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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
29/67

28話:二人

少し詰め込みましたがこれにて一章完結となります。

二章に入る前におまけ2話、主要人物紹介、ハバラギ編の人物紹介を挟みます。主要人物紹介は序章の前に割り込んで入れます。

遅い更新で申し訳ありませんがまだ物語は始まったばかりです。誠心誠意頑張っていきますので応援のほどよろしくお願いします!

「……終わったー!!」

「……」



 ミヒロはそう叫ぶと、大の字になって床に倒れる。頭や全身からの流血が床を染めていく。息も上手く整えようとするが上手くいかない。ヤナはその様子を心配そうに見つめていた。



「はぁ……、はぁ……。お疲れ様、ヤナ」

「……ウン。……オ疲レ」

「はぁ~~……。これで一階層って……。楽しー!」

「……」



 先程の戦いを笑顔で楽しいと言い切ってしまえることに驚くヤナ。ミヒロにとってこの戦いは辛さよりも楽しい気持ちが勝っていたようだった。



「……動、ケル?」

「ん? 動けないこともないけど、全身痛くて動きたくないや」



 天井を仰ぎ見、何度か深く深呼吸をする。楽しいとは言いつつ体は限界に近かった。



「でも、改めて話しておかないと」



 そう言いミヒロは体を無理やり起こす。ほぼ力が入らない状態なので両手を地面に付き上半身を支える。



「……?」

「……私さ、ギルドを作ろうかなって思ってて」

「……ギル、ド」



 ヤナが小さな声で呟く。言葉を互いに理解できずコミュニケーションが取れない自分がギルドに誘われるなど考えてもみなかった。



「うんうん。この広ーい世界をさ、私だけじゃなくて、ギルドのメンバーたちと一緒に攻略したいなって。もちろんダンジョンもだけどね」

「……ソウ」

「反応悪い……。まぁ、そゆこと。それでさ……」



 ミヒロは左手をヤナのいる方へ伸ばす。





「ヤナ。私のギルドに入らない?」





「……ミヒロ、ノ……。ギルド……?」



 よく耳にする単語だとは思っていた。心のどこかで入りたいと思う気持ちもあった。しかし自らの言語能力や境遇も相まって自分には縁のない話であると決めつけ諦めていた。だからヤナはミヒロの言葉を半ば信じられずにいた。


 驚くヤナをよそに、ミヒロは言葉を続ける。



「うんっ。こうやって仲良くなれたからさ。強制じゃないけど、どうかなぁって。笑い合って、支え合って、戦って、世界を駆けまわってさ……。これからの旅で、ヤナも、もちろん私も知らないことを、一緒に経験していこうよっ!」



 ミヒロの言葉を聞きヤナは一粒涙を落とす。その言葉が、その笑顔が、差し伸べるその手が。自らの今を知ったうえでの行動なのだと思うと、涙が溢れて止まらなかった。



「……ウン。……ウンッ……!」



 ヤナは伸ばされた手にそっと自分の手を置き、そして強く握る。こんな自分に手を差し伸べてくれるミヒロに、ずっとついていくと固く誓いながら。




「やったぁ! それじゃ……改めてよろしくねっ、ヤナっ!」


「……ウン、ミヒロ……!」




 返事をしたヤナの表情は涙に濡れていたが、眩しいくらいな笑顔だった。




   * * *




 先ほどまで激闘が繰り広げられていた部屋。激闘の跡は凄まじく、抉れた地面や壁も、飛び散った血痕も生々しく残っている。



 その大きな空間の中央に、座り込む二人のプレイヤー。一方は誓った思いを込めるように、掴むその手に額をつけながら泣き続け、もう一方はその様子を温かい目で見守っていた。





