2話:【序章】性別
最初の話内容なさ過ぎた……
世界は、二十一世紀後半へと入った。
国や町の至る所が近未来化し、人々はさらに発展を遂げた。その発展は目覚ましいものであり、昔から言われていた日本の技術は、大いに進歩した時代。
インターネットや携帯型端末を始め、多くのものを人々は利用するようになり、情報は広く、早く伝えられるようになった。
そんな中、ある一つのゲームのサービスが開始される。
それが、〝アスタルトオンライン〟
革命とも呼ばれる発明であり、発売となると多くの人々が騒ぎ、湧いた。
ゴーグル型の最新起動機器、《クハイリヴァ》を頭に装着し、楽な姿勢で電源を入れると、《クハイリヴァ》を媒介として脳に意識を接続し、仮想空間、《VR》へと意識ごと転送される。
俗にいうフルダイブ、というものである。
数年前、もしくは数十年前から研究が続いていたフルダイブによるゲームプレイが、ようやく実現したという。
人々の交流は、『ゲーム』の中で実際に協力プレイをすることだってできる。男女関係なく戦力として、仲間として、気兼ねなく皆が話し合える環境というものが完成したのだ。時には、ゲーム内で知り合った全く身元すら知れない人と恋愛関係に発展、なんてこともあるという。
ゲーム内に結婚システムも存在するのだが、ゲーム内の結婚をきっかけに現実世界でも結婚するに至る事例もある。
人々の交流の積極性に加え、大きく強大なモンスターに立ち向かう挑戦の心、助け合える思いやりの精神を磨き上げることもできるのだ。
現在、発売して三か月しか経っていないというが、その人気は未だ衰えることなく、それどころかさらに人気に火が付いた。
とはいえ、プレイしたことのない未尋にとっては、全く関係のない事であった。
「んぐんぐ……」
「おっ、未尋も昼?」
未尋が黙々とお昼を食べていると弁当を持った男子が近づいてきた。
アシンメトリーの黒髪は右目にかかるほど長く、後ろは短くさっぱりしている。少しジト目っぽい眠そうな双眸は夜空に似た藍色だ。
彼の名前は佐波廉也。未尋の友人の一人で、クラスではかなりモテるほうの部類に入る男子である。
「にゃ? うん、見た通り」
「一緒に食べていいか?」
「別にいいけど……。何かやるの?」
基本的にテスト期間に部活はないので、全員と言っていいほどの生徒たちは学校に残らず下校する。部活の自主練をする生徒もいるにはいるが、今年の蒸し暑さのせいで家に帰る生徒の方が多い。
しかも未尋たちが通うこの高校では、テストの一週間前から勉学に身が入るように部活停止期間を設け、部活をしない時間を勉強の時間に当てるという仕組みを導入している。
おかげで未尋の通う高校は学力がかなり高く、その分倍率も高かった。
勉学に励む生徒たちも多いが、この高校の特徴は自由な校風である。制服は定められているが、服装の規定は緩めだったりする。
ネクタイを緩めていても、Yシャツを外に出していても基本的に注意されないのだ。大事な式典などでは服装は正さなければいけないが。
「ちょっと対人戦闘の組手をな……」
「あー、アスタルトオンラインのためだっけ?」
「そ。体の使い方だって必要なわけだし。未尋だって運動は得意なわけだし、十分戦えると思うぞ?」
「うーん、そんなもんかなぁ」
アスタルトオンラインはゲームをプレイする時、フルダイブシステムを採用しているのだが、文字通り体を意識ごと電脳世界へダイブさせる。いわば転移とそう変わらない感覚である。
アスタルトオンラインでの攻略対象は迷宮、いわゆるダンジョンが主だ。
迷宮の道中でモンスターが襲ってくることだってもちろんある。そのための戦う技術はゲーム内でもこの現実でも可能だ。
体の動かし方であれば、こちらの世界でも大差ない。
ただ、ゲーム内での体はゲーム仕様でステータス補正がかかるので、体が軽くなったような感覚になる。
尤も、プレイするどころか《クハイリヴァ》すら持っていない未尋には興味はあれど実感のない話であったが。
「昨日も遅くまでダンジョンに潜っててさ、ギリギリだったけどレベル上げできたし」
「楽しそうだね」
