26話:猛攻
お待たせしましたっ!
ただ申し訳ありませんが投稿ペースは変わらず約一か月に一本でいきたいと思います…
発生した群れのケイブシアンは、マッドファングの指揮によりミヒロへ襲い掛かり、マッドファング自身はヤナへ攻撃を始めた。
数頭で群れを形成し、ミヒロを包囲しながら陣形を整え攻撃の機会を窺っている。
「切り離しとは上手くやるなぁ……。ヤナの援護も含めて、両方の動きを把握しなくちゃ」
ボス以外の敵が追加で登場することに意表を突かれるも、敵である以上倒すしかない。ミヒロは攻撃を掻い潜りつつ自らの周りにケイブシアンを集める。ヤナがマッドファングとの戦闘に集中させるためだ。
刃が死んでいるトゥルゼスでは切り裂くことも貫くことも不可能だが、その点を利用して剣の腹で敵を薙ぎ払い、他の敵に向けて敵を弾き飛ばす。
ヤナはスピードを生かし、相手を翻弄しつつダメージを蓄積させていく。返り血で服装が汚れることも気にしていない。
日本語を上手く話せないヤナは撃技を使えないため、大きな一撃を加えることが難しい。手数で補うも持久戦となれば若干ヤナが不利となる。
ミヒロも参戦したいが、ケイブシアンの処理に手間取ってしまっていた。数は減っているもののその分後ろの異空間からケイブシアンが続々とフロアへ放たれ、ミヒロへ牙を向け、吠えながらこちらへ迫ってくる。
「ガルゥ!!」「バウバウ!」「きゃい~ん!」「ガルルゥウ!」「グルルル!!」「グルァアア!!」「きゃいんきゃいん!」「ガウァア!!」
「何か可愛い鳴き声が混じってるんですけどっ!?」
どのような鳴き声でも襲い掛かる猛獣に変わりはない。ツッコミを入れつつも冷静に攻撃を避けていく。相手の動きはどれも飛び掛かってくるだけの単調なもので、ミヒロは攻撃を見切った後は反撃に転じ順調に数を減らしていく。
しかし相対する敵との相性が悪かったこともあり、ミヒロは攻撃を受けきれず爪や牙によってダメージを受けており、ヤナもマッドファングの重い一撃を受けきれずに飛ばされる場面が幾度とあった。
「はぁ、はぁ……。あぐっ!」
呼吸を整える隙を突かれ左腕を噛みつかれる。
「きゃうう!!」
「可愛いのに噛まれちゃってるけど、慈悲はなし!」
痛みを我慢し、噛まれた腕を動かしてケイブシアンの頭を地面に叩きつける。衝撃を直に受けたケイブシアンは腕から離れる。
「わらわら湧いてくるなぁもー」
いくら倒してもきりはなく、数は増えないが減りもしない。マッドファングとの戦いではメンバーの役割を分担し、無限に出現するケイブシアンを処理しながらマッドファングへダメージを与えていくか、その部分が攻略の肝であった。
ミヒロはヤナの様子を窺うと、ヤナもマッドファングの一撃の重さに苦戦しているようだった。
その時にミヒロは互いに相性が悪い事を悟った。
「ヤナッ! 交代ッ!!」
「……ワカッ、タ!」
互いに攻撃を弾いた後、横を擦れ違い相対する敵を交換する。二人は視線で合図を交わし敵に背を向け走り出す。
「せあッ!!」
「ッ!!」
ヤナの後ろから飛び掛かる敵をミヒロが、ミヒロの後ろから襲い掛かるケイブシアンの群れをヤナが一閃し吹き飛ばす。
「ぬぁああ!!」
ミヒロが受け止めた前足の力に押されつつも、踏み込んだ左足で踏ん張り横へ受け流す。マッドファングは後ろへ飛び退き体勢を立て直す。
「ふぅっ!」
大きく息を吐き、トゥルゼスを構え睥睨する。マッドファングは有効打を与えられていないことに苛ついているようだった。
「さっ、今度は私とやろっか」
ミヒロは口角を上げ、笑みを浮かべた。その表情はまるで無邪気な子供のようで勝負を楽しんでいるかのようだった。
「……ッ」
ヤナも次々襲い掛かるケイブシアン達を斬り捌いていく。手数とスピードを生かすヤナの戦法であれば四方八方から攻めるケイブシアン達に後れを取ることなく対応できていた。
「……イケルッ」
ミヒロの動向を見つつ隙をなくすように、またミヒロへ向かわないように上手く立ち回りながら応戦していく。
ただ体力の消耗が激しく損傷率も蓄積されていくため、持久戦は不利となる。ヤナもミヒロの助勢に向かいたかったが、如何せん猛攻が激しく抜け出すタイミングが見つけられなかった。
「……ッ!」
思考を中断させるように一匹のケイブシアンが右足へ噛みついた。突然の事に動揺したその隙を突いたように集団の中の一匹がミヒロへ向かっていった。
「……ッ、ミヒ、ロ!」
「ほっ」
「グルゥァアアア!!」
