18話:貫く
投稿遅れました!
ただ、今回以降も忙しくなることから投稿が遅れます。前書きで早めるといっておきながらこの体たらく……。
「ちっ、いい加減寝ててくれや。面倒なんだよ」
リエンは余裕綽々とばかりに戦槌を振り回し威嚇をするが、ヤナは諦めずにキッと相手を睨みつける。
踏ん張る足に込める力は緩めず、眼前の敵から目を逸らさずにじっと剣を構える。口の端から一筋の赤い雫が流れ落ちた。
ヤナはそれを拭うこともせず、自由になった脚を少しだけ動かして異常がないことを確かめる。
確かに痛かった。痛みはまだ体を蝕んでいる。その血が確かな証拠だ。今も口の中が血の味に染まっていた。
損傷率も加算されている。ただ、100%までは余裕はある。それでも一撃で9%まで加算されたのは痛手だったように感じていた。
けれどこれだけの痛みを追って損傷率が少ししか加算されていないのは、安心する反面簡単に諦めきれないことも問題になっている。
何でも、痛くて動けないのに無理やり体を動かそうとする気力がないとの意見がある。スタミナの事も関係しているのでモンスターや対人戦において痛みに対しての対策があまりとられていない。
ヤナとリエンにレベルの差はあまりない。戦闘経験もお互いにそれなりに数は熟している。違いは二人の戦闘スタイルだけだった。
「……」
リエンはまた、ちらと仲間へと合図を送る。ヤナはこれが合図なのだと察し、すぐさまリエンへと攻撃を仕掛ける。
無差別に攻撃するわけではなく、防御した時の挙動から隙らしき部位を見つけてそこへ刃を当てていく。ヤナの剣技は素早いほか、リエンの武器が戦槌であることが災いしてリエンは攻撃をあまり受け止められなかった。
戦槌の柄や装備の腕甲で受け止めるときもあったが、足の防御が間に合わず次々に斬り付けられていく。一撃が軽い分手数が多く、徐々にリエンの表情が曇っていく。
「くそ、がッ!」
「……!」
リエンは戦槌を振り回して距離を離そうとする。ヤナも危険と感じて距離をとる。両者の距離は二メートルほどで、お互いに攻撃の隙を窺う。
(何だってンだ……! こんなガキ一人、どうして殺せねェ……!)
リエンは焦りを感じていた。本来ならさくっとヤナを倒しヴァロンの元へ加勢に入るつもりだった。もちろんヴァロンの強さを疑っているわけではなかったのだが、どうも違和感を拭い切れなかった。
ミヒロという存在が気がかりだった。
あの時、頬へと喰らわせた一撃は今まで受けてきたものよりずっと響いていたのだ。
互いに牽制し合い、様子を窺う。その時間は数秒にも数分にも感じられた。両者の額に汗が伝った。
二人が戦っている場所からわずか数メートルほど離れた場所で、イーサたちは呆然とその戦いを見ていた。
「あの子、こんなに強かったのか……」
クレソンが感心し、周りもそれに納得する。普段自分たちの畑仕事やアクセサリー作りを手伝っている様子から、ここまで戦えるとは思わなかったからだ。
イーサは腕を組み、ヤナとリエンの戦いをじっと見つめている。
「……あたしらは、信じる事しかできないからね……。あの子の邪魔をしちゃあいけない」
「……あんたがそう言うなら、そうするか」
クレソンはその意見を尊重するが、ハイナは納得しかねていた。
「だからと言って……、一人で戦わせるんですか? ……私は……」
「その気持ちは分かる。……でも、あれはあの子の戦いだ」
「けど!」
「だからこそ」
ハイナはイーサの顔を見る。イーサもまた見つめ返す。確かな決意を持って。
「……やれることはあるだろう?」
「らぁッ!」
「っ!」
凄まじい攻防が村の一角で続いていた。武器がぶつかる度に火花が散り、互いの呼吸音が耳に届く。息つく暇もない剣戟である。
ヤナが刀剣でリエンの腕を斬り払えば、返り血で服や剣が血に染まる。対抗するリエンも膂力を活かした機動力と見た目から分かる腕力でヤナへ打撃を食らわす。
一進一退ではない。一進一進。互いに手を止めず、引かず、ただ目の前の敵を倒すために武器を振るい互いに食らいつく。
「いい加減死ねやァ!!」
「……ッ!」
手数ではヤナが勝っているが、一撃の重さではリエンが勝る。さらに言えばヤナの攻撃には決定打と呼べるほどの攻撃力を持つ技がない。
「これで、どうだッ!」
リエンは徐に戦槌を振り上げる。ヤナは攻撃を警戒して距離をとる。あれほど大きな戦槌であれば叩きつけた時の衝撃波を想像できたからだ。
