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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
オーグラン編
37/67

33話:〝戦いの国〟【オーグラン】

日中仕事して夜中に書いてできた分は投稿…そんな生活リズムを繰り返してるといつか体を壊しそうで不安…

話はまだまだ広がっていきますよ~!


追記:題を変更しました。

 長い戦いを終えたが、あまりの疲労度からミヒロとイブキはその場に倒れ込んだ。しかしヤナだけは何とか踏ん張って立ち続けていた。その視線の先にはミヒロがいる。



「……そうね。……ミヒロを運ばないと、ね」

「……ウン」



 ヤナの行動を見たイブキも両手を使って何とか立ち上がり両手斧を背中に差すと、ミヒロの脇下と膝裏に腕を通して持ち上げた。


 ミヒロは意識を失ってしまっていたようだ。息が荒く汗も尋常ではない。一刻も早く治療が必要な容態であった。



「はぁ……はぁ……。レベルが上がったおかげで少しだけ楽な気が……しないわね。ヤナ、出口はわかる?」

「……アッチ」



 ヤナも刀を拾い終えると鞘に納め、ミヒロの上着を回収した後森の出口へ案内する。


 ミヒロの息は荒く、戦いが終わってなお損傷率が加算され続けていた。だが無理に走ってしまうと抱えられたミヒロの体に負担がかかる。そのため素早く、かつ慎重に出口へ急ぐ。


 数分ほど歩くと三人は森の外で脱出することに成功した。



「……オ医者、サン……イル、トコ……」

「大丈夫。……近くに国があるわ。そこに行きましょう」



 ヤナは頷き、イブキと彼女に抱えられているミヒロの様子を確認しつつ、イブキの指示を聞きながら先頭を歩く。



「……場所……何デ、分カル、ノ……?」

「昨日そこに着いたのよ。その日は疲れてすぐログアウトしちゃったけど。……ん、見えてきたわ。あそこよ」



 数十分ほど歩くと大きな範囲を数十メートルはある壁で囲われている場所が見え、イブキは指を差す。


 まだ少し距離があるが、壁の中からは熱狂する人々の声や断末魔が多く聞こえてきていた。



「……叫、ンデル……?」

「コロシアムがあることで戦いが絶えないのよ。定期的に闘技大会も行われてる。でもその分怪我人が多いから医療に関わる人も多い。だからあそこなら治療を受けられる場所があるはず……。……調べた情報だけど大体あってて怖かったわ……」



 イブキは簡単な説明をヤナに行う。ヤナは説明を聞いても不安を拭えない。戦いが絶えないということは血気盛んな人間も多いはずだと思ったからだ。



「何があっても治療が始まるまでは私もいるし大丈夫。急ぐわよ」

「……ウン」



 二人は歩みを早めミヒロの治療を急いだ。



〝戦いの国〟【オーグラン】。それは図ってか図らずか。ミヒロたちは廉也が話していた国に踏み入ることになった。




   * * *




 三人が森を抜け【オーグラン】へ向けて進み出した頃、森の木の枝に腰掛け、上から三人を見守る一人の女性がいた。



「カラカラカラ……。一人も欠けずに抜ける者がおるとは。少し意外じゃったな」



 独特な笑い方をするその女性は木の上から戦いをひっそりと観察していたようだった。濃い紫色の髪を持ち、後ろを一つにまとめている。また子を見守る母親のような艶のある声をしていた。


 服装はミニ丈の浴衣だが、千早を羽織っており首からは結袈裟を下げている。全体の色は暗い赤と黒と緑で構成され、浴衣からすらりと伸びる両脚はタイツで包まれており下駄を履いている。



「彼奴も油断したんじゃろうな。……まぁ、負けた弱者に興味などないが」



 彼女は風来坊のように各地を転々と旅をしており、この〝ダスクの森〟にも何度か訪れていた。ウロとも面識があったが交流していたわけではないようだった。



「……にしても……久しぶりに見つけたの。儂がここまで興味を引かれる人間がいるとは……。どうやったらあぁなるのか……気になって仕方がないわ」



 彼女が目を付けたのは、抱えられて森を出たミヒロだった。その戦いぶりと言動から何かを感じ取ったのか、面白そうに笑う。



「カラカラカラ。行ってみるかの。つまらなければそれまで……。……ん?」



 ふと下から声が聞こえ視線を下に移すと、モンキーノックの強化個体【ゴーズ】が通常個体を数十体引き連れていた。


 何体かは彼女がいる木を引っ掻いており、ゴーズも逃がさないといわんばかりに彼女に視線を向けていた。



「……儂に挑むか。愚かじゃの」



 彼らを敵と認識すると、すっと立ち上がり手に持つヤツデの葉で出来たうちわを開き、ふわりと落下していく。



 そして着地と同時に一陣の風が女性の周りを旋回するように吹く。ゴーズのみ危険を感じ取りその場に伏せたが、切れ味を持った風は通常個体のモンキーノックの首を容赦なく刎ね飛ばしていった。辺りは一瞬で血に染まる。


