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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
39/67

35話:氷柱の雨は喧しく

またまた新キャラ続々と。今後も登場するかは不明です。まぁ、それはいろんなキャラに言えることだけれども。

しばらくはヤナの話です。主人公は冬眠中…。

「あの子すごいですね~……予想外です」

「戦える技術がなければ君の誘いも断っていただろうしな。少し無駄もあるけれど、動き自体は悪くない」



 まだ戦闘が始まって間もないが、自分で連れてきた子の戦闘技術の高さに驚愕するリムに対し、バリスは冷静に分析していた。


 その数秒後、先に動きを見せたのはエンジュで、左手の力を緩めて木槍から手を離した。



「……!?」



 予想外の行動をとられ手を離されたことで思わずバランスを崩してしまう。それを見たエンジュは最初のヤナの速攻を模倣し、素早く体を反転させ懐へ潜りこんだ。


 エンジュは突きや掌底、膝蹴りなど多彩な体術で猛攻を仕掛ける。バランスを崩してしまったことでヤナは防戦一方になってしまうが、握ったままの木槍から手を離し即座に対応したことで繰り出された攻撃はすべて防御できていた。



「こんのッ!」



 エンジュは顔の側面目掛け回し蹴りを繰り出すが、ヤナは背を後ろに反らして回避する。だがエンジュの狙いは、ヤナへの攻撃ではなく足元に転がっていた木槍の回収で、木槍の下に足を滑り込ませると上方へ蹴り上げ、打ち上げられた木槍をキャッチし勢いよく横へ薙いだ。



「……ッ!?」



 後ろへ逸らしたことでエンジュが視界から外れてしまい、木槍への攻撃に対応できず右のわき腹に直撃してしまう。


 エンジュは吹き飛ばそうと薙ぐ力を強めると、ヤナの脚が地面から離れた。いける、と確信していたエンジュだが、視界の端に拳が迫ってくるのが見えた。



「がッ!?」



 ヤナは直撃した木槍を右手で掴み、ただで吹き飛ばされまいと残った左手で渾身の力を込めて顔面へ叩き込んだ。


 両者相打ちとなり吹き飛ばされた方向へ転がっていく。その勢いが止まると二人はすぐさま立ち上がって体勢を立て直し睨み合う。


 開始時と同様の気を緩めない表情でこちらを見据えるヤナを見てエンジュは楽しそうに笑みを浮かべた。



「……やるじゃねェの」

「……アリガト」



 エンジュは自身の体術や槍術に自信があり、訓練場内でもほぼ負けなしであった。そのため体術のみで互角以上の戦いを繰り広げた目の前の白髪の少女に驚きを見せ、同時にその強さを認め素直に賛辞した。


 ヤナもエンジュの言葉に感謝の言葉を述べ、二人は互いの力量を認め合うと軸足で踏み込み接近し、互いに蹴りを放った。


 交差するように互いの蹴りがぶつかると思われたが、瞬時に間に入ってきた人物が二人の蹴りをそれぞれ片手で止めた。






「そこまでですっ」






「……エ……!?」



 受け止めた人物は、なんとリムだった。クロスさせた両手で脚を押し返すが、さすがに痛かったのか手の平をさすっている。



「あたた……。戦闘を止めたことは申し訳ないですが、この子は体験なので本格的な戦闘をするならどちらかがもう一人分のお金を払ってからにしてくださいね~」

「……相手が女とはいえ結構本気だったんだけどな」

「女性が弱いと思っていたら大間違いですよ~! 現に、あなたはこの子に苦戦してましたしねぇ」

「こいつうぜェ……!」



 苦笑いを浮かべるエンジュに、リムは右腕で力こぶを作りニッと自慢げな笑顔を見せた後、からかい交じりの意地悪な笑みを浮かべる。思わず拳骨を喰らわせたくなるもギリギリのところで踏みとどまった。戦いを中断されたことで力が抜けた二人は構えを解き、それを見たバリスは三人の元へ近づいてきた。



