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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
40/67

36話:白い子

自分の想定する話数を超えそうで不安です。まぁ、超えても問題ないですけどね!

まだまだ序章も序章です。頑張ります!

 二人が敵意をむき出しにしている中、空気を割るような一拍の破裂音が鳴る。音の発生源はバリスからだった。



「君たち。戦うならきちんとリムから武器を受け取ってからね」

「止めようとはしないんですねぇ~……」

「お金は払っているしね」



 レイジスはバリスの言葉を耳にしたことで一旦怒りを引っ込め、リムから木製の両剣を受け取ろうと視線を移すと、肌から髪まで真っ白な小柄な女性が視界に入る。



「んあ? 何だその白いの。てめーらが固まってんなら教えてるってことか? どうにも戦えるって感じしねェけどな」



 バリスとリムは施設の利用者である以上関わる人物で、エンジュは張り合える数少ない人間であるため記憶していたが、場違いな目の前の少女が気になった。



「いや、元から戦えるぞこの子。素手だったが、槍を使った俺と互角だし」

「……へぇ」



 エンジュの言葉を聞いて品定めするように少女を観察するレイジス。ヤナは舐めるような視線が不快に感じむっとするも、それ以上に恐怖心が勝り身動きが取れなくなっていた。



(……? やっぱり妙に怯えてんな……。いやまぁ、当然っちゃ当然なのか……?)



 ヤナが怯えていることに気付き疑問に思ったが、たとえ自分やレイジスのような男性へ恐怖心を持っているのだとしても目の前の少女のそれは少し過剰に見える。それに今の場合はレイジスの性格や雰囲気的に怖がっている、と言われても納得できるため確信が持てず、この場では口に出すことは無かった。



「変な視線向けてる。まさか……こいつロリコンだー!!」

「ちげェよバカアホクソ虫便器野郎!」



 空気を壊すように紫髪の男性が場内全体に響くように叫ぶ。レイジスが反応し視線から解放され心の中で少しだけ安堵する。



「酷い言葉の羅列……。カオンさん、あまり煽らないで下さい」

「けっ」

「ふん」



 カオンと呼ばれた男性の言葉にレイジスが過剰に反応する。スノウがカオンを制するも二人のいがみ合いは収まりそうもない。



「はぁ……もう……」

「……大丈夫……?」



 ため息をつくスノウを見てヤナは思わず声を掛ける。声に気付いたスノウは苦笑いを見せる。



「あはは……。いつもこれなので大丈夫ですよ~。ご心配有難うございます」

「……」



 疲れた表情のスノウはそう言うが、耐えるように拳を握っている姿を見て大丈夫ではなさそうだと同情の視線を向けていると、訓練場の扉が勢いよく音を立てて開かれる。






「す、すみません!」






 大量の汗を流して息を切らす姿はどう見ても只事ではない。そう判断したバリスは真っ先に事情を聴くため男性に先を促す。



「どうした? そんなに慌てて」

「あ、あのっ……! 酒場で、妙なやつが暴れてて……! 誰も手に負えないんです……。誰か止めてもらえないかと……!」



 男性がバリスの元へ駆け寄り事情を説明する。リムは男性の隣へ移動し、いつの間にか手に持っていた水入りのボトルを男性に差し出した。少ない言葉で事情を察したバリスは周りへ声を掛ける。



「ふむ……誰か手が空いてる奴はいないかー?」

「誰が行くかよめんどくせェ」

「レイジスが行っても騒ぎが悪化するだけだもんねぇ」

「んだとゴラァ!」

「喧嘩してる場合ですか!」

「けっ、どうせ声を掛けたって関係ねェことだし他の誰も行かねェだろ。おい白いの。強ェってんなら俺と……って、どこ行きやがった?」



 バリスの声を無視してヤナと一戦交えようと近くいるはずの彼女に声を掛けるが返事もなければ姿も見当たらない。



「彼女なら……」



 スノウが指を差した先は入り口だ。見てみるとヤナは焦っている男性の傍に移動していた。いつの間にか壁際に置いていた二本の刀も腰に差し直している。



「……ドコ?」

「……え? えっと」

「俺を無視してんじゃねェ!!」

「あははー! 無視されてやんのバーカバーカ――ぶべッ!!?」



 カオンが煽った直後、横から迫る重く鋭い蹴りが彼の頬を捉えた。吹き飛ばされた体はそのまま壁に激突し上半身がめり込んだ。




「ふぅ……」



「「……」」



 蹴りを入れたのは何とスノウだった。彼女の蹴りのスピードにバリスや仲間であるはずのレイジスまでもが唖然としていた。



「いい加減にしてくださいね……?」



 にこやかな笑顔だがどす黒いオーラが立ち上っている。彼女の様子を見た者全員がその怒気に怯んでしまっていた。


 ヤナも衝撃と爆音に驚き振り向くも、男性の事態解決の方が優先だと判断して再び向き直る。ただその表情は青く、スノウに対しては強く出ないよう心に留めるヤナだった。



「……案内、シテ……」

「あ、え……は、はい……!」

「おいおい、関わるだけ無駄だぞそんなもん。この国じゃよくあるこった」



 唖然としていたレイジスだがヤナが男性に声を掛けたことで我に返り引き留める。


 闘技大会が行われる国は様々だが、【オーグラン】の下層部は元々治安が悪いこともあり乱闘騒ぎなどはよくあることだった。またそれを止める者は少なく、野次を飛ばして騒ぎを大きくする者が大半だ。



