酒類が床や天井など至る所に撒き散らされ、木材に染み込み変色している。


 その中で騒ぎの原因となっている人物は、店の一角に設置された丸テーブルの上で胡坐をかいていた。腰まで伸びるロングの後ろ髪を頭と毛先の中間程で縛っており、腰には一対のジャマダハルが下げられていた。


 肌の露出は極端に少なく、指先まで手袋で覆うという徹底さで露出しているのはほぼ頭部のみだった。だが服の上からでもわかるほどスタイルが良く、しなやかで程よい肉つきの肢体は自然と男性の視線を奪う。


 女性の周りには無理やり連れてきたのかぐったりとした男性が何人か項垂れるように座っている。女性の脇には酒の入った樽が抱えられていて床にはもう幾つもの空の樽が転がっていた。


 この世界では飲用の際グラスを使用するのが一般的だが、酒類に関しては酒樽で貯蔵するものは取っ手の付いた小さな酒樽に注がれ提供されることもある。


 だがテーブルの上の女性の傍にあるのは貯蔵用の大きな酒樽そのものであり、彼女は楽しそうに樽を持ち上げて豪快に呷っては笑っている。



「かーっ、たまんないなぁ~……。ギルド連中がいないから飲み放題だ! マスター! 大樽で酒を追加してくれ!」

「あ、あぁ……」



 はきはきとした声でマスターと呼んだ男性に注文し、脇に抱えた樽の中の酒をまた呷る。



「あ、あの人です……」



 男性が力なく震えた手で女性を指差す。女性を見た二人は呆然と立ち尽くしていた。



「ん~?」



 豪快に酒を呷った後力強くテーブルに叩くようにして置いた。気分が良さそうに頬を真っ赤に染めている。女性は辺りを見回し入り口にいるヤナ達を発見した。



「おぉ、いい男が来たじゃないかぁ! しかも二人も……。なぁなぁそこのお二人さん! 暇ならこっちに来てくれないか! 他の連中は潰れてなぁ!」



 値踏みするような視線を向けた後、豪快に笑って近くに腰掛けるように促す。周りのぐったりとした男性たちが来ないほうがいい、と怯えた眼つきでこちらを見つめてくる。だがエンジュも男性も店内の様子からお酒を飲む気分ではなくなっていたので流すつもりで苦笑いを浮かべる。


 そして隣にいたはずのヤナは認識されていないかのようにスルーされていた。



「……アノ」






「あァ……?」






「……!?」



 騒動の原因が彼女だとわかり声を掛けると、ゴミを見るような冷淡かつ鋭利な眼つきでヤナを睥睨する。


 ヤナは女性の雰囲気の変貌に驚き、蛇に睨まれた蛙の如く一瞬硬直したように動けなくなった。



「女に用はない、よッ!」



 そう言い放ち、懐から一本のナイフを取り出しヤナに向かって投擲した。放たれたナイフは綺麗な一本の線を描いて真っ直ぐに飛んでいく。



「ヤナ危ねェ!」



 エンジュが咄嗟にヤナを庇うように動くが、女性の声で我に返ったヤナは放たれたと同時に反応できており、腰に差していた刀を抜刀。それと同時に上に振り上げナイフを縦に一刀両断する。ナイフは柄ごと綺麗に二つに分かれ後ろの壁に突き刺さった。


 何事もなかったかのように振り上げた刀をゆっくり下ろすと、ナイフを投げつけた相手に警戒心を持ちつつ話を続けた。



「……迷惑、シテル」

「あたしと一緒に酒を飲むことが迷惑なわけあるか! ここは酒場だろう? 交流の場だろう? 一緒に酒を飲もうと誘うことのどこが悪い!」

「……グッタリ、シテル、ヨ」



 ヤナは周りに座っている男性たちを指差す。だが女性は気にも留めていないようだ。



「先に潰れたこいつらがだらしないだけだ! 今酒を飲めるこの時間を無駄にしたくないだけ……。あぁ~……話してると気分悪い。やっぱり女はいらないなぁ……!」



 女性はテーブルから降りてくると腰に下げていたジャマダハルを装備し、ゆらりゆらりと歩きヤナの前に立つ。酔っているはずなのだが射殺すような容赦のない眼光から放たれる闘気と殺気は並みの人間では気絶してしまいそうなほどの迫力と圧がある。