   × × ×





 時は過ぎ七月も下旬を迎え暑さもじりじりと肌を差す。この日未尋たちの高校では夏休み前の終業式がこの日行われようとしていた。


 現在ミヒロたちは終業式前のHRが行われており、黒板の前には担任の女性教師、片方未和かたがたみわが話をしていた。



「さて、これからお前らは夏休みなわけだが、課題はやってくるように。それから八月三日は登校日になっているから忘れずになー」

「そういやせんせー、何でその日登校日なん? 一昨年去年はないって先輩から聞いたけど」



 事前連絡の入っていた登校日の追加。それを不思議に思い一人の生徒が質問した。



「あ~、急遽行事が入ってな。午前中で終わるはずだから我慢してくれ。もういいな? 式が始まるまで自由にしてていいが騒ぎすぎるなよ~。じゃ、私は戻るからな」



 そう言い残し片方は教室を去る。生徒たちは終業式開始時刻まで友達と喋ることにしたようで、それは未尋と廉也も例外ではなかった。未尋は眠気を覚ますように背伸びをすると、廉也が未尋の席へ近づいてきた。



「よっ」

「あ、廉也おはよう」



 廉也は近くの椅子を未尋の机の方へ引き寄せ腰かける。



「攻略の方はどうだ? 一階層は抜けたのか?」

「それどころか今四階層に挑戦中だよっ」



 未尋は得意げにVサインを作る。


 未尋はヴァロンとの一件を終息させた後、村でのクエストをこなしつつヤナと二人でダンジョンの攻略を行っていた。いずれの階層も大怪我を負いつつもボスを倒し四階層まで進むことができていた。



「いやもうね、すいすいは進められてはいないけど楽しいんだよっ」

「そりゃよかった。そういやギルドは作ったのか?」

「うんっ。ヤナって子と一緒に」



 未尋はこの一か月の間にヤナと集会所へ赴きギルド創設の手続きを済ませ、晴れてミヒロはギルドの団長、ヤナは副団長となっていた。



「お、メンバー見つかったんだな。強いのか?」

「そりゃね。三階層とか凄かったよ~? ヤナ一人で倒しちゃうし」



 一か月での一番の変化はヤナの日本語の習得である。


 自宅で祖母のシズと、ゲーム内で未尋から教わることで飛躍的に上達し、まだ拙いながら撃技を発動できるようになり日常会話もあまり問題なくなってきていたのだ。


 三階層ではマッドファングとは違いボス一個体のみであり、挑戦したいというヤナの希望もあり未尋は攻撃せず余波を回避することに専念した。


 結果ヤナは撃技を駆使し一人でボスを討伐してしまった。未尋は終わった瞬間棒立ちでその様子を眺めており、悔しいと感じたのか四階層は未尋一人で挑むと意気込み、ヤナもそれを了承していた。



「ギルドの名前は何て言うんだ?」

「ん、ArteMythって書いてアルテミスっていうの」



 未尋はバッグからノートを取り出すと、適当にページをめくりギルドの名前を書く。



「ん? 何か綴り違くね?」

「ヤナにも言われたな……。一応これで合ってるよ。ちゃんと意味あるの。教えないけど」

「何だそれ。でもなんとなくわかるぞ……。多分伝記とか神話とか関係してるだろ。小学校はわかんねェけど中学では読んでたよな。外国語学習の時もやけに真剣だったし。どうだ、当たってるだろ?」



 笑い交じりに廉也が問うと、未尋はそっと視線を逸らす。



「さ、さぁどうだろねぇ~」

「いや誤魔化しきれてないっての。バレバレだって」

「むぅ……。ま、当たりだけど意味は教えないっ」



 未尋は頬を膨らましてそっぽを向く。


 未尋が名づけたギルド名の由来は、Arteは仲間団体、Mythは神話という意味があり、神話のように永く名前を残せるようなギルドにしたいという願いから来たものだ。しかし未尋は恥ずかしいからと周りには言えなかった。



「何でだよ……。まぁいいや。そういえば登校日って何やるんだろうな。行事とか言ってたけど」

「んー……。第一次宿題提出日とかないよね?」



 未尋はバッグから課題集の一冊を取り出しパラパラっとページを捲る。課題は複数出ており基本の五教科を中心に計画的に進めないと酷な量である。



「バカお前言うなって不安になるだろ!」



 廉也は思わず渡された紙に書いてある課題の提出期限を確認する。


 未尋の学校では長期休暇が明けると課題テストと称される提出課題対象となる教科のテストが行われる。課題から出題される問題も多いので取り組み次第で点数が大きく変わるのだ。


