20話:ミヒロvsヴァロン
祝20話!
夏休みでも投稿ペースは変わらないと思います。
瓦礫が散乱し、土埃が辺りを包む。一歩歩けば家の破片が音を鳴らし、見上げれば発生した衝撃で壊れた屋根の隙間から青空が見える。
ヴァロンは振り下ろされた薙刀の先を見つめていた。その刃が、地面に届いていなかったからだ。
やがて、一人の女性らしい声音と、それに見合わない言葉が聞こえてくる。
「んぎぎぎぎぎ!」
「……止めるか」
ミヒロはかろうじてトゥルゼスを横にし、両手で持って先程の一撃を耐えていた。以前力が込められたままだが、見た目以上に力があるせいかこれ以上は刃が進まない。
「負けらんないっつったよね!」
「実力がそれに伴うかは別だ。ま、力量を見極めるのも判断の一つ。リエンが負けたのもそれが理由だろうな」
ヴァロンの鼻につくいい方に、ミヒロは憤りを感じた。トゥルゼスを握る手にさらに力が入る。
「……何その言い方。仲間なんじゃないの……!?」
ミヒロは睨みつけながらヴァロンに問う。
「仲間さ。良いように使える忠実な、な」
「ッ!」
その返答に、ミヒロの怒りが頂点に達した。
「ごッ!?」
ミヒロは薙刀を受け止めた姿勢のまま下半身を持ち上げ、ヴァロンの鳩尾へドロップキックを叩き込む。呼吸を乱され数歩後退し、ヴァロンは呼吸を整える。ミヒロは跳ね起きをして姿勢を正した。
「気にいんないッ!!」
その言動も、やり方も、振る舞いも。
自分より下だと決めつけ嘲笑うヴァロンが、ミヒロはどうしても気に入らなかった。
許せなかった。
仲間は使うものではないと、自らの怒りを募らせ露わにする。
「人の世なんてそんなもんだ。上司は良いように部下を使う。部活でも先輩は後輩を使いっパシリにする。それらと同じだ。何ら変わりはしない。そして、それをされた部下や後輩が次の後輩や部下を扱き使う。そんな連鎖が続くのさ。現実でもそうなら、ゲームの中だって変わらない。俺達で言えば、団長である俺がリエン達ギルドメンバーを使い、それをされたリエンが自分の下だと思う部下を使う」
ヴァロンはミヒロの怒りに怯むことなく持論を展開する。ミヒロはその考えを理解できなかったわけではないが、納得もできなかった。
「メンバーを見た限りじゃ、結構慕ってたように見えるけど」
リエンはヴァロンの指示に従い行動していたこともあり、信頼関係が築かれていたので、ミヒロは疑問に思った。
「それが信用できれば、の話だがな。現実問題リエンは負けた。部下を使ってもだ」
「ま、ヤナは今まで一人で頑張ってたし、強いってことは分かるしね! ……でもなおさら、なんで仲間が負けても平気でいられんの?」
「言っただろう? 信用できれば、だ。もし失敗した時のことも考えておくものだろう? リエンがいなくても俺がそれをやれる。ヤナのガキもお前も、殺すだけだ」
薙刀を構え、ヴァロンは殺意を込めた冷たい視線をミヒロへ向ける。現実世界では見せないであろう感情。本気で殺そうとする勢いに、ミヒロは怒りながらもあくまで冷静に、トゥルゼスの刃をヴァロンへ向ける。
その次に、ミヒロが取った行動は……。
「殺されるもんか! べー!」
目の下の皮膚を引っ張って舌を出す。所謂「あかんべぇ」であった。
「ッッ! つくづくイライラさせるなお前は……!」
「素だからしょうがないじゃん」
「尚更質が悪い!」
会話がいったん止まると、ミヒロは考え込むように顎に手を当て瞼を閉じた。
「……よしっ、決めたッ!」
何か思いついたようにぽんと手を打つ。
「……何をだ」
「私さ、ギルドを作りたいって思っててさ。でもメンバー集めとか方針とか、あんま考えてなくて」
「……何が言いたい」
話題の意図が掴めずヴァロンの苛立ちが募るが、そんなことお構いなしにミヒロは言葉を続ける。
「簡潔に言えば、ヴァロンのとこみたいなギルドにはしたくないなって思ったの。やっぱ楽しくなきゃ!」
ミヒロは何より楽しいことが大好きだった。
中学の部活動は強制参加だったが、ミヒロは面倒くさがらずに陸上部に入部し練習に真面目に取り組んだ。ただ結果が出ること以上に部活メイトとの関係性を深め部活を楽しくすることが、ミヒロにとっては嬉しかった。
人との関係を築くことは、その分人の数は増え交流が広がる。喧嘩や寄り道などの些細なことでもミヒロは人と接することができて楽しかったのだ。
