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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
14/67

13話:少女のために

 ミヒロがログインしてアバターが出現した場所には誰もいなかった。というより、別の場所で作業をしており誰も気づいていなかったのだ。


「よしっ、昨日の続き!」


 辺りを見回して銀髪の少女がいないことを確認すると、そう言って聞き込みをするために当たりをつけずに走り始めた。




 聞き込みを続け、イーサのいる畑の元へ戻って来た時、そこにはイーサの他に数人の村人と、ミヒロが捜していた銀髪の少女がいた。


 その表情は、昨日見せたものとは違い、とても穏やかな顔だった。その周りにいる農家のおばあちゃんたちも笑顔で少女と会話をしているように見えた。


「おーい! 何してるのー?」


 ミヒロは声をかけながらたたたっと走り少女のそばへ寄る。


「ねぇ、昨日は何で行っちゃったの?」

「……」


 少女はミヒロの顔を見るや表情を変え、疑いの目でミヒロを見ていた。


「……あんたは昨日のプレイヤーだね」

「あっ、おばあちゃん! 昨日ぶりだ」


 イーサとは面識があるため普通の会話をするが、ヤナは不思議な表情をしていた。


 少女はミヒロの事を敵の仲間なのではないかと疑っていた。


 ここにいるギルドのプレイヤーたちは、ここの村を守ると言いながらすべての施設を管理し他のプレイヤーには使わせない。


 相手がどうしてもというのであれば、手を差し伸べ恩を売る。


 それが、ミヒロが会ったギルドのやり方だった。


 日本語をあまり理解できていない少女でも、それは理解できていた。


 昨日、あのクエスト紹介所でミヒロはギルドの男と話をしていた。それが疑いの種となっていたのだ。


 少女だけではなかった。周りにいるイーサや村人たち全員、まだその疑いを完全に払うことができていなかった。


「……何しに来たんだい?」


 イーサはミヒロに用事を聞いた。他の村民の事もあり少し邪険に対応する。NPCとはいえ、簡易な人工知能がある。人間でいう人格である。NPCの中には、プレイヤーたちのやることが気に食わないものだって存在していた。


「ん? この子にクエスト連れて行ってもらえないかなって。だってクエスト受けちゃダメだっていうんだよ! 無視したくてもしつこいし」

「それで、何だい?」

「どうしようか悩んで、クエストの同行者としてなら問題ないんじゃないかって思ってさ! 他の所に行く時間もったいないし。私は早くダンジョンに潜りたいの!」


 ミヒロの反応を見て、イーサは少し意外だった。


 この人もまた、あいつらと同じギルドのものではないのかと。だから邪険に対応していた。しかし、ミヒロは村人たちの悪意にすら気づいた様子もなかった。


「……ダンジョンなら、別にクエストを受けなくたって行けるよ」

「あれっ? そうなの? じゃあそうしよっかな。ごめんね、何か邪魔しちゃって」

「……」


 この反応は素だ。初めて知った、という顔だった。


 この人に悪意はない。害意はない。むしろこの人は騙すのではなく騙される側の人間のようだと、イーサはすぐにそれに気付き、少女もそれに気づいた。


 ミヒロは、イーサや少女の考えていることは知らないし、知ろうともしない。ただまっすぐに自分のしたいことをやる。その理念に従っているのだから。


 知りたいと思わなければ、知らないままでいるのだ。


 ゲームにおいてそれは危ない事なのだが、ミヒロには関係のない事だった。


「あ~、それでも結局は邪魔されるのかなぁ……。うーん……」


 ミヒロは頭を抱えたり腕を組んだり忙しなく体を動かしながら、ダンジョンへ行く方法を考えていた。


「……まいっか。どうにかなるでしょ。じゃ、またねっ」


 そう言って考えを放棄したミヒロが駆け出したその時、少女が不意にミヒロのパーカーの袖を掴んだ。


「……? どったの?」


 ミヒロが驚いていると、数秒して少女の口が開く。


「…………行ク」


 その言葉に、最初は理解できなかったが、次第に頭が回り思考がまとまっていく。


「……え? いいの? ていうか日本語ダメなんじゃ?」


 その疑問にはイーサが答えてくれた。


「その子は、日本語の読み書きはできるみたいだよ。喋ったり聞き取るのはまだ難しいらしいのさ。できないわけじゃないよ」

「それ私が話したこととか聞き取れてないことに変わりないんじゃ……。でもそっかー。教えてくれてありがと! おばあちゃんいい人じゃん!」


 そう言ってミヒロは笑顔を向ける。


 純粋無垢で、天真爛漫で、濁りのないその笑顔に、イーサは戸惑いを含んだ笑顔で返すしかなかった。


 そしてミヒロは、少女の手を握る。


「じゃあ、今日から友達だね! よろしく!」


 少女はキョトンとしながらも、その手を両手で握り返す。きゅっと親の指を握る子供のように、優しく握ってくれた。


 その様子に、ミヒロは満足だった。


「友達って……。気が早いんじゃないかい?」

「そうかなぁ? 私にとっちゃおばあちゃんたちもこの子ももう友達のつもりだけど。だって、こうやって楽しく話せてるんだからさ!」


 ミヒロは一切の冗談を交えずに答え、それを聞いた村人たちは呆然とするばかりだった。ミヒロの言動には、今までの村人や少女の考え方を変えさせるような雰囲気を持っていた。