「あぁ、すっげぇ楽しい。あぁやってのびのびと体を動かせるなんてできないからな! あの世界なら自由にやれるし」
「それで女子をナンパとかするんだ」
「ばっ、おまっ!?」
未尋はニヤニヤしながらからかうように言うと、図星なのか知らないが廉也はかなり焦っている。
「他の奴らに聞こえるだろ! そういうこと言うな!」
「私には言ってるのに?」
「未尋はいいんだよ。ていうかやってねーし」
「どうかな~?」
「やってねーっての!」
変な言い争いが続き、未尋は笑いながら食事を進める。それを見てか廉也も食事を始めたようだ。廉也の食事は購買で買ってきたパン二つ、焼きそばパンとホットドッグだ。
ラップを外して大きな口に焼きそばパンを詰め込む。
「そ、そんなに急いで食べなくても……」
「飯食う時間すらもったいないしな」
「急いで食べても喉詰まらせるよ?」
「大丈夫だって。そんなこと小学生でもしね……うっ!?」
そういった矢先に、廉也は自分の胸を強く叩き始めた。
「ゴリラの真似?」
「ん~! んんーー!」
喉が詰まっているのでうまく声が出せない。そのせいで廉也はツッコミができなかった。未尋の方もさすがにツッコミをさせようと思っていないのでバッグの中の水筒を取り出した。
「わかってる。わかってるってば……。はい」
未尋が水筒を差し出すと、廉也は急いでそれを受け取り一気に飲み干しパンを流し込む。
「……んっ、んっ……、ぷはぁ! あー苦しかったー!」
「ま、フラグ回収お疲れ様とでもいえばいいのかな?」
「やかましわ! でもありがとな。水筒」
「うん。もう口つけちゃったやつだけど」
そう言った途端、廉也が固まった。未尋は何事かと思ったが、その後ゆっくりと手に握っていた水筒を机の上に置く。
「……悪い」
「何で?」
「……いや、ほんとごめん」
「え、ちょ、どゆこと?」
廉也は謝っていたが、未尋にはその理由が分からなかった。廉也は謝り終えると何事もなかったかのようにパンを再び食べ始めた。
「はー……やべー、マジで死ぬかと思った……」
「よく噛んで食べろ、って小さいころから言われてたでしょ? 自業自得」
「うっ……。ま、次から気を付けるよ」
そういうと廉也は食事のペースを落とした。それでも自主練したい気持ちが抑えられないのかあまり遅くなっていないように見える。
未尋は少し呆れた様子で再び食べ始めた。
「未尋。今日のテストどうだった?」
「テスト?」
「正直俺はダメだったわ……。科学とか明らか授業でやってない範囲出てるしよー」
「あはは……。先生が範囲を誤ってのかもね」
「……何か余裕だな」
「だってそこの範囲も無駄に予習してたからねー。おかげで無駄にならなくて済んだけど」
「ずるいだろそれ!」
「何が?」
「全部だよ!」
「全部!?」
廉也の言うことを未尋は少し理解できていなかったが、反応が面白いのでそのまま話を進めている。
「はぁ……。勉強も運動もできるってお前何なんだよマジで……」
「ひどい言い方……。それに、多分最初だけだよ。多分この後はどんどん成績下がっていくんじゃないかなぁ……。あまり勉強好きじゃないし」
「同じ勉強嫌いでもここまで差がつくかよ……」
あまり揮わない結果だと諦めているのか、廉也は小さく肩を落とす。
「強いて言ったとしても……、うーん、やっぱり単に努力あるのみだと思うよ? 今回の試験だって予習してたからよかっただけで、多分次はこうはいかないかも」
「え、未尋の家って厳しい家だっけ?」
「んにゃ、そうでもないよ。どっちかというと自由な方かな」
教育に関して未尋の両親はあまり口出しをせず、成績を見せろとも言われない。自由すぎてほとんど何をしても怒られない程だ。
「私は自分が好きなことをしてるだけだしねー。勉強はあれだけど、運動は大好きだから」
「……俺はそこまで考えてなかったな……」
「でもまだ高校一年生なんだし、気長にやれば大丈夫だと思うよ?」
「それもそうか」
話が終わったので二人ともまた食べ始めた。
教室にはまだ残っている人もいるが、皆はもう昼食を取り終えていた。教室のカギを閉められるまで次のテストの勉強をしているのだ。
