果たせなかったこと
急いで書いてしまったため、少々読みづらい部分、突っ込みを入れたい部分が多々あると思いますが、よろしくお願い致します。
「結婚式のスピーチ?」
「うん。頼むよ。バイト代は弾むからさ」
大学時代の友人であるマサアキと飲んでいるとき、いきなり言われた。彼はサークルで知り合った2つ下のアズサという後輩と結婚する予定らしく、彼女とは卒業と同時に籍を入れるらしい。今は2月の中旬。結婚式は4月の初めに行うと言われた。
「いきなり言われたって困るよ。俺、こんなの頼まれたこともないし」
「そんな冷たいこと言うなよ。俺たちの仲だろ?」
確かに俺たちは大学時代には学科も同じでサークルも同じ。もちろん、彼女ができていたことも知っていた。しかし、いくらなんでも急すぎる。俺は対応に困った。
「やるだけやってみてよ。彼女だって賛成している」
「そこまで言うなら……、いいよ。任せてくれ。その代り、ひどいクオリティになるかもしれないぞ」
「ありがとう、助かるよ!」
それからしばらく飲んで別れると、俺は酔いを醒ますために余分に外をうろついた。外ではカップルがいちゃついている姿が散見され、独り身の俺は肩身の狭い思いで繁華街をうろついていると、何やら見慣れた顔が俺の視界に飛び込んできた。
「あれって……」
茶色のショートヘアー、少し自重しても罰が当たらないくらいの化粧。間違いない。アズサだ。ほろ酔い気分でバーから出てくる。しかし何をしていたのだろう。しばし呆然と見ていると、タクシーが彼女の前に停まった。中から出てきたのは、ホスト風の男性。結婚前提で付き合っている彼がいて、何で男を連れ込んでいるんだ? 気になったのでストーキングを敢行してみた。
「カケル、遅い!」
「ごめんねアズサ、お客さんの対応にちょっとね」
カケルという男は慣れた手つきでライターを手に取り、タバコに火をつける。肩に頭なんて乗っけちゃって、恥ずかしくないのか。ため息をつきながら水を飲む。しかし、妙だな。なんだかいい雰囲気になってしまっている。あいつといるときよりも、ずっとだ。
「最近、あの男とどうなの?」
カケルとかいう男が言っているのは、おそらくマサアキのことだろう。あいつにとって見ず知らずの男が、なぜ? 疑問はますます膨らんでいく。すると梓はウイスキーをグラス半分ほど飲み干すと、今までに見せたことのない妖艶な表情で言った。
「すっかり騙されてる。バカだよね。私はカケルと結婚したいのに」
この女は何を言っているんだ? コップを持つ手が震えてくる。
「まじで? ほんと馬鹿じゃねえ?」
「うん、大馬鹿! 卒業したら籍入れようって言ってんだけど! マジ笑える」
アズサは下品な声で笑う。二人は酒のせいなのか顔が紅潮しているが、俺は違う意味で赤くなっていた。わざと足音を鳴らし、二人の後ろに立つ。
「おい!」
聞きなれた声がしてびっくりしたのか、アズサは小さな悲鳴を上げて振り返る。まさか先輩にこの話を聞かれているとは夢にも思っていなかったのか、彼女の顔には怯えの色が走っていた。対照的にカケルは反抗的で、すぐさま俺の胸ぐらを掴む。
「おっさん、だれ? 俺たちに何の用?」
「彼女の先輩で、婚約者の友人だ」
「は? 婚約者は俺なんですけど。こんなやつ知らないし」
「ふざけるなよ。あいつの気持ちも知らないで!」
一触即発状態になったバー。アズサはこの場から逃げ出したいような表情で俺たちを交互に見やる。俺はカケルから手を離させ、一歩も引かない体勢になる。しかし、その沈黙はすぐ破られた。いきなり大きな音でドアが開いたと思うと、そこにはマサアキが立っていたのだ。あいつは諦めたような笑みを浮かべている。
「そういうことだったんだな」
「マサアキ……」
「全部知ってたんだ。アズサ。黙っていて申し訳ないんだが、お前の携帯の中身を見せてもらった」
「そんな……」
「最初は信じられなかったんだけど、俺も踏ん切りがついた。別れよう」
あいつはくるりと背を向けたと思うと、さびしげに帰っていく。俺は二人を置き去りにしてあいつの後を慌てて追いかけた。その後、二人はどうなったのかはわからない。
時が経ち、今度は俺に彼女ができた。やましいこともなく、順調に結婚の話まで持っていくことができた。もっとも、まだまだ先になると言われたが。そのことをマサアキに報告すると、あいつは身を乗り出して聞いてきた。
「スピーチ原稿、書いてやろうか?」
「え? まだ気が早いでしょ」
「予約だよ。あとで後悔しないように」
あいつの顔は輝いていた。自分がさせてやれなかったことを、あいつが果たそうとしている。俺が快諾したのは、その直後だった。