 モンキーノックだけでなくその風の刃は周りの木々すら軽々と両断し、女性の周りは切り株だけになっていた。


 その様子を見たゴーズが怒り狂い、持っていた金棒を振り回すも彼女は軽々と躱した後、ふわりと飛び上がる。渦巻く風を足場にし、空中で制止する。


 それを見たゴーズは近くの木を持ち上げ、女性に向かって何本もぶん投げる。しかしその樹木はまるで彼女を避けるような不自然な移動を描いて女性から逸れていく。



「グガァアアアアア!!!」

「……埋まれ」



 そう言って足場を蹴ってさらに高く舞い上がると左足に風を纏わせ、自分の体に追い風を吹かせゴーズの頭めがけて勢いよく落下していく。ゴーズも対抗して地を蹴って向かっていくが、ゴーズより先に女性の左足が顔面を捉え地面に踏みつけ、ゴーズの下半身が地面に埋まる状態となった。



「グォオオオオアアアア!!?」

「……耳障りじゃ」



 身動きが取れなくなっても雄叫びを上げるゴーズを疎ましく思った彼女は、横に腕を一閃する。その軌道の通り吹いた風はゴーズの腹部に命中し体を上下真っ二つに分断した。



「グギャァアアアァァアアア……!??!?」

「喧しいわ」



 断末魔を上げるゴーズの首を風で刎ね飛ばした。大量の血液が辺りに撒き散らされるが、風のバリアを纏い防御する。やがて力尽き光となって散っていった。


 戦いを見ていた他のモンスターたちも彼女の姿に恐怖し全速力で逃げていく。何十体もいたはずのその場は、たった数分で彼女ひとりだけになっていた。



「五月蠅い奴じゃな……。ボスを名乗る器など到底ないわ」



 彼女はゴーズのいた穴を見つめる。



「……無駄な時間じゃった。さて、どこまで行ったんじゃ……見失わなければいいのじゃが」



 彼女は何事もなかったかのように出口に向かって歩き出す。




 彼女がいた場所には、血だまり以外残っていなかった。




   * * *




 ミヒロを連れた二人は【オーグラン】へと足を踏み入れた。


 石畳の道が幾つも枝分かれし、道を挟むように左右に様々な家屋が立ち並んでいる。中央を走る大きな道の先には円形の大きなコロシアムが構えている。


 人がごった返し常に人の声が響き、店頭に並んだ商品を宣伝する声が絶えない。


 武器や鎧を装備した者たちは挙って中央の道からコロシアムへ向かっているようだった。


 ヤナは空を見ようと上を見上げると、眩い光が照らすもそこに広がっていたのは青空ではなく天井であった。中央部と思われる部分に巨大な水晶が埋まっており、天井を支えるかのように3本の巨大な蔦の木が伸びている。また、その三本だけでなく他にも無数の柱が地上から天井まで伸びていた。



「……スゴイ」

「別名は〝二階建ての国〟でここは下層部。あの水晶が空からの太陽光をこっちの層にまで届けてるのよ。でもそれだけじゃ足りないってことで他の天井部分に発光する特別な鉱石を使って明かりを確保してるって話」

「……上……行ケル?」

「いっぱい立ってる柱の中にはいくつか人を上に運ぶための仕掛けがあるって話だけど……。エレベーターもないこの世界じゃ限られるわね。私は利用したことがないからわかんないわ」



 実際には飼い慣らされた巨大な鳥型の動物〝オルニム〟に乗って上層まで運んでもらうシステムとなっている。有料で片道500Dだ。また一度に乗れる人数には限りがある他、回数が増えるとオルニムが疲れてしまうため休憩の時間が挟まれる。そのため早い者勝ちだと上層へ行く人たちが大量に駆けこむ姿が日常茶飯事となっている。



「……ウルサイ」



 ヤナは鬱陶しく思い両手で耳を塞ぐ。国外ではまだ距離があったためマシだったのだが、中に入ってしまったことで耳の奥にまで響いてしまっていた。また近くを多くの人がすれ違うため多少なりと怯えているようだった。



「ま、仕方ないわ。そういう国だし。……んー、ここら辺で医者のいるところって言うとどこかしら……」

「あなたたち! どうしたのその傷は?」



 ミヒロを抱えたままイブキは治療の出来る場所を思案していると、一人の女性が近づいてくる。大きなつばの帽子と眼鏡でその顔は少し見えづらいが、薄いしわが刻まれているが整った容姿と声、服装から女性だという事はわかった。


