19話:任せときなよ
絞り出せ知恵を! 捻り出せアイデアを!
ストックを書き進める手が動かない…
大会に書類作りに課外に…。夏は過労死の季節ですな。
「……?」
油断せずに刀を構えたまま崩れた家を見つめていると、家の残骸から光が漏れてきた。
100%に達すると、一分のインターバルの後、ポリゴン状の破片となってこの世界から体が消える。ゲームオーバーになると所持金や所持品がすべてゼロになり、レベルも1になってしまう。リエンが再びアカウントを作ることがない限りこの世界に姿を現すことはもうない。
「……ハぁ……、ハぁ……」
その光を見たヤナは、自分が勝利したことを自覚した。
戦いが終わり、ヤナは一息つく。その瞬間疲れがどっと押し寄せ、自然と地面に膝をつく。そのままペタン座りをして、勝利の余韻に浸っていた。
ヤナはふと損傷率も7割を超えていることに気づき、アイテムから回復薬を取り出して一気にそれを飲んだ。
この世界での回復薬は基本的に自然治癒により回復するものがほとんどで、瞬時に回復する効力を持つ薬はほぼない。
さらに普段から過ごしていても自然治癒できない。食事をした後の満腹時の少しの時間とゲーム内での睡眠が薬以外での回復方法で、これらのいずれも自然治癒による回復である。
飲んで少しすると、損傷率が少しずつ回復し、疲労感もなくなっていく。それと同時に一分が経ったのか家の残骸から漏れていた光の放出が止まっていた。
「……まさか、本当にやっちまうとはねェ……」
ヤナが振り返ると、イーサたちが歩いて近づいてきた。
「……他、ノ……人、……ハ?」
「ん、あぁ、あいつの部下かい? さっきまで取り押さえてたんだけどねェ、あいつがやられた途端に逃げちまったよ。情けないねェ」
イーサはケラケラと笑った。クレソンやハイナなどもそれにつられて笑っている。その光景にヤナは安心したように笑みを零した。
「でも、まだ終わりじゃない。まだ残ってる敵はいるよ」
「そう、じゃな」
「もう一人いますもんね……」
喜びも一時に過ぎず、不安はまだ拭えない。
もう一人いたギルドの団長が残っているのだ。
「……っ!」
ヤナは急いでミヒロの元へ走っていく。それに続いて、イーサたちもミヒロの元へ駆けて行った。
「せいッ!」
「このッ!!」
ミヒロとヴァロンの戦いは続いていた。その戦いは時間が経つに連れさらに激化し、武器がぶつかる度に衝撃が建物を伝う。
「まったく……。こんなことに時間を使いたくはないんだがな」
二人は一旦距離を取った。ただミヒロに比べ、ヴァロンの方が僅かながら呼吸が乱れており、肩が上下に揺れていた。
「元々そっちがいろいろしたのが悪いんじゃん!」
「キンキン喚くな。耳が痛い」
「気合入ると声大きくなっちゃうから妥協してよ。こんな状況だし」
「知るか。……さて、と。さっさとケリをつけるつもりが、……少し長引いたな」
ヴァロンは薙刀をミヒロに向ける。それを見てミヒロも体勢を立て直し睥睨する。
「ま、やられるつもりないし」
「ほざけ」
「おっと」
力強く踏み込むと、一歩前へ出て薙刀を横に払う。ミヒロはその場で跳躍しそれを回避した。着地までスムーズで無駄がない綺麗な動作だった。
「(こいつ……)……身軽なやつだ」
「まぁね。体育の成績はいい方だし」
「敵相手に何呑気に話をしてるんだあの人……」
遠くから戦いを見ていた受付の男性は、呆れたようにそう声を漏らした。
「さて、続きをやろうか。俺も暇じゃないのでね」
「そうだね。即刻あんたをぶっ飛ばしてくよ」
「油断はしないから無理な話だな」
「どうだろうね」
