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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
38/67

34話:〝バリス訓練場〟

今日で平成が終わり、明日から令和ですねぇ。世間はゴールデンウィークですが皆様はいかがお過ごしでしょうか。

私は家に引き籠ってます。えぇ、外出なんて論外ですよふふふ。とか言いつつ出掛ける予定はきちんとありますが。

令和もどうぞよろしくお願いします。

 外に出たヤナは散歩のように立ち並ぶ建物やすれ違う人物に目を向けながら歩いていた。イブキの後を追いたかったが、外に出た時点で姿が見えなかったため仕方なく一人で行動することにした。


 目的という目的もなかったので、興味の引かれるものがあれば近寄って観察することにした。


 路肩にはシートが敷かれており、その上に商品を並べ大きな声で宣伝するものがいれば、力自慢の男性が力比べを行うものもいる。血気盛んな人たちが集まるこの国では、武器の商売も力比べも日常的に行われており他の国より人数も場所も多い。


 ヤナはあまり興味がなく、屋台で売られていたクレープを購入し目を輝かせて美味しそうに頬張りながら、国の中央に建てられたコロシアムに向かって歩いていく。




「ボスきついよなぁ……。もうちょっと良くなんねェかな、あれ」

「遠距離武器でもあればパーティ的にもバランスとれるんだけどな」

「あとは火力枠の火力不足だよなぁ。撃技で補えるとはいえ限度があるし……」



「うへぇ~……」

「どうしたの?」

「武器の作成でお金使い果たしちゃったぁ……」

「え、そんなに使ったの!?」

「普通に鍛冶屋でやってもらったんだけど、何度か失敗してくれちゃったんだよねぇムカつく……!」

「まぁ、よくあることだと思えばいいじゃん」

「よくない! クエスト以外で効率よくお金稼ぐ方法少ないしさ~」

「あ、それはわかるかも」

「とりあえず運び屋さんで上行こっか。お腹すいた~」

「あぁ、ダメダメ。今行列凄いから」

「えぇ~!?」




「お前コロシアム参加するのか?」

「冗談。今回強い人いっぱいいるって言うし、今回はパスかなぁ……」

「強い人ってたとえば誰よ?」

「ん~……。いろんな人がいたけど一番は〝夜斬り〟かな」

「うわぁ……。じゃあ出ても勝ち目なさそうだな」

「でしょ?」




「そういえば新しく〝幻警〟ってギルドができたらしいな」

「〝幻警〟? 何じゃそりゃ」

「〝幻想警備兵団〟を略して〝幻警〟。悪人の取り締まりを主として秩序を守る者たちで構成されたギルドらしい。もうすでに各所に支部ができててメンバーの数もあっという間に二百を超えたって話だ」

「はぇ~、んじゃ悪いことは表立ってできねェってことか」

「そんなやつほとんどいねェと思うけどな。まぁそれでも占領行為や窃盗、殺人とか増えてきたみたいで、憤りを覚えたプレイヤーが設立を決めたとか」

「今まで国や町ごとにお偉いさんがギルドを雇って独立して守ってたみたいだしなぁ。やっぱ無理あったんだな~」




 様々な場所から会話が聞こえてくる。ヤナは気になった言葉だけを記憶しつつ散歩を続けた。


 特に聞き逃さなかったのは〝幻警〟の存在だ。村のためとはいえミヒロもヤナもPKをした存在である。村にいた誰かが告げ口でもしない限りその件を咎められることは無いが、これからのプレイに注意を払うべきだと感じた。


 詳しい話を聞きたいところであったが、盗み聞きがバレ気まずい空気になることを避けるためその場を離れた。



「……何、シヨウ……」

「あ、すみませーん」



 目的がないまま歩き回っていると、一人の女性が近づいてくる。群青色の髪を一つにまとめており、明るい笑顔を振りまく彼女はとても愛らしかった。



「……?」

「武術訓練場に興味ありませんか~?」



 彼女が指し示す方向には体育館と同等の大きさの道場が建っており〝バリス訓練場〟と書かれた大きな看板が掲げられていた。中から大人数の掛け声も聞こえてきている。



「……訓練……?」

「あれ、わかりませんかね? 自分の戦闘の腕を磨く場所ですよ~! どのような戦闘方法でも構わずお誘いしてますっ。通りかかったあなたが剣を下げているのでもしやと思い声を掛けた次第です~」



