23話:出発前
次回はもっと早く更新したい…(願望)
ヴァロンのギルドとの対決から一夜明けた日曜日の朝。未尋は日課であるランニングを終えると、朝食を食べ部屋に戻り宿題を行っていた。しばらく時間が経つと母親である紫月の声が聞こえてきた。
「未尋ー、佐波君から電話―」
「は~い」
未尋は宿題を進める手を止め、家庭用の電話のある一階の玄関前へ赴く。紫月から受話器を受け取ると未尋は耳に当てる。受話器を渡した紫月はリビングへと戻っていった。
「ふわぁ~~……。もしもし?」
『……廉也だけど、何か眠そうだな』
受話器越しに欠伸が聞こえてきた。廉也は朝のランニングを終えた後ではないかと思っていたため、眠そうにしている未尋が珍しく思えた。
「いやー、やっぱりハマっちゃうもんだね。寝る時間も忘れてやってたから眠くて眠くて」
先日、戦いの後に未尋は晩御飯のため一度ログアウトしたのだが、その後再びログインし、徹夜で村人たちの住まう村の復興作業の手伝いをしていた。そのせいか翌日になってもその疲れが抜けきっていなかった。
『そんなにやってたのか。もうすっかり夢中って感じだな』
「うんっ!! まだダンジョンには入ってないけどね」
『お? 普通ダンジョンに真っ先に入るもんじゃねェのか? 大きな都市でも小さな村でもダンジョンには入れるはずだぞ』
ダンジョン攻略はゲーム内の目的の一つである。自分も見聞したことを未尋に伝え興奮していたことから、ダンジョンに潜ってゲームの楽しみを味わっているものだと思っていた。
廉也の言葉を聞いて未尋は苦笑いを浮かべる。
「いやー、いろいろあってね?」
『……?』
未尋はゲームにログインしてからヴァロンとの戦いまでの一連の流れをかいつまんで説明した。その説明を聞いた廉也は一つ、大きなため息を吐いた。
『なるほど。つまり未尋はバカなんだな』
「何で!?」
予想外の言葉に未尋は驚愕した。
『普通そんな最初から【スクラム】から離れることはしねェよ! 大体は【スクラム】を拠点に装備を整えたりレベルを上げるもんだ!』
「いや、そんなことしてる暇なかったし」
実際ログインした直後にプレイヤーに襲われていたため【スクラム】にいることは危険だと踏んで、その件以来【スクラム】には訪れていなかった。
『はぁ……。じゃあ今【スクラム】にはいねェんだな?』
「うん。でも何で?」
『いや、教えてやれることとかあると思って【スクラム】で未尋を探してたんだよ。無駄だったみたいだけどな』
「えっ、そうだったの! ごめん!」
廉也の行動を聞き、未尋は電話越しに手を合わせ勢い良く礼をする。さながらサラリーマンのような行動であった。
『謝んなくていいって。無事ならそれでいい。そんで、まぁよく倒せたな。あのギルドは攻略も順調だったって聞いてたし』
聞けばヴァロンのギルドは、表向きは実力を高めダンジョン攻略も順調に進めている有望なギルドであるとの情報が広まっていた。
おそらくそのギルドの団員が本来行っていることが露呈しないようにする隠ぺい行為だったのだろう。
「そうなの? 私は聞いてなかったからよくわかんないけど、負けられなかったしね。相手の強さは関係ないよ」
『お前は昔から勝負強いところあるしな』
「言い方を変えれば運がいいだけだけどねー」
『そう言っちゃおしまいだろ』
「あはは……」
しばらく間が空き、その後廉也は思い付いたように口を開く。
『けど、事情はあれどPKはあまりいいことじゃねェから、今度からはあまりするなよ?』
プレイヤーキル、通称PKはゲーム内でプレイヤーが他のプレイヤーを襲いゲームオーバーにする行いだ。
妨害行為は他のネットゲームでも行われていたのだが、アスタルトオンラインでは一度のゲームオーバーでデータを失ってしまう。そのため必要以上に注意喚起が各プレイヤー間で行われていた。
「狙ってやってるわけじゃないんだけどね……。でも今回みたいに事情があるときはやっちゃうかもだし。そう言われてもやらないとは言えないかな」
未尋は正義感の赴くままに行動することが多く後先考えずに行動することを自覚していたため、その点を考慮しての言葉だった。
『……狙われるぞ?』
「そん時はそん時だよ。私はさ、後悔したくないんだ。だから私は私の思うままに生きるの。悔いは絶対残さない! 誰に笑われても突き進み続けるよ」
