17話:ヤナvsリエン
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少女は、その後何度も訪れた。イーサたちは野菜をあげた。抱負の事情があるので一つしかあげられないけれど、少女はそれを手に取ると嬉しそうに頬張るのだ。その日常が続くたびに、いつしかその顔を見るたびに元気を分けてもらっていたのだ。
時には、少女は鍬を手に取り畑仕事を手伝ってくれる日もあった。その日はもう一個だけだけれど野菜をあげた。
その度に思ったのだ。
――野菜は、自分たちを想う人のために作るものだと。
自分のため、食べてもらう他人のため。野菜を利用する「何か」と違って、笑顔で食べてくれる人たちのために作ってあげる気持ちが大事なのだと思い出させてくれた。
だから、少女の言葉に、笑顔に、応えたかったのだ。
「はぁ……。抵抗さえしなけりゃなぁ……」
「これ以上抱負を増やされても、払えなくなるときはいつか来るさ。その時あんたたちはきっとあたしらを見捨てるだろう?」
「ま、違ェねぇが」
「この下種がッ……!」
ハイナが苦々しく言葉を漏らす。そんな言葉を聞いてもリエン達は苛立ちを見せる様子はない。
「当然だろうが。ただ、ヴァロンの考えによっては変わるかもしれんがな。少なくとも俺ならそうするってだけだ」
「そんな考えだから、抵抗されるんじゃないのかい?」
イーサはそう言って、笑って見せた。
そんな余裕など、ミリ分もなかった。油断すれば、この幻想世界に存在することができなくなってしまうのだから。
「はァ……。そりゃ大した根性だな。でもなァ……。ッ!」
「あぁっ!」
リエンは代表して出てきた三人の中で最も若いハイナに蹴りを放った。ハイナはたまらず地面へと体を投げ出される。
「ハイナ!」
「こうしても、防御もできないだろ? わざわざ一度前に来て立ち止まったにもかかわらず、だ。俺がこうすることも理解してるからこそ、てめぇらはそういう格好をしてんだろ? こんなので卑怯なんて言うなよ? 卑怯な戦いなんてこの幻想世界だけじゃねェ、人間の世界でも当たり前に起きてんだぜ?」
イーサたちは依然として身構える。
確かに、彼の言う事には非常に遺憾だったが、否定することもできなかった。
それも当然、勝つためにはプレイヤーでもNPCでも必死なのだ。背後から襲って、罠を張って、言葉巧みに騙して……。
どんなものにも欲はある。そんな欲に負けて狡い手を使ってでも欲求を満たそうとするのだ。少なくとも、それを見たことはあったから。
「こっちは武器を構えているだけで、手は出してなかったけどねえ?」
「どうせ俺がやったらやり返すつもりだったろうがよ」
「その通りじゃ!」
「行くよッ! みんなッ!!」
「「「お―――――ッ!!!」」」
イーサが大声をだしNPCたちを鼓舞する。各々頭上に持っている鎌や鍬などを掲げ自らの闘争心を奮い立たせる。普段温厚な彼らの見せる姿にヤナは圧倒される。
「はっ、お前ら! やっちまうぞ!」
「「「うおぉ――――ッ!!!」」」
一方、リエン側も剣やハンマーなど、NPCとは違うモンスターと戦うための戦闘用の武器を掲げ雄叫びを上げる。
そんな光景を遠くから見ていたヤナは、すぐに駆け出した。
あの人たちは、少なくとも、自分を認めてくれたから。
あの人たちの作る野菜は美味しかったから。
だから、守らないといけない。
「覚悟しろよ?」
「覚悟なんか、とっくに決めてるさ」
リエンの言葉に、イーサは笑って見せた。
「上等だッ!!」
リエンはハンマーを振り上げる。それに対しイーサはただ鍬を自分を守る様に構えるだけだった。あれでは鍬どころかイーサ諸共潰されてしまう。
でも、イーサはそれでいいと思っていた。
覚悟は、できていたから。
「……っ!!」
イーサは目を瞑ることなくリエンを睨みつけたままだった。そこにリエンの腕が振り下ろされ……
――なかった。
「がっ!? 何だッ!?」
「……ッ!」
振り上げたその腕を、一本の剣が貫いていた。白銀の刀身で貫かれた腕からは血が滴り、地面へと落ちていく。
「ちっ、さっきのッ!」
リエンは素早く腕を振り払い、剣を持っている少女を遠ざける。少女もそれに反応して腕から剣を引き抜き、後ろに跳躍して着地する。
「何のようだァ、小娘よォ……!」
「……」
ヤナは無言で睨みつける。
リエンの言葉を理解することはできない。
日本に来てから四か月程経つのだが、日本語の勉強が難しくあまりやる気がなかったために、翻訳家で日本に住んでいた日本人の母方の祖母の元で過ごしていた。
だけど、関係ない。たとえ言葉は理解できなくても、周りの表情を、感情を、理解していけばいい。
それに、あの時のミヒロの表情は、信じてもいいものだった。
「……何だァ、震えてんじゃねェか」
