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ArteMyth ―アルテミス―  作者: 九石 藜
ハバラギ編
10/67

9話:レベル上げ

日常パートは続きます。


※感想欄で指摘された個所を、整合性がとれるように変更・修正させていただきました。

「あれっ?」

「メニューのアイテム欄の所を見てみな。ちゃんと今購入した剣が入ってるはずだ」


 目の前から消えたことに動揺するが、店主が冷静に説明してくれた。


 そう言われたのでミヒロはメニューのアイテム欄を見ると、店主の言う通り『トゥルゼス』が入っていた。


「ほんとだ」

「……ビギナーにしても知らなすぎだろう」

「えーっと、説明書とか読むの面倒くさくて……」

「……みたいだな。何となくわかるよ。あと、設定で手に入れたアイテムを一度アイテム欄に転送するかどうかを変えることができたはずだ」

「そっか。じゃあそろそろ行くね。早く使ってみたいからさ。いろいろ教えてくれてありがと」


 そう言ってメニューを開き、装備欄を開く。全身が描かれたメニューが目の前に表示され、ミヒロは装備する位置に少し悩んだ。


 一分ほどして、腰の後ろに決定したあとにその個所をタップし、先ほど購入した『トゥルゼス』を選択する。


 すると選択した場所の通りに『トゥルゼス』が出現した。切っ先が地面に着かぬよう浅めの角度に差されており、さらに店主の粋な計らいで渡された革製の固定具を使用することで、動作による武器の揺れが軽減されるようになっていた。


「おぉ~!」

「これで立派な冒険者だな。あとは上手くやれよ、嬢ちゃん」

「あはは……」


 店主の言葉に苦笑いしながら、ミヒロはこの場を後にした。少し離れてから、壁に背を預けて盛大に溜め息をした。


「まーた勘違いされたなぁ……。しょうがないとは思っていても、なんか辛い……」


 店主が「嬢ちゃん」と呼んだ時点で、店主はミヒロが女であると勘違いをしてしまっていることに察してしまったのだ。ミヒロは男である自覚があるので、そのことは少し気にかかった。


 昔からなので仕方がないと半ば諦めてはいるものの、何かとそういう場面の遭遇してしまうため複雑な気持ちを抱いているのだ。


「よしっ、とりあえず武器も手に入ったし、さっそく戦ってみよっかな」


 ミヒロは早速街の外のフィールドに駆け出していった。


   ☓ ☓ ☓


 フィールドに到着し、さっそく敵と戦おうとしたが、敵の姿が見当たらない。


「あれっ、追って来てるゴブリンいたはずだよね? ……あれ~?」


 敵と認知されない範囲まで離れれば敵対状態が解けることを知らず、一定距離でゴブリンが追いかけてこなくなっていてもずっと走り続けてきたため、ゴブリンはこの街の近くには来ていなかった。


「……まぁいっか」


 ゴブリンがいない事の理由が分かっていないが、細かいことは気にしない精神のミヒロは即座に切り替えてモンスターを探すことにした。


「あっ、いた。まずはあいつかな」


 暫く歩き回っていると、ちょうどいいところに一匹でいるゴブリンを見つけた。ミヒロは腰に差していた『トゥルゼス』を構える。


「やっぱりおも~……。慣れるまでに時間かかりそうだなぁ」


 腰に差していた時からそうだったのだが、『トゥルゼス』はかなりの重量がある。腰に差していても限界があるのかもしれない。


 一応歩くだけでも《歩行》のスキルが上昇するようになっており、レベルが上がることでスタミナが上がったり、スタミナの消費量が減ったりする。他にもレベルを上げることで様々な技能が使えるようになるというシステムになっている。