「よくあることならこんなに騒いだりしませんよ……」

「いてて……。一々関わってても時間の無駄には変わりないよ。……ていうかスノウさん? 蹴りものすっごい痛かったんですけども……。血ドパドパよ?」



 頭を押さえたカオンがスノウたちと合流する。ぶつけた際の衝撃で流血しており、いまだに止まっていないようだった。



「自業自得です。いつも一緒に止めてくれるメンバーが別行動なんですから。蹴られたくなければ喧嘩はしないで下さいね?」

「うぇぇぇ……」

「レイジスさんも……いいですね?」

「お、おう……」



 スノウのにこやかな笑顔から放たれる圧力に思わずたじろいでしまう。彼女を相手にここまで劣勢になるのは初めての事だった。



「君」

「……?」



 三人の会話を尻目に男性の案内を受けて現場に向かおうとしていたヤナをバリスが呼び止める。呼び止められた理由が分からずヤナは不思議そうに振り返った。



「気をつけてな。只事じゃなさそうだし」

「……ウン」

「スノウ、てめーは行かねェのか? こーいうのほっとけねェタイプだろ」

「私が抜けたら誰があなたたちを止めるんですか?」

「別に、こいつと戦わなきゃいい話だろうが。殺すのはいつでもできんだよ」

「なら今からやってみる……って言いたかったけどまた蹴られるのは御免だねェ! 俺も大人しく他の人と戦うことにするよ! うんそれがいいね、うん!」



 やってみる、まで発言した時氷水に叩き落とされたかのように全身に寒気が走り、その原因がスノウの怒りだとわかると即座に訂正する。



「で、結局どうすんだよ」

「当然、二人の監視です。気になるところではありますけど、たとえ二人が戦わないと宣言しようと、目を離していては何をするかわかりませんので」

「信用ないねぇ……」



 スノウははっきりと断言し、取り消す気はない、大人しくしていろと二人にさらに圧力をかける。



「んじゃ、俺が付き添いますかね。二人の方が止めやすいだろ」



 手を挙げて名乗り出たのはエンジュだった。使用していた木槍は他の利用者に譲渡し自身本来の武器を背に差している。



「うん、それがいいかもね。よろしく」

「んー、暴れてるのってうちの治療士さんって可能性ありますかね~?」

「いやまぁ、確かに暴れはするけど……。あんなでも仕事をほっぽり出すような人じゃないんだ。だからその線は消えるな」



 問題行動の多いバリス訓練場の治療士だが、仕事に対しては報酬をもらえることからある程度はルールを守って働いている。


 普段は姿を見せないが治療の腕は確かなのでバリス達も雇うことに反対はしていない。ただ訓練場の利用者は暴走に巻き込まれ苦情を訴えることがしばしばあり、結果的にバリス達を困らせている。



「そうですか~……」

「何でがっかりするんだリム」

「いないほうが苦情来ませんし五月蠅くなりませんし……」

「……意外と真っ黒だよね」

「失礼ですぅ!」

「えっと、それじゃあ行ってくるな。行こうぜ」

「……ン」

「待てよ」



 今度こそ出発しようと思ったのだがまたも呼び止められる。声の主はレイジスだ。



「何だよ」

「エンジュ。んでそこの白いのも。ぜってーここに戻ってこいよ。中の奴らじゃ相手になんねェから戻ったら俺と一戦やんぞ」



 レイジスの言葉に二人は顔を合わせる。



「俺はいいけど……あんたは?」

「……デキナイ」

「あァ?」

「あの……! 急いでるんですけど……!」



 レイジスが理由を聞こうとしたところで入り口の男性が会話を遮った。また話が逸れそうなところをバリスが軌道修正を行う。



「とと、そうだったな。二人とも頼んだ」

「おっす」

「……ウン」



 男性が走り始めたので二人は後を追う。




「……そういや、名前聞いてなかったな。名前は?」




「……ヤナ」




 簡単に名前だけを名乗り、二人は訓練場を後にする。


 肌も髪も真っ白な彼女が発した小さな名前は、出入り口近くにいたバリスやリム、〝アイシクルレイン〟のメンバーにもはっきりと聞こえ、彼女の名前と不思議な容姿や雰囲気は、関わった彼らの記憶にしっかりと刻まれた。






「……」






 そして、その中の一人は出入り口を……見えなくなったはずの彼女の背中を見つめていた。



まだキャラに喋らせている感覚ですねぇ……。自然な感じで喋ってくれるようにきちんと掴まないとですね、頑張ります。

内容を濃くするためにいろいろつぎ込んでもごちゃごちゃしそう、ってことで只管添削の繰り返しです。大変です。文章を削る部分で身も心も同時に削っている気分です。

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