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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
22/67

21話:衝突の末

改行の仕方を少し変えました。

「……?」



 その挙動を見てヴァロンは不思議に思い、思わず攻撃の手を止める。


 次の瞬間、姿勢を低くしていたミヒロはヴァロンの顎に目掛けアッパーを叩き込んだ。動きが止まった隙を逃さず胸へ掌底を突き出す。



「ごっ!?」



「喧嘩歴なら、誰にも負けない自信あるね」



 踏み込んで自らの体を翻すとミヒロはヴァロンの背中へ回し蹴りを食らわす。



「人の弱点って多いもんだよ?」

「くそがッ……、おごっ!」



 ミヒロは攻撃を避けつつ再び脛へ蹴りを入れた。続けざまに裏拳を顔面に叩き込んだ後、跳躍し体をグンと捻り後ろ蹴りを顔面へ当てる。


 反撃しようにもヴァロンが冷静でなく大振りな攻撃になっていることに加え、ミヒロが小柄であるため攻撃は当たらなかった。


 ミヒロの怒涛の連撃にヴァロンは堪らず顔面を抑え後退する。体のあらゆる部分を一斉に攻撃され、全身に痛みが走っていた。


 ヴァロンは顔を抑える手の指の隙間からミヒロの様子を窺う。ミヒロは悠然と構えているままだった。その様子を見て激昂し薙刀を持ちかえてミヒロへと突撃する。



「こん、畜生がぁッ……!」

「やっぱ剣より拳だね。今までおばあちゃんたちをやってくれたこと、ダンジョンやクエストの妨害をしたこと、……ゲームの恨みは我が恨み!」

「意味がわから――ごぶッ!?」



 ヴァロンはミヒロを攻撃しようにも、短期決戦へと持ち込もうと大振りな攻撃になってしまう。ミヒロは前傾姿勢で前に回避し、ヴァロンの腹筋目掛けて拳を突き刺す。



「わかんないわけないでしょうがッ! 《撃技》!」



 ミヒロは突き刺していたトゥルゼスを掴むと、トゥルゼスの刃を腰の後ろへ持っていき、腰を落とし《撃技》の構えに入る。ミヒロの声に呼応しトゥルゼスの刃が緑色の光に包まれる。



「ぐッ……」 



 ヴァロンはその光を見て我に返り、ミヒロを倒す術を考えていた。


 《撃技》には強力である反面弱点を備えているものもある。ヴァロンはミヒロの放つ《撃技》の初動を見て次の行動を決めることにした。



「〝欺ミ陽炎〟!!!」



 ミヒロは技名と共にトゥルゼスを大振りにヴァロンに向かって振り抜こうとした。



(大振りッ! 隙だらけだッ……!)



