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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
13/67

12話:束の間の休日

俄か知識は垂れ流していくスタイル

難しいことを言っているようだが合っているかわからない…

「どこ行ったのかなー……」


 クエスト紹介所を出てみたが、辺りに銀髪の少女の姿は見えなかった。ただクエストを受注していないことは分かっているので、どこか遠くに行ったとは考えにくかった。


 ミヒロは当たりにいないのを確認すると、今度はその場で垂直に跳躍してみた。


「よっ!」


 ミヒロは上空から村を眺めてみようと試みたが、装備が身軽でレベルが上がっていたとしても、数メートル跳ぶのが精一杯であった。


「うーん……。あっ、おばあちゃんたちに聞いてみよう!」


 思ったら行動に移す。


 ミヒロは手当たり次第に畑で農作業をしているNPCたちに話しかけて情報を得ようとするも、細かい場所まではわからなかった。


 たたたっと走りながら村の様子を眺めているとある光景は目に留まる。


 それは、畑。


 何てことない普通の畑。ただ、そこで育ったと思しき野菜たちの葉が太陽光に反射して、見ただけで瑞々しく新鮮なものだとミヒロでさえ感じ取れた。


「何してるんだい」


 もっと近くで見てみようと畑に近づくと、女性らしき声に呼び止められる。


 振り返ると作業着に身を包んだ一人の老婆が立っていた。仁王立ちで眉間にしわを寄せる様は貫録があり、気弱な高校生であれば怯んでしまいそうだった。


「……? 美味しそうな野菜だからちょっと見てみたいなーって」

「採るんじゃないよ」

「採らないよ? 見たいだけだから」

「……そうかい」


 その言葉に納得したのかしていないのか、老婆は何も言わなくなったが立ち去ろうともしなかった。ミヒロは不思議に思いながらもその野菜たちを間近で観察する。


 胡瓜、玉蜀黍、トマト、長葱。その他にも色とりどりの野菜が日光に照らされ瑞々しく光る。どれも実を大きく成長し、いつでも収穫が可能な状態だった。


「野菜を育てるなんて、小学校以来やってないからなー……」

「育てたこと、あるのかい?」

「ん? うん、歪な形になっちゃったんだけどね。それを収穫して家に持って帰ってお母さんに料理してもらったんだー。おいしかったんだよ!」

「……向こうの野菜と、こっちの野菜が同じ味だとは限らないけどね」

「そうなの? でも食べちゃダメなんだよね……。うーん、比べようがないなぁ……」


 唸りながらミヒロはしばらく野菜を眺めた後、すっと立ち上がった。


「比べらんないからわかんないけど、こんなに美味しそうなんだもん! 食べなくても美味しいのは分かるよ。おばあちゃんたちが丹精込めて作ったんでしょ?」

「……あぁ」

「なら美味しいよ! きっとそう!」

「……そうかい」

「うんっ!」


 ミヒロは絶対の自信を持ってその言葉を放つ。一方でおばあさんの方は呆れた様子でミヒロを見ていた。


「あっ、この野菜ってどこで売ってるかわかる?」

「それを知ってどうするんだい?」

「えっ? 決まってるでしょ。買うの」


 その質問の意味が分かんない、当たり前でしょ、とでもいうようにミヒロは不思議そうに答える。


「販売してる物を買う。それで売買は成り立つし世界は廻ってるの。そりゃあ、タダで貰えるならそっちの方がいいけど、大抵自分の欲しいものは対価を支払って手に入れるものでしょ?」


 先ほどの様子からは想像できない言葉におばあさんは面食らった様子でその場に立ち尽くしていた。


 ミヒロは別段頭が悪いわけではない。油断して勉学を怠ればすぐに成績が落ちてしまうだけで、普段の生活が続けばそれなりの学力があるのだ。


「それなりにお金も貯まったしさ、少しくらい自由に使えるお金があるの。だからそれでおばあちゃんたちが育てた野菜を買うの。あっ、もちろん生では食べないよ!?」

「分かってるさ。けどあんた、料理するのかい? とてもそうは見えないけどねぇ」

「失礼な。でも、お母さんの作る料理って美味しいんだよ!」

「関係ないだろうそれは……」


 紫月の母は料理人だったわけではないのだが、鍋の振るい方から包丁での切り方、料理のレパートリーは数多く、苦手料理はほとんどない。最近は料理本で新しい料理を模索している。


「あっ、そろそろ時間だっ! おばあちゃん、畑見せてくれてありがと!! ばいばーい!」


 時間は夕暮れに差し掛かり、太陽は地平線に隠れようとしていた。つまり、もう少しで夕飯の時間なのだ。


 そう言ってミヒロはすぐさまメニューからログアウトを選択し、そのまま消えていった。嵐のような存在におばあさん――イーサは呆気に取られっぱなしだった。



   ☓ ☓ ☓



「ふわぁああ~~~……」


 次の日の土曜日、未尋は朝のランニングを行っていた。夏であれ冬であれ、四季を問わずランニングで体を動かすのは小学校からの習慣であった。


 家族が付き合うわけでもなく、一人で街を淡々と走っていた。


「何で朝なのにこんなに暑いのかなぁ……」


 現在気温は20℃程で、7月に入る前にしてはかなり高い気温だった。空を見れば雲一つない。それが暑さを加速させているのだろう。


「毎年この時期って梅雨じゃなかったっけ? あっつぅ~……」


 暑さで怠くなりながらも、未尋は走りを止めなかった。


「あっ、おじさんおはよー!」


 河原の辺りを走っているとクーラーボックスを椅子代わりにして釣りをしている知り合いの男性を見かけたので、未尋は声をかけた。


「おー、今日も走ってるなー。元気そうで何よりだ」


 齢五十を超えているであろうその男性――天笠強は、朝だからか無精髭を蓄えていた。初めて会った頃と比べると黒髪に混じった白髪が目立つようになってきていた。


 未尋が休日の朝のランニングで河原近くを通ると、ほぼ毎回と行っていいほど見かけるのだ。その男性自身も、趣味が釣りと会社の部下に自慢して一緒に釣りに行ったりするほどの釣り好きなのである。