 彼女はその場で素振りの動作を行い、多様なジェスチャーを交えてヤナに説明する。ヤナも理解できたようで多少の興味が湧いた。



「……行ッテ、ミル」

「お、よかったです~! 見学や体験だけでも大歓迎ですっ。あっ、申し遅れましたが私はここの従業員のリムです。ささ、どうぞどうぞ!」



 リムが先導して歩いていくのでヤナは後ろをついていく。



「はっ!」「やぁっ!」「このっ……!」「まだまだ!」



 扉が開かれると熱気と大声がヤナを襲った。



「性別も年齢も武器種も関係なく、腕を磨き合い競い合う。ここはそういう場所です。ここに来る人達は私がお誘いしてくることもあるんですけど、たまに自分から来てくれる人もいるんですよ~。大抵の人はコロシアムに挑むためにここに通って実力を高めてるんです」



 ヤナは場内をさっと見渡す。入ってきた人物が何者なのかと場内の数人が視線を向けたがすぐに逸らされた。彼女の説明通り多種多様な人物が汗を流し武器を振るっている。たださすがにすべての武器は木製の物が使用されているようだった。



「おっ、新しい人か」



 入り口にいる二人を見つけた一人の男性が近づいてくる。ヤナはビクッと体を震わせ半歩下がる。表情にはあまり出さなかったが冷や汗が一粒頬を下っていく。



「この方はここの経営者であるバリスさんです。戦闘の指南も相手もすべてしてくれますよ」

「今はさすがに疲れてるけどな」



 バリスと呼ばれた緑色の髪に眼鏡の男性は参ったように苦笑いを浮かべる。比較的温厚な見た目と性格だが戦闘技術は折り紙つきだ。



「それで、この子は?」

「見学または体験です。私が引っ張ってきました」

「まーた強引に連れてきたのか……」

「強引じゃないですぅ!」

「……戦エル……?」

「意外とやる気満々だし……。とりあえずその二振りが君の武器ってことでいいのかな。リム、持ってきて」

「あ、はーい」



 バリスの指示を受けリムは武器の集められた倉庫へたたっと駆けていく。それを見届けた彼はヤナへ声を掛ける。



「とりあえず、武器が届くまではここで待っててくれる? 暇なら他の人ともう対戦を始めててもいいし。ただし組手でね」

「……ウン」

「なら、一戦いいか?」



 ヤナは一人で気長に待とうと思ったのだが、一人の男性によって遮られる。


 木槍を携えた彼は180を超える身長を持ち、赤っぽい茶髪は短く整えられ全体的に外にはねている。鋭い目つきだが表情自体は柔らかいものだった。


 白い上着の袖を肘まで捲り、グローブを装備している。下は青のラインの入った緑のズボン、黒のブーツを履いている。


 入り口で彼女の姿を視界の端に捉え密かに三人の話を聞いていた彼は、ヤナに興味を持って声を掛けてきた。



「あ、急に悪かった。俺はエンジュだ。なんか話してたから気になってな。訓練場内の奴らとの戦いも飽きちまってよ。よかったら戦おうぜ?」

「……ウン」

「……?」



 ヤナの声が少し震えていることにエンジュと名乗った男性は若干違和感を持つも、戦う意思自体は示しているので気にしない事にした。



「ん、じゃあそこのスペースで行うように。それと、彼女の武器が到着するまで……」



「……イラナイ」



「え?」「は?」



 バリスの指示に断りを入れるとヤナは腰に佩く二本の刀を壁際に置き、すっとエンジュの前に立ち対峙する。先程までとは違う真剣さと迫力だった。



「えっと、じゃあ体術ってことで」

「……ン。違ウ」

「え?」

「……ソノママ、……デイイ」



 ヤナは体術で、エンジュの槍術と勝負がしたいと思った。相手の実力を侮っているわけではなく純粋に自分の技術を高めるためだった。



『いい、ヤナ? 多分わかってると思うけど、素早く動くなら体術が必要になってくる。いざって時に動けないと何もできなくなるし。まぁじっくりとは教えられないから私の動きでも参考にしてみてよ』

『……ウン』



 体術が必要だとハバラギの復興作業中にミヒロに教えられたものの、自身の体術に自信が無かった。今まで剣術で戦ってきたヤナは、ミヒロの仲間として少しでも戦えるように自分を追い込み強くなると誓っていた。