『……はぁ。まったく、まぁ未尋らしいって言えばいいんだかな。もしピンチになっても、時間が合えば俺が助けられるしな』
「頼りにしてる」
『まずPKすること前提で話をしてほしくねェんだけどな……』
「あはは」
その後もしばらくアスタルトオンライン関係の話をしていた。
そんな電話している未尋の楽しそうな声を聞いていた紫月は、微笑みながら家事の手を進めた。
☓ ☓ ☓
ヴァロンたちとの対決から二日程、ミヒロは【ハバラギ】の復興作業を手伝っていた。足りない木材はヤナの手を借りて木々を伐採しながら調達し、荒れた村は元通りとなり村の人々にも徐々に活気が戻っていた。
その次の日の火曜日。ミヒロがログインすると、ヤナやイーサたちが集まっていた。
「おいーっす! 村はもう平気そう?」
「あぁ。手伝わせて申し訳なかったね」
「うぅん。おかげで今日からダンジョンに潜れるし」
ミヒロは興奮からか両手とも握り拳を作り、やる気に満ちていた。これからダンジョンに潜ろうとしていたためだ。
「……やけに楽しそうだね」
「うんっ! よーやっと挑戦できるんだもん! 楽しみでしょうがないよ!」
ミヒロの様子に多少呆れつつ、イーサはヤナの方へ目を向けてみる。するとヤナも同じく落ち着かない様子でそわそわしていた。
「ヤナもかい?」
「………ウン」
ヤナはフィールドにて村の周りにいるモンスターを倒すことは幾度とあったがダンジョンに潜ることはできなかった。
よってミヒロと同じく初挑戦となるため、刀の柄を握りしめ意気込んでいた。
「じゃあ行ってくる――」
「待ちな」
早速ダンジョンへ向かおうとしたミヒロをイーサの声が制止する。
「にゃ?」
「あんた、その服装で行くつもりかい?」
イーサの言葉を聞いてミヒロは自分の服装を確認する。
所々に穴が開いて上着は一部が破れており、戦闘と土木作業が重なりミヒロとヤナの服装は土埃や血で汚れていた。
「あー……。そういえばあの戦いでボロボロになったままだったっけ。でも動きやすさは変わらないしこのままでもいいけど」
「そういうわけにはいきませんよ。この先モンスターと戦うことになるんですから服装ぐらいはきちんとしておかないと」
そう言うとハイナは近くの建物へと入っていき、わずか数十秒ほど経過し、衣服を持って戻ってきた。
「と、いうわけで。お二人の服を作らせてもらったのでぜひ着てください」
「いやっ、悪いって」
「着てください」
ミヒロは遠慮しハイナの手を押し返すが、ハイナはめげずに無理やり体へと押し付ける。
「……えっと」
「……貰ッタ、方ガ……イイ、ヨ?」
「うーん、じゃあお言葉に甘えて」
ヤナの言葉にミヒロは根負けし、ハイナから衣服を受け取る。その後ヤナもハイナから衣服を受け取ると、アイテムウィンドウを開き衣服をアイテム欄へ移動させた。
ミヒロもそれに倣いアイテム欄へ移動させると、ステータス画面からファッション画面へ移行した。
自らの衣服の変更はファッション画面から変更する事が可能であり、各パーツごとにセットすることが可能だ。また、ファッションにセットした後であれば、袖を捲るなど多少のアレンジは可能なのだ。
「おぉ、ピッタリ!」
「……ウン」
二人は操作を終え、自らの服装を確かめる。
ミヒロはベースは変わらず動きやすさを重点に置くスタイルで、襟とファスナー付きの黒のノースリーブシャツ、七分丈のワイドパンツの裾を紐で締めていた。上着もあるのだが、袖が気になると言いミヒロは腰に巻いていた。トゥルゼスは変わらず腰の後ろに佩いている。
ヤナも戦前から大まかな変更はない。淡い水色の上着に薄灰色の丈の短いワンピース、靴は新品の物に新調された。腰には多少大きめのベルトを身に付け、一本の白い刀が佩かれている。腕甲は銀色に輝き、手甲も新しく作られた。ヤナは手を何度か握り感触と動作を確かめていた。また首元には白をベースに黒と灰色のラインの入ったマフラーが巻かれていた。
「サイズは大きくても小さくても、使用者のサイズに合わせて変化するので問題はないはずです」
「うん、これだったら邪魔にならないかも」
「……動キ……ヤス、イ」
ミヒロは跳躍、ヤナは素振りをし動作確認を行った。