「お前らッ!」
リエンは仲間へと指示を送る。これで身動きを取れなくしようとする。先程成功したことを踏まえているヤナが警戒していることも知っていた。
だからこそ、大声を上げて戦槌を振り上げているのだ。
まず戦槌を振り上げれば戦槌へと意識が行く。さらにあの大声だ。仲間へ指示することがバレるわけない。ヤナは日本語を理解できないのだから。
これで勝てる。リエンはそう確信した。
そして、戦槌をヤナの頭めがけて振り下ろす――。
「……ッ!」
「なぁ!?」
だが、戦槌は当たることなく躱された。ヤナは動けることが分かりすぐに回避したのだ。
その理由がリエンには分からずにいると、遠くが少し騒がしかった。
「これっ、おとなしくするんじゃ!」
「離せェ!」
「離すもんかい! あの子の戦いに手を出すんじゃないよ!」
ヤナが避けれた理由、それはイーサが主導となり、村の皆でヤナの足を掴もうとしていたリエンの部下たちを取り押さえていたからだった。プレイヤーとは力量の差が明確であるため部下一人に対し数人がかりで手足を地面に押さえつけていた。
「ちぃッ!」
リエンは避けられたことをすぐに察すると、砕かれた地面の礫をヤナに向かって戦槌で弾き飛ばしたが、ヤナは刀で斬り払いと回避でこれを退けた。
「余計なことをしやがって……!」
「……」
リエンは村人たちを睨みつけながらも、ヤナにも注意を払っていた。
ただの少女だと思っていたので、ここまで苦戦するつもりではなかったのだ。少女と反逆者たちである村人全員を倒したのち、ヴァロンの元へ向かうという算段だったが、それも無駄に終わってしまった。
「……マダ、……ヤル?」
「ッッ!! ほざけッ! 今すぐ終わらしてやるッッ!!!」
リエンは駆け出す。蹴った地面は少々罅割れていた。それ程強く踏み込んだので、爆発的なスピードでヤナへ向かっていく。
ヤナはそのスピードに驚きながらも剣を構えて反撃の体勢に入る。
リエンはただ、目の前の敵を倒すために乱暴に、されど正確にヤナに向かって打撃を浴びせていく。
対するヤナはその攻撃を時に受け、時に避けながら、地道に一太刀ずつリエンの体へ刻んでいく。時々、手の震えが混じって思ったように力が入らない時もあったが、着実に相手にダメージを与えていった。
「ぐっ!」
「ッ!」
両差の戦いは白熱しているかのように見えたが、徐々にヤナが押していった。傷の数はリエンの方が多くなり、リエン自身も傷の痛みからか動きが鈍ってきていた。損傷率も八割を超えており、余裕もなくなっている。
「くそがァア!!!」
攻撃が一向に通らないことで自棄になったのかフルパワーでヤナに向かって戦槌を振り下ろす。
「ッ!」
ヤナは、まるでその攻撃を待っていたかのように受けの姿勢に入った。
「!? 早く避けなッ!?」
イーサは危険を感じてそう言うが、ヤナはイーサの方を向き、微かに頷く。その表情は自信に満ちており、イーサもヤナの顔を見てそれを感じ取った。
「……!」
真上から頭上目掛けて振り下ろされる戦槌を、日本刀を両手で持ってそれを受け止める。その刹那、辺り一帯に衝撃により生み出された風が吹いた。
「俺はァ! こんな奴に負けねェ……! 負けねェンだよッッ!!」
「……ッ!!」
押し込む力はさらに強まるが、ヤナは両手両足で踏ん張って必死にこらえる。ヤナの体が悲鳴を上げる。何より、先ほどより震えが増しさらに押し込まれる。それでも、ヤナの目は死んでいなかった。
「この野郎がァ……!」
(……イ、マッ!)
ヤナは力が緩んだ一瞬の隙を突いて刀の角度を変え、戦槌の軌道を逸らす。
「なッ!?」
「ッ!」
相当な力で振り下ろしていたため、地面に戦槌が突き刺さり抜けない。
ヤナはゆっくりと、突きの構えをとる。
「……」
イーサたちも戦いを見守っている。
そして――。
「……終ワ、リッ!!」
ヤナは力一杯地を蹴って、リエンの腹を目掛けて刀を突き出す。その刃は背中を貫通した。
「がッ!?」
その勢いでリエンが宙に浮き、血を吐いた。ヤナはその勢いを殺さずそのまま走り出し、村人の家の壁に突き刺した。
スピードに乗って激突した壁の奥までリエンは吹き飛び、家の中を転がっていく。ぶつかった時の衝撃によって柱にも罅が入り、家諸共崩れ去った。同時にリエンの損傷率は100%に達した。
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