 だがそうされてじっとしたままのヤナではない。彼女ももう片方の刀を抜いて臨戦態勢に入り、目の前に立つ女性に臆することなく睨み返す。



「お、おいおい。対抗して騒ぎを悪化させてどうするよ。とりあえず落ち着けって! あんたもだ!」

「黙ってなぁ。あたしァ今最高潮なんだよ頭ぐるんぐるんでよぉ! 心配しなくてもあんたもあたしとの飲みに付き合うんだ。そこの女は始末するから心配するな! やっぱり酒の肴にゃ男が一番よぉ!」

「……」



 エンジュが大きな声で二人を止めようとするも、彼女たちはすでに戦闘する気満々であり最早止まりそうにもなかった。



「そういう問題じゃねェし付き合うつもりもねェよ。この惨状をほっとけねェだけだ。酒飲むにしても周り見習って普通に飲めねェのかあんたは」

「あたしだって大量に買い込んであればギルド連中を巻き込んで身内で飲んでたってーの。手元にあったのが全部なくなったしギルド連中は用件があるだかでいねェからここに来たんだ! 男と飲む酒は上手いんだなぁこれが!」

「聞いてねェよ、んなことは……。ヤナ、とりあえずお前は武器をしまえ。酔っ払いに応戦すんな」



 何とか強引に話の流れをこちらに引き寄せ戦闘にならないよう努める。店内で暴れたとなれば酒場が倒壊しかねないからだ。



「……止メラレル?」

「……何とかする……としか言えねェな……」

「あたしの前で女と話すとはいい度胸だなぁ……。やっぱり斬るか」

「変な言い方すんな! お前の男になったつもりはねェよ!」

「関係ないな! あたしの傍に女は要らないんでねぇ! どうせ新しい酒が来るまで暇なんだ……。そこの白いの、暇つぶしがてら潰れてもらおうかッ……!」



 女性はそこで会話を切ると、床を蹴り爆発的な加速と共にヤナへ向かっていく。ヤナもそれに応じエンジュを押しのけ駆け出した。



「あ、おい! ……ったく」



 押されてバランスを崩し出遅れたエンジュにはもう止めることはできず、諦めたように手を額に当て溜め息をついた後、事態を収拾するための手段を思案し始める。






「しッ!」

「……ッ!!」






 駆け出した二人の刃がぶつかる。弾き飛ばされることなく衝突し、互いに踏ん張って刃を退かない。踏み込んだ足場の木材に亀裂が入る。



(……重イッ……!?)



 均衡していると思われたが、徐々にヤナの刀がぐぐっと押し込まれる。明らかにステータスに差があり力負けしていたのだ。このままでは潰されると即座に判断しヤナは力任せにジャマダハルの軌道を逸らせる。



「はッ!」



 逸らされたことで体勢を崩し前のめりになるが、自身の脇を通り抜けようとするヤナを目掛け腕を横に払う。刃は頬を掠めたが重傷には至らず、横を抜けたヤナと崩れた体勢を直した女性は向き直って睨み合った。



今回みたいに前書きに前回のあらすじみたいなの書いていこうと思います。

飽きたらやめます。※2話で速攻やめました。前回のあらすじだけ読めばよくね? 状態になるので。


35話のリムの会話を修正しました。なぜか知らないはずのヤナの名前喋ってましたからね。伏線でもなんでもないですごめんなさい。


酒場のキャラの性別はかなり悩みぬいた末女性になりました。

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