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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
31/67

断章2:背中を見る二人

おまけその2です。あと人物紹介も残ってます。頑張ります。

お話ごとに人物紹介の追加と更新をするので数がすごいことになりそう……


 これは、ミヒロがこの世界へ来て間もない時の事。


 訳も分からず二人の男に追われていたミヒロは【スクラム】の外へ走って逃げて行った。その後ろ姿を見ていた二人は追いつかないと踏み足を止めた。



「はぁ……はぁ……。すげェなあの子」



 二人のうちの一人――クラハが腰に手を当て感心したように呟く。赤髪の短髪で背中には槍を携えている。軽装でレベルが上がっているとはいえ全力疾走を続けたため、体力がほぼ底を尽きていた。



「だな。ログインしてすぐの人間とは思えん……。恐らく普段から体を動かしていないとできない動きだな」



 冷静に追っていた少女の分析を行っているのが鎧に身を包んだもう一人の男だ。名前はアルベウスで顔を覆う兜でその容貌は窺えないが若干疲労が混じった声だった。



「そうじゃなきゃ無理だろあれは。はぁ……。でも追いつけねーってなんか悔しいわ……」



 そう言ってクラハは近くの木箱に腰掛け頭をガシガシと掻く。日陰になっていたため日光によって体力を削がれることもないと考えたようだ。



「ふむ……。だが、これは報告してもいいだろう」

「あぁ? 団長にか。でもありゃ叩けばそれほどじゃねェんじゃねーの? それに女子は戦闘って柄じゃないだろ」

「一応だ。勧誘するか敵として警戒するか。いずれにせよそれが俺たちの仕事だろ。それにうちの副団長が女性なのを忘れているのか」



 二人は所属する団長からの指示でクレアシオンの世界に入ってくる人間の実力を測るためにミヒロに行ったように襲い掛かり、その逃げ方や対応を審査していた。


 殺しは行わずあくまで実力調べをするだけであり、簡単に捕まるような人物は適当に逃がし、実力のある人物は名前を聞き出して記録し団長へ報告していた。



「下っ端の仕事って感じだよな。殺しに行くつもりで行って殺すなってのは注文多くて困るんだけど」

「PKとして有名になりたいのかお前は」

「それは勘弁。てゆーかお前の方がレベル高かったわけだし鎧脱いで追いかけりゃ捕まえられただろ」

「……鎧は飾りじゃない」

「あーはいはい。お前の失態だって報告しとく」

「それはおかしいだろう!」

「おかしくなんかないねー」



 アルベウスは怒るもクラハは全く意に介さず、いつもの調子で返している。



「だってさ。結局あいつの名前わかんないままだろ?」

「……身軽なお前が頑張ればよかっただろ。お前の失態だな」

「この……!」



 クラハは思わず拳を作るがすぐ引っ込める。



「はぁ……。んで、どうすんだ? 追いかけんのか?」

「いや、何もしない。俺たちの仕事の範囲はあくまでここまでだ。ここを出れば俺たちは手を出せない」



 新規のプレイヤーはすべて【スクラム】の中央広場に出現するため、他の場所を監視することはしない。同じことの繰り返しにクラハは大分飽きていた。



「頭かてーなアルさんは。例外ってことにしておけばいいだろ。追いかけたほうが絶対面白いのにさー」

「その間他のプレイヤーを見ることができないだろう。追いかけたいならクラハ一人で追いかけてくれ」

「ちぇっ。……まぁでもいいや。あいつの顔は覚えたし」

「あぁ。俺も覚えてる。いつか名前も知れるさ。さて、そろそろ戻るぞ」

「うぃっす」



 アルベウスの言葉を聞いたクラハは腰を上げ、二人は来た道を戻ろうとしたところ、前方から一人の女性が二人の元へ近づいてくる。


 長い茶髪を一つに束ね、端整な顔立ちをしており大きな藍色の瞳は現実離れしているほどに美しいものだった。腰にはレイピアらしき細剣を携え、革製の上着にズボンにブーツという出で立ちで胸部には銀色に光る胸当てを装着していた。



「二人とも、調子はどう?」

「あ、レイさん」

「どうも」

「用事があって来たけど、あんたたち何でこっちに? いつもの場所にいると思って一回広場に行ったんだけど」



 女性の言葉にクラハが反応し、アルベウスは軽く会釈をする。レイと呼ばれた女性は足を止め二人へ問いかけた。



「いや、先ほどまでは広場にいたのですが……」

「初期とは思えない逃げ足で逃げた奴がいたんすよね。完全に隙を突いたと思った俺の攻撃も躱してたし。んでそいつを追いかけてたらここまで来てたんすよ」

「ふむ。それは興味深いわね……。でもやりすぎてトラウマ刻んだりしてないでしょうねその人に」



 レイの目つきが鋭くなる。二人の仕事は把握しているが多少強引な部分もあり不安に思っていた。



「大丈夫ですって。そいつ怯えてませんでしたから」

「…本当?」

「えぇ。逃げの一手でしたが体の動きに迷いがありませんでした。普段から体を動かしている証拠です。おそらく戦闘の心得もあるかと」



 アルベウスの説明を受け、レイは顎に手を当てる。



「なるほどね……。ま、今後の功績次第って感じかしら。他には誰かいい人はいた?」

「こいつが見逃した分を除いても何人かいましたね」

「お前の分まで全部ちゃんと記録してるっつーの! 俺が仕事してない的な言い方すんなよこの鎧ムレムレ野郎。けどまぁ、俺が見た中で変わった奴は何人かいたんすけどね~、兄妹とか髪の長いおっさんとか。でもさっきの奴の方が断然走力あったし……」



