10話:父親
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こんな作品ですが、暇潰し程度に楽しんでいってください!
「うーん……。適当に走ればどこかに着くとは思ったんだけどな~……」
ミヒロは辺りを見渡すが平原が続くばかりで、目印がある建物も地域も発見できない。
無計画で走り出したため当てもない。また、現在地がわからないので【スクラム】にも戻ることができなかった。
ミヒロはどうすべきか迷っていると辺りが暗くなってきていたことに気付いた。時計を見ると七時を回っていた。
「やばっ、晩御飯!!」
ミヒロは急いでメニューからログアウトを選択し、現実世界へと意識を戻した。
☓ ☓ ☓
現実世界に意識が帰ってきた後、未尋は《クハイリヴァ》を頭から外すと脱兎の勢いでリビングへと走った。
リビングでは父親である袰屋陽一が帰ってきており、ソファーに座りコーヒーを飲みながら読書に勤しんでいた。母親の紫月は晩御飯の準備の真っ最中だった。
「あ、おとうさん。おかえりー」
「おっ、ただいま。そういえば未尋、紫月から聞いたぞー? 《クハイリヴァ》を買ったって」
「あっ、うん」
未尋は少し怒られる覚悟で頷いたが、陽一は怒ることはなかった。寧ろ穏やかな顔でミヒロの頭を撫でた。
「……?」
「お前も成長したんだな~……」
「……バカにしてるの?」
未尋はジト目で睨んだが、陽一はそれをスルーした。両親共々スルースキルは高かった。
「お前がそういうのに興味を持ってくれたからな~……。お前だって外でしかずっと遊ばないからな~。悪い事じゃないけど」
「……そう?」
未尋は小首を傾げ無意識に上目遣いでそう聞く。
「っ……、そうだ」
陽一が少し頬を赤くしてそっぽを向いたが、未尋はその理由をわかっていなかった。
(やはりこの子は我ながら……)
「……どうしたの?」
「いや、なんでもないぞ? 紫月。ご飯まだか?」
「もうすぐできるから待っててー」
ぱたぱたと忙しそうにスリッパの音を鳴らし夕食の準備の手を早める。
「おかあさーん。今度はしっかりねー?」
「何の事ー?」
「とぼけてる……」
「ん、紫月。何かあったのか?」
「別に何もありませんよ? ささ、早いところ作っちゃうから待ってなさーい」
どうやら紫月はお昼頃の赤い噴水事件の事は陽一に話していないようだった。いつの間にか巻かれていた包帯も取れている。その代わりに絆創膏が貼ってあったが、陽一は気づいていないようだった。
「……しっかりな」
「……何が?」
「……何でもない」
ポツリと呟いた陽一の言葉の真意は聞けないまま、晩御飯を食べることとなった。その日、未尋はご飯を三杯食べた。《クハイリヴァ》の事で頭がいっぱいだったからだ。購入できたこともそうだが、何よりプレイできたことが嬉しかったのだ。紫月も陽一も、自分の子供の笑顔に安心しながら、家族三人で仲良く夕食を終えた。
次の日、未尋の学校では二日目の期末テストを迎えていた。
未尋の学校では、一日二、三教科ごとに、休みを交えて六日かけて定期テストを行う。休みを交えるのは勉強時間を交えるためと、午後までテストだと生徒たちの気が滅入るのではないかという代替わりした校長先生の配慮からだった。
そのためテスト期間はすべて午前授業で終わる。基本的にテスト期間中は、部活動は停止しているが、最終日は次の日からテストがないことから部活動を再開できるのだ。
テスト二日目である金曜日、テストが終わるとクラスの人達は気が緩む。勉強は休みにできるので今日の午後は遊べると考えているからだ。
それはまた、未尋も同じであった。
未尋は早く〝アスタルトオンライン〟がやりたくてうずうずしていた。テストは晩御飯を食べ終わった後にさらっと復習しておいたので悪い成績にはならないぐらいにはなっているだろうと未尋は考えていた。
テストが終わり、現在は掃除の時間である。掃除の班はクラスを五つに分け、三つの班は割り当てられた掃除場所へ行き、残った二つの班は休み班となり、先に放課後に入る。テスト期間は部活がないので大抵の生徒は放課後を満喫するが、教室に残って勉学に励むものもいる。
未尋の班は休みなのだが、道具を教室に置いたままなので廊下で教室の掃除が終わるまで静かに立って待っていた。
「よっ」
隣に廉也が並び、声をかけてきた。
「あ、うん。どしたの?」
「どうしたって……。まぁ未尋がいたからか? 他の奴らはもう帰っちまったし」
「あぁ~……。でも掃除の前に道具まとめておけばよかったかな~。そのほうが廊下で待たないで帰れたんだけど」
「別に教科書類はバッグから取り出してないんだし、荷物まとまってたはずだろ」
「いや、ロッカーにいっぱいあるから……。持って帰らないと」
「あぁ、そういうこと」
長期休みになるとよくあることだと未尋は思った。特に卒業式の日は持ち帰るのを忘れて膨大な量の教科書やら辞書やらを持ち帰ることになる。
そうなる前に少しずつでも持ち帰ろうという考えでいた。
「それにしても昨日大変だったんだよなー」
「何かあったの? もしかしなくても〝アスタルトオンライン〟関係?」
「そ。昨日パーティメンバー四人でダンジョンに潜ったんだけどよ、敵モンスターが強えーのなんのって」
「四人だけなの? 他のメンバーは?」
「俺の所属してるギルドは自由すぎるっていうのかな。各々が好きな時にしかログインしてなかったんだ。昨日俺が来たときにいたのが俺を含めて四人だけでさ」
親交のあるメンバーがパーティとなり作られた組織を一般的に《ギルド》と呼ぶ。基本的には数十人のギルドが多いが、中には数百人を超える巨大なギルドも存在する。
