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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
15/67

14話:火蓋

 ミヒロはヤナと一緒に歩いていると大きな建物が見えてきた。建物の周りにはプレイヤーと思しき人たちが屯している。


「よーやっと着いたー!」


 大きな声でそう叫ぶミヒロを見てヤナは少し引いていた。


「でもクエストの内容によっては不便だよねー、このシステム」


 すべての村、町、国の中心地に集会所と呼ばれる場所がある。そこは食堂やらプレイヤー倉庫などの、攻略の準備に必要な施設がそろっている場所がある。


 作戦会議や交流の場にも利用され、多くのプレイヤーがこの場所に集まる。


 そしてミヒロが疑問に思っている点。


 クエスト紹介所がこの集会所にあってもおかしくはないのだが、クエストはダンジョン内で達成できるものだけとは限らない。NPCからの畑作業、探し物の手伝い、料理作りの手伝い、製作中の武器政策の手伝いなどもクエストに含まれる。


 クエストにも多種多様に存在している。そのため紹介所はクエストの種類とその地域の広さによって一か所しかない場合と、数か所に点在する場合がある。


 もし集会所しかなかった場合、例えば、【スクラム】の土地の端にある人からのクエストを受けたとしよう。集会所は基本的にその町の中心に存在するため行くのにも時間がかかり、依頼達成のための報告に戻らないといけない。


 さらに現在のバージョンでは移動の手間が省くことができず、プレイヤーの移動手段は歩くか走るしかない。数時間もかけての往復など、したいと思うプレイヤーはいないだろう。


 そのため、各場所に配置することで移動を楽にしようと考えたのだ。ダンジョンで目的を達成するクエストの場合であれば集会所や近場にある紹介所からクエストを受けることにし、お手伝いならその家の近くの紹介所でクエストを受ける。