 これだけの重さなら歩くだけでもかなりのトレーニングになる、とミヒロは考えたので腰の後ろに帯剣するスタイルは変えないことにしていた。


「でも、背中に背負うスタイルとどっちがいいんだろ……。この重さだとなぁ……」


 剣を装備する場所は自由だ。これが短剣の場合、足、腰、上着、他にも様々な箇所に身に着けることもできるので、体全身に仕込むプレイヤーもいる。


「って、敵がいるんだから今はいっか」


 敵の前で別の事を考えていたというのは、このゲームに限らずあまりやってはいけない行為だ。ゲームをやったことのないミヒロでもそれは察することができた。


 ターン制で動くわけでもないので、こちらの行動が決まるまで敵が動かないわけではない。そのせいかゴブリンは武器を振り上げてこちらに向かってきている。


「グガァアア!!」

「やばっ!」


 ミヒロは踏み込んで横に回避。辛うじてゴブリンの攻撃を避ける。が、うまく着地できず何回か地面を転がってしまう。


「いったた……。うん、油断しないで行こう!」


 すぐさま立ち上がってゴブリンの方に向き直す。そこで、自分の視界の左上に小さく0%と表示されていたことに気付いた。


「何だろ、これ……。まぁいいや。とりあえず攻撃!」


 そう思って剣を構えるが、重さゆえにうまく扱えない。ゲーム内の体で補正がなされていても、その重さを感じてしまう。


「満足に扱えない今は遠心力を上手く使って……やァッ!」


 だがミヒロはそんなことお構いなしに、扱い方を工夫しながらゴブリンに向かって剣を薙ぐ。


「グガァアア!」


 大振りで、横に一閃。敵にダメージを与えられたが、勢いよく振りすぎたせいで斬った後勢いを止めることができずクルクルと回ってしまった。


「うわぁああ~! 目が回る~……」


 目を渦巻にしてフラフラになりながらも、敵の方を向いて剣を構える。ゴブリンは斬られたはずだったが、剣は剣として機能していないため目立った傷は負っておらず、打撃を喰らったように吹っ飛ばされていた。


「グ……、グガァアア!」

「えっ、ちょ……がッ!」


 ゴブリンはすぐさま反撃して、手に持っていた棍棒を振りミヒロの腹に命中させる。


「うっ、く……いってて」


 ガードができていないためダメージは抑えられていないことに加え、ステータスが低かったことが、ダメージを加速させる。


 ふと左上の数字が、2%と増えていることに気付いた。


「増えてる……。じゃあ、これが体力なのかな……」


 このゲームの独特な設定の一つが、体力ゲージがないということである。


 通常使われるHPではなく、『損傷率』という%形式で表示される。最初は0%で始まり、100%になるとゲームオーバー、強制ログアウトとなる。さらに99%になると本人の意思を問わず体が動かなくなる。体の痛みは現在の自分の体に応じて痛みやダメージ、疲労が反映されていくのだが、99%ともなると体の負担が限界になり、行動限度を超えてしまうのだ。よって99%になると制限がかけられるというシステムとなっている。


 ミヒロが受けた2%というダメージは、数値的には大したことがないように思えるがそんなことはない。


 さらに損傷率は攻撃を受ければ必ず1%が加算されるわけではない。損傷率はプレイヤーの外見がどれだけ損傷しているか、また受けたダメージや溜まった疲労を数値化したものなので、本人のレベルによっては何度かダメージを与えてようやく1%与えられることもある。


 ボスモンスターや頑丈な鎧を着たプレイヤー、またそれに限らず自分と相手のレベルなどが離れていたりすると、ダメージを与えにくかったり、逆の場合一回の攻撃で数十パーセントも削られるときがある。ガードをした場合にもダメージは軽減できる。よって防具がしっかりしていないと攻略どころか普通のモンスターですら大ダメージを負ってしまうという鬼畜性がある。


 挑戦したい人は極限まで。それもまた人のプレイスタイルを分ける要素になるのだろう。


「要するに、こっちが力尽きる前にやらなきゃってわけだ……よーしっ、このッ!」

「ギィィアアアア!!!」


 ミヒロは再び剣を構えて大きく横にスイング。ゴブリンは断末魔をあげて横に吹っ飛んでいく。その後も畳み掛けるように何度も剣で殴っていくと、損傷率が100%に達し、ポリゴン状のカケラがダイヤモンドダストのようにキラキラと輝きを放ちながら散っていった。


「おー……、きれいだなー」


 ミヒロは目の前の光景に感動しながら、次の相手を探して再び歩き始めた。表示されてはいないが、ゴブリンを倒したことによる入手経験値と入手Dはきちんとメニューに反映されている。


 レベル上げは従来のゲームに比べて少し経験値を多く手に入れないとレベルアップができないが、その分レベルアップの恩恵は厚い。


「おっ、いたいたー! このー!」


 そうして、只管平原でモンスターを狩り続けること一時間。レベルは3まで上がり、片手剣のスキルの熟練度が10まで上がった。


 レベルの上限は現在30までとなっており、スキルの熟練度の上限は100だ。スキル熟練度の方がレベルは上がりやすい。熟練度が上がることによるステータスボーナスは少ないが、それ以外の恩恵は厚く、《撃技》も覚え、武器を使うことによる疲労感が溜まりにくくなり、より洗練された動きが可能となる。


 このゲームに限らずレベル上げを行うことは普通なのだが、ミヒロにとっては武器の扱いに慣れるまでの練習、そして【スクラム】で襲われた経験から身を守るために技術を身につけるためであって、レベルの事はそっちの気で行っていた。


