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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
26/67

25話:一階層のボス

キャラの設定画とこの先のストーリーの構想に注力しすぎてこっちが進まないぃ……

 パーティと別れを告げ、ミヒロたちは先へ進んでいくと大きな広間へと出た。その正面には彼らの言う通り巨大な扉が存在した。



「おー、あれがボスの扉かな。てかデカっ!」

「……」



 ミヒロは広間の中央へと移動し、改めて扉の大きさに驚嘆する。


 その扉はミヒロの身長の数倍はあろう高さを誇っており、多少の衝撃では歪まない重厚さと刻まれた紋様が異質さを際立たせる。


 ミヒロは広間を見渡してみる。二人以外に挑戦者はいないようだった。



「うーん、他に挑戦してる人はいないっぽいかな? でもあの人たちは撤退したって言ってたし……、もしかして弱ってるかな、ボス」

「……ソレハ、ナイ」

「だよねぇ。やっぱりそうかなぁ?」

「……ウン」



 フロアのボスはそのフロアを出てしまうと体力は全快してしまう仕様であるため、一度撤退してしまうと、たとえ同じパーティであっても再び全快のボスと戦うことになる。



「ま、そのほうがいいけどね。……気合入れていかなきゃ!」

「……」



 ミヒロは一歩踏み出し、ヤナの手を引く。驚くヤナを尻目にミヒロは扉へ指を差す。



「よしっ、さっそく行ってみよっか!」

「……ミヒロ」



 一歩踏み出したミヒロをヤナが呼び止める。振り返って様子を窺うと、ヤナはミヒロの頭を見ていた。



「どったの?」

「……後ロ……」

「後ろ?」



 ヤナはジェスチャーを交えて後ろを向かせようとしていた。その言動を見て、戸惑いつつも後ろを向く。


 ヤナは一つにまとめていたミヒロの髪を解く。ミヒロは不思議に思いつつも止めることなく、ヤナが手を止めるのを待っていた。


 一分程して、ヤナは手を止め満足そうに一息つく。



「……動キ、……ヤスイ?」

「ん? ……おぉ! 軽くなった!」



 ヤナは髪を解き、一つに丸めて団子状にまとめたていた。ミヒロの激しく動く戦闘スタイルを見ていたヤナは、ふりふりと揺れるミヒロの髪が気になっていた。



「ぺしぺし当たって気になってたけど、こんな解決方法があったとは……。……髪型で思ったけど、ヤナはその髪型でいいの?」

「……。……ウン」



 ヤナは背中に流れる白髪の両サイドをリボンで結び、残りはそのまま流している。団子どころかゴムで一つにすらまとめていなかったが、ヤナは気にしていないようだった。



「うーん、横の髪切ったほうがいいかなぁ……」



 サイドの髪をつまんでそう呟く。ヤナは特に意見しなかった。



「……ま、またあとで考えればいいか。んじゃ、気を取り直してボス戦行こう!」

「……ウン」



 ヤナは了承し、二人は扉の奥へと入っていった。






 扉を開け奥に入った二人は辺りを見回す。ボスのフロアは四方数十メートル、高さは10メートル以上あり、ミヒロは体育館の広さと同等であると感じた。


 しかし肝心のボスの姿が見当たらず、静謐な雰囲気が漂っていた。



「えーっと……、何もいないね」



 そうヤナに話しかける。返事がないので気になり隣へ視線を向けると、ヤナは首を後ろへ捻り、扉の上を注視しているようだった。



「……イル」

「えっ?」



 ヤナの呟きを聞いてミヒロも扉の上へ視線を向ける。



「のわっ!?」

「……」



 そこには巨大な狼のようなモンスターが壁に爪を突き立てこちらを睨んでいた。突き立てた壁に罅が入っており、それは強靱な脚力を持つことの証明でもあった。



「っとー、天井に張り付いていらっしゃった……。というより壁に立ってんね」

「……爪ノ、跡……」

「プレイヤーの死角になる壁に自分の爪を突き立てて待ち伏せてたんだ。こりゃ一本とられたよ。ていうかありなのそれ?」



 世間一般のボスはフロアの中央付近で待ち構えているもの、というのがミヒロの常識であったため若干戸惑っていた。



「ガルァアアアア!!」



 ボスモンスターは大きな咆哮で威嚇をすると、踏み込んで跳躍しフロアの中央へ着地する。目の前で相対したミヒロたちは、その体躯の差から若干のプレッシャーを感じていた。鋭い眼光と低い唸り声は小さな体を震わせる。



