第8話
学校で禁止されていた髪色である金色の髪をなびかせ、瀕死のバケモノに背を向ける少女がそこにいた。
バケモノの姿は悲惨なもので、背にあった翼はへし折れ、右腕は通常とは正反対の方向へ折れ、左脚は膝までしかない血だらけの状態であった。
それでもバケモノは疑問をぶつける。この状態をどうするかよりも、何故このようにされたのか。しかも----
「ヂ……ヂザドヂャン……ナンデ……」
高校の同級生に。
バケモノが問いかけると金髪の少女、もとい千里は少しめ振り返ることなくこう答えた。
「お疲れ様……美稀。……ゆっくり休んで。」
「ヂザド……ヂャ……」
折れた腕を精一杯伸ばすバケモノに構うことなく歩み去る千里。周囲にいた研究院たちはこの場を後にする少女を追い、その姿を隠した。
取り残されたバケモノは己がどれほど無力なのかを知らしめられた気がした。
先程まで前に伸びていた醜い腕は限界を迎え、するりと下ろされた。
残された足は元の頑丈さを失っていく。
力を入れて踏ん張ることが出来ず、体は地に倒れ、羽は落ち、猛々しさが消えていく。
歪んだ顔を涙が覆い隠す。
まるで力の無い女の子のように、か弱くなったバケモノは醜さの消えた顔に笑みを浮かべ、そして______
爆発によって巻き起こされた砂塵が止み、元の瓦礫の荒野が視界に映る。
「生きてる…?」
あれ程の爆発で生きていられるわけがない。そう疑問に思った後、村石が真っ赤に染まった背をこちらに向けながら倒れているのが視界に入ってきた。
「む、村石ッ!」
うつぶせになっている村石を膝枕するように仰向けにする。額から血が流れ、普通なら即刻病院送りだろう。
「…ふふっ。横田さんに膝枕してもらえるなんて…。」
幸せそうな笑顔を見せる村石に疑問をぶつける。
「なんで…私を庇ったんだよ…。」
それを聞いた村石は、不思議そうな顔をしたあとにさっきとは少し違う笑顔を見せ、こう答えた。
「友達だもの。」
「っ…。」
友達。確かに私と村石は食事に行ったり買い物に行くほどの仲だった。しかし、記憶の改ざんをした後は思い出されることのないように私から一方的に距離をおいていたのだ。本当はもっと話をしたかった。最初から知っていたのならどうせならもっと一緒にいたかった。
とたんに涙が流れ、同時に心の内側にあった感情があふれ出てきた。
「私さ!本当はずっと村石と話ししたかったんだよ!!でも、記憶のことでできなかった…。だからまだ生きろよ!もう知られちゃったなら気にする必要もないだろ!?だから___」
「だめ。私はもう無理よ。この出血じゃ助からないわ…。」
目をつむり、しかし口は笑いながら村石はため息をついた。
「世話の焼ける先生ね…。そう、最後に一ついいことを教えてあげましょう。」
「最後なんて言うなよ…」
「いいから。聞いて?」
私は涙をぬぐい、コクリとうなずいた。
「じゃあ、大事な大事な情報を。」
一呼吸おいてから、村石はとんでもないことを言い出した。
「まず、さっきの爆破で、あなたが友達から聞いたっていう研究所への入り口が見えるようになったはずよ。あれはすっごい強いよくわからないもので作られているから、瓦礫の中にまだ原型を留めて立っているドアを探してね。…たぶんそれだから。あ、それともう一つ。驚くかもしれないけど、落ち着いて聞いて。」
「___千里ちゃんのこと。彼女は未だ生きているわ。その研究所の中でね。」
左手の人差し指を立ててウインクをしながら言ってくる。先程、同じようなポージングを見せたが、これは彼女なりの何かのサインなのかもしれない。
しかし眉は八の字で心なしか目の色も薄く見えた。相当辛いのが容易にわかる。
「え…ち、千里ちゃんが…生きて…?」
「きっと…待ってる。あなたを。だから、はや…く…ね。」
開いていた片目を閉じてにっこりと微笑んで見せると、村石は力を失くしたようにぐったりと深い眠りについた。
ドアはすぐに見つかった。
よくある木製のドアのように見えるが、カモフラージュのためだろう。明らかに違和感のあるドアは、先にあるモノを守り抜くように堂々とそびえていた。傷の一つもないが、こいつは本当に何でできているのだろうか。
そんなことよりも、今私がやるべきことは一つ。
「…私自身の目で、この扉の奥にある真実を確かめるんだ。」
意を決し、見た目とは裏腹に重量感のあるドアを両手で押し開けた。
外の薄暗さに目がなれてしまっていたのか、内部の明るさに一瞬怯んだ。
目を擦り、中の構造を確認する。
長い廊下。途中途中にある木製の引き戸。壁にある部活勧誘の張り紙。それに蛇口の水道。
「こ、これは……学校?」
投稿が遅れて大変申し訳ないです。(´;ω;`)