二人はまた足を開いて武器を構える。ミヒロは刃先が後ろになるように左手で肩に担ぎ、ヴァロンは両手で刃先をミヒロに向けていた。
そのまま、数秒。
ミヒロが踏み込むのを見てヴァロンが突撃。それに合わせてミヒロもダッシュでヴァロンへと向かっていく。
そして、衝突。剣がぶつかったのち剣戟が再開される。刃がぶつかる度に火花が散り、お互いの損傷率が加算されていく。
「くっ!」
ヴァロンは手数では負けていなかったが、トゥルゼスの一撃の重さが想像以上で押され気味になっていた。
「ほっ」
「うおっと」
ミヒロは剣を弾いた一瞬の隙にヴァロンの左足に足払いを仕掛け、体勢を崩させる。ヴァロンは思わず地面に手を突く。
「はッ!!」
「ッ!!?」
その隙を突いてミヒロは脇腹にトゥルゼスを薙ぎ、命中させる。ヴァロンの体がくの字に曲がり、地面を転がり村の一軒家に激突する。激突した家は罅が入りそのまま崩壊した。
「よしっ!」
ミヒロはガッツポーズをし、一旦攻撃の手を止め刃の先を地面に向ける。
ヴァロンの激突した家は音を立てて崩壊し、その中にヴァロンが埋まっている状態だが、ミヒロはまだ緊張状態を解かない。
「……ミ、……ヒロ!」
「あっ、ヤナ! イーサたちも!」
声の方向を向くとヤナ達が戦いを終えてミヒロたちの様子を窺いに戻ってきた。
「今どうなってるんだい!?」
「今剣で家に突っ込ませたけど……」
ミヒロは崩壊した家屋をちらと見やる。
「ちぃッ!」
少し間が空き薙刀を振るって瓦礫を振り払ってヴァロンが立ち上がった。頭から一筋の血が滴り、額に青筋が浮き上がっていた。
「ま、あれだけじゃ終わんないよね」
ミヒロは体を向き直し、再び剣を構える。
「……リエンの奴、失敗したのか……! これだから……」
ヴァロンはリエンが敗北したことを理解し悪態をつく。ただ、仲間がやられたにもかかわらずあまり動揺しないヴァロンに対し違和感を覚えた。
「……手、伝ウ」
「いいよ」
ヤナは抜刀しミヒロに近づいていこうとするが、ミヒロはそれを手で制す。
「何でじゃ? 二人でやったほうが……」
「明らかに疲弊してるでしょ。ヤナも、イーサたちも」
「!」
ミヒロは戻ってきたときから服装を見て辛勝だったことを悟っていた。
「私がやるって言ったんだし、任せてよ! これでも自信はあるからさ!」
ミヒロは力こぶを作って笑顔を見せる。人懐っこく、人を惹きつけるその表情や仕草は、ヤナ達をどこか安心させた。
「……任せたよ」
「うんっ! 任せときなよっ!」
イーサに言葉に、ミヒロは笑顔で頷いて答えた。そしてミヒロの決意はより固まる。
絶対に、負けないと。
「……この……ガキ」
よろめきながら、ヴァロンは少しずつミヒロへ近づいていく。
「……少々、お前を侮っていた」
血反吐を吐き、再度ミヒロと相対する。二人の間隔は距離にして数メートルほど。
「侮んないでよ!」
下に見られていたミヒロは心外だとばかりに怒鳴る。
「きちんと、礼をしてやるッ……!」
そういうとヴァロンは頭上に薙刀を構え、静かに集中し始める。と同時に薙刀の刃に黄土色の光が集まっていく。
「っ! いけないッ!」
「《撃技》……」
「あれって……」
イーサは光の集まるヴァロンの武器に収束する光を見て焦っているが、ミヒロは何が起こるのか知らず予測できないためその場から動けずにいた。
「避けなッ!」
「えっ?」
イーサの叫びがミヒロの耳に届くが、振り向くだけで動かない。
やがて、薙刀に纏う光が満ちた。
そして、――薙刀が振り下ろされる。
「……〝地断〟!!」
