断章:両親は……
短いですがおまけその一です。
コメディ要素は徐々に増やしていく予定です。
「ただいまー」
「おかえり。暑かったでしょ?」
ある日の事、未尋は学校から帰宅すると母の紫月が出迎える。エプロンをつけていたことから夕食の準備をしているようだった。
「まぁね……。だって午後に体育やるんだもん。楽しかったけどへとへとでさ~……」
「ふふっ、すぐ着替えたら?」
「そうする~。ていうかシャワー浴びるね~」
「はーい。着替えは持っていくわね」
「うん」
未尋は紫月との会話を終えると風呂場へと向かう。普段はファブリーズ等で消臭するくらいだが、明日は休日のため洗濯ができるため制服を脱ぐと脱衣所に置いてある籠へ放り投げた。
髪を結んでいたゴムも外し浴室へ入りシャワーを浴び始めた。
「ふぅー、気持ち良い~……」
早くアスタルトオンラインで遊びたい気持ちもあったが、汗で蒸した状態のままゲームをプレイする気も起きなかった。
未尋は時間をかけて自身の汗を洗い流すことにした。
「よいしょっと」
紫月は未尋の部屋から衣服を取り出すと脱衣所の籠の近くに置く。と、そこに加護に入った制服が目に入った。放り投げたためかきちんと籠に収まっておらず乱雑ではみ出している。
「まったくもう……」
そう言い紫月は制服を手に取る。そして……。
「……未尋の臭い……はぁあ~……」
躊躇いなくその制服の臭いを嗅ぎはじめた。
そう。紫月は特殊性癖の持ち主なのである。
臭いを嗅ぐことだけではなく、数多くの性癖を持っている。未尋の性別が男でありながら女の子として育ててきたのも性癖が関係しているのだ。
「おーっす。帰ったぞ」
「ん、いけないいけない。あなた、お帰りなさい」
臭いを堪能していると未尋の父、陽一が帰宅したので、紫月は葛藤の末に制服を籠に戻した後陽一を出迎える。
陽一の手には仕事鞄の他に手提げ袋を一つ持っていた。
「あら、何か買ってきたの?」
「あぁ。未尋宛にな」
「あれ、おとうさん帰ってきてたんだ。お帰りなさーい」
二人が会話しているとシャワーを終えた未尋が脱衣所から顔を出す。Tシャツにハーフパンツというラフな格好で、タオルで髪の水気を拭いていた。
「お、未尋ただいま。シャワー浴びてたのか」
「うん。さすがにあっつくてさ」
「わかるなぁ。あ、未尋。お前にプレゼントだ」
プレゼントという言葉を聞き思わず目を輝かせる未尋。
「プレゼント!? 何々!?」
「プレゼントとは……これだ!」
陽一は手提げ袋の中身を取り出し両手で広げて見せる。それを見た瞬間未尋は苦い顔をする。
その手にあった物は、チェック柄のスカートだったからだ。
「未尋に似合うと思――」
「着ないよバカっ!!」
そう。陽一もまた特殊性癖の持ち主なのである。
スカートを見た未尋は手に持っていたタオルで陽一の顔面を叩く。
「もう何でそういうものばっかり買ってくるかなぁ!?」
「い、いや俺はちゃんと似合うと思ってだな……」
「その前に私の気持ちを考慮してくれます!?」
「我儘言わないの。ほら今すぐ着なさい?」
「そうだよねおかあさんはそっちサイドの味方だよね知ってた!!」
未尋は呆れてものも言えなかった。止めてと抗議しても無駄だと悟っているからだ。
この両親の性癖は片方の性癖が移ったわけではなく、二人とも特殊性癖を最初から持ち合わせていたのである。
二人は美男美女として中学生の頃から異性に言い寄られる存在であった。最初は普通に付き合う気がなかったことを理由に告白を断っていたが、高校生の時に目覚めた性癖が災いして、そのことを知られたくないことを理由に断るようになっていた。
そんな二人は大学時代に出会い、ふとしたきっかけで互いが特殊性癖を持っていることを知り、一気に仲が深まったのである。
その二人が育てた子供がどうなるか。それが今の未尋である。
「はぁ……。もういいや。それ頂戴」
「着てくれるのか!?」
「焼却処分するに決まってんでしょうが!」
未尋は陽一の手からスカートを奪い取るとゴミ箱のあるリビングへと向かう。
「嘘だぁ~!」
陽一は膝をつき頭を抱える。オーバーすぎでしょ、と思っていると、紫月が未尋の手から見事な手際でスカートを奪い返すと未尋の頭から無理やり被せる。
「おかあさん!」
未尋は咄嗟に腕を上げてスカートが腰の位置に来ないよう抵抗する。
「いいから着なさい~……! 絶対似合うから~っ」
「着ないってばもー!」
必死の抵抗の末、紫月は諦めたように未尋からスカートを脱がせる。
「もうっ」
「それはこっちのセリフ! 部屋に戻るからね!」
未尋は怒りを散らすように足音を大きく立てながら自室へと戻っていった。
「はぁ……。紫月。俺もシャワー浴びるな」
「はーい。着替えとタオル持っていくわね」
未尋が去った後、何事もなかったかのように陽一は立ち上がり鞄を紫月に持たせると脱衣所へ向かっていった。
「ん~……。はっ、未尋がゲームをしている間にあのスカートを……! よし、ふふふ……」
紫月は不敵な笑みを浮かべると、陽一の着替えを取りに行くため自室へと向かった。
「……何だろう。すごい悪寒が……」
未尋は嫌な予感がしたため、少し考えた後ゲーム中の振りをしてクハイリヴァを装着するものの電源は点けず目を閉じるだけにした。
その後、紫月は陽一が購入したスカートを持って部屋に忍び込み、未尋に履かせようとしたところを蟹ばさみで捕らえられ未尋に説教された。
反省の色を見せない紫月に、未尋はため息をつくしかなかった。
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