 コートの様な長袖の上着にロングのワンピースを着ており、手に持つ紙袋には大量の本が積まれていた。



「あー……っと、近くの森でボスを倒してきて、その帰りなのよ。このミヒロって人が毒を受けたんだけど治療ってどこで受けられるかしら?」



 ヤナは日本語が上手ではなく、ミヒロは意識を失っている。そのためイブキが応対するしかなかった。


 イブキは簡潔に説明すると、それを受けた女性はミヒロの顔を覗き込んだ。



「ん~……すぐに見たいところだけど詳しく見る必要があるし、私の治療院へ案内するから着いてきてくれる? あなたたちも治療しないといけないのはわかってるでしょう?」

「じゃあ、あなたは……!」

「私なら治療できる。丁度良かったわね」



 イブキは思わぬ幸運に安堵する。横にいたヤナは医者と言う単語を聞いて女性の服にしがみつく。



「……自分、ヨリ……ミヒロヲ……! 早ク……!」

「あなたも怪我人でしょ? もちろん優先順位はあるけど、どのみち全員治療するから、ね?」



 必死にすがるヤナを女性は柔らかい笑みで落ち着かせると、振り返ってそのまま歩き出した。平然と歩いているがその足はかなり速く、二人もそれについていくが何度か駆け足になっていた。


 数分して彼女が経営する治療院へとたどり着く。



「お、セリア先生。おかえり」



 セリアと呼ばれた女性と共に中へ入ると、そこで働いているのか手袋をした状態で製薬のため調合していた一人の男性があいさつをする。短い金髪のその男性は、とても治療院で働く風貌とは思えなかった。



「急患よ。すぐにベッドを空けて」

「りょーかいっす。そっちの人、ここに」

「え、えぇ」

「う、うぅ……うあぁ……!」



 促されるままイブキは指示された場所にミヒロを下ろす。セリアは横たわったミヒロの体に広がる斑点を確認した。ミヒロは大量の汗を流し魘されていた。



「シマ。7番の棚からE-6番取って」

「うぃっす」



 シマと呼ばれた金髪の男性が番号で整理された棚から薬を取り差すとセリアへ手渡す。クリームのようなものが瓶に入っていた。どうやら塗り薬らしかった。



「シマ。あの子たちにも傷薬を渡してあげて」

「ほーい。二人とも、これ飲んどいて」



 シマが放り投げた瓶をイブキは危なげなくキャッチする。こちらは飲み薬らしく瓶一杯に液体が入っていた。


 自分の分を二口ほど飲むとヤナに手渡す。シマはその間にセリアの元へ駆け寄り治療の手伝いへ向かった。



「腕の方塗ってくれる?」

「はい。上半身は全部浸食してるんすかね?」

「おそらくね。私の薬の中で一番強力なものだから、傷口にある程度塗っておけば大丈夫でしょうけど……。まぁ時間がかかるかもしれないわね。治療が終わるまで時間があるし、二人は外に出かけても大丈夫だけど」



 セリアはミヒロの横たわるベッドの傍らで様子を観察していた二人に声を掛ける。これ以上の処置は行わないため目が覚めるまでは何もないからだった。



「……いえ、ここにいるわ。こうなった原因の一端は私にもあるし。ヤナは?」

「……イル」

「わかったわ。ただ、目が覚めるまであと三十分から一時間はかかるから、気晴らしに外に出てもいいからね?」

「えぇ、ありがとう」



 処置を終えたセリアは業務用の机に向き合い資料の整理や金銭勘定を行っていた。シマはシマで薬の在庫を調べている。


 二人はセリアが用意してくれた椅子に座りしばらくミヒロの目覚めを待っていたが、少しするとイブキが徐に立ち上がった。



「……! 行ク、ノ?」

「ここで待つって言ったけど……ミヒロの目が覚めた時にどんな顔で向かい合えばいいか少しわかんないし……。お店も見たいし、気分転換してくるわ」



 そう言ってイブキはそそくさと立ち去った。言われて少し考えた後、ミヒロの頬に触れた後ヤナも立ち上がる。



「……アノ……。マタ、来ル、ノデ」

「えぇ。いつでも来てね」



 そう言ってヤナも戸を開けて建物を出る。行き先は決めていなかったが、今はとにかく歩きたかった。


 二人がいなくなると、セリアは据わったまま椅子を回転させミヒロの方へ視線を向ける。



「……普通なら、半日はかかるのに……どういう回復速度をしているの……?」



 長年医療に従事してきたセリアだが、ヤミオロチの毒の浸食が進んでいる状態から回復するまでのスピードが段違いであることに驚いていた。



「……何か……、この子にはあるのかしらね……」



 まるで何かを懐かしむように、目を細めて穏やかな表情でミヒロの寝顔を見つめる。



「この子ならきっと……。……まぁ、今はまだ早いけど」



 呼吸も落ち着き静かな寝息を立てるミヒロを見て安心したのか再び机と向きあう。





「……この子たちに、アスタルト様の御加護があらんことを」





 その呟きは、空気に溶けて消えていった。



また女性キャラ出てきましたけど男もバンバン出していきますんで。

バランスを取るのって難しいですね。

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