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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
23/67

22話:爆食少女たち

時間的にギリギリアウト、なんですかね…

次回は可能であれば9月末に出します。

 ミヒロの足音に村の人々が気づき、足音のする方へ視線を向ける。



「……どこ行ってたんだい?」

「ん? ちょっとね。あっそうだ! ヴァロンたちの部下は?」



 イーサの問いを軽く受け流すと、ミヒロはキョロキョロと辺りを見回す。動けない程度にダメージを与えたとはいえゲームオーバーにはさせていないため、回復した後の行動が気にかかったからだ。



「全員逃げたよ。ギルドの団長がゲームオーバーになればギルドは自動的に解散になる。みんな好きなように逃げて行ったさ」

「そっか」



 ミヒロはイーサの言葉を聞いて安心し、疲れた体をほぐすように両腕を空に向け背伸びをした。



「それより疲れたー! なんか美味しいもの食べたい! ね?」

「……? ウン」

「呑気なもんだね」

「まぁ、助けていただいたわけですし、今日ぐらいはいいんじゃないですか?」

「元々そのつもりさ」

「やったー! ご飯ご飯~♪」



 こちらの世界で食事ができると聞いたミヒロは大喜びしその場でピョンピョンと跳ねる。その行動を見たイーサは目を細める。



「……ご飯目的で助けたのかい?」

「そんな訳ないじゃん! 私にだって義理人情くらいあるよ!」

「……違、ウノ?」

「ヤナまで!?」



 恍けて首を傾げながら話したヤナの言葉に驚愕するミヒロ。和む空気を作り出す二人を見た村の人々も笑顔になっていた。



「とりあえず、家の復興も兼ねて忙しくなるのぅ」



 村を見回したクレソンの一言が耳に入り、ミヒロはクレソンへと視線を向ける。



「あっ、そうだね。ごめんね、色々壊れちゃったから……手伝うよ?」

「いやいや、あんたたちは食堂に来な。精一杯もてなしてやるさね」



 自分たちの戦いによって壊してしまったという意識があるがゆえにミヒロはそう述べたが、イーサは首を振り、もてなしすることを優先した。



「……いいの?」

「あたしたちがいいって言ってるんだ。文句でもあるのかい?」

「文句なんてないよ! じゃあお言葉に甘えて、ヤナ、行こ!」

「……ウン」

「ハイナ。案内してやんな」

「はい。二人とも、こちらです」

「わーい!」



 ハイナの後を追い、二人は食堂へと歩いていった。






「……」

「……」



 呆然と、食事を用意していた村の人々は目の前の光景をただ呆然として見ていた。


 テーブルについているのは二人のプレイヤー。先程ヴァロンたちとの戦いを終えて、食堂にて食事をしていた。


 ではなぜ彼らは呆気に取られているのか。それは……。



「うーん、これも美味しい!」

「……オイ、シイ」



 今目の前の光景を受け止めがたいから、であった。


 テーブルには大量のお皿が塔のように積み重なっていた。その皿の塔の数は幾つもある。二人が食べ終えた料理の皿がその上へ積み上げられていき、皿の塔で壁が出来上がってもお構いなしに二人は箸を止めず食べ続けていた。


 見た目に反して、二人は大食いだったのだ。そして今も、空になったお皿が塔の上に乗せられた。


 この仮想世界で食べても現実世界の体のお腹が満たされるわけではないが、空腹の概念があり、時間が経過すると空腹信号が発令される仕組みとなっている。


 加えて胃袋の大きさが現実世界の体とゲームの世界で同じであるため、例えば現実で小食の人はこちらの世界でも小食なのだ。この二人は現実でも大食いであるから、この世界でもその胃袋も大きく、その大食いぶりをいかんなく発揮していた。