「ごちそーさま」
数分して、食べ終わった未尋は弁当を仕舞い始めた。そのタイミングを見計らって教室に残っていたクラスメイトの女子が未尋に声をかけてきた。
「ねぇ、未尋ちゃん。今日一緒に帰らない?」
「前から言ってるけど、ちゃん付けはやめてってば……」
やめてといっても悪びれもせず笑いながら謝る態度なので、一応は止めるように言っているものの半分は諦めていた。
「ごめんごめん。それで、どう?」
「あ~……、今日はこっちの付き添いかな」
「は、付き添い?」
廉也は理解できずに言い返してしまった。未尋は慌てて小声で廉也に話しかける。
「(いい口実になるから話を合わせて!)」
「(お、おう)」
未尋の剣幕に、廉也は慌てながらも一応その気持ちを汲み取り会話を合わせる。
「一緒に帰るの?」
「あ、あぁ。俺が先約なんだ」
「ちぇーっ……。ナンパ男と一緒にいたって楽しくないよー?」
クラスの女子がからかうように笑いながらそう言って、周りにいる女子もクスクスと堪え切れず笑い出す。それを廉也が黙っているわけもなく。
「だからナンパなんてしてねーっての! ほら、お前があんなこと言うから変なこと言われただろうが!」
「別にいいじゃない。楽しいんだし」
「俺は楽しかねーんだよ!」
勘違いされたままなのが嫌なのは未尋も廉也も同じ。廉也もそのことを言えば未尋の動揺を誘うことだってできた。が、未尋の場合、未尋自身に悪意はないので、いざしようと思うと罪悪感に襲われるのだ。
「あはは。……じゃあ、行こ?」
未尋は席を立ち、後ろを振り返って廉也に言った。振り返るときに長く艶のある髪が風に靡いて香りを振りまく。そよ風が髪を揺らし、窓から差し込む陽光が表情をより明瞭に映し出す。
「あ、おう」
廉也は若干動揺し固まってしまったため反応に遅れてしまったが、慌ててそれに続いてバッグを掴んで未尋を追いかけていった。
「お熱いねー」
「そういうんじゃねェって!」
「でしょー?」
「未尋も乗るんじゃねェよ!!」
女子のからかう声を聞きながら、未尋と廉也は教室を出た。
「あははっ! はぁー。楽しいなー」
「俺は楽しくねーよ! ていうかあいつらって何であんなに元気なんだろうな……。お前も含めて。からかって楽しいのか?」
「楽しいからやるんでしょ。実際楽しんでたし」
「まぁ、否定はしないけどよ。でか、それを言うならお前もだろ!」
「にゃっ?」
「明らかに俺をいじって楽しんでるだろ!」
「そんなことないよ! でも楽しいからいいじゃん!」
「それを楽しんでるっていうんだよ! 分かれよ!」
そんなことを言いながら階段を下りていく。
未尋たちが通う高校は五階建て構造になっており、未尋たちの一学年のクラスはすべて四階にある。
一応エレベーターが完備されているが、学校に来たお客さんや先生が確か普段は使用できないので生徒たちは階段を使用するほかない。
ま、ちょっとした運動になるから別にいいかな、と未尋は思っていた。
それはまた廉也も同じである。
廉也は自主練の時などに、階段をうさぎ跳びして体を鍛えているのだ。
「そういや、付き添いなんて必要ないのに、何であんなこと言ったんだよ。いい口実とか言ってたけど……」
「理解してよ……。あの人たちと一緒に帰るとなると絶対買い物に付き合わされる羽目になるの」
「それが何か問題になるのか?」
「そりゃまぁ、エラいことになるよ……。絶対って言っていいほど服屋に連れて行かれるし……」
行く前からカタログをずっと見せつけられている気分というのはあまり優れないものなのである。未尋はそれを実感しているからこそ言えるのだ。
「いや、買い物ぐらい付き合ってやれよ。その見てくれだったら一緒にいても違和感ねェのによ」
「そういう事を言ってるんじゃないの……」
「私は男なの。勘弁してって思うんだけど……」
ちゃん付けされたり、女子と一緒に買い物したり。そういう事をよくされているのだが、未尋はそれを嫌がっている。
その理由は単純、袰屋未尋は男だからである。
お読み頂きありがとうございます!
まだまだ序章は続きます。ご了承ください。