プロローグ
いつか、孤独な月の姫は言った。
「私ってさ、本当にあの星やあの星の人間と同じに生きているのかな。同じ風に笑っているのかな」
孤独――?
彼女の、またときには誰かの視点を借りたなら一人きりだったことなんて一度だってない。
◇
未来――。天の川よりも遥か遠く――。
宇宙から見たとき、彼女たちの命はあまりにも小さくて、特別なものがあるとすれば地球を発った最後の人間ということぐらい。
それでもアルカのイブ、イブのアルカ、彼らの見た二人、その全てをつなぎ合わせたならば、それは案外ドラマチックになる。アルカが思う以上に。
彼女たちは、未来でも過去でもなく、今を、生きている――。
夫妻が基地に着いた頃には見た目にもボロボロどころかズタボロで、「若い」とはもうそんな風にとても言えない。だが誰の目もなくなったこの星では、そんなことにもう何の関係もない。
二人にとって大事だったのはたった一つ、彼女の娘を無限宇宙航行体<LJ>に託すこと、それが全て。
「どうだった?」
「なんとか一体だけ残ってたよ」
「そう……。なら船も……」
「残念だけど……。イブは?」
「ぐっすり寝ているわ。何も気付いてないのね。だから今のうちに」
夫妻はイブが眠ったまま別れをすますと、彼女をシートの上に慎重に横たえ、LJを起動させた。
LJはすっとその巨体を持ち上げた。
「イブをよろしく」
重なった願いの言葉に、イブはこくりと顎を下げた。
<Affirmative>
「あなたなら……。あなたにイブを託すわ。彼女の居場所をどこかに見つけてあげて。さようなら。二人とも」
LJ――。果てしない旅を可能にする機体。ヒトが適応できる環境を探す、そのためのヒト型。速く行くには向かない。それでもゆっくり確実に進んでいく。
太陽系の端にちょうど差し掛かった頃、LJは一つの魂を拾った。アルカだった。やがてLJはイブになり、イブはアルカになるのだが、それすらこれから何千年も何万年も先のこと。長い旅が始まったばかりのことだ。