「あっ、これおかわりできる?」

「……」



 ミヒロは近くにいた女性にそう声を掛けるが、反応がない。



「えーっと、あのー!」

「……えっ、はい?」

「この、パスタ? おかわりしたいんだけど」

「わ、わかりました」



 もう一度声を掛けたことにより遅れて気付いた女性が慌てて厨房へと向かっていく。それを見た他の人たちも厨房へと戻っていった。



「んー! 美味しい!」

「……」

「……もてなしてやるとは言ったけどね……。いくら何でも食べすぎだよッ!?」

「ふぁっておいひいんだもん! 箸が止まんなふて!」



 会話している間も食事の手は止めず、ハムスターのように頬が膨らんでいた。そのせいかはっきりと言葉を話せていなかった。



「まぁまぁ、今回は助かったわけですし、いいんじゃないですか?」

「……あたしらの食糧が尽きない程度に食べておくれ」



 ハイナの説得にイーサは渋々納得するも一言だけ釘を刺しておく。



「はーいっ!」



 ミヒロの間抜けた返事に、心配になるイーサであった。






「あー、食べた食べた! ご馳走様っ!」



 ミヒロは食事に満足すると、両手をパンと叩いて手を合わせた。テーブルの上には二人で食べたとは思えない量の皿が積んであった。



「……ゴ、チ?」



 ミヒロの挨拶が気になったヤナはあやふやな形で真似しようとするも上手にできなかった。その様子を見たミヒロは食事のあいさつを教えることにした。



「あぁ。ヤナは知らないのか。ごちそうさま、っていってね、ご飯を食べ終えた時に言う日本の挨拶だよ。ほら一緒に、ごちそうさま」

「……ゴチ、ソウ……サマ」



 ミヒロの動きに倣ってヤナも手を合わせ挨拶をする。その様子を見たミヒロは頬を緩めた。



「ところで」

「んー?」



 食事を終えたミヒロたちにイーサは声を掛けた。



「この後はどうするつもりなんだい?」

「この後?」

「ここを拠点にしてレベルを挙げたり装備を整えたりするのか、ってことさね」



 イーサたちは幸か不幸かヴァロンたちのギルドのやり方を知っていたため、ギルドの方針や活動内容をある程度把握していた。



「あー、しばらくはお世話になるかも。けど、多分ひと月もすれば次の村とか町を探して出かけるかな」

「拠点には戻らないのかい?」

「私、拠点を作るつもりないからね。ていうかないし」



 さらっと暴露されたミヒロの言葉に村の人々は唖然とした。



「作る気もないって、どうやってレベル上げを?」



 気になった村の男性が問いかけるもミヒロは調子を変えず答えた。



「さぁ? 今まで行き当たりばったりだったからこの後もそうなるかもね。プレイヤーを倒しても経験値が入る謎仕様なわけだし、かといってプレイヤーばかり倒すわけでもなくモンスターだって倒していくし、行く先々でダンジョンに潜っていくから大丈夫だよ」



 戦いの後ミヒロは一度ステータスを確認した際、なぜかレベルアップしていることに気付いたのだ。プレイヤーを倒した際に経験値が入ったこと以外に原因が考えられないため、ミヒロはそう推察した。



「プレイヤーキルは一種の犯罪だしねェ……。ただ、それだと危険が伴うよ。あんたに言っても意味があるかわからないがね。地図もなしに冒険なんて……」

「私はさ、この世界を攻略するの。自分の目でこの世界の果てまで全てを見てみたい。このゲームじゃゲームの常識は通用しないんだよ、きっと。現に、回復手段が少なかったりゲームオーバーでデータが初期化されたりさ。拠点を作ってそこでずっとレベル上げするのが常套手段なんだろうけど、きっとそれじゃ私は飽きちゃうから。だから私は冒険をするの!」