 ミヒロは最初こそ一体倒すのに時間がかかっていたが、慣れてきてレベルも上がってくると一回の戦闘時間は徐々に短くなり、効率は上がってきたが取得経験値が少なく感じるようになり、レベルも実際に上がりにくくなっていた。


 撃技も覚え、戦闘効率はさらに上がったが、この平原に出現するモンスターは大方ゴブリンだけだった。よってこれ以上続けても無駄だとミヒロは悟った。


「うーん……、別の所に行ったほうがいいのかなぁ……」


 ミヒロは一度ステータスを確認してみた。アイテム欄にはゴブリン達からドロップしたアイテムがかなりの量が集まっていた。所持金も申し分ないほど貯まっていた。


「これなら回復アイテムとか買えるね」


 ミヒロはそう思って【フラライド】へ戻ろうとしたが、【スクラム】の方が品揃えはいいのではないかと考え【スクラム】へと足を向けた。


 【スクラム】へ向かうとなると、走っても三十分以上かかる。視界には自分の損傷率の他に現在のリアルの時間が表示されるようになっており、ログインしてから二時間が経っていたため四時を過ぎていた。今から走っても五時になる。さすがにやりすぎなのではないかと思ったが、それ以上に楽しさが勝り、結果的に【スクラム】へと走ることにした。


 途中の平原の景色は夕暮れ時だったこともあり、空を真っ赤に染めていた。平原まで一面が橙色となっており、野に咲く草花が風で揺れる。


 その景色に感動しつつ走り続けた。


 体に向かい風を感じつつ、スピードは緩めず一直線に。


 その足に迷いはなく、ただ只管駆け抜ける。


 道中の敵も無視していた。今は倒す必要はないからだ。


 そのまま数十分。視界には大きな建物とそれを囲む巨大な壁。敷地はかなり広いのでその分壁も大きくなる。よってそこまで近くに寄らなくてもミヒロは【スクラム】だと理解できた。


 【スクラム】へ到着すると、まず時間を確かめる。時間はまだ五時を回っていなかった。


「ふー……、まだ行けるね」


 晩御飯まで約二時間ある。それまでにどれだけ進められるかがちょっとした勝負だった。


 まずはアイテムについて。


 必要なポーション類を買い込んでいき、足りない分は散々狩りつくしたモンスターからドロップした素材等を換金してお金を増やしていく。その結果アイテムは結構買ったつもりだったのだが、残った金額は換金した分が上積みされたこともあり大幅に増えていた。


 ただこれだけお金があっても使い道がないだけなのでミヒロは少し困っていた。預けられる施設は存在しないので、自分で管理するしかない。


 たとえ持っていてもそれを知られれば襲われることは必至。自分以上の強者に狙われ、抵抗できなくした後、向こうのいう事を聞くしかない状況に追い込み、自身の武器や金品を強奪される事例もあった。


 だが、ある程度戦いに慣れてきたミヒロはその心配はしておらず、ただお金の使い道に迷っていた。宝の持ち腐れである。今はどうもできないので、ミヒロを襲ったプレイヤーがまだこの場所にいるという可能性があるにもかかわらず街をぶらついていた。


 ただ、どれだけぶらついても【スクラム】の全貌は見えない。


 それだけ国土面積が広いのだ。


 今のミヒロが分かることは、中心地にクエストの管理、ギルド申請所、ショップなど、いくつもの施設を備えた巨大な建物が存在するという事だけだった。


 中心に何があるのかが分かっているので、なるべく端に端にと歩いていった。【スクラム】は初心者でも安全なように巨大な壁が作られモンスターの襲撃の無いようにしている。


 逆に言えば壁が作られていない町や村などはモンスターの襲撃に遭う事がある。正しく言えばそういった〝イベント〟が起こるのだ。


 イベントというのは時間指定なくランダムに起こるものであり、この条件でこのイベントが出る、などの規則性もない。


 つまるところ、こういった場所でもモンスター襲撃イベント以外にもトラブルが起こる可能性があるという事だった。


 ミヒロは歩き回っていると、門のところまで来てしまっていた。


「そうだっ! フィールドも見てみないと!」


 【スクラム】以外に【フラライド】のような町も村もある。この広大なフィールドの至る所に存在し、NPCたちが暮らしている。また、どの国、街、村でもクエストを管理する施設があり、ダンジョンへの入り口もある。


 NPCには基本的に簡易な人工知能が搭載されている。よってプレイヤーの態度次第でNPCの態度も変わるのだ。


 そんな街や村がたくさんある。それをミヒロが見たくないわけがなかった。


 ミヒロは早速走り出した。未知なる場所を求めて。






 そして数十分後、ミヒロは道に迷った。


お読みいただきありがとうございます!

おかしな点があればご指摘をお願いします。直します。

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