各ギルドの目的やら目標は異なる。自由気ままに装備集めであったり、ダンジョンやフィールドの攻略などが大半だが、プレイヤーキラー、所謂PKを主とするギルドも存在したりする。
ギルドでの活動が目覚ましいものである場合、その名声は獲得されていく。ギルドの中でも上位ギルドと呼ばれるギルドは実力ともに名高い。
「頑張ってるね」
「そりゃあな。それがうちのギルドの方針だし。そこまで名のあるギルドじゃねェけどさ。定期的に攻略をやるわけじゃないから」
「予定が付かないのに攻略のために駆り出されるのは嫌だもんね」
「それでも、有名にはなりたいだろ? だから頑張るさ。そんなの俺の自由だし、たとえ無理だって言われても続けてやるさ。それが俺の夢だし」
「そう! やっぱり自由にやるのが一番だもんね!」
自由。
それは未尋にとって一番の優先事項と言えるものだ。
自由のない世界は嫌なのだ。自分の枷となる壁や障害が出現すればそれをぶち壊し、自分の足で自由に歩む。誰に止められようとも、未尋自身がそれを望んでいるのだ。
「そうそう。そういえば、結局どうなったんだ? 〝アスタルトオンライン〟買うのか?」
「あぁ~……。それなんだけどさ」
未尋はしまったと思ったが、ここで隠してもいつかはバレるだろうと覚悟を決めて話すことにした。
「え~っと、実はもう昨日のうちに買って、プレイしてる」
「……はぁ!?」
「ちょっ、声!」
別に秘密にしようとしているわけではなかったが、何だ何だと周りの人が近づいてこないかと心配になる。
「はぁ……。やるなら俺に言ってくれよ。そしたらいろいろ教えたのに」
「ごめんごめん。でもそっちはそっちで忙しかったんでしょ? 昨日は」
「いや、攻略なんて時間があるときにいつでもやれるし、特別急いでるわけじゃないからな。今んところ一番攻略が進んでいるギルドだって十八階層までしか攻略は出来てないんだし。俺が昨日行ってたのは五階層だし」
五階層と言われると大したことないのではないかと思われるが、最初のパーティが一階層を攻略した時には、数週間という時間が経過していたのだ。モンスターの動きは遅いわけでもなく、ましてや動きが読めるわけでもない。経験と知恵がものをいうのだ。
「でもそっか。未尋も始めたのか。ならうちに来るか? うちのギルドなら特に決まったことはしないし自由にできると思うけど」
「う~ん……。別にいい」
廉也はギルドに誘うが、未尋はそれを断った。廉也はなぜ断ったのかわからなかった。特別デメリットというデメリットはない。むしろ人数が増えて攻略も楽になることに加え、装備もある程度までは整えられる。
「……ギルドに入ってた方が何かと便利だと思うぞ?」
「まぁそうなんだろうけどさ? それでもやっぱり、ギルドには入らないよ」
未尋のその言葉は、確固たる決意を秘めていた。
「こんな身なりだし。頼りにならないって思われるからさ」
その言葉は建前だと、廉也は直感でそう思った。根拠などない。けれど、そう確信できた。きっと何かと理由をつけてギルドの勧誘を断るのだと。
「……そうか」
「うん。やるならリーダーがいい!!」
「それが本心なのか何だかなぁ……」
廉也は呆れながらも、その理由には納得していた。自由に拘る人が他人に指示されて動くわけがないからだ。廉也の場合、団長が団員を束縛しないタイプの人間なため、ある程度自由にプレイできている。
そして未尋もまた、一段と気合を入れていた。廉也からこんな話を聞けばゲーム欲を抑えていられるわけがなかった。
「やる分にはいいが……、ゲームオーバーには気をつけろよ」
「ゲームオーバーになるとどうなるの? 別に死んだところからやり直しじゃないの?」
真剣なトーンで話すが、意味が分からない未尋はいつもの調子で答える。
「一応真剣に言ってるつもりだぞ……。製作者が言うには、一度死んだ人間が生き返ることは無い。せいぜい生まれ変わるだけ。それを再現したんだと」
「じゃあ、一度死んだらもうログインできないってこと?」
「そうじゃなくて、一度死んだらレベルが1になって、持ち物や装備、お金含めて自分が手に入れたものすべてロストするんだと。倉庫に保管したものもすべて無くなるらしい。実際そうなったわけじゃないけど話を聞く限りそうらしい」
廉也も事前に情報を集めていたがギルドメンバーに聞いて初めて知る情報も多かった。廉也自身も新しく入ったギルドメンバーたちに自分の持っている情報を教えている。
「もう出来ないわけじゃないんだ?」
「ただ、また一からの作業ってことで、挫折しちまうプレイヤーが多いみたいでさ。それでもゲーム人口は増えてく一方だけど」
「あれだけ楽しいゲームだしね。しょうがないのかも」
「俺的には、キャラメイクがあってもいいと思うんだけどな。もうちょっとカッコよく見た目をいじってみたかった」
「それね。私もそう思ったんだけど、今思うとキャラメイクって何か面倒そうだからどっちでもいいやって感じになった」
「なんだそれ」
未尋と廉也が会話しているうちに、廊下で待っていた他の生徒たちが教室に入っていく。掃除が終わったようだった。未尋はすぐさま教室に入り帰る支度をし始めた。
「あっ、おい!」
「ごめん! 早く行きたくて!」
そう言って未尋は颯爽と走り去る。廉也は一人取り残された。
「……俺よりよっぽどハマってんじゃねェか」
廉也は自嘲するように静かに笑った。
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次回あたりから徐々に物語が進んでいきます




