表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
16/67

15話:揺るがないもの

今回短いですが、その分次回は長いです

「この……!!」


 ヴァロンは立ち上がりミヒロを睨みつける。ミヒロは口の端を上げ、笑みを作る。現実ではできない敵との戦いに、体が熱を帯びる。


「お前らッ! やれっ!」

「へいっ!」

「覚悟しやがれっ!!」


 だが、ヴァロンは動かず部下に指示を出す。するとヴァロンの近くにいた部下以外に集会所の中にいた部下たちも出てきた。数にして、数十人。


「よーしっ、かかってこーい!」


 ミヒロは臆せず剣を構える。決して型にはまっているわけではなかったが、妙に自信満々な様子がヴァロンたちにとって不思議でならなかった。


「喰らえッ!」

「やだ!」


 部下の一人が飛び掛かりながら剣を振り下ろしてくる。ミヒロはそれをトゥルゼスで剣を受け止めると相手の剣を押し返す。空中で身動きが取れなくなった敵に向かってミヒロは隙を突く様に剣を横に薙ぎ横っ腹に命中させる。


「がっ!?」

「このっ!」


 木造の家の壁に突っ込んだ部下を見てすぐに他の部下がフォローに入る様に武器を構えミヒロへ襲い掛かる。


「なんのッ!」


 ミヒロは目で動きをよく見て回避しながら、剣で敵を吹っ飛ばしていく。かなり重いので遠心力を利用しながら、ではあるが。


 また、飛ばした敵を他の部下にぶつけていくことでも数を減らしていく。


 その様子に、ヴァロンは驚愕していた。


 年端もいかない、明らかに自分よりも年下だと思われる少女が、数十人といる部下を相手に一人で真っ向から立ち向かい、次々に倒していくのだから。


「ぐはぁ!!」


 その声で意識をこちらに戻した瞬間、自分の近くに部下が吹っ飛んできた。吹っ飛んできた方向を見てみると、敵であるミヒロが剣を振り抜いたまま、口角を上げ笑みを浮かべていた。


(……ミヒロ、だったか……。装備は初期とほぼ変わっていない……。だが、どう見ても、人と戦い慣れてる……!)


 戦い方を、少女の浮かべた表情を見て直感でそう思った。


 普通なら、大人数を相手に笑っていられるわけがない。体格差があるにもかかわらず腰も引かず怯えもせず相手に向かっていけるわけがない。実際に、劣勢だった状況を逆転し一対一に持ち込んだ。


「残るは、ヴァロンだけだね」


 ミヒロは姿勢を直すと、剣を地面に向けそう言い放つ。その表情に、敗北という文字は窺えない。自分の勝利を疑っていなかった。


「……ッ! ほざけッ!」


 ヴァロンは薙刀を構え、勢いよくミヒロに向かっていった。


「ハァッ!!」


 ヴァロンは薙刀を振り上げ、思いっきり地面へ叩きつける。


「ほっ!」


 が、ミヒロは紙一重で体を横にして回避すると、手に持っていたトゥルゼスの柄頭をヴァロンの顎に命中させた。かなりの重量を誇る剣なのでその威力も増し、ヴァロンは思わず体勢を崩す。さらにその隙を逃さず、振り切って伸びたままのヴァロンの腕を掴んで跳躍し自分の体を浮かせると、顔面に本気の蹴りを叩き込んだ。


「がぐっ!!」

「ふぅっ」


 ヴァロンは蹴られた衝撃で後方へ後退る。蹴られた顔面を抑えてはいるが、顎への衝撃はまだ抜けておらず、頭がくらくらしていた。


「くそッ!」


 ヴァロンは力任せに薙刀を横に薙ぐ。ミヒロは身を屈めてそれを回避するも、薙刀は近くにあった民家の柱に当たる。その柱は真っ二つになり、轟音を立てながら民家が崩れた。崩れた際の衝撃で土煙が辺りを包む。


「うはー……。すごー」

「感心する暇はないぞッ!!」


 ヴァロンは薙刀を掴むと、ミヒロに向かって突撃する。それに合わせてミヒロも剣を構えて走り出し、ヴァロンに立ち向かう。



「うぉおおお!!!」

「せやぁあああ!!!」



 叫び声を上げながら二人の距離は徐々に縮んでいく。そのスピードはお互いとも最高速だった。自分の後ろは走った時の影響で土煙が舞う。


 そして、互いに武器を光らせ、そして――。



 激しく、ぶつかり合った。



   ☓ ☓ ☓



 ヤナは忙しなく足を動かしていた。


 村の様子は今までとそう変わらない。いつも通り事情を知らないNPCたちは農作業に明け暮れていた。


 そんな様子を確認しながら、ヤナはミヒロに言われた通りにイーサたちの所へ向かっていた。


 あれだけ必死に叫んでいたので、ただ事ではないことは察することはできたが、具体的にそれが何か分からなかった。


 けれど、ヤナにとってイーサたちの存在は大きなものだった。


 優しく、一緒に作業した時も笑顔で接してくれた。


 それがすごく、温かかったのだ。


 心を満たされ、充足する満足感はかけがえのないものだった。


 だから、急いで向かわないと。その思いでヤナは走ってイーサの所に向かった。


 そして、イーサの家が見えてくる。そこで見えた景色は……。



「おいおい、そりゃ何の真似だァ?」

「もうあんたたちのいう事は聞かないって言ったのさ! こっちだって我慢の限界さね……。たとえ死んでも、抗うって決めたのさ!」

「そうよ!」

「わしらの畑じゃ! もう我慢ならんわい! わしらにはわしらの生活もあるんじゃ! それを理解できん奴に、いつまでも従うわけがなかろう!!」



「……!」


 イーサたちが鍬や鎌を構え、リエン達に向かって必死の抵抗をしていたのだった。普段温厚な彼らの怒りに、ヤナは驚いていた。


「ちっ……。せっかく俺らが守ってやったってのによぉ! そのままじゃ死んじまうぜ、あんたら。野垂れ死にとどっちがいいよ?」


「野垂れ死にの方がましさ! あの時は屈しちまったけど、もう怯まないよ! 死、上等さ!」


 心からの叫びだった。


 イーサたちは、遠くからヤナが見ていることに気が付いていなかった。それ程必死だったのだ。


 目の前にいるのは幾度も冒険を重ね装備を集めたプレイヤー。戦ったことが一度もないNPCたちに勝てる算段はない。


 ただ、それでも。


 ヤナが見せたあの笑顔が、対抗する勇気をくれたのだ。



 すべては、ヤナが訪れた、あの日の出来事――。



お読みいただきありがとうございます!

次回は過去話です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