「彼女には基本的に呼び込みや案内をしてもらっているけど、ここで働いている以上俺と同じことができないと俺がいない時に指南できなくなっちゃうからな。嘗めてもらっては困るってもんだ。ちなみに、きちんと全武器種扱えるぞ」

「……!?」



 その言葉に驚愕し思わずリムの方を向く。リムは照れるように頭を掻いた。



「えへへ……。褒めても蹴りしか出ませんよ~」

「怖ェよ!」

「……蹴ラレル……」

「冗談ですよ冗談。拳しか出ません!」

「どっちにしろ痛い目見んのかよ!」

「あっはっはっはっ! いいツッコミだな」



 リムの言葉に両腕を抱いて震えるヤナと全力でツッコみを入れるエンジュ。その様子を見ていたバリスは腹を抱えて笑っていた。彼女らの気の抜けた会話は緊張感漂う空気を和ませていた。



「つーか、気にしてなかったが従業員ってあんたたちだけなのか? 完璧に人手足らんだろ」

「あぁ、それは大丈夫。最近は闘技大会に参加する人たちが集まって自発的に組んで戦ってるみたいだから教える必要なくて楽なのよ」

「利用してる人間にする発言じゃねェな……」

「あはは……。事実だから何も言い返せません……」



 話から経営側の人間が三人しか把握できず気になって問いかけたが、短絡的に笑って答えるバリスに呆れて肩を落とすエンジュ。リムも苦笑いを浮かべている。


 事実、今現在ここに通っている人物たちはほとんど常連の者たちばかりで、一から教えることは最近行っていない。そのため呼び込みを行っているリムと怪我を治す治療士はともかく、バリスは動きを見るだけでほぼ何もしていないというのが現状である。



「ていうかいつもはこうじゃなくてだな……。今回はいつにも増してそういう人たちが多いんだよ。確か~……闘技大会の景品が豪華なんだっけか?」

「えーっと……。確か50万Dと……何でしたっけ?」

「うん、聞いた俺に聞き返さないでくれな?」

「一回限りの武器の無料製造権と一年保証の運び屋利用の優先及び無料パスだな。運び屋パスは他の国でも使用できるって話だったはずだ。運び屋のある国なんてごく少数しかねェけど」



 二人の会話にエンジュが割り込みリムの代わりに答える。


 オルニムの運び屋は各地に存在し、【オーグラン】では上層部と下層部の移動手段となっているが、他にも他国へ渡る方法として重宝されている。飛行距離によって料金は異なり、支払いの最低額も5000D~……と定められているが、【オーグラン】の上下層間の移動は例外の一つで、飛行距離が他に比べ極端に短いことが理由に挙げられる。


 だがオルニムの運び屋は主に大都市しか存在せず飼育頭数も【オーグラン】が圧倒的に多く他の国ではせいぜい1~2頭しかいない。理由はいくつかあるが【オーグラン】近郊にしか生息していないことがその一つだ。



「今回はいつにも増して豪華だなぁ」

「大方、国に人を呼び込むことが目的だろ。じゃなきゃここまでする理由がわからねェ。この前なんか国のお偉いさんだと思うが、鍛冶屋のおやっさんに必死になって頭下げてんのを見かけたからな。『ふざけんなァ!!』って普通に雷落とされてたし」

「はは、だろうな……」

「国は国で大変なんだと思いますよ~。この前も……」



 ヤナは夢中で話をする三人の会話に耳を傾けながら周りにも視線を移す。自分たちの戦いが終わるのを確認した者たちは練習へ戻っていた。こちらを見ている者はいない。



(……闘技……大会。……ミヒロ……参加、シソウ……?)