「デザインも元々の服をイメージして、少しアレンジを加えてみました。あまり柄のないシンプルな作りでしたがそれでよかったですか?」
「うんっ! あまり柄もの好きじゃなくて」
「……バッ、チリ?」
拙い言葉でそう呟き、確かめるようにミヒロを向く。
「ん? うんっ、バッチリだよ!」
ミヒロは握り拳から親指を立ててグーサインを出しヤナに答える。
「さーてと、これで出発できるね」
「あっ、待って下さい!」
「おーっとっと……。……どったの?」
ミヒロは早くダンジョンに行こうと駆け出したが、ハイナの制止の声を聞き咄嗟に足を止める。バランスを多少崩しながらも見事に止まると、ハイナへ向き直る。
「お二人に、服とは別にお礼の品をそれぞれ用意したのでこちらも受け取ってもらえませんか?」
「いいの? 懐具合とか」
「気にしないで下さい。あのギルドがいなくなったので抱負の分の生産物がすべて売りに出せるので後々安定します。なので遠慮なくもらってください」
「うーん……。じゃあ、そうしよっかな。なら、まずはヤナに渡してあげて」
「はい。ヤナさん、こちらを受け取ってください」
ハイナの手から渡されたのは、黒い鞘と柄を持つ一本の刀だった。
「……刀……?」
「はい。ヤナさんがすでに持っている刀と対になる黒い鞘と柄のデザインにしてみました。切れ味は私たちが保証します」
ヤナは鞘から刀を抜き、刃を自らの目で観察する。陽の光を反射し、蒼く鈍く光る刀身はヤナの関心を引くには十分だった。
その様子を見て、ミヒロは一つ疑問に思ったことを口にする。
「って、作れたの? 武器とかって余計に要求されるんじゃ?」
武器が生産できる。もしそれが可能であるならばヴァロンたちが目をつけないはずがないと思ったのだ。
その質問に答えたのはハイナだった。
「私たちに武器を作る必要はないんです。元々村には個人の鍛冶場だけで、大規模な鍛冶場の施設はなかったんです。それに武器を持っている家などないので武器を作っている証拠もありません。よって話す必要がなかったんですよ。というか話したら作れと言われてしまうので隠してました。あなたたちには言ってませんでしたが、この村にも何人か職人さんがいるんですよ」
「ほぇ~」
「……軽イ」
数回ほど刀を振り感覚を掴む。
その質の良い刀を見たミヒロは自分の分の品が楽しみで仕方がなかった。
「いいな~。私のは?」
「……えーっと、これなんですけど……」
催促され、ハイナは少し遠慮がちに道具を差し出す。
「これって、リストバンド?」
ハイナの手に乗せられていたのは一つのリストバンドだった。水色をベースとしたものでトゥルゼスを模した刺繍が入れられていた。
「はい。武器は材料がなく作れなくて、なのでアクセサリーとしてこれを。一応運気が上がる効果があります。武器をお作りできればよかったんですが……。こんなもので申し訳ありません……」
ハイナは申し訳なさそうに語気を弱めていたが、ミヒロは大して気にした風ではなく、すぐに装備画面からリストバンドを装備していた。
左手首に装備されたリストバンドを、空に掲げながらミヒロはじっくりと眺めた。
「おー! いいじゃん! 他の武器も使ってみたいけど多分持て余すだろうし、ちょうどいいかも」
「……そう言っていただけるとありがたいです」
その様子に、ハイナは気が抜けたように礼の言葉を零す。
「さて、と。貰うもんももらったし今度こそ大丈夫かな?」
「アイテムもしっかり持ったね?」
「大丈夫なはず!」
「はずって、あんたねぇ……」
「どうなるのかのぉ……」
不安にさせる口振りから、イーサだけでなく村の皆が不安を募らせていた。
「どんな事があっても何とかなるよ! というより何とかする!」
「……全部……、斬ル」
「……ま、あんたたちならどうにかできそうだね」
やる気に満ち、何を言われようと止まろうとしない二人を見て、イーサは諦めたように溜め息をついた。
「じゃあ、行ってくる!」
「……行ッテ……クル」
「頑張りな」
「お気をつけて」
村の皆に応援され、それに応えるように手を振りながら、二人はダンジョンへと向かっていった。
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