「……大キイ」

「だね。ていうか、こいつってダンジョンにいた犬のモンスターじゃない? 明らかに眼つきも大きさも違うけど」



 〝アスタルトオンライン〟のボスは日替わりで通常出現するモンスターの強化個体が出現するようになっている。そのため攻略しやすいモンスターが出現する日を狙って挑戦するプレイヤーが多く、一階層であれば空中戦を強いられる【バッドバット】の強化個体であるとの情報が入れば必然的に挑戦者の数は少なくなるのだ。


 今回ミヒロたちが挑む個体は、【ケイブシアン】強化個体。個体名〝マッドファング〟



「ガァアア!!」



 マッドファングはミヒロに狙いを定め飛び掛かる。凄まじいスピードで迫り、鋭く光る爪を持つ前足を振りかぶる。



「……来ル」

「……よし。力比べ! ちょっと受け止めてみよう」

「……エ?」



 ミヒロはトゥルゼスを抜き、横に持ち構えた。ヤナはその行動に目を丸くする。



「ガァアアアア!!」

「よい、しょッ!!」



 タイミングを合わせ、マッドファングの前足を受け止める。爪と刃がぶつかり激しく火花が散った。前足の勢いに押され、数センチほど押し込まれるが、歯を食いしばって耐え抜き、後ろへと弾いた。マッドファングは後ろ脚のバネを利用し後方へ下がる。



「うぅおっ、とと。大分力強いなぁ……。あれはモロに喰らっちゃダメなやつだ」

「……」



 受け止める発想などなかったことから、ヤナはミヒロの行動に呆然としていた。当のミヒロはというと、平然とした様子で相手の力量を分析していた。



「壁にも張り付くからその時は攻撃できないとして……。地上に下りてきたとこで私が足止め、かな。ヤナ、私があれを止めるから、その隙に攻撃をお願い!」

「……ウン」



 ヤナは細かい作戦までは理解できなかったが、ミヒロの挙動、仕草に合わせて行動することにした。モンスターと対峙する今、聞き返すことはできないからだ。



「グルァアア!!!」



 マッドファングはタイミングを見計らい、再び飛び掛かる。先程よりスピードも速い。しかし二人も瞬時に反応し、動き始めた。



「ほっ!」

「……ッ!」



 ミヒロは後方、ヤナは横方向へそれぞれ飛んで回避。二手に分かれたのを見て、マッドファングはミヒロへ狙いを定めた。



「こっちに来たね! せい、やッ!」



 ミヒロはその場に踏み込むと、マッドファングの右前脚に向かってトゥルゼスを横に薙いだ。鈍い音と衝撃が体を伝う。


 敵の動きも鈍くなった隙を突いてヤナが跳躍し、頭から尻尾にかけて回転しながら転がるように移動し、同時に二本の刀で背中へ多数斬りつけていく。



「グルゥウ……グルゥアア!!」



 マッドファングは苦悶の声を上げるが、すぐに冷静になりその場で高く跳躍する。姿勢を直し、落下と共に左前足をミヒロへ叩きつける。



「どわぁっ!!」



 ミヒロは後ろへ飛び退いたが、前足で叩きつけた衝撃のせいか空中にいる時間が延びてしまった。マッドファングはその隙を逃さず逆の右前脚でミヒロを弾き飛ばす。


 壁に叩きつけられた衝撃で土煙が辺りを包んだ。



「かはっ……!!」

「……ミヒロ……!」

「大、丈夫! そこまでやわじゃないからねっ!」



 ヤナは声を掛けるが、ミヒロはすぐに体勢を立て直し、再びマッドファングと向き合う。マッドファングもまたミヒロに狙いを定めていた。


 マッドファングは三度ミヒロへ飛び掛かる。ミヒロは突き出された前足を前傾姿勢で躱しマッドファングの下に潜り込むと、半月上にトゥルゼスを上に振って胴体の横へ命中させる。


 ケイブシアンは痛みに堪え切れず体勢を崩した。



「やっぱり、軽くなってる……。その上で威力は上がってる。不思議な武器だなぁ」



 トゥルゼスの機能を不思議に思いつつ、一旦後方へ下がる。ヤナもそれに倣い後方へ下がりミヒロの隣へ移動した。



「次の動きは……?」



 ミヒロは様子を窺うが、ボスモンスターに動きはない。と、次の瞬間――。



「ウォオ――――ン!!」



 マッドファングは天井に向け遠吠えを始めた。その音量は凄まじく、二人は思わず耳を塞いだ。



「なに、吠えた……!?」

「……! ……ミヒロ、アレ」



 ミヒロが戸惑っている中、ヤナは奥へ目を向けていた。その奥には空間が歪み、その中から無数のケイブシアンがマッドファングを守るように取り囲んだ。



「……こっからが本番かな」

「……多分」



 二人は、武器を構え直した。


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