自分と一緒にバカをやる部活メイトと一緒に笑いあう日々が楽しく感じていた。
だからこそ、ミヒロは楽しいことが好きでそう言った環境を作りたいと思った。自分の思い描くギルドの形をこのゲームの世界で作りたいと思ったのだ。
「大人になれば楽しいとか言ってなどいられなくなる。嫌でもわかるさ。世の中に出れば人間の泥臭さや卑怯さってもんが痛いほどわかる」
「意地汚いのが大人ってもんじゃないでしょうに……」
ヴァロンの言い分にミヒロはため息を吐く。
「けど、少なくはない」
「まぁ、社会人じゃない私だから知らないだけかもしんないけど。……でも、少なくとも私が知ってる大人たちは全員良い人たちだしね。ヴァロンみたいに闇堕ちはしないよ」
「闇堕ち言うな!」
ミヒロの言葉にヴァロンは咄嗟にツッコんだ。
「……頼れなくなったら、やっぱ淋しいじゃん」
言葉を発したミヒロの髪が風で靡く。その表情は憂いにも悲しみにもとれた。
ただ握りしめた拳からは、怒りの感情が覗かれる。
「……味方すら蹴落とすような人に、私は負けないよ」
凛と、ヴァロンを見つめて言う。口から血が流れていようと、損傷率が高くなっていようとも、ミヒロはその場に立ち武器を構える。
その表情を見たヴァロンもまた、武器を構えミヒロを見据えた。
「抜かせ!」
「絶対倒す!」
最後の攻防が、始まった。
「夢や幻想を抱くな! 現実だけがすべてだッ!」
「夢を持って生きることは悪いことじゃない! 私はこの世界を攻略するんだッ!!」
互いの武器が火花を散らし衝突する。体力的にヴァロン側が優勢だが、ミヒロの攻撃の手は激しさを増していき、止まらない。
(何だこいつは……! 俺の撃技を見てなお攻めの姿勢を崩さない……!)
ヴァロンはミヒロの攻めの姿勢に怯みかけていた。
自らの自慢の撃技を二度も受け、防御しながらも確実に一撃を与えられて、なお攻め続けるミヒロにヴァロンは脅威を感じた。
だからこそ、放っておけばいずれまた衝突することになる。ヴァロンは歯を食いしばって攻撃を受けつつ反撃を加えていく。
対するミヒロも向こうが繰り出すカウンターを紙一重で躱していくと同時に隙を見つければすかさず反撃の一撃を繰り出していく。
「うっ!」
攻防は続いていたが、ヴァロンの薙刀がミヒロの右肩を貫く。だが、ミヒロは右手で刺さった薙刀の柄を掴んだ。
「なっ」
咄嗟の事にヴァロンは離れようとするが、ミヒロは掴んでいる手も一緒に掴んでいたため、柄を離しても距離を取ることができなかった。
「だぁッ!!」
ミヒロはもう片方の手に握っていたトゥルゼスでヴァロンの腹を突く。攻撃と同時に手を離すと、ヴァロンは薙刀と一緒に数メートルほど飛ばされる。
「ちぃっ」
ヴァロンは腹を何度か摩り問題ないことを確かめた後、再び武器を持ち直しミヒロの元へ接近していく。
「さっさと負けろッ!」
「お断りッ!」
ミヒロの元へ薙刀を振り下ろすが、ミヒロはそれを擦れ擦れで回避。ヴァロンの後ろへ行くすれ違い様に脛に向かって蹴りを放つ。
「がっ!」
ヴァロンは思わず蹲った。
ミヒロは後ろからヴァロンの様子を窺う。貫かれた右肩からの流血が止まらないが、ミヒロは気に留めなかった。
「私はこの幻想世界を攻略する。そう決めたんだから、こんなところで終わらない。絶対負けない」
「大層な夢だな」
ヴァロンは口元を拭うと立ち上がってミヒロの方を向き、再び攻撃を仕掛ける。
「夢は大きくてもいいでしょ別に!」
ミヒロは言葉でも攻撃でもヴァロンに対抗していく。互いに勝負をつけるために体力が消耗しているにもかかわらず攻撃の鋭さが増していた。
「たった数日前に始めたばかりの子猫如きに何ができるッ!」
「日数なんて関係ない! 現にこうしてヴァロンと戦えてるしね!」
「経験値の差だ! 俺は発売日当日からプレイしてる。お前とは経験の長さが違う!」
発売当初からこの世界に入り、ステータスが反映した体で生活していたため、すでに体が馴染んでいた分、ヴァロンは自分に有利だと思っていた。
だが、ミヒロはその言葉に反応して怪しい笑みを浮かべる。
「いんや」
ヴァロンの言葉を否定しながら、ミヒロは攻撃の手を止めるとトゥルゼスを地面へ突き刺した。
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