 眩しいほどの明るい笑顔で目標を語るミヒロの表情には、不安も恐怖も全くなかった。



「……なるほどね」

「うんっ! でもそろそろ時間だから、一旦帰るね」



 時計を見れば午後六時半を差しており、ミヒロの家では夕食の準備が進められている時間帯であった。



「そうかい」

「ヤナ、またね」

「……マタ、ネ?」



 ヤナに手を軽く振ってそう挨拶をする。ヤナもそれに倣いぎこちなく真似をして挨拶を返した。



「さっ、ご飯食べるぞー!」



 そう大きな声で宣言したミヒロは、数秒後光と共に【クレアシオン】から姿を消した。



「……私、モ………戻ル」

「あぁ、またね」

「ウン……。マタネ」



 ヤナもログアウトへと操作を進める。イーサが別れの挨拶をすると、今度ははっきりとした言葉と動作であいさつを交わす。その数秒後にヤナも消えていった。



「……さっきのを見ると、あの子が現実で食べる量を考えると食費ってすごいんじゃないかねェ」

「確かに」



 イーサの言葉にハイナは苦笑いを浮かべる。


 だが、彼女らはとても心がすいていた。


 自由奔放で幼さが残る、たった二人のプレイヤーに救われたのだ。いまだに信じられないが、今こうして生きていられることを感謝していた。


 その気持ちを噛み締めながら、イーサたちは食器類を片づけ始めた。




   × × ×




 ログアウトした少女――ヤナ――が、一番初めに視界に入ったものは見慣れた天井だった。窓はカーテンで日差しを遮断している。これは生まれた時から紫外線に弱い体質だからだった。


 昼間からログインしていたため電気すら点けていなかった。ヤナはゆっくりと体をベッドから起こすと、《クハイリヴァ》を外し、入り口辺りまで歩き部屋の明かりを点ける。


 直後、くぅ、とヤナのお腹が鳴る。時間的に晩御飯だと理解しヤナは扉を開けてリビングへと向かう。


 ヤナの家は一軒家で二階はない。リビングと和室とその他の部屋が二つあり、風呂とトイレは別に完備されている。自分の部屋から抜けて角を曲がりリビングへと入る。


 リビングには夕食が用意されており、テーブルには一人の老婆が座っていた。



「Рис, это сделано(ご飯、できてるよ)」



 彼女は冷泉シズ。ヤナの祖母にあたる人物で、ヤナはシズと二人で暮らしている。



「Да(うん)」



 ヤナは祖母の向かいの椅子に座ると慣れない手つきで箸を持ち、皿に盛りつけてある卵焼きを一つ掴み、口へと運ぶ。


 シズの作る卵焼きは砂糖と醤油のバランスが良くご飯が進む。出来立てで湯気が上っていることがより食欲をそそった。



「Вкусно!(美味しい!)」

「Правильно. Ешьте медленно.(そうかい。ゆっくり食べるんだよ)」



 その後少しだけヤナは箸を進めていたが、ふとその手を止め祖母へと顔を上げた。



「……Эй, бабушка.(……ねぇ、おばあちゃん)」

「Что Глава?(何だい?)」



 決心した表情でヤナは祖母へとあることを告げる。



「Я хочу, чтобы ты научил меня японцам(日本語を教えてほしいの)」

「Вдруг почему?(……急にどうしてだい?)」



 今まで教わる気がなかったヤナの突然の願いに戸惑った祖母だが、次の言葉で納得することができた。


 ヤナは、小さく呟いた。




「У меня есть друзья!(……友達ができたの!)」




「……! Правильно. Ну, тогда, давайте вспомним это понемногу(……! そうかい。じゃあ、少しずつ覚えていこうね)」

「Да!(うん!)」



 彼女たちの夕食は、和やかに過ぎていった。その日、ヤナはご飯を四杯食べた。




お読みいただきありがとうございます!

おかしな点等があれば感想や活動報告にコメントをお願いします!


※ロシア語での会話が多くない限りはロシア語の文もつけようと思います。


PV5,500&ユニーク2,000人突破しました!

すごくうれしいです! ありがとうございます!


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