 闘技大会の話はイブキがさっと触れる程度だったが、改めて三人からの話を聞いたヤナが真っ先に浮かんだ感想がそれだった。ミヒロの性格をある程度掴んできたヤナは、参加するしないにかかわらず話を聞いて目を輝かせるミヒロを容易に想像できていた。



「ん、そういやあんたは参加すんのか?」



 自分が参加したいか、と言われて少し考えたが、優勝者は基本一人であり、自分が参加して最後まで残ったとしても最後まで残るであろうミヒロと最終的に戦う事になることに抵抗があった。



「……ワカラナイ。……デモ……多分、出ナイ」



 そう一言返答しておく。ヤナの気持ちは出場しない方向に傾いていた。ミヒロの性格であればきっと病み上がりであっても、話をすれば参加したいと喜んで言うのではないかと思った。


 そう踏んだヤナは闘技大会の話はミヒロに持ちかけ意志を聞いてから出場するか決めることにした。


 ミヒロが出場するなら自分は辞退し、ミヒロが出場しないと言ったなら、自分が出場する。景品に関してはどちらかが優勝すれば入手できる。何より、たとえ試合だとしてもヤナはミヒロと戦いたくなかったのだ。


 腕試しと技術向上のために参加したい気持ちもあったがミヒロの気持ちを優先したいヤナは、この選択は間違っていないのだと念押しする。



「え、何でなんだ? 結構強ェし優勝も狙えると思うぞ?」

「何か理由があるんですか~?」



 意外な答えにエンジュとリムが反応し理由を求めた。



「……ソレハ――」






「しゃッ、休憩終わりッ!」






 エンジュたちの問いに答えようとして口を開いた時、大きな声が訓練場内に木霊する。




 声の主は左腕に十字の傷を負った、水色の髪を持つ男性だった。両剣を肩に担ぎもう片方の手には飲み物の瓶が握られている。その後ろからぞろそろと、彼の仲間らしき人物たちが中へ入ってきた。



「うわ……〝アイシクルレイン〟の奴ら帰ってきやがった……」

「一昨日上層部で暴れ回って損害が出たんだろ?」

「でも噂じゃ十三階層まで攻略したって話だし、実力はあるから口出しできねェんだよなぁ……」

「また俺たちサンドバッグか……」



 彼らを見た場内の人間たちが口々に噂する。主力メンバーと思しき三人のメンバーを筆頭に武装したメンバーが十数人。訓練場が広いとはいえこれだけの人数ではスペースが圧迫されてしまうが彼らは気にせず我が物顔で休憩前に使用していた場所へ移動していく。


 大声で入ってきた男性は入り口付近で場内を物色するように見渡していた。



「お、さっきより人増えてんじゃねェか。早速……!」

「控えてくださいよもう……。血気盛んすぎです」

「るせーっての。そもそもてめーが休憩入れろ入れろってうるせェから仕方なく外に出たんだ。俺はまだ戦うつもりだったっつーのによ」

「他の人たちを潰すつもりですか……」



 男を制するのは黒に近い茶髪の女性だ。外套を纏っているが隙間からは軽装であることが窺える。武器である身長より尺のある棒を背に差している。男の身長は百七十を超えているのだが、その女性の身長は男とほとんど差がなかった。



「レイジスはやり過ぎな部分あるしねぇ。強さに執着していろんな人に勝負を強要する。これこそまさに自己中野郎……あはははー」



 男をレイジスと呼び笑うのは紫色の髪と紅い瞳を持ち、腰に通常の倍以上の刃渡りを持つ鉈を携えている男性だ。レイジスに比べ若干背は低いものの、団長や副団長にも平気で噛みつくレイジスを相手に軽い調子で対等に話せるのは仲間内でも彼だけだった。



「次笑ったら殺すぞクソ紫」

「髪色を笑うな駄犬」

「あァ!?」

「やる気……?」

「はいはいお二人とも、そこまでです。二人とも落ち着いてくださいね」

「止めんなスノウ! 今日という今日はぶっ殺してやらねェと気が済まねェ!!」

「そう言って、決着ついたことあったっけ?」



 殺気を飛ばし今にも武器を抜いて戦いそうになる二人に、スノウという女性はすかさず間に割って入り何とか止めようとする。



 いつもこの調子だと疲れないだろうか、とヤナは心の中で思った。



よかったら活動報告とかちょくちょく更新してるんで見ていってください。恥、晒してます。

ギルド名ですが適当に語感で決めることもあれば意味を調べて悩んだりすることもあります。そういった名前をぽんぽん出せる人ってすごいと思います。

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