 その静かな闘志と決意を感じ取ったエンジュは、武器を持ってヤナと向き合う。



「いいんだな?」

「……ン」

「……女相手だからどっちにしろやりづれェ……が、戦いの場なら関係ねェか」



 返事を聞くとエンジュは槍を構え、ヤナは片足を下げ姿勢を低くする。



「うーん、経営する身としてはこのまま進めたくはないんだけどな……。仕方ない。引きそうにないしこのまましちゃおう」

「持ってきましたよ~……って何か始まる体制になってる!?」



 両手に武器を抱えリムが帰ってきたが、二人が戦闘態勢に入っていることに驚き、その拍子に抱えていた武器を落としてしまう。



「あ、おかえり。この子がこのまま戦いってさ。表情的に何言っても引かないよ、多分。互いに本気でやったって死にはしないでしょ」

「……雑ですねぇ」

「うるさいな」

「治療費の事考えてくださいよ~? 一応利用料は徴収してますけど治療士さんを雇って回復してもらってるんですから」



 彼女たちが運営するこの訓練場では一定金額の支払いと引き換えに場内の相手と自由に戦闘を行うことができ、負傷した場合は治療室にいる治療士に回復を行ってもらうシステムとなっている。また治療士は訓練場とは別で治療院を設けている人間がほとんどであるため時間を縫って訪れているため雇う身分である彼らも横柄な態度は取れないのだ。



「まぁそれに関しちゃ頭が上がらないけども……。この前なんか治療士さんあまりにも暇すぎてここに来てた一人をぶんぶん振り回した後壁に投げつけてたし」

「あ、部屋の壁際にうつ伏せで鼻血出して倒れてたのってそういうことだったんですか!?」

「満足しなかったのか速足でこっちに来て他の人たちに黒い毒物みたいなのぶちまけてたな」

「えぇー……、あぁ、だから顔が紫色になって変な踊りを……」



「さっさと始めてくんねェかなぁ!?」



 痺れを切らしたエンジュがバリスへ開始を促す。



「あ、はいよー。無駄話が過ぎたな」



 話を切り上げると速足で二人の間に立つ。構える二人に目配せをする。二人が静かに頷いたことを確認するとすっと腕を伸ばす。



「……それじゃあ……始めッ!」



 二人の間を割るように伸ばされた腕が、掛け声とともにバリスの頭上へ振り上げられ戦闘開始となった。


 開始だと理解したヤナは速攻を仕掛け、迅速にエンジュの懐へ潜りこむ。



「速いなッ!?」



 不意を突かれたエンジュだが体はすぐに反応し、右手に持つ木槍を振りかぶって叩きつけるも半身で躱される。ヤナは腹部目掛け掌底を放つが槍を持たぬ左腕の前腕部分で防御され、エンジュはそのまま腕を振り上げ掌底の勢いを逸らす。


 突き出した右腕が伸びきったことで隙が生まれたため、好機と見たエンジュは前方へ転がり背後を取るとヤナの脇腹に向け一閃する。しかし攻撃を読んでいたヤナはその場にしゃがんでそれを回避、素早く身を反転しエンジュの元へ迫る。



「だらッ!」



 突きや薙ぎ払い、叩きつけなど一定の距離を保ちつつ攻撃を仕掛けていくエンジュに対し矛先を掌底や前腕での防御、また半身や上体逸らしなどの回避で上手くいなしつつ接近し腹部や顔面へのカウンターを試みるヤナ。



「んのッ!」

「……!」



 傍から見た二人の状況はエンジュの優勢と思われていたが、最小限の動きで戦い続けたことに加え数度のカウンターを受けた事が影響し、ヤナにスタミナの面で劣勢になり始めていた。だがヤナも無傷ではなく、受け流しきれずに何度か攻撃を受けていた。


 攻防を繰り返した二人は、一度真正面から拳をぶつけ合ったあと後方へ跳んで一旦距離を取った。



「はぁ、はぁ……すげェな」

「……」



 エンジュは深呼吸し一度息を整えると再度接近。突進突きを繰り出すも簡単に躱されたが、強い力で踏みとどまり振り向きながら横に一閃。だがこれを読んでいたヤナは迫る木槍を左手で掴んだ。



「……」

「……」



 双方睨み合い、僅かな沈黙が流れる。エンジュは掴まれた木槍を手前に引くも、ヤナは握る力をさらに込め対抗する。二人の戦闘のレベルの高さに周りで戦っていた者たちも目を奪われていた。




強いキャラがたくさんいると、どっちが強いか、はたまた誰が一番強いのか気になりますよね。妄想で思わず戦わせちゃいますよね。

そういう妄想ができるようなキャラが多くなるように頑張ってます。

いつか本当に戦うことになっちゃったりするかもですねぇ。

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