「よーしっ、それじゃダンジョンに行こー!!」


 ミヒロは笑顔でそう叫ぶ。その様子には気合いに満ちていることが見て取れた。


 そうしてミヒロは数歩歩くが、ふとイーサの方に振り返る。



「……ダンジョンってどこから行くの?」



 畑にいた少女以外のおばあちゃんたちが全員ずっこけて畑に向かって顔から突っ込んだ。


「知らないのに「行こー!!」とかいうんじゃないよッ!」

「ごめんごめん。それで、どうやれば行けるの?」


 ただミヒロに悪気はなく本当に知らないため、イーサは強く怒れなかった。


「はぁ……。中央に巨大な建物があるだろう? そこの受付の人に話した後、入って右にあるゲートからダンジョンに入れるよ」

「ふーん。ダンジョンって入口いっぱいあるの? 【スクラム】にも【フラライド】にもそういうのあるの?」

「ダンジョンの入り口は離れていても一つに繋がっているのさ。ゲートは無数にあり、その行先はすべてダンジョンってことさね」

「へ~! すごいねー!」


 ミヒロは感心するがイーサはその様子を見て呆れていた。


「……あんた、知らなさすぎじゃないかい?」

「あはは……。ゲームの時くらい難しいことは考えたくないからさ~。そうだっ、おばあちゃんの名前、何ていうの?」

「名前かい? 一応、イーサという名前があるよ」


 NPCにも名前のあるキャラクターは存在する。名前を持つNPCは少し複雑な人工知能を持つという共通点があり、クエストの重要な役割を担っていたり、その存在意義は様々ある。


「イーサ! 教えてくれてありがと! 何かあったら呼んでね! 助けるから!」

「……あぁ、わかったよ」

「早く行ってみたいから行くね! 行こ!」


 ミヒロは少女の手を握ってその建物に向かって歩みを進めた。少女は困惑しながらも、転ばないように歩幅を合わせる。


 不意に、ミヒロは立ち止まる。そのことを不思議に思いながらも、少女も足を止める。


「そういえば名前は?」

「………?」


 ミヒロは少女から名前を聞いていないことを思い出した。おばあちゃんの名前は聞いて少女の名前を聞かないのはおかしいからだ。


 ただ、やはり通じない。このゲームにはチャット機能が存在するのだが、ミヒロはその存在を知らなかったので、ジェスチャーや言葉でどうにか伝えようと頑張っていた。


「えーっと……。私は、ミヒロ」


 自分の方に指を差して理解させようとする。少女は手の動きを見た後、ミヒロの方へ指を差す。

「ミ……ヒロ……?」

「そう。ミ、ヒ、ロ」

「……ミヒロ。……ミヒロ」


 覚えるように何度も復唱する。


「じゃあ、あなたは?」


 ミヒロは少女に指を差してそう問う。その意味を察して、やがて少女は名を口にする。


「……ヤナ」

「それがあなたの名前?」


 その言葉に、少女――ヤナ――は答えない。けれど首は振らないという事は間違っていない事を示していた。


「ヤナ。これからよろしくね!」


 ミヒロは再度、手を差し出す。


「……ヨロ、シク?」


 ぎこちなく、覚えたての言葉をポツリと呟き、手を握る。今度は強く、決意を乗せて。


 二人で一緒に足を進める。ミヒロの足に、迷いはなかった。








「……行ったかね」


 二人を見送った後、イーサは農家の村人たちを集めていた。


「みんな、分かってるね?」


 イーサが確認をとると、周りにいる村人は農具を片手にイーサの言葉に頷いた。


「わかっとる。今日こそは、抵抗するんじゃろ?」

「いつまでも、屈してはいられないですからね!」


 イーサだけでなく、村で働いている皆の決意は変わらず、たった一つに集約されていた。


「笑顔を見せたあの子のためにも……。私らががんばらなきゃだよ!」

「そうじゃな。わしらが合わせる顔がないわい」

「みんな! 覚悟は出来てるね!」



「「「「「「うおぉおー!!!」」」」」」



 みんな、覚悟を決めた。


 今日は決断の日。


 彼らが来てからちょうど二か月。


 皆は心に決めていた。


 たとえ消されるようなことになっても、抗おうと。恐怖が体を襲っても、踏ん張って立ちはだかろうと。


 全ては笑顔を見せた銀髪の少女が、この幻想世界を楽しく生きられるために。



お読みいただきありがとうございます!

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