 そうすることで手間を省こうという配慮だった。


「こんにちはー!」


 ミヒロは大きな声で挨拶をして扉を開けた。何事もまず挨拶から。ミヒロの考え方の一つである。


「ねぇ、ゲートってあれ?」


 ミヒロはヤナを見ながらゲートの方を指さす。ヤナはミヒロの行動から何を聞きたいのかの思考をまとめた後、こくっと少し首を縦に動かした。


「そっか。それじゃ行ってみよう!」


 ヤナを連れてダンジョンに入ろうとしたが、ゲートの前には男たちがバリケードのように立ち塞がっていた。


「何だ、お前たちは?」


 立ちふさがった男たちではなく、テーブルに座っていた別の男がミヒロたちに声をかける。


 体格からして数人いる男たちの中では実力は上の方なのだろう。装備も他と比べてかなり強者の風格が漂っていた。


 ファー付きのコートを羽織り、足を組んで座っているがそのオーラは周りの空気をピリつかせる。テーブルに立てかけてある薙刀がおそらく使用武器なのだろう。


 紹介所にいた男とは別人ではあるが、眼つきは紹介所の男と同等なほど鋭かった。


「今からダンジョンに行きたいんだけど」

「ダメだな。ここは俺達が管理しているんだ。見ず知らずのプレイヤーには通させない」

「ま~たここも……。いい加減にしてよもー!」

「……その言いぐさは、紹介所にいたリエンに会ったってことか?」

「あの人リエンっていうんだ。どうでもいいけど。じゃああなたは?」

「俺はヴァロンという」

「あ、私ミヒロ。よろしく!」


 そう言えばリエンがそんな名前を言っていたのを思い出しつつ、ミヒロも名乗り返す。だが、その呑気な様子は全く臆さず人をバカにしているようにも映った。


「ま、そんなことどうでもいいだろう。さっさと帰ったほうがいい。こっちはダンジョン攻略で忙しいからな」

「私たちもダンジョンに行きたいんだけど」

「……話聞いてたのか……!?」


 ミヒロの傍若無人ぶりに、ヴァロンも怒りを抑えられなかった。でもミヒロもダンジョンに行きたいことは譲らなかった。


「早く通してよ」

「……。ミヒロ、といったかな。俺を嘗めてると痛い目に遭うぞ」

「嘗めてるつもりないんだけど……。私は、ダンジョンに行きたいから通してって言ってるの!」


 意見を変えないミヒロにヴァロンはさらに怒りを募らせる。


「それをダメだと言ってる。あまり時間を取らせるな。こんなところで騒動は起こしたくない。お前だって、アイテムを失いたくはないだろう?」

「別に? 負けるつもりはないし」


 さらっと言ったその言葉は、ヴァロンを完全に怒らせてしまっていた。周りにいた仲間と思われる男たちが武器を構える。


「お前、ヴァロンさんになんて口を!」

「ゆるさねェ!」

「覚悟しやがれ!」


 ヴァロンの仲間は素早くミヒロと一緒に来たヤナの事を取り囲む。だがしかし、ミヒロは大勢が相手になろうとしているこの状況でも、怯むことはなくトゥルゼスを抜いた。


「私はダンジョンに行きたいの! 邪魔しないで!」

「ダメだと言っているだろう! 聞こえなかったのか!?」


 ミヒロとヴァロンとの間に火花が散る。その時ヤナは、二人の会話をよく理解しておらず、剣を向けられているにもかかわらずその場に突っ立っていた。


「ちょ、ヤナ!? 構えなきゃ!!!」

「剣を向けないとは、嘗められたもんだなァ……!」

「す、すいません。集会所で争いは……」

「うるさいぞ!!」

「ひっ」


 集会所の受付の女性が場の収拾を図ろうとするも、一蹴されてしまう。


 睨み合っていると、扉の方から誰かが訪れる。


「なぁ、ヴァロン。こっちに剣を装備してる女二人来なかったか……って確かめるまでもなかったか……!」


 入ってきたのはリエンだった。紹介所にいた部下を引き連れてはいないようだったので、個人で何か用があって訪れたのだろう。


「えーっと……、あ、あの時の人か」

「リエン。その剣を装備した女二人ならここにいる二人で間違いないか? 何かわけありだったのか?」


 さらっとミヒロまで女扱いされていたため、軽く苦笑いを浮かべる。


「あぁ、いや。多分ここにきてるんじゃねェかって思っただけだ。あっそうだ、今日もたんまりもらってきたぜ?」

「抱負はきちんと納めたんだな」

「あぁ。まだ終わってないところもあるけどな」

「……抱負?」


 ミヒロは黙ってはいられなかった。何か嫌な言葉が聞こえてきていたからだ。ミヒロはヴァロンとリエンを睨みつける。


「抱負って何?」

「あぁ? 誰が教えるか」


 リエンは軽くあしらうが、ミヒロは続けて問う。


「納めるって、どういうこと?」


 ミヒロがしつこく問い詰める。リエンはどうするか、とヴァロンに視線を向ける。ヴァロンは黙っていても無駄だと悟り話すことに決めた。


「はぁ……。別におかしい事じゃない。俺たちが襲撃イベント等から村を守る。その代わりに野菜とか装飾品とかお金とか、そういった物を俺たちに献上するってことだ。等価交換ってやつだよ。守ってもらってるなら、俺達はその対価を頂く」


 襲撃イベントとは、モンスターによる大侵攻を主に差し、不定期に、強制的に発生するイベントの事だ。


 その襲撃イベント対価をもらうことを聞いて、ミヒロは剣を握る手に力を込める。


「守るっていうのは、そういう事じゃないでしょ……!」

「そういう守り方もあるってことだ。現実でもそうだろ? 弱い奴は誰かが守ってやらないといけない。でも、タダ働きほど都合の悪いものはない。……違うか?」


 その考え方も、理解できないこともなかった。


 けれど今は、そんなことはどうでもよかった。


「つまり、おばあちゃんたちから巻き上げてるってことだよね?」

「巻き上げるっていうのも失礼な話だな。ちゃんと話は通してある。村のNPCたちも認めてたんだよ。その条件を」

「それをよく思ってない人もいたでしょ!」


 このまま口論が続くと思われたが、リエンが会話に割り込んだ。


「じゃあ、反逆者ってことだな? ちょうど終わってないところがあったから部下を向かわせてたんだ。一応今から様子を見に、な……。確か名前は、イーサとか言ったか」


 ミヒロとヤナの耳が少しだけ反応する。


「……もし、抵抗してたら?」


 少しばかりの怒りを乗せてそう問うと、リエンが平然と答える。



「そりゃ、消えてもらうさ」

「ッ!!!」



 そう言ってリエンは扉から出ていこうとする。


 止めなきゃ!