 また、課題の提出日は基本テストのある日に設定されるため二日目の教科を後回しにする生徒も多いのだ。



「同じ、だよな……登校日入ったから変更、とかないよな?」

「だったら先生が今連絡するでしょ。もしくは終業式の後とかさ。さすがに連絡なしってことはないと思うよ?」

「だよな。焦るわー」

「でも早めにやるに越したことはないと思うけどね」

「早くやると忘れるんだよ」

「うんそれは忘れる廉也が悪い」



 などと会話をしているうちに時間となり、生徒たちは移動を始め終業式が開始される。そしてそれも恙なく終了すると掃除をした後下校となる。



「ばいばーい」

「じゃあねー」

「お前ら約束忘れんなよー!」

「お前こそな!」



 生徒たちが別れの挨拶をする中、未尋と廉也は二人で玄関へと向かっていた。



「よしっ、これで遠慮なくできるな!」

「うんっ! 早く帰ってインしたいっ」



 未尋は早くインしたい気持ちが抑えきれずそわそわしていた。先にヤナがインしている可能性もあり、帰ってすぐにギルドでの初めての冒険ができる。そのことに未尋は胸を躍らせていたのだ。



「今日はどうするんだ?」

「うーん。特に決めてないけど今日今いるところを出発しようと思ってるよ」

「ダンジョン攻略はしねェのか? 朝四階層の話してたけど」

「次の町に着いてからにしようかなって」

「そっか。そんじゃ向こうで会えたらそん時はよろしくな」

「うん。待ってるねっ」

「じゃあな」

「うん!」



 二人は靴を履きかえ校門で別れ、それぞれの帰路につく。その足取りは軽く向かい風が吹こうとも関係ないのだった。




   × × ×




 ミヒロは帰宅すると真っ先に自分の部屋に向かいクハイリヴァを装着してログインを済ませた後、先にログインしていたヤナと合流を果たし次の町へ行く準備を進めていた。


 それも終了した直後声を掛けられる。



「行っちまうんだね」



 ミヒロが振り向くと、イーサやハイナ、クレソンなどハバラギに住む村人たちが集まっていた。声を掛けた張本人であるイーサはどこか淋しげな表情を浮かべていた。



「うん。そろそろ次に行きたいからね」

「淋しくなるのぅ」



 クレソンが下を向き頭を掻く。一か月の間で信頼関係が結ばれたこともあり、村人全員が別れを惜しんでいた。



「……マタ、来ルカラ」

「是非そうしてください。その時は精一杯おもてなしさせていただきますのでっ」

「そうさ。この村を救ってくれた恩人なんだ。遠慮せずにきな」



 後ろの村人たちも頷いている。皆気持ちは同じであった。



「ありがと! 絶対来るよ!」

「……ウン」

「それじゃ、そろそろ行こっか」

「……ウンッ」



 二人は村の外へ出る。目の前は広大な平野が広がっており、遠くには森も見えていた。この先の進路についてはミヒロが勘で決めた方向に向かうことにした。


 ミヒロは歩みを進めながら後ろを向く。



「じゃあねー! いろいろありがとー!!」

「……バイ、バイッ」



 ミヒロは両手、ヤナは片手を大きく振り、それに応えるように村人たちも手を振る。



「お気をつけてーっ!」

「元気にやるんだよっ!」

「はーいっ!」



 手を振り続けながら二人は歩いていく。やがて姿が見えなくなるとミヒロは前を向いた。



「よしっ、おばあちゃんたちの所へはいつかまた行くとして。ArteMythとしての最初の旅だし元気よく行こっ、ヤナ!」

「……ウンッ」



 まだ見ぬ地への冒険に胸を高鳴らせながら二人は駆け出した。その表情は笑顔で明るく、吹く風は応援するかの如く背中を押す。




 ミヒロたちの冒険はまだ、始まったばかりである。




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