24話:迷子とゾンビとパーティと
最近は筆が進みません……
ゲートを潜り終え地に足をつけると、視界に群青色の石壁や地面など普段目にしない光景が広がっており、辺りを見回しても完全に洞窟となっていた。
プレイヤーの手によってか元々の仕様か、火の灯るランプが壁に立てかけてあり、薄暗い道を僅かながら照らしている。
道幅は三メートル弱でミヒロたちが降り立ったのは直径十メートルほどの広間であり、そこから幾つもの道が作られていた。
ミヒロたちが降り立った広間にはミヒロたち以外にプレイヤーは存在しなかった。
「さーてと、漸く入れたわけだけど……。どこから行けばいいんだろこれ」
ミヒロは分かりやすいように入り口を手当たり次第に指差してジェスチャーをする。
「……運任セ」
「うーん、どのルートが安全とかそういうのもなさそうだしそれでいいかなぁ。よしっ、とりあえず目の前の道に行ってみよう!」
「……ウン」
ミヒロは出てきたゲートの先に合った一本の道を指さし、それを見たヤナは頷いてそれに合意する。ミヒロが歩き出すとヤナはその後ろをたたたっと小走りでついてきた。
「モンスターってどういう形で出てくるんだろ?」
「……?」
ミヒロはヤナに聞いてみたが首を傾げるばかりだった。
「ヤナはダンジョンに来たことないの?」
ミヒロがヤナに出会った時に多少装備が整っていたことからダンジョンにもう入ったことがあるのではないかと思っていた。
「……?」
「……えーっと、ダンジョン……英語で言ったほうがいいのかなぁ? ウェン? いやウェンじゃないな。えーっと何て言ったっけ?」
日本語に慣れ親しんでいなくても英語であれば多少触れたことがあるのではないか、と推測したミヒロは自身の英語力を頭から捻り出していた。
暫くの間歩きながら考えていると、前方から数人の人影がミヒロの視界に入る。
「ん、誰だろ?」
目を凝らしてみれば、その影は人型ではあれど、人ではなくモンスターだった。
目玉が飛び出しており、服はあちこち破れている。肌色も悪く一部は腐敗している。両手を前に出して歩いているさまはゾンビそのものだった。
モンスター名【ゾンビ】。単体ではなく集団で行動し、動きは遅いが打撃に耐性があるモンスターで装備が整っていないプレイヤーはゾンビにつまずくこともある。
「あぁ言う感じで徘徊してるんだ。ヤナ、戦うよ!」
「……ウン」
ミヒロはゾンビの群れに臆することなく、腰から剣を抜くとヤナもそれに合わせて腰に差してある日本の刀を抜いた。体躯に似合わないその姿からは闘志とやる気が滲み出ていた。
ミヒロは柄を握る力を強めると、ゾンビに向かって走り出す。
「せやッ!」
そのままトゥルゼスで腰に一閃。その速度と重さによる鋭い一撃で、ゾンビは宙に浮き壁へと飛ばされる。ぶつかった壁は罅が入りそのまま崩れ土埃が舞った。
「ん? 何か前より軽くなってるような……?」
ミヒロは不思議な感覚を覚えトゥルゼスを見つめる。先程の一撃の時、妙に剣が軽く感じていた。剣の宝玉部分に目を凝らすと以前より剣の濁りが消えているように見えた。
「……ッ!」
「グガァァアア!!」
ミヒロがトゥルゼスを見ていた時に後ろからゾンビが飛び掛かってきていたが、ヤナがミヒロの背後へ回り斬撃を放ちカバーした。ゾンビはそのまま絶命し光を放ちその場で散った。
「あっ、ありがと!」
「……ウゥン」
ヤナは首を振った後、残りのゾンビを狩りに前線へ戻っていく。
「ダンジョン内だからぼーっとしてちゃダメだ! 集中しないと!」
ミヒロはヤナの後を追うようにゾンビの群れに向かって走り出した。
数分後、次々と湧いてくるゾンビたちを掃討し一息つく。一息つく、といっても歩みを止めるわけではなく、戦闘前と同じように雑談を交えながら探索を進めていた。
掃討後も狼型の【ケイブシアン】、蝙蝠型の【バッドバット】などのモンスターが出現したが、攻撃を数度見た後は完全に見切りカウンターを喰わらせて倒していった。
幾度となく現れる敵を薙ぎ倒しながら進んでいくが、代わり映えのしない風景が続いていた。
「うーん、道間違えたかなぁ?」
「……」
後戻りをしても意味がないと理解しているため、ミヒロは勘に任せて進み、ヤナはその後ろをついていく。ヤナ自身もどのルートが正解かわからないためだ。
それからさらに十分ほど歩いていると、不意にミヒロが大声を上げる。
「あっ、ねぇ! あれ人じゃないっ!?」
ミヒロが指を差す方向には五人のプレイヤーがこちらに向かって来ていた。各々武器や防具を装備していることからモンスターではないことは理解できていた。
「あのー!」
ミヒロは迷わず声を掛け五人に近づいていく。ヤナは戸惑いつつミヒロの後を追う。
「ん、何だ? 二人だけか?」
近づくミヒロたちに最初に声を掛けたのは黒髪短髪の好青年だった。その他男性女性共に二人ずつ、その青年の後ろを歩いていた。
「うんっ! ダンジョン初探索でさー」
「迷子か」
「そんなはっきり言わないでよ! まだ迷子じゃないし、そう言われたら不安になるでしょ!」
相手の指摘にミヒロは思わずツッコむ。ヤナは会話を理解できないため困惑していたが、青年の後ろにいる四人はそのやり取りに思わず笑みを零していた。