 自分が突かれた隙を自ら作るミヒロに、ヴァロンは剣の軌道を見切って回避し、反撃の一撃を叩き込もうとした。




「なんて」




 その刹那、ミヒロの姿がぶれた。よく見れば残像の如く振り抜いてトゥルゼスが迫ろうかという瞬間から、ミヒロが動いていない。



「なっ!?」



 不思議に思うも、もう遅かった。


 ミヒロは残像に気を取られていたヴァロンの横に回り込んでおり、光を帯びる刀身をヴァロンの横っ腹へと叩き込んだ。



「だァアアアア!!!」



 骨の軋む音と一緒にヴァロンの体がくの字に曲がる。両手で力の限りトゥルゼスをヴァロンの体に当て、振り抜く。


 吹き飛ばされたヴァロンは幾度と転がっていき、やがて家の壁に激突するとその衝撃で壁が崩れ、家が崩壊する。


 瓦礫が地面を打ち、土煙が崩壊する家を含む一帯を包み込む。崩れた際に発生した風が畑や家を揺らすが崩れることは無く、やがてそれも収まる。


 油断せずしばらくヴァロンが吹き飛んだ方向を見つめていたが、動き出す気配はなかった。



「ふぅっ! 終わりっ!」



 ミヒロはその様子を見届けたのち、ほっと一息つくとトゥルゼスを腰へ佩いた。


 戦いの終わりを告げたようなその姿を見て、ヤナはミヒロへ駆け寄った。



「……ミヒロ」

「おー、ヤナ。お疲れー!」



 ヤナは様子を窺うようにミヒロへと声を掛けた。


 肩は薙刀で貫かれ、服は斬られてボロボロになっていた。擦過傷が至る所にできており、口元からは血が垂れている。


 その状態でなおけろっとした様子で会話するミヒロが、ヤナは不思議だった。



「……」



 それは村の人々も同じことで、目を丸くしてミヒロの事を見つめていた。



「どったの?」

「呆気に取られてるんじゃないかい?」



 ただ一人、イーサだけは普通に接しているように見えたが、イーサも内心では心底驚いていた。



「あ、イーサ。みんなも」



 周りに多くの村人が集まってきていたことにミヒロは今更気づいた様子だった。



「たまげたもんだ、こんな小さい子が」

「これでも腕には自信あるかんね!」



 クレソンが感嘆の言葉を漏らし、ミヒロは笑顔で答える。その笑顔は、あれほど激戦を繰り広げていた少女が見せる笑顔とは思えないほど、明るいものだった。



「あの」

「ん?」



 声を掛けられ振り向くと、イーサたちと畑作業をしているハイナの姿があった。



「えーっと、何から何まですみませんでした……。私達には戦えない以上プレイヤーであるあなたたちに頼ることになってしまって……」



 ハイナはミヒロへ深く礼をする。村の人々を代表したお礼だった。



「いいのいいの! 私もヴァロンたちが許せなかったしさ」



 ミヒロはそうとだけ言うと、ヤナ達へ背を向ける。



「んじゃ、ちょっと待ってて」

「?」



 ミヒロがどこへ向かったのか、何しに行ったのかが分からず、ヤナ達は困惑していた。






 ミヒロが向かったのは、自分が吹っ飛ばしたヴァロンが飛んで行った先、崩れた建物の前で立ち止まった。



「げほっ……」

「うはー、ここまで吹っ飛んでた」



 目の前にはヴァロンが、瓦礫に背中を預けている姿勢でいた。現在ミヒロがいる位置に対し向かい合う形で家に衝突していたためだ。


 声に気付きヴァロンは視線を動かし、視界に入る人物をとらえる。



「……お前、か……」



 光が体から放たれ始めていたため、損傷率が100%に達したことをミヒロは理解し、その場に座り込む。


 損傷率が100%に達しても口を開き言葉を発することができるのは、辺りにいる主に仲間に対する指示や伝言などを残すための運営側の配慮からだ。それゆえ体への制限がかけられるシステムでも、一部の部位は動かせるようになっているのだ。



「反省した?」

「反省も、何もない。損傷率が100%になったんだ。もう何も、できない。もうこの世界に来ることも、……ない」

「……そっか」



 力なく言葉を発するヴァロンの言葉に偽りがないのを理解すると、ミヒロはほっと息をつく。



「負けた男に、同情か」



 わざわざ敵に声を掛ける必要はないとヴァロンは思っていたため、ミヒロの行動がそうとしか思えなかった。



「んなことしないよ。初めての強敵がプレイヤーっていうのはちょっとあれだったけどね。……ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「何だ」

「ヴァロンは、ギルドを作って、メンバーを増やして、最終的にどうしたかったの? 偉い人になりたかったの?」



 ミヒロは自分の幻想攻略という大きな目標を否定するヴァロンが、この世界でゲームする目的が分からなかったのだ。だからと言ってダンジョン攻略をしていないわけでもない。


 この問いに、口を開いたヴァロンが発する言葉は意外なものだった。



「……わからん」

「えっ?」



 ミヒロは思わず首を傾げる。ヴァロンは言葉を続ける。



「始めたきっかけも、子供がやりたいと、言っていたからだからな……。特に目的もない」

「ヴァロンって子供いたんだね。こんななのに」

「余計な御世話だ」



 本来であれば頭を叩いてやろうと思ったが、ゲームオーバーになっている以上体が動かないので口で言い返すしかなかった。



「じゃあ悪いことしちゃったかな。ていうかその子、今どうしてるの?」

「同級生と仲良く、クエストをこなしている。食事の時、楽しそうに話しているのを、聞いているからな」



 話すヴァロンの表情は変わらないが、言葉が柔らかくなったことから子供への愛情がある人間であることをミヒロは理解した。



「やっぱいいよね~、皆でやるの。子供を見習ったらどうよ」

「それがいつまで続くか、わからんけどな。自らの保身のためなら、友人など簡単に切り捨てる」

「まーた言ってるよもう……」



 ミヒロは呆れて片手を顔に当ててため息をつく。



「……言っておく、がな」

「にゃ?」



 顔を上げ鋭い目つきでヴァロンはミヒロへ語りかける。



「……この先、俺より強い奴などいくらでもいる……。自身の強さに自惚れるなよ……。次々現れる強敵の前じゃ、そんな余裕など言っていられなくなる……。貴様のその自信が慢心を生み、いずれ挫折を味わう」



 その言葉に、優しさは欠片もない。自らを負かしたプレイヤーへの警告は、どこか確信を持っていた。



 それを聞いたミヒロは、……――笑顔を向けた。



「もしそうなっても乗り越えるよ。私はこの世界のすべてを見る。この世界を攻略する。止まってなんていられないからさっ」



 ヴァロンは思わず、目を見開いてミヒロを見る。


 自分との戦いの後で、服は破れ、額や肩からは血と汗を流し、今も下へと流れており息も整っていなかった。


 その状態でなお、ミヒロが向けた表情は笑顔だった。そこからわかる自信の根拠は知れなかったが、目の前にいるプレイヤーの実力、そして語る夢を見て、聞いて、自然と納得した。



「……夢があるから、恐れず、立ち向かっていけるんだな」



「私からすれば夢は原動力も同じ! 昔からそうなんだ、きっと。人は夢を追いかける生き物だからね!!」



「……そうか」



 子供。ゆえに、純粋。


 夢を語るのはバカらしいと嘲笑ってきたヴァロンの考え方は変わらない。しかし、夢を追う純粋さという強さの形を一つ学んだ。



「忠告はありがと。いい戦いだったよ。いろいろ為になる事もあったし。……それでも、ヴァロンがやったことは許さない」



 静かに、ミヒロが告げた言葉には怒りが乗せられていたが、その気持ちをヴァロンは当然理解している。



「……そうだな」



 ヴァロンは瞼を閉じ、静かに答える。


 その直後、ヴァロンから放出される光が強まり、一気にアバターがポリゴン状の破片となり空中へ消えていく。


 天へ召されるように空へ吸い込まれていく光を、ミヒロは見続けていた。



「……お疲れ」



 見届けたミヒロは静かにそう呟くと、その場から立ち上がってヤナやイーサのいる場所へと歩いていった。


お読みいただきありがとうございます!

おかしな点等あればご指摘のほどお願いします!


自分の作品のPVやユニークが増えていくのを見ると思わず顔がニヤける自分。


次回の更新は不明ですが、八月の終わりにはあげたいと思います。

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