武器とする日本刀の柄を握るヤナは、手だけでなく全身が震えていた。
ヤナは彼らに少なからず恐怖を感じていた。
だけれどそれを押し殺して、凛とした表情で武器を構える。震えよりも、気にするべき対象が目の前にいるのだ。
「あんた……」
「……」
イーサたちは驚愕の表情を浮かべヤナの事を見つめる。こんな状況で助けてくれるなんて思わなかったからだ。
「危険だよッ! 今すぐ離れなッ!」
すぐに大声で注意喚起をするが、ヤナはそれに応えない。剣を構えたままだった。
「俺ら相手にいい度胸だよなァ、ガキ。だけどよ、この状況で全員倒すなんて甘ェ考えを持ってるわけじゃねェよなァ!?」
リエンの従える部下たちが一斉に武器をヤナに向ける。気持ちを切り替えた今でも、体の震えは止まらない。
「やれッ!!」
リエンの言葉に便乗し、部下たちがヤナに襲いかかる。ヤナはその場に踏み込み、戦争体勢になる。
「喰らえッ!」
部下の一人が剣を振り下ろすが、ヤナは剣を刃で受け止めると、それを押し返した。
「なっ!?」
少女が出した予想外の力で武器を押し返された部下は困惑するが、ヤナはその隙を逃さず腹を一閃する。その一撃では100%まで持っていくことはできないが、刃物で斬られたとなれば相当な痛みが襲う。
斬られた部下はその場に倒れ込んだ。ヤナはしばらく自分の手元を見つめていたが、気を取り直して再び構える。
「怯むなッ! 全員で叩き潰せ!」
躊躇いもなく斬られた部下を見て他の部下たちが怯んでいたが、リエンの喝が入り我に返る。そしてヤナへと襲い掛かった。が、ヤナは先程とは違い素早い動きで部下たちを次々と斬り伏せていく。
ヤナはモンスターを相手にすることは幾度とあったが、プレイヤーを相手にすることは初めてで、人を斬ることには少なからず抵抗はあった。
けれどこうして、次々と斬っていくことができているのは偏に『敵』という認識が出来ているからである。
そして大人数に対抗できるのは、ダンジョンではコミュニケーションが取れないという理由から、基本的に一人で攻略をしていたからだった。一人で大勢を倒すとなるとそれなりの立ち回りが必要となるが、ヤナは経験から自然とそれができていた。
「ッ!」
後ろから斬りかかってきても紙一重でそれを回避し背中に一太刀浴びせた。足払いで体勢を崩したり武器を破壊したりして、大量にいた部下たちを捌いていく。
「……」
リエンは部下が次々にやられていく光景を、呆然と眺めていた。さっき背後に躊躇なく蹴りを入れてきたあの少女もそうだったように、退かずに立ち向かってきたのだ。
「………次」
冷静にそう呟いた。何か余裕めいたその言葉にリエンは怒りを抑えきれなかった。
「調子に、乗るなッ!!」
リエンは手に持っていた戦槌を振り上げた。武器の扱いに慣れているせいか大分慣れた動作で振り下ろすが、相手が悪かった。
パワー型であるリエンと違い、ヤナは片手剣を使うスピード型。リエンの一撃が重かろうとヤナに軽々避けられてしまっていた。
「ちっ!」
「……遅、イ……!」
「くそがッ!!」
何度もヤナに戦槌で殴ろうとしても、軌道を完全に読まれておりヤナの服に掠ることすらなかった。すんなり避けられることにいら立ちが増したリエンはちらと奥にいる部下に目で合図を送る。
ヤナはそれに気づかなかったが、少しだけ動きが止まったのでその隙をついてリエンの横っ腹を斬り払う。血飛沫が飛びリエンは少し後退する。
「がっ…!」
「……ッ!」
さらに追い打ちをかけようと足を踏み出そうとしたのだが、その時足に違和を感じた。
右足が動かなかったのだ。いくら動かそうとしても踏み出せない。おかしいと思い右足を見てみると、斬られて倒れていたリエンの部下の一人が、ヤナの足を掴んでいた。振りほどこうにも力が強く振りほどけない。
そして、次の瞬間――。
「ハッ!」
勢いをつけてヤナに向かって蹴りを放つ。蹴りは腹に命中し数メートル程地面に転がりながら後ろへ飛ばされる。
「っ!」
何とか右手で自分の体を起こそうとするが、蹴られた衝撃がまだ体に残っており、うまく力が入らず姿勢を直せない。
と同時に、食堂から何かせり上がってくる気持ち悪さに襲われ、苦しさに思わず咽ると、地面に血反吐が広がる。
周りは思わず、卑怯だ、と言いそうになったが言えなかった。
戦いにおいてどんなことをしても勝つというのがリエン達のやり方で、それをわかっていたからだ。
卑怯なんて言葉が通じるなら、世の中上手くできていない。
「……!」
「……立つか」
ヤナは懸命に力を振り絞って立ち上がる。損傷率はそこまで加算されていないがその痛みはかなりの激痛だった。
ただ、その目は凛としていて、輝きを失ってはいなかった。
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