技名を叫ぶと同時に薙刀が振り下ろされた途端、爆風と土煙と衝撃が村一帯に轟き、爆散。家でさえ扉や壁が吹き飛び、畑の野菜が土に埋もれる。
振り下ろされた薙刀の直線上を、衝撃波が突き抜ける。
「うわっ!」
地面を抉りながら向かってくる衝撃波を前に、決死の覚悟でミヒロは横に回避したが、爆風で大きく飛ばされてしまう。
「……っ!!」
ヤナも両腕を前で組み防御姿勢となっていたが、それでも数センチほど後退してしまっていた。
「あぅっ!」
その衝撃にハイナは体勢を崩し尻餅をつく。
「ハイナ! 大丈夫かい!」
「は、はい」
イーサは咄嗟に駆け寄りハイナに手を貸すと同時に冷や汗を流す。これだけの威力が直撃した時の事を想像してしまったからだ。
「うっひゃー……。凄い威力」
ミヒロは飛ばされ家の壁に激突していたが、すぐに体を起こす。ただ、その口元は笑っていた。現実での喧嘩やドラマでの戦闘シーンが生温く感じてしまうほどの戦い。何より自分の体で衝撃を体感し命のやり取りをする臨場感。
初めての感覚にミヒロは高揚していた。
「余裕だな。ただ感心してる暇は、ないんじゃないか?」
「ッ!」
頭を振って意識をはっきりさせた瞬間、近くでヴァロンの声が耳に入る。すぐさま顔を見上げるとヴァロンが薙刀を構えていた。
「ふッ!」
「ちょっ……――ッ!」
トゥルゼスを咄嗟に盾にしたことで薙刀の直撃は避けられたものの、勢いを殺しきれず剣ごと後ろに飛ばされ壁に激突。家の中まで飛ばされてしまった。
「……あれだけ大口を叩いておいて、もう終わり、なんてことないだろうなぁ? ミヒロとやら」
ヴァロンは散乱する壁の破片など気にせずにミヒロへと近づいていく。
「いったた……。そりゃそうだよ。負けらんないし、負けるつもりもないし!」
ミヒロは膝を払うとすぐに立ち上がる。額から一筋の血が流れるが、ミヒロに気にしている余裕はなかった。その瑠璃色の瞳は闘志に燃え、トゥルゼスを握る力が自然と強まる。
「どうだか、なッ!」
ヴァロンは足に力を込め、跳躍。素早くミヒロの懐へ潜るがミヒロは冷静にヴァロンの薙刀の動きをよく観察し、横に薙ぎ払う予備動作を見切り咄嗟に姿勢を低くする。
ヴァロンが薙刀を振り切ったのを見計らい腹への突きで反撃を試みるも、ヴァロンはすぐに次の動作へ移行しており、迫るトゥルゼスの攻撃を弾く。
そこから、激しい剣戟が三度始まる。
「うっ……!」
「手数が追いついていないぞ。ふんッ!」
一言で言ってしまえばミヒロの劣勢だった。
レベル差と経験の違いが二人の一撃の重さや手数の多さに差をつけてしまい、ミヒロは防戦一方へと追い込まれていた。
直撃する攻撃はないものの、薙刀の刃が何度も頬や腕、足を掠り少しずつ損傷率が蓄積されていく。
「そこだ」
「しまっ……!」
ミヒロに疲れが見え始めたころ、一瞬の隙を突きヴァロンはミヒロの顎へ掌底を叩き込む。
「がッ!?」
ミヒロはよろめき数歩後退し尻餅をついてしまう。顎を揺さぶられ意識がぶれたのだ。
「っ、危ない!」
「《撃技》、〝地断〟!!」
イーサの声がした刹那、ヴァロンが刀身の光る薙刀を、ミヒロに目掛け力の限り振り下ろした。
凄まじい轟音が鼓膜を震わし、衝撃波が周辺へ飛ぶ。周りにいた者たちは風圧で表情を歪ませ、飛ばされないように姿勢を低くしていた。
「あぁ……!」
「……終わっ、たか……?」
ハイナやクレソンは顔を蒼くし悲壮感が表情に現れるが、イーサとヤナは違かった。
「……いや」
「……マダ、ッ……!」
二人はミヒロたちのいる方角をじっと見つめていた。
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