ミヒロは幼少期から好奇心が旺盛で明るい性格だったためか知らない人物でも平気で声を掛けられ、コミュニケーション能力が身に付いていた。それゆえ初対面の相手でも気楽に相手も楽しめるような会話ができるのだった。
「……」
「……?」
ヤナは後ろにいたのだが、不意にミヒロの服の裾を掴んでいた。その手は少し震えており明らかに怯えているようだ。
ただ向こうに心配されないように、気にしつつもミヒロは表に出さないことにした。
「にしても、二人だけってよくできるな」
「珍しいの? プレイ人口って男女あまり変わんないんじゃないっけ?」
「あ~、まぁそうなんだけど、戦いなんてテレビゲームとかソシャゲーとかしかないからさ、自分の体を動かして遊ぶことってなかなかないし。ダメージだってモロに感じるわけだろ? 女性の場合は戦いとかよりは生産職の方が多いと思うぞ」
「あ~、確かに痛みとか衝撃とか結構激しいしね。興味はあるけど怖くて少人数では行けない的な感じ?」
「まぁそんなもん。だから珍しいなって思ったんだよ。女子二人だしなおさら」
「あはは……」
男性の言葉にミヒロは思わず苦笑いしてしまった。青年達には、ミヒロは女性であると認識されていたからだ。
「それで、二人はどこに行くんだ?」
「ボスの所に行ってみたいなって。ダンジョン攻略しに来たわけだし、ね?」
「……ウン」
ミヒロはヤナに同意を求め、ヤナはその言葉にこくりと頷く。あまり表情が豊かでないヤナもその目は闘志に燃えていた。
「……二人で? 悪いけどやめといたほうがいいわ」
二人のやる気を感じてか、後ろにいた女性プレイヤーの一人が青年の横に並び二人に忠告する。
「何で?」
「言っとくけど親切心で言ってるんだからね? ましてや女子二人なんて以ての外。回復薬とか用意した、きちんとしたパーティじゃないと難しいなんて話じゃないわ。現に、私達だって今撤退してきたばかりだもの」
ミヒロは目の前にいるパーティを見てみれば、ところどころ服が破れ、鎧に罅が入っている。移動のために回復したことを引いても、戦いの激しさは十分に理解できた。
「君たちの実力を侮ってるわけじゃねェけど、結構危険だぞ?」
リーダー格の男性も念押しするように忠告する。ミヒロはそれを聞いたうえで相手のパーティへ自信のある笑みを向ける。
「うーん、でも戦ってみないと分かんないし。相手の実力は、自分で戦って初めてわかるもんだしさ」
「……あんたねぇ」
忠告した女性は呆れてため息を吐く。だがミヒロの様子を見てこれ以上反対する気も失せていた。
「それに、負けそうなら撤退するよ。負けないけどね」
「白髪の君も同じか?」
「……?」
ヤナは震えつつも、首を傾げて反応する。ただミヒロ以外にはその意図は伝わらず、ミヒロが代わりに答える。
「あぁ、ヤナは日本語があまりわかんないの」
「ますます心配だな……」
「大丈夫だって! 怖がってちゃ攻略進まないもん! 私はこの幻想を攻略するんだからボスなんかで止まってらんないの!」
慢心から出る自信か、それとも単純に夢を追って敗北することを恐れない覚悟の強さか。
ミヒロの言動の根拠は知れないが、その自信に満ちた言葉と表情を見て、彼らのパーティは制止することを止めた。
「……ま、武運を祈ってるわ」
その口から出たのは、背中を押す励ましの言葉だった。
「うんっ! 絶対攻略してくる!」
それに応えるように弾けた笑顔を見せると、ミヒロは彼らが来た方向へ足を進め、ヤナもそれについていく。
通り過ぎて数歩したところで、ミヒロは彼らへと振り返る。
「あっ、ボスへの道ってこっち?」
「ん? あぁ。この道をまっすぐ行くと大きなフロアに出る。んで、そのフロアにある大きな扉の奥のフロアにボスがいる」
「教えてくれてありがと! じゃあヤナ、行こう!」
「……ウン」
道を教えてもらったミヒロは迷わずに走り出し、ヤナも続いて走り出した。
* * *
ボスへ向かって走っていった少女二人の背中を見て、パーティのリーダーである男――カザミ――の口から言葉が漏れる。
「なーんか、不思議なやつらだったな……」
「肝が据わってるんだか能天気なんだかバカなんだか、よくわかんないわね」
二人に忠告していたパーティの女性――シセ――もそれに続く。彼女の遠慮のない言葉にカザミは思わず苦笑いを浮かべる。
「その言い方は良くないですよぉ……」
シセの言葉をよく思わない軽装の気弱な女性――ロロア――が口を挿む。彼女に対して臆しているのか語気は弱くなっている。
「……でもよ、話してて思ったがうちのリーダーと似てる気がするんだよな。お前らもそう思わね?」
フォローするように斧を担ぐ男性――ルーザ――が会話に参加する。
「ハルさんに? そう?」
「あぁ~。確かに人を明るくさせるし元気一杯だし、そういう部分では僕も似てると思うよ。あの雰囲気とか」
カザミが聞き返すと、首にスカーフを巻く男性――ソリュー――がルーザの意見に同調した。
「とりあえず、俺達は帰ろうか。もしあの二人が攻略したら、俺達も負けてらんねェし」
「そうね」
カザミの指示にシセが賛成し、他のメンバーも頷き賛同したのを見て、カザミは先頭に立ってパーティを引き連れ帰路についた。
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ヤナ「……オ待チ、シテ、マス」