前足の猛攻をトゥルゼスや回避で上手に躱していく。ミヒロの動きはカウンターを主体に一撃を避けた後にできた隙を突いて攻撃をする戦法だった。図体の大きいボスには有効な手段であったためである。
足元を動き回るミヒロに腹を立てたマッドファングは前足で足払いをする。なるべくダメージを受けないよう立ち回っていたミヒロは受け止めずに空中へ跳び回避する。その時、右腕に激痛が走った。
「いっつ!? 何っ、この犬ッ!」
地面へ降りたミヒロは右腕を見る。そこには直進してきたケイブシアンが体をピンと伸ばした状態で噛みついていた。
「すごっ、なんか銛みたい」
感心しつつケイブシアンの位置に合わせて腕を地面へぶつけケイブシアンの顎を外し、トゥルゼスで頭ごと叩き潰した。
「……ゴメン、ネ!」
声の方向へ向くとヤナが涙目でこちらを見ていた。体にはいくつも傷があり足には一匹のケイブシアンが噛みついていた。
「ッ! だいじょーぶ! これくらいで落ち込まないのッ! それより集中ッ!!」
ミヒロはヤナへ笑顔でピースを向ける。ヤナは罪悪感に襲われたがミヒロは叱責し自分の戦いに集中するよう叫ぶ。
「……デモ……!」
「……ん、じゃあ戦いながら見てて。今から証明するから」
「……エ?」
「これはチャンスだってこと」
「……チャン、……ス?」
ミヒロは左手だけでトゥルゼスを持ち、右腕を下していた。トゥルゼスの重量が軽くなった事である程度は片手でも扱えることを戦いの最中に理解していた。
ミヒロはその場で跳躍。マッドファングの頭上へと飛び上がる。マッドファングはその動きにつられ上を向く。対空遠距離攻撃を持たないマッドファングは降りてくるミヒロの一挙手一投足から動きを予測し行動することに決めた。
ヤナは罪悪感に苛まれていたが、我に返り周りを囲むケイブシアン達と対峙しつつ言われた通りミヒロの様子を観察していた。
飛び上がったミヒロは頭上に剣を振り上げた。それと同時に下ろしていた右腕を脇腹へ持ってくる。マッドファングはその動きの意図が分からずに睨み続けていた。
「ていッ!」
降りてくるミヒロは右腕を勢いよく薙ぎ払う。すると噛まれた部分から流れていた血液が飛散しマッドファングの目に的中。視界を奪われたマッドファングの脳天目掛け、ミヒロはトゥルゼスを振り下ろす。
「せい、やぁッッ!!」
頭蓋の軋む音と共にミヒロは振り下ろす腕に力を込めていき、マッドファングの顎から勢いよく地面へ叩きつけた。クレーターが作られるほどの衝撃と音と砂埃がフロア内を包み込んだ。
「……ね? こうして脳天直撃できたでしょ?」
ミヒロはヤナの方を向いた。噛みつかれた腕からは未だ流血し続けているが、ヤナに心配させまいと笑顔で応えて見せた。
その様子を見ていたヤナの瞳は涙で濡れていた。自分のミスを起点に、ピンチになるどころかボスへ乾坤一擲の一手を繰り出し見事に相手を地に伏せさせたのだ。その上ミヒロはヤナの失態を責めずに励ました。
その姿を見たヤナは心に決めた。
――もう、ミヒロの手を煩わせないと。
「ばうばうっ!」「きゃうんっ!」
マッドファングに痛烈な一撃が炸裂したことで、ケイブシアン達はマッドファングを守ろうと猛スピードで駆け寄っていく。
「……ッッ!!!」
ヤナの意識が覚醒したように、反射的に駆け出す。一瞬のうちに群れの中に紛れ、二刀の斬撃で斬り捌いた。マッドファングの意識が失われていることで空間の歪みが消え、ケイブシアンの出現が止まった。
一気に静寂が包んだことで緊張感が解け、二人は一息つく。
「えーっとー……終わりかなこれ?」
「……違ウ、ト、思ウ」
ヤナは否定するも、マッドファングはその場から動かない。
しかしその数十秒後、ふらりと大きな体が起き上がる。反射的に二人は武器を構えた。
だがその様子は戦闘開幕当初とは異なり、徐々にその変化が目に見えて表れた。
目の焦点が合わなくなり、口は涎が牙にまとわりつくほど流れ、やがて垂れて地面へ落ちる。脚も筋肉が隆起しているのか戦闘序盤より太くなっていた。
「……やばい感じかもね」
ミヒロの額に一筋の汗が流れ、一歩後退する。
「グォオオオオオオオオオ!!!!」
けたたましい咆哮が耳を劈き、威圧感が二人を襲う。先程までと雰囲気が変わり、異質なものとなっていた。
「……後半戦、いってみよーか」
「……ウン」
ミヒロの言葉にヤナが頷き、マッドファングへ勢いよく駆け出した。
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