第4話
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「うおっ...っぶねぇ...。」
家に帰る途中、車にはねられそうになった。
ただでさえ狭い路地でなんだあのスピード。ふざけてんのか。ここの速度制限...時速20kmくらいだぞ。80はあったろ、80は。4倍だぞ?何考えてんだ。ってうわ。向こうのT字路でぶつかってるし...本当になんだったんだあれ...。
狭い路地を抜けて1度大通りに出る。ここは歩道もあるし車にはひかれることはそうそうないから少しは安心だな。...しかしいつも思うがここってーーーーthe 都会。
ガシャーーン!
「んなっ!?」
そんなことを考えていると突然、背後に、ビルの屋上から落ちてきたであろう広告パネルが落ちてきた。...歩くスピードもう少し遅かったら直撃で死んでた...危ねぇ。下手な工事ばっかしてるからこうなるんだ。死者が出たらどーすんだって話だよまったく。
さっきっからついてねぇぜ...。
「...早く家帰ろ。」
「第二波も突破されました!」
研究員の声が広い密室に響き渡る。
「くそっ!」
私は手元に置いてあった飲みかけのコーヒーを思い切り握りつぶす。が、それがコーヒーの無駄、手のやけどの恐れ、など私にとって不利益なことでしかないことは承知している。
「なんて幸運なの!!!」
第一波。荷台にうちの精鋭8人を乗せたトラックで横田を引き倒し、銃火器を乱射。しかしトラックの操作が効かず横田を通り過ぎる。T字路で壁に衝突し、8人全員重傷。失敗。
第二波。またもうちの精鋭を直接街中に配置。ビルの中に潜ませて横田が通り過ぎた後銃火器を乱射。しかし、待機場所の出入口付近にパネルが落下、爆弾系統は所持しておらず脱出不可。失敗。
「くそっ!あいつをまずは殺さないと!私はあいつを殺したい!天罰を!天罰をあの女に!あは、あはははははは!!!」
研究員たちはパソコンに向き合い、次の第三波の準備に取り掛かっている。ふっ。もうこの際どうだっていい、あの女さえ殺せれば!
「全研究員ども!よく聞け!第三波は中止だ!今ある全兵力を横田のいる街に投下し、街ごと焼き払え!!あの女を見つけ、生け捕りした奴には......褒美を、やろう。」
私が胸元を軽く寄せて言うと、案の定研究員どもは雄叫びをあげ、嵐のようにこの部屋から出て行った。ふん。これぐらいすればこいつらはすぐに動く。もちろん生け捕りにしたところでそいつごと消すから褒美なんてやる気は無い。
ーーーーさて、私も行くか。
「ふっふふーんふーん♪ ....お?そうか、今日週間少年ステップの発売日か。...少し立ち読みしていこうかな。」
鼻歌を歌いながら歩道のど真ん中を歩いていると、進行方向からステップを読みながら歩いてくる青年がいた。左を向けばやや小さめのコンビニが私の為に、あたかもここでステップを読めと言っているかのようにロケーションされていた。
自動ドアが開き、右に体を向ければ雑誌がずらっと並んでいる。奥の方は...年頃の男子がチラチラと見たりしているあのコーナーである。
もちろん私はそんなものには目もくれず、真っ直ぐとステップに歩み寄る。そしてステップを手に取り、私のお気に入りのシリーズを探す...が。ない。今週号は休みのようだ。
「っ...しょうがないか、作者も自由人だしなぁ...。」
がっかりしてステップを棚にもどし、目線を窓越しの外に移す。外には、ちょうど私と同じくらいの歳の女性がスーツを纏い、緊張したおもむきで歩いていた。就活かな。面接にでも行くのだろうか...頑張れ社会人。って私もまだ26だけどーーーー
パァァン
ーーーーえ?
なんだ今の音は?
目の前にはさっきとあまり変わらぬ女性が立ち尽くしている。...唯一変わったことといえば...その女性の後頭部には美しい紅い華が舞っていた。ただそれだけである。
女性の後頭部付近に舞うその華は可憐で、紅く咲き乱れる彼岸花を連想させた。そして女性は華を自らで潰すように倒れた。
「おいおい、マジかよ....ッ!?」
急いでコンビニを出ると、やはり外には悲惨な光景が広がっていた...。倒れた女性の周りには血の池が出来ており、それを見てパニックになった人々が劈く悲鳴をあげながら逃げ惑う。中には女性を助けようとする人もいたが、近くに医者など誰もいない。
銃弾の主がいる方向を一瞥すると巨大な戦車がいくらかに、それを取り巻くように布陣された兵士が見えた。なんだよ...どこの国の軍事パレードだよこりゃあ!
「ここにいる奴ら全員身を隠せぇ!!撃ち殺されてぇのかぁ!!!」
私が避難を呼びかけるも、銃声は無慈悲に鳴り響く。時折聞こえる悲鳴は撃たれたからだろうか、それとも一緒にいた人が撃たれたからだろうか。
刹那に繰り広げられる戦争と似たその風景。まるで戦争中の時代の一部を切りとって貼ったような感じだ。
軽く目を動かすだけでいくつもの赤い塊が見える。また私は人間がいかに無力なのかを知った。ごめんな。私が弱いばっかりに...。
いつもは朗らかにしている瞳を獣のように鋭くし、この暴動の首謀者と思われる、戦車の上に堂々と立っている人物を睨む。
「......お前の目的は私だろ?...なぜ関係の無い人を殺したぁ!!?えぇ!!?水戸綾ぁぁ!!!」
「あぁ...!横田ァ...ようやく会えたよ...。久しぶりの再開で悪いが、君には死んでもらうよ!!」
そう言って水戸綾は白衣のポケットから一丁の拳銃を取り出すと私に銃口を向けてトリガーを引いた。
パァァン
え.....?
「嘘...だろ...!!」
ここまで早い展開だとは思わなかった。
あいつは昔から生徒の間でもネチネチとした性格で、生徒からも人気が全くに等しいほど無かった。そんな彼女の性格柄、こうして対面してもすぐに私を殺すとは考えられなかった。しかし、どうやら大誤算だったようだ。
放たれた銃弾は無情にも私の心臓に向かってくる...が、そのスピードは無いに等しい。あぁ...これが走馬灯か...やはり人間、簡単に死んでしまうものなんだよな...あはは。千里ちゃんもこんな感じで逝っちゃったのか。
私が1人でバッドエンドを想像したとき、不意に水戸綾が口を開いた。
「あなたにはまだ生きてもらうわ。」
「!?」
水戸綾がそう言った瞬間、銃弾は弾道を少し下にずらし、角度から私の腹部をターゲットとしたように見えた。
「まさか...お前は...ッ!!」
こんな所で出会えるのか.....異能力者に。
「私の能力は空間操作。ふふ...驚いたでしょうねぇぇ!!!」
ブシュッ
何かを貫くような音と共に私の腹部に激痛がはしる。くそ...出血が....。
「悶え苦しめ!千里の分も!後でじっくりといたぶってやるわぁぁ!!!!あはははははははは!!...連れていけ。」
「がはっ...げほげほ...く、てめぇ....。」
薄れていく意識の中、私には駆け寄ってくる全身武装のやつらに身を委ねるしか道は無かった。