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第6話

*6


「いたたた...。」

気を失っていたのだろうか。私の着ていたスーツはところどころが破けていて、周囲は瓦礫だらけ。その中にはアーミー集団が埋もれていた。

ーーー私が...やったの?

赤というよりも黒に近い色をした液体が瓦礫に染み込んでいるのを見た途端に口の中に色んなものがこみ上げてきた。

「はぁっ...はぁっ...。横田さんは...ってさっちゃん!?どこ!?」

催したものを瓦礫の影に吐き捨て、曖昧な記憶の中から横田さん救出作戦の存在を思い出す。しかし作戦以前に、いつも私の傍にいる妹。さっちゃんの姿が見当たらない。

「さーっちゃーーん!?どこーーー!?」

瓦礫の山の頂上に立ち、周辺を見渡すが妹の気配はない。妹はおろか人間そのものの気配がない。

「私、これからどうすれば...。」

私以外の命の存在を感じないこの場所で。一体どうすればいいのだろうか。瓦礫の山脈を私はいつまで歩き続ければいいのだろうか。歩みを止めずに周りを見渡し、考えた。

ーー私がこれをやったのはわかる。そして被害の中心であるここがこれ程の荒れようなら被害を受けた範囲は相当だ。

ーー最悪、県一つ分はやってしまったかもしれない。

「あぁ.......。」

空を仰ぎ、良くもない天気をただ眺めていた。



「がはっ...。」

見えるものは暗黒。鼻腔をくすぐる血の匂い。口の中には吐血で残ったものがべっとりと張り付いている。腹部を何度も蹴られ上手く呼吸さえできない。尋問ってこんなに辛かったのか?空腹は時々こいつが飯をくれるからいいとして、もう何日目だよ...。少なくとも2日は経ってるぞ...。

「イタイだろ...?イヤだろ...?ヤメテ欲しいか...?ならさっさと吐けよォ!このクソババアァァ!」

少女はまた蹴りを入れる。繰り返し、同じ位置を。

蹴られる度に私の体は浮き、冷たいコンクリートの床に腰及び頭が打ちつけられる。

...ってかそんなに歳変わらねぇのにババア呼ばわりすんじゃねぇぞ。まだピッチピチの26だわ。

「何を思ってるか知らねぇけどよ!!ウチはそんなに暇じゃねぇんだよ!!さっさと吐けよォ!あの場所にいて私が助けなかったら死んでたんだよ...お前は。その恩も返せねぇってのか、あぁぁん!!?」

彼女の足が私という楽器で鈍い音を奏でる。

「うっ...。」

腹の痛みとは別に彼女のヒステリックな声が耳を刺激する。鼓膜の振動が強すぎる。いてぇなぁ...おい。

ーーいい加減にしろよ。

「ーーピーピーうっせぇなぁksgk(クソガキ)。あんま調子乗ってんじゃあ...ねぇぞおらぁぁあ!!」

「あ!?お前に何ができ...ゴフッ。」

体をよじり、声のする位置に向け縛られた足を思い切り振り上げた。顎に当たったのか倒れて気絶したようだ。

ざまぁみやがれクソガキ。

倒れた少女の体に後頭部を擦り布製の目隠しを取る。

「はぁ...どこだよここ。」

家の中に全く見覚えはない。少女は自宅と言っていたが、少女の名前を知らないため誰の家かはわからない。

「っ!!なんだよこれ...!?」

窓からは何も見えない...いや、見えるものがない。

ーー外には瓦礫の大地が広がっていた。

嘘...だろ?

少なくとも沙芭高はあの事件現場の県外だぞ...?

沙芭高の生徒に県外から登校するやつはいないはずだ。

ならどうして?...いや。すぐにわかることじゃないか、

「被害がめちゃくちゃ広範囲だったってことかよ...。」

水鳥(みどり)先生...あんた何したんだよ...。

「!?」

突然誰かに肩を叩かれ、咄嗟(とっさ)に首を左に回し、後ろを向く。ーーが、普段よりも首が回らない。左頬を強く指で押されたからだ。

とんとん。むにっ。...あの流れだ。

「うわぁ!横田さんかーわいっ!」

キャッキャとはしゃぐその人の顔はとても整っていて、アラフォーとは思えない美しさだ。いや、年の功と言うべきなのか。

「...ちょっと横田さん。女に歳のこと言っちゃ...だめよ?」

「!?」

以前にも同じようなことがあった気がする。確か...公園で。ババアって考えただけなのに...バレた。

「ん、ババアとか考えないの。私はまだ若くいたいの!」

村石佳代(むらいしかよ)先生はむくれた後、人差し指を立て、私の唇に当てた。

唇...及び私の考えること全てを隠すように。自分は何でもわかるという嫌味を込めているのだろうか。

「...先生は...んぅ...。」

自分の中でほぼ確定されている疑問を確認するため、恐る恐る話を持ちかけようとするが、唇にあてられた指のつよさが増すのがわかり、口を開くのをやめる。

「そ。気づいているだろうけど私も能力を持った人間。能力は...まだ決まってないの。とりあえず相手の心の中を読むってことだけ教えてあげるわ。」


ーー揃った。4人の能力者がわかった。

私、水戸メガネ、水鳥先生、村石先生。てことは私はこの人といずれ戦う運命にあるということなのか。

先生は私を見て嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。

ーーしかし目だけが笑っていなかった。




ガラガラッ

「ひゃああ!?」

足場が崩れ、途端にバランスを失い前方に向かって転倒する。

「いたた...さっちゃん...どこにいるの...?」

転んだため1度起き上がったが、立つまではいかずにまた仰向けに倒れ込んだ。

妹を探してかれこれ何時間だろうか。いや、日付が変わっていたのかもしれない。1度空に星が光っていたのを見たような...。記憶も曖昧だし、流石にお腹が空いてきた。...食糧の気配はない。

