3話
*
「しかし...あの話。やけにひっかかる...。」
私はスタゴを後にして、近くの公園のブランコに腰をかけた。
『真の』目的を果たすために...?
私の目的は、彼女、平田千智の謎の死を解き明かすことだ...。もし康治の話が本当なら...私は何か勘違いしているということなのだろうか。いや、別にあいつの話の中の異能力者が私とは限らない...。
ーーーー少し思い出してみようか。
「センセー!お昼一緒に食べよー?」
千智ちゃんは2-a。つまりは横田恵の担当クラスの生徒だった。
「千智ちゃん、ごめんね...?先生少し用事があるからまた今度でいい?」
「わかった!いいよ!頑張ってね!ばいばーい!」
快活な声を聞かせ、彼女の友達である堀田未稀と楽しそうに昨晩のドラマの話をしながら千智ちゃんは2-a組を出ていった。
あのドラマ、少し過激な表現が多いからそんなに見て欲しくないんだよね...。
その日の午後の授業に彼女はいなかった。よくサボる子だったからまたサボりかとも思ったけどLHRには必ず出席していた。なのにその日はそれさえも出席していなかった...。少し心配はしたけど、思春期の女の子だし何か事情があるのかな、なんて愚かなことを横田恵は考えていた。
生徒たちが下校し、横田恵も「いつも」通り自分の住むマンションに帰った。
その後「いつも」通りに夕飯を食べ、「いつも」通りに風呂に入り、「いつも」通りに1時に寝た。
そして翌日の早朝。横田恵は「いつも」と同じように職員室に入室した。
今日も「いつも」通り頑張ろう。そう思いながら。
ーーしかし中は「いつも」とは違かったーー
2年学年主任の水戸さんと校長、教頭が顔をうつむかせてなにか話している。3-dの担任であり、我が2-aの数学教科担任の水鳥さんは顔を手で覆い隠している、それを慰めるように「大丈夫よ」と声をかけ、背中をさする2-c学級担任の村石先生。「いつも」を感じさせない重苦しい空気が漂う職員室。
そんな中、教頭が口を開いた。
「えー、皆さんおはようございます。中にはもう聞いた方もいらっしゃるでしょうが、改めて、私の口から言わせてもらいます。」
うちの生徒がなにか事件に関わってしまったりしたのか、と横田恵は直前まで愚かなことを考えていた。本当に愚かな奴だ。
ーーしかし教頭の口から告げられた言葉はあまりに突然で、その時の横田恵の精神を破壊するには十分すぎる内容だったーー
「...くっ...。」
頭に激しい頭痛がはしる。くそっ、なんで。私は...あの時...ッ!
「横田...さん?」
いつの間にか出ていた涙をぬぐい、声の主を確認しようとする。が、ぬぐった涙は未だ私の目を覆っていた。
「あぁ!やっぱり!どうしたの?こんなところで。なにか嫌なことでもあった?先生に出来ることならなんでも相談してね?」
誰だ...?
だんだんとぼやけていた世界が鮮明さを取り戻してくる。
高い鼻。優しそうで少し細い目。さらさらの茶髪を右手で耳の後方に持っていく仕草。
「村石...先生?」
村石先生。村石佳代。横田恵の教師時代の同期である。もちろん記憶を改ざんさせてもらったから私が元教師である記憶はない。ただのJKにしておいた。
「村石先生よ〜?改めて聞くけど何かあったの?」
そう言って私に微笑みかけてくるが、どこか表情が暗い気がする。昔からだが、この女性はなにか見透かしたような、そんな目をしているようにも見える...すこし苦手だ。
「...いえ!なんでもないんです!ただちょっと前回の小テストの点数が悪かったから...あはは...。」
「えぇ!?横田さん点数下がっちゃったの?それは大変ねぇ...。」
ぎこちない笑顔で応えるがそれを気にする様子もなく、いつものオーバーリアクションをかましてくる。そうだ、こいつらには私は学年トップクラスの優等生だと改ざんしたんだっけか。実際、そこまで成績は良くないが。
「あ!そうだ!もし良かったらうちで詳しく話を聞かせてくれないかしら?協力できそうなことならしたいし!」
満面の笑みですごい提案をしてくるよな...こいつ...。普通教師が自分の家に生徒を招き入れるか?...わからん。ここは丁重にお断りさせていただこう。
「すいません...実は私、このあと夕飯の買い出しに行かなきゃならなくて...あ。」
「なら私もついていくわ!」
...やってしまった。断り方を間違えた...。てかもうほっといてくれよ早く帰りてぇんだよ...。こいつ...ここまでしてお節介をやく意味がわからん...。お?こいつヒール履いてるのか。って当たり前か。よし。
「あ、いえ!私の今から行くスーパーかなり遠くて、先生ヒール履いてるから足パンパンになっちゃいますよ!明日先生がその事で男子達に馬鹿にされてたら私、責任感じちゃうので私1人で大丈夫です!」
こいつも鬼じゃねぇ...これくらい言えば帰らしてくれんだろ...。
「あらあら、そう。なら仕方ないわね...じゃあ気を付けてね〜♪」
「はい!さようならー。」
よしきた、さぁ帰ろ。
「あ!あと!」
なんだ、まだ用があるのか、さっさと言え。
「ーーー自分より年上の人にはこいつ呼ばわりしちゃだめよ?ーーー」
「...ッッ!?」
は!?なんだ!?今の寒気は!?まて、私はこい...村石先生のことを実際にはこいつって言ってないよな!?
村石先生は鼻歌交じりにこの公園から出ていった...。
じゃあなんで...いや。きっとどこかで口が滑ったんだ...。そうだ、そうに違いない。
『ーーこの世界には異能力者が4人いるんだーー』
「...ッ!!」
いやまて、私がそのうちの1人で、外にいる者。他三人は研究施設に囚われているんだ...。違う。気のせいだ。
「そうであってくれぇ!!!」
周囲を歩いていた人々が一斉に私を見る。は、恥ずかしい...。
「あはは...。」
頭を掻きながらため息混じりにでる愛想笑いを見て皆それぞれの進行方向へと目を移した。
白衣姿にメガネをかけた女性はケージの中の
焦げ茶色のバケモノを見て言う。
「あなたにはこれから『おそうじ』をしてもらうわ。しっかりと身体を温めておいて頂戴。」
「イヤダ!オデ!ガエル!オマエイウゴドナンデギガナイ!」
「お前みたいなバケモノは!黙っていうこと聞いてればいいのよ!!!」
ガンガンと激しい音をたててケージの破壊を試みるバケモノに白衣のポケットから取り出した小銃で左肩を撃った。バケモノの傷口からは黒い液体が流れ出す。
「イヤダ!イダイノイヤダ!ヤメデ!ナンデモズル!ナンデモズルガラアアア!!」
「...いい子ね...♪」
バケモノに背を向けた後、パソコンを相手にしている研究員総勢100名を前に女は悦に満ちた表情を浮かべた。
「私の革命が、2年ごしの復讐が!やっと始まるのね!...んっ...ゾクゾクしちゃう...♪」
女は表情を真剣なものへと変えると研究員たちに向け、大声で言い放った。
「これより!私!水戸綾による!地球規模の超大規模革命を実行にうつす!パソコンを前にハァハァしてるそこの研究員ども!全員計画通りに作戦を実行しろ!オペレーション・change the worldを開始する!」
大歓声が鳴り止まぬ、機械に囲まれた広い空間で水戸は、自らが妬む女の名を口にした。
「横田ァ...必ずぶち殺してあげる...ふふ..あはははははははははははははははははははははははははははははは!!」