「私はいつも元気だよー!」

「その笑顔で私も今日一日は頑張れそうだ」


 天笠は腕を上にあげて力強く拳を握り、ぐっと力瘤を作る。


「あははっ! それで、今日は何か釣れた?」


 未尋は軽快に斜面を下りて天笠の元へ走っていく。


「そうだねェ、ニゴイとかウグイとかかねェ……。今日は少し食いつきが悪くてなぁ、なかなか釣れんのよ」

「ありゃ、普段は一杯釣れるーって言ってたのに」

「たまにはこういう日もある。人生全てが吉日なんてありえんよ」


 天笠はケラケラ笑いながらも釣竿への意識は手放さず、何時魚が掛かってもいいように構えていた。


 未尋は話をしながら釣竿の方へ目を向けると、竿先が何度か撓るように動いていた。


「あれっ、竿揺れてない?」

「おっ、よーしっ!」


 天笠は立ち上がると釣竿のリールに触れ、浮きの動きを見ながらリールで糸を巻いていく。気合が入りながらも手の動きに乱れはなく安定していた。


「っ、いけるッ!」

「ほんとっ!?」

「任せなさいやッ!」


 竿はぐんとしなり、竿の先は水面に向いていた。水面の波紋が波に揺れ、魚が暴れているのか糸は左右に振られる。


「そぉいッ!!」


 天笠は竿を引っ張り上げると、浮きが川から顔を出す。その先にブラックバスが食いついていた。


「ん~、ブラックバスか」

「おーっ、釣れたー! 釣れる瞬間って生ではあまり見ないから、なーんか新鮮」

「まぁ、テレビでしか見ないだろうし、自然とそう思うんだろう」

「そういうもんかな?」

「そういうものだと思うよ、私は」


 そう言って、天笠は釣ったブラックバスを川へ返した。


「えっ、戻しちゃうの?」

「そりゃあ、あくまで趣味なわけで、漁というわけではないからね」

「でも、それじゃあ面白くなくない?」


 未尋からすれば、釣った魚は食べて初めて満足感を得るものだと思っていたので、釣ったのに何もしないで返すことの何が面白いのか、いまいち理解できなかった。


「別に食べる目的だったり、研究目的で保存して持ち帰ることはできるよ。法律で禁止されてるわけでもないし。……でも、私の目的はあくまで娯楽、趣味なんだ。無為に命は奪わないつもりだよ」

「……そういう考え方もあるんだ」

「釣り師から見れば、ごく当たり前の感性だろうな」


 そういうと、徐に天笠は時計を見る。


「いつまでもここにいていいのかい?」

「あっ! ランニングの途中だった! おじさん、ありがと!」


 そう言って未尋は天笠に背を向けて坂道を登っていく。


「……さっきから思っていたんだが、何か、今日はご機嫌だね。それだけ急いで、何かあったのかい?」

「そうそう! 〝アスタルトオンライン〟っていうゲーム始めたんだよっ!」


 未尋は振り返ると手でVサインを作って笑顔を見せる。屈託のない笑顔は朝の青空によく映える。


「おおっ、あの人気のゲームか! じゃあ、早く帰ってやりたいわけだな?」

「やっぱりわかっちゃう?」

「そんだけにこやかな笑顔だしなぁ。……まぁ、無茶だけはしないようにな」

「うんっ!」


 そう言って、未尋はランニングコースへと戻っていった。微笑ましい未尋の姿を、天笠は穏やかな目で見送った。




 ランニングを終えて家に戻ってくると、紫月が用意した朝食をぱぱっと食べ終える。


「食べるの早いのね。もういいの?」

「うんっ! 早くゲームがしたいからっ!」

「ま、楽しいからいいんでしょうけど、勉強もしっかり、ね?」


 その言葉には冷ややかな声色も混じっており、未尋の背中に冷や汗が伝った。


「わかってるって! やってもいい?」

「支障がない程度にねー?」

「はーい!」


 食器の片づけも忘れて未尋は急いで二階へと上っていく。騒がしい足音を聞きながら、紫月は自分の朝ご飯を食べ終えると、未尋の食器と共に後片付けを始める。


「まったくもう……」


 そう言いながらも、紫月はどこか幸せな気持ちになっていた。


「あの子がこんなに夢中になったことなんてあまりなかったから、これくらいはいいかもしれないわね」


 未尋の成長を喜びながら、紫月は鼻歌交じりに皿洗いに興じた。


お読みいただきありがとうございます!

おかしな点があれば指摘のほどよろしくお願いします!


※未尋の習慣を、ジョギングからランニングに変更。

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