 その予感を感じるとともに、地を蹴り物凄い勢いでリエンへ向かう。ヴァロンたちを止める、倒す、その気持ちでいっぱいになっていた。


 ヴァロンやリエンたちが行っていた行為を知って、何もせずにはいられなかった。


「っ、リエンッ!」

「あぁ、どうし――!!?」


 ヴァロンの声は僅かに遅く、振り向いたリエンの顔面にミヒロの拳が容赦なく叩き込まれる。


「らぁッ!!」


 ミヒロは拳を顔面にめり込ませると、力任せにリエンを扉の向こうまで吹っ飛ばした。


「ちっ!!」


 地面を転がったリエンはすぐさま体勢を立て直す。唇からは血が伝っていた。ただ損傷率はあまり加算されていないようだった。


 武器ごとにスキルは存在するが、格闘術のスキルは存在しないため、レベルを上げることの他に、自身で特訓をしない限り殴打や蹴りの威力は上がらない。


 ただ、現実世界での筋力などはこのゲームでもある程度は反映される。つまり現実で身体能力の高いものはゲーム開始時点でもある程度能力が高いが、その反対に低い場合もありその分は努力して補わなければいけない。


 ミヒロの身体能力は同級生よりもはるかに高く、下手すれば大人顔負けだ。体格が恵まれているわけではないが、昔からの習慣がミヒロの体を強くしていたのだ。


 精一杯力を込めた拳はリエンの顔にしっかりとダメージを与えていた。


 跳躍してパンチを繰り出したため、ミヒロは殴った勢いが止まらずそのまま外に放り出されてしまったが、すぐに体勢を立て直す。


「くそがッ……!!」

「リエン。お前は部下と共にイーサの元へ向かえ。こいつの相手は俺がしたほうがいいだろうからな」

「……わかった」


 リエンはあまり納得しないまま部下を引き連れてイーサたちの元へ向かう。


「待てッ!!」

「通さん」


 リエン達を止めようと走って近づこうとするもヴァロンが道を塞いでしまう。二人は睨み合いそのまま対峙する。


「ヤナッ!!! イーサの所に!!!」


 動かずに立っていたヤナに向かって精一杯叫ぶも、ヤナは理解しあぐねていた。


「ヤナッ!!! 早くッ!!! イーサの所に走って!!!」


 伝わるように必死に叫んだ。これで伝わらなかったらどうしようかと考えた。一人で二人を相手にする考え自体は頭の中にはあった。けれどそれは圧倒的にミヒロサイドが不利なのだ。加えてヴァロンたちの方には部下もいる。


 多勢に無勢。状況は最悪とまではいかないが良いともいえない。


 だからミヒロはヤナに頼んだ。倒せると、そう信じて。


 すると……。


「……ウン」


 ヤナは拙い言葉でそう呟くと、リエンの後を追って走り出した。


 ミヒロが発した『ヤナ』と『イーサ』という単語、それから今の状況を整理してミヒロがやってほしいことを察してくれたのだ。


「よしっ!」

「くそっ!」


 ヴァロンが行かせまいとダッシュで追いかけるが、ミヒロはヴァロンの背中を跳び蹴りして顔から転ばせる。


「がっ!?」


 後ろから蹴られてバランスを崩したヴァロンは地面を転がっていく。リエンを追っていったヤナの姿はもう見えなかった。




「ふぅ……。これでやれるね」



お読みいただきありがとうございます!

おかしな箇所があれば指摘のほどお願いします!

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