「おなかすいたぁ...。」

倒れたまま少し(よど)んだ空に向かって言い放つが、声は上手く出ない。灰色の雲が私を嘲笑(あざわら)うかのように停滞している。

そんな雲に嫌気がさし、首をまわしてこれから進もうとしていた先に目をやる。あぁ。果てしない。涙が出てくる...。

そもそもなんで私がこんな目に...。

両の目からこぼれた水滴は地に落ち、黒いしみを作り出す。 左目からの水滴が地に向かう途中、右目の側を通っているのがわかった。

なびく風に乗り飛来してくる砂塵は、スーツで隠れていない私の素肌に攻撃を繰り返す。肌が荒れる。

絶望の中、暇を持て余した身体中の神経は普段ならどうでもいいことでさえ機敏に感じるようになる。


ーー駄目だ。ここで諦めては全て終わりだ。

何時間...たったのだろうか。この決断に至るまでの間が短いようで長かった気がする。

まだ見ぬ希望に期待を抱き、腕に力をこめて起き上がる。

水滴をごしごしと擦るように拭き、ぼやけた視界が鮮明になって見える。

何も無かったように見えた進む先で何か動いているのが見える。あれはーー

「人間...?」

しかし人影は小さく、自分との距離を感じさせる。

諦めなければきっと報われるというような言葉があるのは知っていたけど、流石にこれは運が味方していたんじゃないかと思う。

「す...すいま......ゴホッゴホッ。」

大きな咳により私の叫びが遮断される。流石に何時間も飲まず食わずだと喉がうまく働かない。うぅ...。こんな時に...。

乾燥した喉に違和感を感じ、喉を左手で押さえながらまた大きく咳き込む。咳でこちらの居場所を伝えられるかと思ったが、音が上手く響かないためとても聞こえてるとは思えない。

「あ...あっ...。」

そうこうしているうちに人影は瓦礫の奥へ消え、その存在が初めからなかったかのような風景へと変わる。

空いた右手と喉を抑えていた左手が自然と人影はのあった方に伸びる。

「お...お願いっ...たす...けーー」

ーーしかし、助けを求める先には果てしなく続く瓦礫のみ。

身体中から力が抜け、その場に倒れ込む。

ーーもう...無理。

仰向けになって見る歩き続けて3度目の星空。光がないこの地では今まで見たことのない満天の星が私を出迎えた。




「ダゼ!ゴゴガラ!ダゼェェ!!!」

元気を取り戻した被検体αが叫びをあげているのを横目に、横田のことを思い出していた。

「あいつは...一体どこに...。」

1度捕らえたものの、なぜだか灰崎(はいざき)が乱入し、大惨事に陥った。もとよりテロを起こしていた上にあの被害じゃああの町は壊滅だろう。しかし問題は次だ。捕らえていたはずの横田が消えた。消滅したわけではあるまい、うちの部隊の死体はしっかり残っていたし。

「ジネェェェオマエラミンナジネェェェ!!」

檻に入った(みにく)い姿をする元人間を眼鏡のグラスを通して見る。

ーーこいつはもうそろそろダメになるわね。

あの方の為の実験に使われた被検体α。2日前の襲撃に使おうとしたが、前日の実験による精神的疲労で動きに期待が出来なかったため使用は断念。元人間でその時の名前は堀田未稀(ほりたみき)。あの忌々しき横田の元教え子でありあの方の元親友...いや、あの方は被検体αの能力を知っていたからこそ近づいたのかもしれないが。

今では性別を感じさせない...いや、体のつくりでしか人間であったことを感じさせないモノになってしまった。

恐らくこいつに明日はない。

左手に抱えていたファイルを開き、被検体αについて書かれたページを再度確認する。

ーー被検体α。人間時の名前は堀田未稀。能力は特性模倣(キャラクターコピー)。生物と額を合わせることでその生物の最も特徴的な部分をコピーする。例えば動物のキリンと額をあわせれば被検体αの首も長くなるとのこと。しかし戦闘に不備をもたらす可能性があるため、その実験はされていない。尚、能力発動には生命力を有する為コピーの乱用は好ましくない。現時点でコピーした生物の数は7。熊、猪、ワニ、鮫、鷹、蛙、ゴキブリ。熊の腕力、猪の突進力、ワニの顎の力、鮫の鋭利な牙、鷹の翼、蛙の脚力、ゴキブリの生命力。ここまでくると人間ではない。...兵器である。

「ーー同情するわ。あなたのその運命に。」

兵器に背を向け、広く真っ白な空間から出ていく。

強固な扉を操作し開けると目の前には人がいた。

「あ...。」

「今すぐ私の能力を発動させる。あなたはその為に動いてくれるかしら?」

短く揃えられた漆黒の髪がなびき、被検体αに視線をあわせてこの方は言った。

ーー私を見つめるこの方の後ろには護衛につかせていた筈の男が2人、大きな赤色の水溜まりをつくり出していた。

(あやか)...聞こえなかった?それとも理解ができなかった?なら簡単に言ってあげるわ。」

(いろ)を無くした目が私に再度向けられる。

「未稀を殺せ。」


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