 クラハは両手を頭の後ろで組み、思い出すように視線を上に向けながら話し、アルベウスもそれに賛同する。



「だな。お前よりスタミナはありそうだ。あとムレてなんかいない訂正しろ」

「訂正はしてやらねェからな。つーか一言余計なんだよなぁこの鎧バカ」

「軽口バカよりマシだろう」



 その一言にキレたクラハはアルベウスを睨みつけびしっと指を差す。



「はぁ? 言っとくが俺は口の堅さには定評あるんだぞ!? いいか、俺は言わない洩らさない利用して脅すという秘密共有時の三原則を律儀に守ってんだ!」

「脅すなアホ!」「脅すな!」

「ってぇ!?」



 胸を張って主張するクラハに二人は一緒に頭を叩き大声でツッコむ。



「今の発言で私の中でのあんたの信用落ちたんだけど……」

「マジっすか!? や、やだなーもう! 軽い冗談っすよ!」



 クラハは必死に弁明するもののレイの表情は変わらない。レイは二人の先輩、ギルドに至っては副団長にあたる人物なので無暗に信用を失いたくないのだ。



「その冗談が嘘だと信じられなくなってるって話だ」

「全く持ってその通りよ……はぁ……」



 レイは頭に手を当てため息をついた。



「いや信じてくださいって……。仕事だって真面目にやってたんすよ? 今だって報告しましたし、仕事ぶりはアルさんが見てるし。な?」

「そうだな。……少なくとも俺がいる前ではサボらなかったな」

「……」



 そう言ってじっとクラハを半眼で見るアルベウス。その言葉を聞いたレイも同じく半眼でクラハを見た。



「あのー! その俺がいなかったらサボってた的な言い方やめてもらえるか!? 俺頑張ってたろ! レイさんも一緒にやんないでください!」



 ツッコみを入れたクラハはツッコミの疲労感からか先程まで座っていた木箱に再び腰かけた。その様子を見たレイも一息つくと二人の方を向く。



「ほんと、あんたたちは変わんないね」

「俺別にツッコミ担当ってわけじゃないんで勘弁してくれません!?」



 けらけらと笑うレイにキレてツッコむクラハ。レイは副団長である以上敬意を払って話しているが、年齢に差はあまりない。よって距離感も現在のようなものに落ち着いていた。



「そういえば、先ほど用事があると仰ってましたが、どのような?」



 レイが訪れた際の言葉を思い出したアルベウスはそう問いかける。



「あぁ、そうだった。二人とも、メンバーの招集がかかったからギルドの拠点に来てちょうだい。団長からメンバー全員に話あるそうだから」



 その言葉を聞いたクラハがげぇ、と嫌な表情を浮かべる。



「何か嫌な予感がするわぁ……。てかチャット機能とかついていればレイさんもわざわざここに来る必要なかったんだけどな」

「ふむ、それは一理ある」



 アスタルトオンラインでは遠距離で行う文字や声での会話機能が実装されていない。よって遠くにいるプレイヤーとの会話はその人物の元へ直接行って話をしなければならなかった。



「? よくわからないけど、私は他にもここに用事があるからちょうどよかったわ」

「その用事ってなんなんすか?」

「あんたたちは関係ないことよ。それももう済ませたし、とっとと行きましょうか」

「りょーかいっす」

「はい」



 レイは二人に背を向け歩き出したので、クラハとアルベウスも慌ててついていく。レイは他の人間たちに比べ歩くスピードが速いのだ。自分たちのペースで歩いていればいずれ姿を見失う可能性もあったことから二人は多少早歩き気味になる。



「はぁ……。団長ってあまり喋らねェ人だから何言われるか予想できねェんだよなぁ」

「そもそも会う機会も少ないしな。だがダンジョンに潜ったりフィールド攻略もしている。拠点にいる方が少ないし常に前線にいるから仕方ないだろう」

「でもいいや。しばらくここを出てなかったし。ようやく【スクラム】の外に出られると思えば!」



 ぐっと両腕を上げて伸びをするクラハ。今回の様な招集等がない限り同じことを繰り返していたせいか、久しぶりに外に出られることへの喜びから先程までの疲労感が吹き飛んでいた。



「また戻されるかもしれんがな」

「それは勘弁だわ」

「早く行くよー」

「ちょ、早いですって!」



 会話しているとレイから声がかかる。気が付くと数メートルも離れていた。


 二人はダッシュでレイに追いつく。


 この後二人は距離が開かないように無言且つ早歩きでレイの背中を追いかけていた。




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